ブルージーなサウンドで主にハード・ロック/ヘヴィ・メタルのファンから熱い支持を集めていた英国のサンダーが、10余年にわたる活動に終止符を打ち、惜しまれつつ解散の道を選んだのは2000年の春のことであった。「今のシーンには我々の居場所がない」という彼等のステートメントは多くのファンの涙を誘ったものだが、そんなやりきれない気持ちを吹き飛ばすかのように、元サンダーのギタリストでメイン・ソングライターだったルーク・モーリーが──まさかの解散劇からわずか10ヵ月後の'01年2月──初ソロ・アルバムとなる『エル・グリンゴ・レトロ』をリリース。それから約3ヵ月後の5月下旬には、早くもソロ名義による初来日公演を実現させた。 しかしながら、その来日メンバーのメンツがすごい。というのも、なんとそこには元サンダーの面々がほぼ全員顔を揃えていたのである。勿論、ルーク自身がリード・ヴォーカルをとっていることから、シンガーのダニー・ボウズはやって来なかったが、結果的に当日のショウは、サンダーの元メンバーとそのファン達の同窓会のような雰囲気も大いに漂わせていた。 「まぁ……その件については、いろいろと言われるかもしれないけど、本当に良いミュージシャンを探すのってすごく大変なんだよ。でも、サンダーのメンバーなら素晴らしいミュージシャンだということはよ~く分かってるし、人間的にもとてもイイ奴ばかりだからね。本当に良い音楽を作ろうと思ったら、外野の意見なんていちいち気にしてられないよ。 今回俺が、彼等と一緒にプレイすることにしたのは、友達だからとか、元サンダーのメンバーだからとか、そういうんじゃない。単に、良いミュージシャンを集めたら、結果としてこうなってしまっただけさ。それに、メンバーの顔ぶれは同じでも、やっている音楽は違うし、オーディエンスの中には(サンダー時代からの)よく知った顔だけじゃなくて、見かけない人達──つまり、新しいファンも沢山いたんだ。若い子も結構いた……ということは、彼等にとっては、俺が聴いて育ってきた音楽に近い今回の音楽性が、逆に新鮮だったんだろうな!」 というワケで、今回、ルークと共に日本の地を踏んだメンツは以下の通り。 ●ルーク・モーリー(G,Vo) ●トニー・マイヤーズ(G) ●クリス・チャイルズ(B) ●ハリー・ジェイムズ(Ds) ●ベン・マシューズ(Key) ●タラ&アナ(Cho,Per) ルークの幼馴染みというトニー、そして、コーラス&パーカッション担当のタラ&アナ姉妹は、いずれもサンダーの元メンバーとは違うが、アルバム『エル・グリンゴ・レトロ』にも参加していたことから、やはり同作に全面参加していた他の3人のメンバーとのコンビネーションはほぼ完璧。それどころか、あまりに自然体でリラックスした空気に包まれ──“本当にここは日本なのか? もしかして、会場ごとロンドンのパブに移動したんじゃ……”なんて思ってしまったぐらいだ。しかも、外は雨……。もしかすると、ショウの間だけ、僕達は本当にロンドンへ行ってしまっていたのかもしれない。 「本当に……すごく楽しかったよ! ライヴ自体の雰囲気も良かった。サンダーみたいにエネルギッシュな音楽をやっているワケではないから、オーディエンスも飛び跳ねたりすることはなかったし、コンサートが終わったあとにクタクタになることもない。ホント……かなりレイドバックした雰囲気の中で、これまでになくリラックスしてプレイできたね!」 ライヴのセット・リストは、当然ながら『エル・グリンゴ・レトロ』からのナンバーがほとんど。しかし、ファン思いのルークは、ちゃんとサンダー・フリーク達へのサービスも忘れない。ショウの後半で、サンダーのラスト・アルバム『ギヴィング・ザ・ゲーム・アウェイ』('99)からの「オール・アイ・エヴァー・ウォンテッド」がプレイされた時、より一層大きな歓声が沸き起こったことは言うまでもないであろう。 「実は……セット・リストを全部決めてから、もう1曲必要だということになり、じゃあサンダーの曲を……ということでたまたま候補に上がったのが『オール・アイ・エヴァー・ウォンテッド』だったんだ。この曲を選んだ理由? 単に、歌のキーが俺に合ってたというだけさ。他の曲は歌えなかったんだ(笑)。でも今、改めてこの曲を聴き返すと、既にこの頃、将来的に(ソロで)やりたい方向性は決まっていたんだなって思うよ」 また、アンコールでは、お楽しみのカヴァーもタップリとプレイしてくれた。僕が観た5月24日には、ルーク曰く「ポール・マッカートニーの曲の中で一番好きだ」というザ・ビートルズの「レディ・マドンナ」や、ジョー・コッカーの「黄昏の孤独/You Can Leave Your Hat On」(オリジナルはランディ・ニューマン)、そして、タラ&アナとのデュエットによるマーヴィン・ゲイ(&キム・ウィルソン)の「イット・テイクス・トゥー」という3曲が披露されていたが、他に、日替わりでTレックスの「ゲット・イット・オン」なんかも選曲されていたらしい。いかにも、ルークの趣味丸出しという感じではないか。 ▲「俺がこっちに来てる間、ロンドンはすごくいい天気らしいんだ」と少し残念そうだったルーク。すぐに天気を話題にするところがいかにもイギリスのお人です | 約1時間半に及ぶルークのソロ初来日公演は、そうして──終始和やかなムードを保ったまま、15曲余り(公演日によって多少異なる)をプレイして幕を閉じた。日本を発ったあとには、ロンドンにて2回のショウが予定されているとのことだったが、「続いてUKツアーに出られるかどうかは微妙」ということから、ルークとしては「今年になってほとんど曲を書く時間を取っていなかったから、もしツアーが決まらなかったら、久々に曲作りがしたい」のだそうだ。ただ、「今もハード・ロックは大好きだけど、もうその手の音楽はサンダーでやり尽くしたから、しばらくはちょっと違う音楽がやりたい気分なんだ。もうちょっと違う方向に行くべきじゃないかな……って思ってる」ということなので、『エル・グリンゴ・レトロ』が気に入った人は、もうしばらくの間、レイドバックした彼を楽しむことができそうだ。 いや……もしあなたが今のルークの音楽性に賛同できなくとも、きっと大丈夫。『エル・グリンゴ・レトロ』は、聴けば聴く程味わい深くなるアルバムだから、1、2度聴いただけではピンとこない人も、しばらく日を空けて聴き直してみれば、きっと何か発見があるに違いない。次にルークが日本へやって来る時は、元サンダー・ファンやハード・ロック・ファン以上に、ジャンルを越えた“ルーク・ファン”が増殖していることを祈りたい! 取材・文●奥村裕司 |