2000年3月、サウス・バイ・サウスウエストで見たパティ・スミス・グループの演奏は、そんなにいいとは思えなかった。それにその前の来日公演を見られただけで僕はかなり満足していたこともあって、今回、それほど期待していたわけではなかったのだ。 しかし結論から言うと、僕はまちがっていた。パティ・スミス・グループの演奏はとても素晴らしかった。 相棒レニー・ケイ(G)を含む4人編成のバンドを従えてステージに現れたパティ・スミスは、おもむろに「Jesus died... 」と歌い出す……。いきなり代表曲中の代表曲、彼女のデビュー・アルバムのオープニングを飾る「グロリア」だ! サビでは早くも「グ・ロー・リア!!」と大合唱となる。 パティ・スミスは決して、うまいシンガーではない。バンドの演奏も、鋭さはあるものの、オーソドックスと言えばオーソドックスだ。楽曲にしたって、復帰後の曲はともかく、代表曲はどれも'70年代に書かれた、はっきり言ってしまえば今となってはどれも垢抜けないものばかりだ。 しかし、パティ・スミスの歌、そしてバンドの演奏は、僕の体にグサグサッと突き刺さる。それは曲を演奏すると同時に、パティ・スミスがメッセージを訴えかけ、そこでオーディエンスと何かしらの関係を築こうとしているからだろう。だから、垢抜けないとは言え、'70年代に書かれた曲が今もリアルに響く。クサいと言えば、クサいかもしれない。しかし、昨夜のオアシスとは、そんなところが明らかに違う。 ▲Patti Smith エキセントリックなパフォーマンスをしても、彼女には説得力がある。星条旗をまとったり、目隠しをして歌ったり。最後はギターの弦を引きちぎっていた! | 「ダンシング・ベアフット」ではブーツを脱いで客席に下りるなど、ちょっとエキセントリックなパフォーマンスを交えつつ、パティ・スミスとバンドはハイテンションな演奏をくり広げた。そしてラストはブルース・スプリングスティーンと共作したヒット・ナンバー「ビコーズ・ザ・ナイト」、映画『タイムズ・スクエア』にフィーチャーされた「ピッシン・イン・ア・リヴァー」「ロックンロール・ニガー」の3連発だ。 ロックンロールの神について歌った「ロックンロール・ニガー」では、パティはロックンロールの精霊達を降臨させようとするイタコさながらのパフォーマンスでオーディエンスを沸かせた。おそらくその際、大自然の霊力も借りようとしたんだろう。しきりに「Mt.Fuji...Great Fuji」とステージを取り囲む山並みに向かって祈っていたけど、ここは富士山じゃない……。って、そんなこと口が裂けても言えないよね。 |