「M-SPOT」Vol.042「日本らしさを堪能させてくれる、見汐麻衣のヴィンテージな趣き」

2025.11.18 20:00

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前回Vol.041で紹介した和美珠世のような和の世界に続き、今回紹介するアーティストは見汐麻衣(みしお まい)というシンガーソングライターだ。自らの音楽性にブレがなく、自らの信じる道を自分のペースで歩み続ける生粋のミュージシャンである。

SNS時代にあって、自らの音楽を自分の歩幅で歩み続けていくことの難しさは、多くのミュージシャンが経験しているところ。彼女が放つヴィンテージな響きとその魅力こそ、日本が生んだ純ポップスの結晶かもしれない。話を繰り広げるのは、ナビゲーターのTuneCore Japanの堀巧馬と同じくTuneCore Japanの菅江美津穂、進行役は烏丸哲也(BARKS)である。

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菅江美津穂(TuneCore Japan):今回は、私から見汐麻衣というシンガーソングライターをご紹介させてもらっていいですか? 活動歴も長い方で私は学生の頃から聴いているんですけど、今回8年ぶりに2枚目になるソロアルバム『Turn Around』をリリースしたんです(2025年11月19日発売)。私が高校生のときに聴いていた時からスタイルが変わってなくて、今もこうやってずっと同じ雰囲気で「日本らしい、ってこういうことだよな」ってちょっと思っているんですね。


──しっとりと堪能できる心地よいサウンドですね。

菅江美津穂(TuneCore Japan):リラックスする時に聴くみたいな感じなんですけど、歌詞はかなり複雑…みたいなところにすごく惹かれていたんです。今は配信の時代ですからファンもこうやって付いていけて、ずっと長く活動を続けていけるのかなと思うと、チューンコアジャパンで働いていて良かったなとも思ったんですよね(笑)。

──高校の頃からこんな精神年齢の高そうな音楽を聴いていたんですか(笑)?

菅江美津穂(TuneCore Japan):いや、私が精神年齢が高くていきなり出会えたわけでは決してなく(笑)…この方は大阪で活動されていた埋火(うずみび)というバンドの人でして。私が学生時代に、大阪で「関西ゼロ世代」というムーブメントがあり、夢中だったんですね。その中でたまたま出会えたバンドが埋火でそこからファンになったんですよね。

堀巧馬(TuneCore Japan):このヴィンテージ感って、ある意味「ユーミンっぽいな」と思いました。というかこのヴィンテージ感って、海外では全然聴かない感じなんですよ。荒井由実を思い起こすような日本のレトロ・ヴィンテージっぽい感じとでも言うのか…だからといって別にシティポップじゃないんです。

菅江美津穂(TuneCore Japan):わかります。

堀巧馬(TuneCore Japan):どうやってこういう曲が生まれたんだろう、みたいな、気になりますね。

──「ヴィンテージ感」って的を射ている印象ですが、だからと言って古臭くないのは、演者の演奏スキルの高さとアレンジやミックスの秀逸さにあると思います。ものすごい深いリバーブなのに輪郭がはっきりしていて立体感は失われていない。定位もしっかりしている。上下に音が広がっていますけど、縦方向の音場感を生むのは簡単じゃないですよね。そういうところにもキャリアの長さと天賦の才を感じます。

堀巧馬(TuneCore Japan):確かにリバーブの効いた曲ってカラオケになっちゃいがちですけど、確かに「Cheek Time」はめっちゃ奥行きがありますね。この音階でこのテンポ感だけど、ちゃんと包まれているサウンドがすごい。

菅江美津穂(TuneCore Japan):私は、アーティスト活動をずっと続けていること自体がすごく偉大なことだと思っているんです。継続することが1番難しいと思ってまして、自分の世界観があってそれを描き続ける意欲が素晴らしいです。もちろんバンド時代とはサウンドも違うんですけど、やっぱり持っている核の部分は全然変わってないと思った時に、SNS時代になってもたくさんの人に聴いてもらうことより、出したい世界観に力を注いでいるところにアーティストとしての心意気を感じます。

──私は、アーティストって大きく2つに分けるとすると「自分が生み出す楽曲を聴いてもらいたい人」と「自分自身を聴いてもらいたい人」に分けられると思っているんです。後者は自分の存在がコンテンツですから「何を発するか」という発想になる。時代とともに形や質感も変わるし、時代にマッチした作品創りに傾倒していくわけです。一方で「自分が生み出す楽曲を聴いてもらいたい」という前者は、自己アピールはどうでもよくてやりたいことは自分の信じる音楽をクリエイトすることだから、時代がどうであれリスナーがいるかいないかも問わず、自分から生まれる音楽を形にするだけ。いずれも極端な例で良い悪いではないんですけど、見汐麻衣は典型的な前者に見えますね。そういう思考じゃないと到達し得ない音楽に聴こえるので。

見汐麻衣

菅江美津穂(TuneCore Japan):なんか、縁側でゆっくり聞きたいみたいな、なんかそういう音楽ですよね。

──確かに、トロピカルな感じやサイケデリックな気配もあるのに、日本の縁側も似合う感じって不思議ですね。海外のリスナーの耳にはどう聴こえるんでしょうか。

菅江美津穂(TuneCore Japan):このムード…それこそユーミンみたいな話もありましたけど、こういうムードの作品が一気に海外に拡散することもありそうですね。

堀巧馬(TuneCore Japan):世界に広まってほしいですね。「縁側」という感覚は日本人の感覚ですけど、この雰囲気へ共感する感覚は、そこにイメージする何かがないと難しいのかな。今、世界が繋がっていっている中で、日本の文化がグローバルに周知されていけば、この「日本らしい曲」「日本の文化の中で育まれてきた感覚」みたいなものが波を作れる可能性が出てくるかもしれない。

──確かに。日本からでしか生まれ得ないオリジナルというもののひとつかもしれない。これからもたゆまず作品作りを続けてくれるだろう見汐麻衣さんに期待ですね。

見汐麻衣

シンガー/ソングライター、文筆家 2001年バンド「埋火(うずみび)」にて活動を開始、2014年解散。2010年よりmmm(ミーマイモー)とのデュオAniss&Lacanca、2014年石原洋プロデュースによるソロプロジェクトMANNERSを始動、2017年にソロデビューアルバム『うそつきミシオ』を発売後、バンド「見汐麻衣with Goodfellas」名義でライブ/レコーディングを行う。ギタリストとしてMO‘SOME TONEBENDER百々和宏ソロプロジェクト、百々和宏とテープエコーズ、石原洋with Friendsなど様々なライブ/レコーディングに参加。また、CMナレーションや楽曲提供、エッセイ・コラム等の執筆も行う。2023年5月エッセイ集『もう一度猫と暮らしたい』(Lemon House Inc.)、2025年5月『寿司日乗 2020 2022東京』(Lemon House Inc.)を発売。音楽配信サイトOTOTOYにて、対談企画「見汐麻衣の日めくりカレンダー」連載中。2025年11月、8年振りとなるニューアルバム『Turn Around』をリリース予定。
【見汐麻衣 with Goodfellas】、見汐麻衣(Vocal, Electric Guitar)、大塚智之(Bass)、坂口光央(Keyboard,Synthesizer)、増村和彦(Drums, Percussion,etc)
https://www.tunecore.co.jp/artists/mai_mishio

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

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