「M-SPOT」Vol.045「小4ラッパーFC ザイロス、ヒップホップが切り開く新時代を占う」

音楽のムーブメントは時代とともにぐるぐると回るけれど、すべての音楽がクラウドから自在に聴ける時代になって、年令を問わず時代性を問わず、あらゆる世代に色んな可能性が開かれる時代になった。
そんな現代だからこそ、小学生からもごく自然にラッパーが誕生してくる環境が整ったようだ。ヒップホップの持つ魅力は、音楽性・精神性、そしてそこに根ざす自己表現の自由さにある。そんな表現をリアルに行うヒップホップの世界は、小学生の目にはどのように映っているのだろうか。
いつもの通り、コメンテーターはナビゲーターのTuneCore Japanの堀巧馬とTuneCore Japanの菅江美津穂、進行役は烏丸哲也(BARKS)である。
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菅江美津穂(TuneCore Japan):今回、ぜひ紹介したいアーティストがいるんです。FC ザイロスというラッパーなんですが、まずは曲を聴いていただけますか?「ダントツ」という曲なんですが。
──ええ、まずは聴きましょう。
菅江美津穂(TuneCore Japan):彼は小学4年生なんです。声変わりしてない声でラップしています。
──これはイカツイね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):声変わりしていないその声を、ヒップホップ・マナーにのっとってダミ声でやろうとしていて、存在がめちゃくちゃヒップホップじゃんって思うんです。周りの年上の人達から「小学生なんて子供じゃん」とナメられたことを反骨精神にしてやっているところがめちゃくちゃいい。
──強い意志を感じるね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):そう。Xではラッパーとして自分の情報発信をしているんですけど、Instagramはお母さん管理で、彼の成長記録として普段の生活がアップされていて、そういうところもすごくいいなって思って。
https://t.co/AKRMZhB9wL pic.twitter.com/jEA5nO63rY
— FCザイロス (@miiiinnnn20) October 30, 2025
──親御さんも応援している姿が見えますね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):家族一丸となって発信している様子が見えるのもいいですよね。
堀巧馬(TuneCore Japan):家族でワンチーム感がありますね。だとしても「ラッパーとして育てる」みたいな感覚もない気がする。Instagramは生活成長の記録で、家族のアルバムを見てるみたいな感覚になるから、ラッパーとしての彼に全力投球している感じもしない。それこそ、子供サッカーチームとか野球チームに入るとプロ野球選手を目指してスパルタになっちゃうこともありがちですけど、そういうのは感じないというか「やっているんだったら応援しようよ」ぐらいの支え方に見えますね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):テレビに出演した時のギャラをレコーディング代に注ぎ込んでいるみたいで、お父さんとお母さんはお金は援助してないみたいですね。ラップバトルにかかる費用も自分のお年玉から賄ってるらしい。
堀巧馬(TuneCore Japan):すげえ。本当に好きなんだな。歌詞を見ても、ちゃんと自分で書いたリリックのようですね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):手書きの歌詞がインスタに上がっていますし。
堀巧馬(TuneCore Japan):リアルでいいですね。小学生のリアルをちゃんと表現としてリリックに落としている。1バース目で「アンチのコメント気にしないよ そういうヤツは無視」という、ヘイターなんてもう気にすんなみたいなことって、ヒップホップの中でベーシックな表現だと思うんです。ヒップホップに影響を受けてかっこいいなと思ったものを、自分の歌詞に反映しているところに超リアルさを感じますね。
──ヒップホップ・マナーにカッコよさを感じたことが伝わってきますね。
堀巧馬(TuneCore Japan):だからね、きっとアンチのコメントが本当に来ているのかどうかなんて問題じゃなくて、かっこいいと思ったものを素直に反映して、小学生なりの感性で背伸びをしながらリリックを書き上げるっていうのが逆にリアル。
菅江美津穂(TuneCore Japan):逸脱しすぎてないラインがいいですよね。自分で理解できる範疇の中でリリックを書いているのがすごくいいなって思います。悪ぶってるわけじゃないというか、「馬鹿にされてたまるか」みたいな気持ちをギリギリのライン…自分が言ってもおかしくないところで、先輩の状況を取り込んでいる工夫もされていて。
堀巧馬(TuneCore Japan):絶妙なバランス感かもしれない。
菅江美津穂(TuneCore Japan):小学生のリアルだし、まさにヒップホップだなって思って、感銘を受けました。

──子どもって「天才だ」「時代の寵児」ともてはやされた結果、本人の意志とは別な力学が働いてその子の未来を潰してしまうことってありがちですよね。そんな世の中にあって、ヒップホップという文化/マナーに魅力を感じた子どもが、そのまま健やかに成長できていくまで時代が成熟したのかなという思いもあります。大人の理解がやっと子供の感性に追いついたというか。
堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。しかもMCバトルみたいなものは、親からしたら「不良の集まり」みたいなものととらわれがちですよね。
──教育上よろしくないと思われそう。
堀巧馬(TuneCore Japan):そういうところに小学校4年生をポンって出すという感覚値が、現代ですよね。
──本当に時代の幕開けを感じます。本当の意味で、ヒップホップ文化に影響を受けて「これをやりたい」という日本人が生まれた瞬間ですよ。
堀巧馬(TuneCore Japan):先達の日本のラッパーの皆様のおかげですよね。小4のラッパーが生まれたっていうのは、そこまでヒップホップの地位を上げてきた人たちの功績だと思いますよ、マジで。
──ほんとそう。市民権を得たわけですね。
堀巧馬(TuneCore Japan):しかもそれが、親公認の活動として存在するという素晴らしい事例。
──勉強も体育も美術も音楽も小学生なりに課せられてる義務教育がある中で、それを健やかに過ごしながら、自分のかっこいいと思う生き方を追求していった先、中学生になった時にどんなリリックを書くのか、高校生になった時にどんなトラックに想いを乗せるのか。そしてそれを見た小学生が憧れを示して、幼きヒップホップアーティストを育むという循環が生まれますね。
堀巧馬(TuneCore Japan):素晴らしい。中~高学生に上がった思春期の頃から合理性みたいな論理的思考が育まるといいますよね。だから基本的に小学生って、悪さも好きなことも本能なんです。ロジックがないので「なんでこれが好きなのか」って説明できないそうです。ある意味本能で純粋にかっこいいと思っている活動をやっているわけなので、中学生に上がった時にどんな歌詞になるのか、そこはめっちゃ変わっていくんだろうなって思うんです。
──なるほど。
堀巧馬(TuneCore Japan):中2の頃って自分の中で黒歴史があったりするじゃないですか。それって自分の価値観がアップデートされていくからこそ起こることなんです。なので、FC ザイロスの活動もすごいことになると思うんですよ。めちゃくちゃ面白いなと思います。そもそもアーティストってそんなに大きく変わることってないじゃないですか。
菅江美津穂(TuneCore Japan):大抵は大人ですもんね。
堀巧馬(TuneCore Japan):そう。だから、FC ザイロスの場合、多分3年後くらいには面影もない楽曲ができるような気がするんですよ。というか、あり得ると思っていて、それが逆に面白そう。ずっと見続けていたい。
菅江美津穂(TuneCore Japan):ラッパー名を変えるんじゃない?
堀巧馬(TuneCore Japan):いや、それは変えてほしくないなぁ(笑)。
菅江美津穂(TuneCore Japan):もしかしたら、いきなりボカロPになる可能性だってあるわけじゃないですか。全部自分でやりたいっていう。
堀巧馬(TuneCore Japan):確かに。でもずっとFC ザイロスでいてほしい。FC ザイロスPとか(笑)。
──このまま行くと、めちゃめちゃカッコイイ中学2年生になっていると思うんです。けど、「カッコつけるカッコ悪さ」という価値観が生まれると、「めちゃめちゃカッコイイ存在でいる自分が、めちゃめちゃカッコ悪い」というこじらせた自己肯定感に陥る可能性もありますよね。カッコいいことに対するヘイトが自分に集中した時に、違った蕾が花開くことになるので、その時にどのようなアーティストになるのか。
堀巧馬(TuneCore Japan):楽しみ。無責任で申し訳ないけど(笑)。
菅江美津穂(TuneCore Japan):ほんとに。思春期としてねじれは大事だということは理解しつつ、いいトラックメーカーとか先輩ラッパーとかに恵まれてほしいって思います。この時の出会いはすごく大事じゃないですか。
──自分を支持してくれることのありがたさ、ひとりじゃないと思える心強さは大きな糧になりますからね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):学校内や近い年齢の人たちからのヘイトを跳ね返されるぐらい、自分の信じられるもの・人が近くにある状況になっていてほしい。願望でしかないですけど。
──どんな荒波があるかわからないからね。
菅江美津穂(TuneCore Japan):逆にヘイトじゃなくて、憧れや羨望を受けすぎて潰されることもあるわけだから。
堀巧馬(TuneCore Japan):いっぱい曲を出してほしいですね。いっぱい歌詞を書いてたくさん作品をリリースして欲しい。小学生の感覚って宝物だと思います。作文とかでも「俺、なんでこれこんなの書いたんだろう」とかあるじゃないですか。あの感覚ってあの時期にしか得られないものだから。
──多くのミュージシャンが「若い時に書いた歌詞って恥ずかしいけど、でも今では書けない」って言いますからね。
堀巧馬(TuneCore Japan):良くも悪くも本当にそう。だから、小学校卒業するまでに100曲ぐらい作ってほしいっすね(笑)。
菅江美津穂(TuneCore Japan):いやほんとそう。応援しています。
FC ザイロス
おしゃべりな事からラップの道へ。MCバトルに出場しながら、小学4年生にして初EPをリリース。年齢の枠を超えて、カッコいいラッパーになれるよう、日々HIPHOP中。
https://www.tunecore.co.jp/artists/FCzairos
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.







