【インタビュー】再生するCASIOPEA、安部潤と刻む『TRUE BLUE』の航海

2025.08.26 20:15

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突如として訪れた別れ。2024年12月、有楽町ヒューリックホール東京に響いた音は、CASIOPEA-P4としてのラスト・ステージとなった。鍵盤を操ってきた大高清美の脱退。ファンにとっては大きな喪失だった。だがその裏側で、すでに物語は動き出していた。11月、CASIOPEAからのオファーを受け取ったのは、十代の頃から彼らに心を奪われ続けてきたミュージシャン安部潤。憧れが運命へと変わり、夢が現実に溶けていく瞬間だった。

そして2025年5月、安部潤はついにCASIOPEAの一員としてステージに立ち、新たな第一歩を刻んだ。完成した最新作『TRUE BLUE』は、まさに再生の旗印だ。バンド名をふたたびCASIOPEAと掲げ、彼らは過去も未来も背負いながら、より深く、より青く、航海を始めた。

──まずは安部潤さんをメンバーに迎えた経緯を聞かせてください。2024年12月にCASIOPEA-P4冬のツアー【東京&大阪】(8日=大阪公演、15日=東京公演)を控えていた直前の12月1日、突然、前任の大髙清美さんがバンドを辞めることが発表され、ジャズ・フュージョン界は驚きに包まれました。結果、12月15日の有楽町・ヒューリックホール東京がCASIOPEA-P4としては最後となりました。私も足を運ばせて頂きましたが、終演後に野呂一生さんにご挨拶した際、私が「驚きました!これから新メンバーを探さないとですね」と言いましたら、野呂さんは「いや、大体決まってはいるんですよ」とおっしゃられて。その時点では、当然ながら“ここだけの話”ですので誰にも口外はしませんでしたが。

野呂一生:そうでしたね。実はその東京公演の前の月の11月に安部くんには打診して決まってました。

鳴瀬喜博:そのヒューリックホール東京に安部ちゃんは観に来てたしね。どんなバンドだろう?って(笑)。

野呂一生:観てから決めようかって?(笑)。

安部潤:とんでもない。11月にお誘い頂いた時点で二つ返事でした。僕が中学生のときに福岡の市民会館だったかにCASIOPEAが来られたとき、密かに(?)楽屋口で出待ちしたりして。でも、恐れ多くてサインなどもらえませんでした。そのくらい憧れのバンドでしたから。で、そのあと僕が21歳か22歳のときにでしたけど、1990年、ちょうどドラムの日山正明さんが加入されてCASIOPEAが福岡でコンサートを行なったんです。その際メンバーの方々がFM福岡にキャンペーンで来られるというので、局の方からよかったらどうぞとお声をかけて頂いて、ご挨拶させて頂きました。僕にとってはそのときが鳴瀬さんとの初対面でした。

安部潤

鳴瀬喜博:そんなことあったんだ。全然覚えてない。

──2025年5月上旬にビルボードライブの大阪、東京、横浜で3公演が、安部さんが加入されて初めてのライヴを行いました。私は横浜公演に行ったのですが、そのとき、野呂さんと安部さんが初めて同じステージに立たれたのは、2014年11月20日の豊洲Pitで行われたリー・リトナー、渡辺香津美、そして野呂さんが共演された<Fusion Festival in Tokyo Vol.1>だったと野呂さんがMCで話されて。

野呂一生:その前から、例えば安部くんがプロデュースしたレコーディングに呼んでもらったり、スタジオでは何度かご一緒してましたが、ライヴで一緒になったのはそのときが初めてでした。

──2024年11月に安部さんは野呂さんからどういった感じで誘われたのでしょうか?

安部潤:それがちょっとややこしいんです。

野呂一生:そう、僕から安部くんに送ったメールが、アドレスが古いものだったみたいで届いてなかった(笑)。

安部潤:僕は鳴瀬さんとLINEでよくやり取りさせて頂いていて、野呂さんからメールが送られてきたであろう頃は、鳴瀬さんにお誕生日祝いメッセージを送ってたんです。そしたら鳴瀬さんからの返事に「CASIOPEAに来い」って書かれてあって。

鳴瀬喜博:リーダー(野呂)から安部ちゃんにメールを送ったというのを聞いていたんで、俺はてっきり知ってるかと思ったわけ。

安部潤:僕はてっきり「CASIOPEAに来い」=「ライヴを観に来い」という意味だと思ったので、それで急いでスケジュールを調べて、この日はあいにく他のアーティストのコンサートを観に行くことになっていて「NGです」とご返事をしたら、鳴瀬さんはわけが分からなくなったみたいで、すぐに電話がかかってきました。そこで初めてバンドへのお誘いだというのがわかったんです。いやー、びっくりしました。

野呂一生:鳴瀬さんから事の顛末を聞いて、安部くんに伝わってなかったんだ、と(笑)。それで、僕からも安部くんに電話して正式にオファーした次第です。

安部潤:中学生のときに出待ちした自分が、まさかそのCASIOPEAに入るとは夢にも思ってませんでした。

──加入することが決まってからはいかがでしたか?

安部潤:今までのファンの人達にどういう風に見られるか、というのは正直気になりました。あと、ライヴで大失敗する夢をみたりして、自分では感じていなかったつもりが、思いのほかプレッシャーがかかっているんだなと(笑)。

──それはちょっと意外です。

安部潤:いや、それはもう何と言ったってCASIOPEAですから。ただ、新作『TRUE BLUE』のレコーディングや5月のビルボードでのライヴとか実際に進んでいったら、他のお三方のお気遣いもあって意外とすんなりいけたので、あのプレッシャーは何だったのだろうと肩すかしをくらった感じではありましたけど。

──その新作『TRUE BLUE』に関しては後ほどお聞きしますが、今井さんは安部さんと共演されたことは?

今井義頼:それまでお名前は大先輩として一方的に存じ上げていたんですが、たまたま2024年、ギターの瀬川千鶴さんのツアーのときに初めて共演させて頂きまして。そのときは、またご一緒できたらいいですねと言っていたのですが、それがなんとCASIOPEAに入って来られて嬉しい限りです。

──バンド名ですが、CASIOPEA-P4からP5になるのかな、もしくは他の単語を付け加えたりするのだろうなと思っていました。それがふたを開けてみたらオリジナルのCASIOPEAに戻って…これは予想外でした。私的には“初心に戻る”みたいことなのかなと思ったのですが。

野呂一生:それもありますし、あと、3rdからP4と来て、なんか“続”~“続”という印象があって、それがもう鬱陶しくなっちゃったというか。それで、みんなに投げたら全員一致ですんなり決まりました。

──ここからは安部さんが加入されての第1弾アルバム『TRUE BLUE』についてお聞き致します。レコーディングは2025年3月ということで、5月のビルボードライブの時点ではすでに終えられていたんですね。

野呂一生:そうです。年明けには3月にレコーディングをするというのはほぼ決まっていて、アルバムのための7曲を1月中に書き上げて、そのスコア(譜面)を3人に送って、それぞれ1曲ずつお願いします、と。そうしたら安部くんから「分析してみます」って返事が返って来て、いかにも彼らしいなと(笑)。

今井義頼:そのとき安部さんから僕に「センパイ、みなさんはいつもどれぐらいの時期に曲を提出されるんですか?そのあたりがわからなくて」とメッセージが来まして。「レコーディングの1ヶ月前から2週間前くらいの感じですよ」と返信したら「あっ、そうですか、なら良かった!」といったやり取りもしました(笑)。

──つまり12月15日のヒューリックホール東京のコンサートが終わった半月後、年明け早々から動き始めたわけですね。

野呂一生:しかも、そのヒューリックホール東京のでコンサートはWOWOWが収録していて、3月20日から独占放送と配信、そして5月2日にBlu-ray、6月18日にライヴ盤CDがリリースされるので、1月はその音源のチェックやらミックス・ダウンとかの作業も新作の曲作りと並行してやらないといけなかったんです。過去と未来が入り乱れた感じのとんでもない過密な1ヶ月でした。

鳴瀬喜博:よくやってたよね、すごいと思ったもん。

今井義頼:しかも、3月にレコーディングしているとき、野呂さんがヒューリックホール東京の方のマスタリングがまだ仕上がらないって言ってましたからね(笑)。すごいマルチな方だなと。

野呂一生:マルチもなにも、もうやるしかないんでしょうがない(笑)。

野呂一生

──そうだったんですか。ところで『TRUE BLUE』をアルバム・タイトルにされた理由は?

野呂一生:安部くんに入ってもらって、なんか明るいイメージにしたいなと思って。そうしたら青空みたいな景色が浮かんだんです。なおかつシンプルなものにしたいとも思い、そのまんまジャケットのカラーにして、そこからTRUE BLUEという言葉が出て来たんです。おまけにトルゥー・ブルー…なんか語呂が良いかもと思ってこれにしました。

──アルバムは作品タイトルにも通じる「Sky So High」で始まります(注:作曲者に言及していない曲はすべて野呂作)。

野呂一生:アルバムを象徴するような曲をと思って最初に書き上げて、レコーディングでも最初に収録しました。

──ということは安部さんはスタジオでは最初にこの曲を演奏されたわけですが、実際に音を出されてどうでしたか?

安部潤:いかにも野呂さんらしい曲だなと思いました。

野呂一生:らしい…ですか(笑)。

安部潤:はい(笑)。ですので、演奏が始まったときは純粋に嬉しかったです。

──2曲目「The Light From Future」は6/8拍子のシャッフル・ビート・ナンバーです。

野呂一生:ここのところシャッフル系の曲があまりなかったので、久しぶりにやってみたいなと思って作りました。

今井義頼:跳ね具合がいい感じですよね。自分も叩いていて気持ち良かったです。

──3曲目「Destinations」は一転してハードな低音リフが飛び出すエネルギッシュな曲想です。

野呂一生:こういった8ビートはこれまでのアルバムにも1曲は入れていたので、今回も漏れなくという感じで(笑)。

今井義頼:今までだとこういう曲調だとオルガンが壁のように鳴っていて、それが魅力のひとつだったんですけど、今回は安部さんのキーボードから出るアコースティック・ピアノのサウンドがガーンと来て、そのカラーがすごいなと。

今井義頼

──5月のビルボードライブ横浜でのステージを観たときもですが、前任の大髙さんはオルガンが特徴だったのに対して、新加入の安部さんはキーボード&シンセですので、楽曲は“今を感じさせながらも、サウンドのベクトルはCASIOPEAの第1期~第2期に近くなったなと感じました。

安部潤:それぞれの楽曲が、自分が好きだった以前のCASIOPEAの曲を彷彿とさせるものがありまして、その中でいかに自分の個性を出すか、みたいなことを考えてやりました。

──確かに次の4曲目「Zero Point Field」では、Aメロではブラスの音色によるシンセでギターとユニゾン・テーマを弾いていて、そのあとエレクトリック・ピアノのプレイへと移行していて、そのコントラストが洒脱でとても良かったです。

安部潤:ありがとうございます。自分が音楽を演ろうと思ったら自然に出てくるのがああいう感じなんです。

──ちなみに、エレクトリック・ピアノでは音が揺れた感じがしますが、エフェクトをかけてますよね?

野呂一生:あれはフェイザー?

安部潤:確かそうだったと思います。それにしてもこの曲は難しかったです。

野呂一生:自分も弾いていて、なんでこんな曲を作っちゃったんだろうって(笑)。

今井義頼:あとこの曲では、通常のドラムに加えて、初めてヤマハのDTX(エレクトリック・ドラム)を標準で採り入れてみました。例えばクラップの音がそうで、ライヴも想定してリアルタイムで叩いています。野呂さんからスコアが送られて来たとき、この曲だったら面白いんじゃないかと。実際、電気的なサウンドが上手くはまったと思ってます。

──野呂さんはどう感じましたか?

野呂一生:とても良いと思いました。あくまで曲の設計図は私が書きます。で、現場はみなさんそれぞれにお任せというスタンスですから。もちろん、こうした方が良いなと思うときは言いますけど。

──5曲目「Time Flies By」は鳴瀬さんの曲です。前作での「90’s A Go Go」はCASIOPEAの2期時代に作曲した未発表のお蔵出しでした。イケイケな曲でしたが、今回はシックで大人な曲調だなと。

鳴瀬喜博:気がついたら大人になってたんで(笑)。いや、冗談ではなく、とにかく時間経つのは速いなと思って。歳取るごとに…だって、今年もすでに半分過ぎちゃってるんだよ。

今井義頼:なんてこったい…ですね。

鳴瀬喜博:そういうこと!(笑)。

──鳴瀬さんご自身がメロディを弾いてます。

鳴瀬喜博:ベースでテーマ弾いている曲って最近あまり聴かなくなったよね。なので、しつこいくらい繰り返し弾いてる(笑)。そうするとどう感じるかなとも思って。

鳴瀬喜博

──6曲目「Miracles Happen」はCASIOPEAらしい独特なビート、リズムだなと感じました。

今井義頼:鳴瀬さんのチョッパー(スラッピング)と、自分で言うのもあれなんですけどドラムのビートのコンビネーションがとても良いなと。

鳴瀬喜博:珍しく(笑)。

今井義頼:そんなことなーい、いつもでーす(笑)。

野呂一生:作曲した側からすると、曲名のようにミラクルな感じにしたかったんですけど、確かにそうなっていると思います。

鳴瀬喜博:この曲は小サビと大サビがあるんだよね。そんでまた大サビが…。

野呂一生:行ったり来たりする(笑)。この進行だとキーボード・ソロもやりづらかったと思うけど、素晴らしかった。

安部潤:分析した甲斐がありました(笑)。

──7曲目「Caravel」は今井さんの曲です。曲名は15~16世紀にかけて主にスペインとポルトガルで用いられた、2~3本マストの大三角帆を使った小型の帆船のことです。

今井義頼:船、水、海、のイメージで書きました。それに僕はやはりギター・メロがとても好きなので、野呂さんのプレイを想定して。で、僕が作った時点ではテーマはもっと長かったんです。そうしたら野呂さんから16小節を12小節にした方が良いとご指摘頂いて。

野呂一生:てんこ盛りだったんですよ(笑)。

今井義頼:コンパクトになったことによって、言いたいことがよりまとまって流石でした。

──8曲目「New Directions」は野呂さんはどんなところから着想を得て作られたのでしょうか?

野呂一生:実はこの曲は苦労したんです。曲名は新しい方向っていう意味で、まさに安部くんを迎えた今回のアルバムのことなわけですよ。そういうのを象徴する曲が欲しいなと思って書いたんです。ところが想像不足だったというか、実際にレコーディングしたら間延びした感じになってしまって。

──野呂さんが思われてたような感じではなかったということですか?

野呂一生:そうです。ところが作ったときの曲のイメージが頭の中に刷り込まれているわけですよ。それをクリアにするのが難しくて。で、ちょっとテンポを速めにして、最初ギターはクリーン・トーンだったんですが、歪み系に変えたりと、やり直したんです。自分の中でも非常に珍しいケースでした。

──そして9曲目「Eagle Fly Around」は安部さんが提供した曲です。CASIOPEAを彷彿とさせていて、最初は野呂さんの曲かと思いました。

野呂一生:安部くんにお願いするとき、こういうのをCASIOPEAで演ってみたいな、という曲にしてくださいと。

安部潤:ですので、そう言って頂けてとてもありがたいです。スリリングなリズムのキメがありの、リズム隊の見せ場がありのみたいな。

安部潤

野呂一生:ヤング・カシオペアな感じだよね(笑)。

一同:(笑)。

今井義頼:野呂さんのギター・ソロもリヴァーブとディレイがかかっていて、めっちゃカッコ良いですよね。

鳴瀬喜博:切り込んでるよね。

野呂一生:最初のギター・ソロは、シンセ・ソロのあとなんですよ。ミニ・ムーグのアナログの世界観がワーッと来て、それを受け継がないといけない。その熱気をもっと増幅しようと、久々に本気モードに入りました(笑)。

──Aメロでのリズムがずれた感じのリフがこれまたカッコ良いんですが、あそこは4/4拍子で、その中でのポリリズムで合ってますか?

安部潤:そうです。

今井義頼:あそこで鳴瀬さんのベースがそれに拍車をかけてますよね。合間を縫うようにしてドッペ・ドッペ・ドッペって。

鳴瀬喜博:隙間産業だからね(笑)。

安部潤:あれは予想だにしてませんで、流石だなと思いました。

鳴瀬喜博:曲名はイーグルが飛んでるイメージで付けたんだよね?

安部潤:いいえ、僕のパソコンに四ッ谷のジャズ喫茶“いーぐる”のステッカーが貼ってありまして、作っているときに何気に見てしまったんです(笑)。

──アルバムを締めくくる10曲目「Dedication」はスローなナンバーです。野呂さんはフレットレス・ギターをプレイしています。そう言えば、これまで1曲はフレットレスの曲がアルバムに入ってましたが、前作『RIGHT NOW』(2024年リリース)ではありませんでしたね。

野呂一生:故障していたんですよ。修理が終わって復帰しました。アルバムとしては前の安部くんの「Eagle Fly Around」で一回終わったかなっていう感じなんですよね。で、タイトル・バックにスローが流れる、みたいな。あと、テーマのメロディが、ピアノ~シンセ~ギターの3つの順で弾かれているんですが、これはあまり自分ではやらないんですよね。珍しいアプローチでした。

──8月30日に大阪は梅田QUATTRO、8月31日に名古屋はボトムライン、そして、9月11日は川崎クラブチッタでアルバム・リリース記念ライヴが予定されています。新作から全曲プレイされるのでしょうか?

鳴瀬喜博:やんない、やんない、やんない!

野呂一生:結局、過去の曲も含めて、安部くんにとっては全部が新曲なわけですよ。

安部潤:5月のビルボードライブは、1日2ステージですので楽ではなかったですけれど、時間的には1回が70分と短かかったので。それが今度は2時間以上ですし、やることが多いので、大変かなとは思いますが、憧れのCASIOPEAに入ったので頑張ります。ぜひ期待して頂けると嬉しいです。

CASIOPEAニューアルバム『TRUE BLUE』

2025年8月27日発売
HUCD-10344 ¥3,500
1.SKY SO HIGH
2.THE LIGHT FROM FUTURE
3.DESTINATIONS
4.ZERO POINT FIELD
5.TIME FLIES BY
6.MIRACLES HAPPEN
7.CARAVEL
8.NEW DIRECTIONS
9.EAGLE FLY AROUND
10.DEDICATION

◆CASIOPEAオフィシャルサイト