「M-SPOT」Vol.052「音楽業界は、大小様々なピラミッドが無数にあるような業界」

素晴らしい声と優れた表現力を持つVITOMMEという女性アーティストをご存知だろうか。
彼女の作品に見る現代性、そしてそこから考えられる音楽の時代性…とはいえ、声の良さはそれらを簡単に凌駕するという普遍性、そんな話をお届けしよう。コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつも通り烏丸哲也(BARKS)である。
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──いつも出てくる話ではあるのですが、M-SPOT企画でたくさんの楽曲に触れていると、本当に優れたアーティストに次々と出会いまして、日本のミュージシャンの層の厚さやクオリティの高さに驚きます。昨今のショート動画からのバズやSNS上でのトレンドには上がっていないけれど、是非注目して欲しいアーティストのひとりとして、今回はVITOMME(ビトム)という女性シンガー・ソングライターの紹介です。
──「Sugarcoating」という楽曲なんですが、カッコよくないですか?
野邊拓実(TuneCore Japan):非常にかっこいいですね。なんか、エレクトロの最近の感じとポップスさ加減のバランスが素晴らしいです。
──初めて聴いた時、非常に個性的で素敵な声に惹かれまして、プロフィールを調べてみたら、すでにデビュー経験のあるアーティストでした。
野邊拓実(TuneCore Japan):過去にメジャーデビューしているんですね。
──そうなんです。その時に亀田誠治さんからも「歌声に喜びと哀しみが同居している」とのお褒めの言葉をいただいていたみたい。
野邊拓実(TuneCore Japan):声が魅力なのは間違いないですね。
──歌のキレの良さ…というか、リズムが抜群にいいですよね。こんな逸材がまだまだ潜在していることに改めてびっくりするという。

野邊拓実(TuneCore Japan):ですね。音楽業界にいて「気をつけなきゃ」と思うのは、自分の周りだけを音楽業界の全てだと思いがちなところですよね。僕はライブハウスでバンドを演っていたバンドマンなので、バンド界隈だけを見て「今って音楽業界ってこうだよね」みたいな話をしがちなんです。でも実は、「トラックメーカーの界隈ではこういうことが起こっていて」とか「ヒップホップではこういう状況で」みたいなことがある。なんなら、そのヒップホップとかトラックメーカーの中でも、割とメジャー側の人たちとアンダーグラウンドな人たちでは界隈が分かれている。実は無数の界隈があって、それぞれの中でトップティアの人がいれば、ローティアの人もいたりする。音楽業界ってひとつのピラミッドではなくて、大小様々なピラミッドが無数にあるような業界なんですよね。
──本当にそうですよね。昔からそうだったのかもしれないけど。
野邊拓実(TuneCore Japan):それが激化していると思うんです。SNSによってコミュニティ化しやすくなってきているので、細分化され多様化していっていると思っています。だからこそ、「全然知らないけど、すげえかっけえ」みたいなことって容易に起こりうるなって思いますね。
──確かに。
野邊拓実(TuneCore Japan):層が厚くて楽しいなと思いつつ、「Sugarcoating」を聴いて「すげえ現代だな」と感じたわけですけど、ここのところ「今っぽさってなんだろう」って考えるんです。というのも、僕が曲を書く時、今っぽさを意識しないまま作ってきたので、最近は「今っぽさって、ちゃんと大事かもな」と思ったんですね。いろんな曲を聴いて色々と抽象化して「今ってこうかもな」みたいなことを考えて、それに照らし合わせてみると、今っぽさの超わかりやすい特徴のひとつに「低音の使い方」があります。低音って昔に比べて明らかに強いんですよ。で、この低音の感じって、AppleのAirPods Proに最適化された低音な気がするんです。
──ほお、それは面白い。
野邊拓実(TuneCore Japan):僕もAirPods Proを愛用していますけど、フラットな音を出してくれる音のいいイヤホンだとは思ってないんです。明らかに過剰にロー(低音)の帯域を出してくるイヤホンだなと思ってて、その帯域を前に出している音楽が最近増えているなって思うんですよ。AirPods Proが直接的な原因かは分からないですけれど、AirPods Proに最適化されたような音が最近すごい多い気がします。
──時代の波もありますよね。ヒップホップで非常にローの強い音楽が出てきたとき、それに呼応するように、低域おばけのBeatsが世を席巻する流れもあった。
野邊拓実(TuneCore Japan):流行ってる音楽の音楽性って、再生機器の流行にも関わってきますよね。ローがしっかり出るようなスピーカーをみんな使っていなかった時代は、あまり低域を意識されていないような、ハイに寄ったキラキラサウンドが流行っていたりとか。そういう意味では、今ってローを過剰に足していますよね。「過剰に足す」と言うと雑に出しているように聞こえますけど、実際ミックスする上では、他の音域が潰れないようにものすごく丁寧に処理をしなきゃいけないので、すごく難しいんですけどね。
──バランスが崩れると、他帯域をマスキングしちゃいますからね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そう、すごく簡単に全てを消してしまう。そして「Sugarcoating」の展開の多様さも現代だなと思うんです。中継ぎみたいなセクションがなくて、ワンセクションごとにぽんぽんぽんぽん展開していく。いわゆるAメロ・Bメロ・サビのBメロに当たるところがなくて、Aメロ・サビ1・サビ2・サビ3みたいな展開が多い。「Sugarcoating」もラップ調な部分もあればサビっぽいメロディの部分もあってどんどん展開していくのは、SNS最適化的な発想なのかな。
──ショート動画でつかみが良さそうなパートばかりで構成されていますね。
野邊拓実(TuneCore Japan):どこを切り抜いても、短尺動画に撮れるみたいな発想なのかな。そういう現代的な感覚をちゃんと持って、それが楽曲に表れている。洗練された技術とアンテナ感度の高さをすごく感じます。「現代ぽさって、これか」みたいな。
──大事なポイントですよね。「Aメロを聴いて好きになった人」も「サビを聞いて好きになった人」もどちらもいて、それが実は同じ楽曲だったという事実を知った時の衝撃ってものすごくでかいし。
野邊拓実(TuneCore Japan):それ、M!LK「イイじゃん」の「ビジュいいじゃん」でありました。これ同じ曲だったんだって(笑)。
──そういう現象が容易に起こり得る時代ですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):最近よく言われるのは、「ポンポンちゃんと展開をさせないと、今の子は飽きちゃう」みたいなこと。僕は、飽きちゃうとかじゃないんじゃないかって思うんですけれどもね。変化していないものに対する危機感のような落ち着かなさみたいなものは、現代的な感覚のひとつなのかもしれないですけど、テンポよく展開させていくのは、プラットフォームに最適化させようとしている動きだよなって思ってます。
──なるほど。それは確かにありますね。食事だって、主食・主菜・副菜に別れた定食もあれば、丼のような一点ものもある。どちらもエンタメですよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):どっちもありますね。途中で味変することもあるし、途中でトッピングを付け加えたりもある。僕は途中でちょっとずつ足していくけど、ある人は、最初からトッピングを全部乗っけて食べていて「1番最適な状態をずっと続けたいんだ」って。確かにそういう考え方もあって、それは音楽でも同じですよね。
──音楽の楽しみ方とか、魅力に感じるポイントの違いとか、それは各自の個性ですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。ポンポン展開していく楽曲の反対側には、初めからサビで1分半ぐらい全部サビみたいな曲が、現代っぽさのもうひとつの表れ方なのかもしれない。最初から全部載せで畳み掛ける現代っぽさ。今は楽曲もどんどん短くなっているみたいですから。
──どっちもいいけどね(笑)。
野邊拓実(TuneCore Japan):逆に、丁寧に徐々に展開させていく映画みたいな楽曲っていうのは、むしろこれから独自性のひとつになってくるのかもしれない。長さに耐えうる楽曲を作れる人が、多分減ってくると思うから。そういう音楽がリスナーから求められているかどうかはまた別な話だけど。
──時間の奪い合いというタイパの観点では、長い曲というのは最も贅沢で孤高なエンタメかもしれないですね。
野邊拓実(TuneCore Japan):確かに。長い曲を聴いていること=可処分時間を持っているというステータスになるかもしれない。
──現代社会では時間は贅沢なものですよ。
野邊拓実(TuneCore Japan):ファッション的な観点で、長ったらしい冗長な音楽を聞いている…すごく余裕のある人間なんだアピールが一部界隈で流行るのも、もしかしたらおかしくないかも。なんなら僕がやりそう(笑)。
──イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」なんてイントロだけで1分近くあるわけですが、少なくとも当時のバンドにとっては必要なサイズだったわけです。この曲が現代の新曲としてアレンジされたとすれば、イントロはもっと短くなっていたかもしれないね。
野邊拓実(TuneCore Japan):いや、そうだと思いますね。逆にこの長さでリリースしていたら、「現代人の感覚がわかってないバンドだ」ってなってしまうかもしれない。現代の感覚がこれからどう変わっていくのかにも僕は注目していきたいところですね。このVITOMMEさんの「Sugarcoating」こそ現代ど真ん中な楽曲だと感じているので、VITOMMEさんを含む現代のアーティストがどのように変遷していくのかによって、現代を見ていきたい。音楽はどんどん消費されているという指摘もあるけれど、消費という感覚に対する反動みたいなものもでてくると思っているし。
──トレンドは常に流れ動いていますからね。
野邊拓実(TuneCore Japan):すごく楽しみですね。とはいえそもそも「声がいい」って、結局これが最強なんじゃないかって思っちゃう(笑)。めちゃくちゃ録音が悪くても歌がうまいから泣いちゃうみたいなことってあるし、声がいいっていうのは本当に宝ですよ。
VITOMME
シンガー/ソングライター/アーティスト 中低域が強めの歪みがかった歌声で、音楽家・亀田誠治氏からは「歌声に喜びと哀しみが同居している」と評されている。 作曲作詞に関して定評があり、他のコンポーザーには作れないオリジナリティがあると言われる楽曲を作るソングライター。 バンド「the mother’s booth」元ギターボーカルであり、1stアルバム「Nikolaschka」でメジャーデビュー。 翌年にメンバー脱退などの理由により解散後、2022年12月末に初のMVを公開、2023年よりVITOMMEとして本格的にソロ活動を開始。 3rdシングル「Decollete」は読売テレビ・日本テレビ系「秘密のケンミンSHOW極」のテーマ曲タイアップ、NACK5「Hit Hit Hit!」月間リスナー投票2位を記録。5thシングル「Moon over」は同番組で月間リスナー投票1位を記録し、2024年3月度パワープレイ楽曲に決定した。
https://www.tunecore.co.jp/artists/vitomme
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.







