
2003年12月に予定されていた来日が延期になり、待ちに待った公演が遂に実現した。年をまたいだ’04年1月28日、東京・渋谷公会堂には、ナマのジョンに魅了されようと超満員の観客が駆けつけた。
ジョン・メイヤーの音楽の魅力は、まず誇張した表現のない自然な歌詞、聴きやすいメロディラインを歌うハスキー・ヴォイスだ。そしてハードロックのような派手さはないがツボを押さえたギターテクニック、特にアコースティックギターでのフィンガープレイは素晴らしく、20歳代のみならず、’70、’80年代のアメリカンロック好きなベテランファンまで、日本で幅広いファンにアピールしている点だろう。

会場につめかけたファンは20代の女性が中心。そこかしこに’70年代からずっとロックを聴き続けているような風情の40代のベテランロックファンもいる。そして目立つのが、グループで来ているガイジン客だ。アメリカでの圧倒的な人気がこんなところにも現れている。コンサート前からリラックスしたおしゃべりの声が多く、通常のコンサート前の緊張感がないのが不思議だ。
ステージ上は定刻15分遅れでジョンが登場。黒のTシャツにジーンズといういでたちで現れた彼は、ごくごくフツーのアメリカのおにいちゃん。しかし、「こんばんわ、はじめまして」というMCに続いて曲が始まり、そのストラトと彼のハスキーヴォイスが発せられると、会場はいきなり総立ちで手拍子が始まる。1曲目はキーボードのシーケンスパターンにメロディアスでセクシーなヴォーカルが乗る「BIGGER THAN MY BODY」。サビのファルセットがカッコイイ。良い意味でどこにも力が入っていない自然な動きは、ケレン味のないプリミティブなロックの衝動を感じさせる。
それが終わって次の曲に入る前に爪弾くはジミ・ヘンドリックスの「Little Wing」のイントロ。もう身体に染み付いているかのようにこれを何気なく弾く姿からは、彼の25歳という年齢が信じられなくなる。ミドルテンポの「BACK TO YOU」では、きらびやかなギターサウンドでメリハリのあるリードギターを披露。ブルースフィーリングを感じさせながらレイドバックしたギタープレイに反応し、徐々に自分の身体が左右に揺れるのを感じる。アコースティックギターに持ち替えての「CLARITY」そしてスローテンポでしっとりとした「WHEEL」と曲は続く。口笛とギターのユニゾン、ギターの指弾きは、ため息が出るほどの渋味を感じさせ、ロック界の大ベテランを眼前にしているような気になる。そして次に披露されたのが大ヒット曲「NO SUCH THING」だ。ボサノバっぽいリズムが次第にロックに変わっていく。観客は手拍子で踊りだし、ステージと客席の距離感がどんどん縮まっている感じがする。曲間では観客が自然にジョンに話しかけ、ジョンもそれに応えて会話が交わされる。英語がわからないことって、こういう時に残念になる。一緒になって笑えれば、どんなに楽しいだろう。
コンサート後半は、ロックらしい8ビートの「SOMETHING’S MISSING」、そしてロックンロールっぽい「MY STUPID MOUTH」と続く。途中のギターとヴォーカルだけになる部分では、バツグンのタイム感でノリを持続させ、ファルセットヴォイスでキメる。渋く哀愁あるメロディの曲も良いが、陽気なアメリカンらしいカラッと乾いたこういうロックサウンドも似合っていて素敵だ。そして一転してアコギ+マラカス+キーボードでしっとり聴かせる「DAUGHTERS」。この歌の上手さとカッコよさはどうだろう。そしてそのまま「Your Body Is A Wonderland」が演奏される。途中に入るアコギでのインプロビゼーションは、今回のハイライト。テンションばっちりでブルースフィーリングに溢れ、彼のエッセンスを見たような気がする。
ここからコンサートは大団円に向う。演奏されたのは「COME BACK TO BED」。観客とステージの距離感がますます近くなり、観客の興奮に応えてジョンのプレイも最高のテンションになっている。曲はブルージーなスローバラード。ハスキーだが通りの良い声、そしてビブラートを効かせたギターソロは老練なミュージシャンを彷彿させる。会場の盛り上がりにたまらなくなったジョンがアンプのヴォリュームを上げてギターソロを続けるほど、彼の中のロック魂もヴォルテージが上がってきているのがわかる。そして最後の曲「WHY GEORGIA」は今夜最高の盛り上がり。長いギターソロでは、ナットとペグの間を右手で操作してスライドギターのような効果を出すというトリッキーな奏法も披露し、ステージと客席が一体となってロックを楽しんでいることがヴィヴィッドに伝わってくる。コンサート本編はこれで終わり。会場全体から響くアンコールの声に応えてメロディアスなワルツ曲「ST PATRICK’S DAY」が演奏されて、すべてのプログラムは終了した。
ソングライターとしてのジョン、ギタリストとしてのジョン、そしてシンガーとしてのジョンを満喫できたコンサートだった。彼が影響され、今の彼を形作っているといっても過言ではないスティーヴ・レイ・ヴォーンやジミヘンのエッセンスを自分なりに咀嚼し、誰もが楽しめるロックサウンドを作り上げている。特別な演出もなくテクニカル的に難易度の高いことを無理にするわけでもない。彼自身から自然に出てくる“音”を素直に表現している姿には、時代の流行などに左右されない本物のロックが感じられる。次のアルバムやコンサートが待ち遠しい。
取材・文●森本智