【ライヴレポート】deadman、結成25周年イヤーを締め括る初ホール公演に漆黒の狂気と背徳の人体実験「26周年もよろしく」

2025.12.31 12:00

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deadmanが12月21日、東京・大手町三井ホールにて25周年イヤーのグランドファイナル公演<deadman 25th anniversary TOUR 2025「to be and not to be final -被覆する造形は人、腫れる風船の奇病-」>を開催した。先ごろ公開した同公演のオフィシャルレポートに続いて、オリジナルレポートをお届けしたい。

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結成25周年を迎え、2025年3月からは全国5都市10公演のツアー<to be and not to be -act1>、そして25周年記念EP『鱗翅目はシアンブルー』のリリースと、この作品を携えての全国ツアー<to be and not to be -cyan blue->を行なってきたdeadman。アニバーサリーイヤーの締めくくりとなるツアーのグランドファイナル公演<deadman 25 th anniversary TOUR 2025 to be and not to be final -被覆する造形は人、腫れる風船の奇病- >が、12月21日に東京・大手町三井ホールで開催された。

キャリア初のホール公演、それも大手町というオフィス街のど真ん中にある会場で、一歩外へと出ればきらびやかなイルミネーションが多くの人で賑わう年末の街を彩っている。そこからホールへと足を踏み入れるや、まだ薄暗いステージにはドラムやアンプなどの他に、ギターを立てかけたクラシカルなソファ、また電気椅子のようなものが見え、ステージ左右には2体ずつ袋で覆われた死体らしきものがくくりつけられており、静かな緊張感が流れていた。コンサート会場というよりは劇場を思わせるステージで、特に冒頭、背景のドレープのきいたカーテンやステージが真っ赤なライトに染め上げられた光景は、デヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス』のブラック・ロッジさながらだ。ここからは異世界──さまざまな境界線を超えていく体験になることが暗示されているようで、さらに目を凝らしてしまう。

この空間を引き立てたのが、開演直前に流れたア・パーフェクト・サークル(APC)によるジョン・レノン「イマジン」のカバー。陰鬱で、希望をすり潰していくようなAPCバージョンの「イマジン」が、観客をdeadmanならではの世界観へと連れ立っていく。暗転した会場に、EP『鱗翅目はシアンブルー』収録でありツアーのタイトルにもなっていたインストナンバー「to be and not to be」が流れ、aie(G)、kazu(B)、晁直(Dr)が登場、途中から生のバンドアンサンブルで会場に熱気を起こす。さらに眞呼(Vo)の登場で、ライヴは「in the cabinet」から怒涛のごとく進んでいった。

前半は特にアグレッシヴな曲を連投。初のホール、椅子付きの会場ではあるが、容赦ない激しい曲が続き、観客はライヴハウスさながらに体を揺らし、頭やコブシを振り声を上げる。悪魔的なドライヴ感と叫びに満ちたロックンロール「dollhouse」から、アクセルを踏み込んで爆走していく「rabid dog」へという流れも最高だ。aieは足を蹴り上げるようにしてギターをプレイし、眞呼は抑えた歌声から雄叫びのようなシャウトまでさまざまな声で不穏な情景から感情の奥底までを表現する。優雅なワルツのリズムやメロディアスなベースラインが逆に、サウンドが宿す退廃感を引き立てる「ミツバチ」では、眞呼は玉座のように電気椅子に座り、歌う。「カモン!」という眞呼の煽りでイントロからコールを起こしていった「黒い耳鳴り」へと、前半は、ツアーで磨き上げてきた漆黒のグルーヴと爆発的なバンドアンサンブルが会場中を駆け巡るステージとなった。

「鱗翅目はシアンブルー」からの中盤は、さらにディープなdeadmanの世界へと突入する。とくに「鱗翅目はシアンブルー」から「宿主」へと不協和音や変則的なリズムとで目眩を起こし、「additional cause for sorrow」と続く「静かなくちづけ」で美しくエモーショナルな空気で包んでいく流れは、前半で沸騰した会場の熱を和らげてくれた。細やかに編み上げられていくバンドアンサンブルと歌とを堪能する時間であり、観客はいつも以上にじっくりとその細部まで味わい、楽しんでいるのが伝わってくる。

かと思えば、ハンドクラップやシンガロングを起こした「the dead come walking」やマーチング的なビートが高揚感を生む「零」で観客を一体化して、「through the looking glass」ではkazuのヘヴィなベースと眞呼のシャウトから一気に躍らせる。心地よい酩酊感から、観客を揺さぶり起こしたところで投下するのは、deadman初期の曲「lunch box」「quo vadis」「re:make」の3曲だ。ノイジーなリフに満員の会場内のボルテージが跳ね上がって、観客の鼓動とストロボが呼応する感覚。客席に、ライヴハウスのフロアのようなうねりを起こす「quo vadis」と、爆裂なドラムに歓声や叫び声が上がり、ステージ上も客席も感情のタガを外していく「re:make」は、熱狂というにふさわしい盛り上がりとなった。

目の眩むようなライティングが続いたところから一転して、会場内もステージも漆黒の闇で包んだのは、「蟻塚」だ。暗転し、恐らくはメンバーも自分の手元すら見えないだろう暗さのなかで、互いの呼吸感を図るようにしてアンサンブルが紡がれる。観客の平衡感覚も失わせる闇のなかで唯一、眞呼のエクステとメイクの一部がブラックライトに浮かび上がって、ゆらゆらと亡霊のようにステージを彷徨う。孤独で、物悲しさを宿したボーカルやロングトーンが、歪んだギターや重いビートに呼応していく「蟻塚」は、ライヴで、静かにかつ強烈に観客を飲み込んでいく曲となっている。ライヴハウスではもちろんだが、ホールという空間で一段と聴き手の想像力を広げていく曲だ。

またこの暗闇の体験とは真逆の、真っ白な雪を降らせたのがラスト曲「dawn of the dead」。重厚なビートにギターが咆哮を上げる、インダストリアルロック的な殺伐とした雰囲気を持った曲だ。もしライヴの終曲にスノーマシンで雪を降らせるなら、多幸感や温かみを感じられる曲がぴったりなのかもしれないが(季節的にもホワイトクリスマスのような)、deadmanで舞う雪は密室へと閉じ込めていくような、あるいは内なる狂気を覆い隠していくように、4人の音へと降り注ぐ。最後まで心掻き乱していく、そんな余韻を持ったエンディングとなった。

MCなしで全21曲を織りなした本編でのヒリついた緊張感とは打って変わって、アンコールでのdeadmanは饒舌だ。これもまたライヴやツアーの楽しみである。ちなみに今回は、夏のツアーからダイエットに勤しんでいた(と言っても、酒も飲み、ラーメンも食べつつ、EMS機器だけをつけてどれだけ痩せられるかの人体実験だったという)aieの腹囲測定が行われた。前回のツアーでは晁直がダイエットに挑戦して大成功と締めくくられたわけだが、今回は測定中からメンバーが失笑。プラス2cmの大失敗となった結果発表で、晴れやかに祝砲の(?)銀テープが舞うという、酔狂な演出となった。「来年のツアーではチビTで腹を見せらるように。26周年もよろしく」というaieの宣言もあったので、26周年はそんなところにも注目したい。

このアンコールでは「701126」「聖者の行進」をプレイしたが、さらなる歓声や観客の声に応えてダブルアンコールに立ち、「雨降りの悪い夢」を置き土産に、「また会おうね」(眞呼)と25周年のアニバーサリーイヤーを締めくくった。

2024年、19年ぶりとなったオリジナルアルバム『Genealogie der Moral』を発表して、同アルバムを引っ提げた全国ツアーを行ない、そして2025年に入り、長いツアーやEPリリース、そして初のホール公演へと、キャリアのなかでも精力的に、そして充実度の高い時を過ごしたdeadmanの25周年。

それぞれに別のバンドやプロジェクトを同時に走らせていて多忙を極めているが、そのなかでも作品への欲求、ライヴへの欲求や、音楽・アートへの探究心が強いバンドゆえに、キャリアや時を重ねていく先々で生まれる作品やそこでのマインドは、個人的にもとても興味深い。この節目となる年を超えたdeadmanが、次に何を鳴らすのかを楽しみに待ちたい。

取材・文◎吉羽さおり
撮影◎マツモトユウ

 

■<deadman 25th anniversary TOUR 2025 to be and not to be final -被覆する造形は人、腫れる風船の奇病 ->12月21日(日)@東京・大手町三井ホール ETLIST
01 to be and not to be
02 in the cabinet
03 dollhouse
04 rabid dog
05 ミツバチ
06 blood
07 溺れる魚
08 黒い耳鳴り
09 鱗翅目はシアンブルー
10 宿主
11 additional cause for sorrow
12 静かなくちづけ
13 the dead come walking
14 零
15 through the looking glass
16 受刑者の日記
17 lunch box
18 quo vadis
19 re make
20 蟻塚
21 dawn of the dead
encore
en1 701126
en2 聖者の行進
W encore
en3 雨降りの悪い夢

 

関連リンク
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