成熟のエレカシ、進化のエレカシ…
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成熟のエレカシ、進化のエレカシ… 撮影●岡田貴之 |
『sweet memory~エレカシ青春セレクション~』 FAITH RECORDS BFCA-75005 3,059(tax in) 1.悲しみの果て 2.風に吹かれて 3.今宵の月のように 4.昔の侍 5.さらば青春 6.四月の風 7.孤独な旅人 8.真夏の星空は少しブルー 9.月夜の散歩 10.遠い浜辺 11.赤い薔薇 12.sweet memory 13.武蔵野 『good morning』 FAITH RECORDS BFCA-75001 3,059(tax in) 1.ガストロンジャー 2.眠れない夜 3.ゴッドファーザー 4.good morning 5.武蔵野 6.精神暗黒街 7.情熱の揺れるまなざし 8.I am happy 9.生存者は今日も笑う 10.so many people (good morningバージョン) 11.Ladies and Gentlemen 12.コール アンド レスポンス | 2001年1月4日、エレファントカシマシ恒例の日本武道館コンサートは、“THE ELEPHANT KASHIMASHI CONCERT TOUR 2000→2001 Rock! Rock! Rock!”最終日。 厳しい冷え込みと強風で寒さがいっそう身にしみる。 一様に背中を丸めて地下鉄「九段下」駅から会場への坂道を登る人波を見ていると、「正月のエレカシ。あぁ、冬だなぁ」と思う。都会の季節感というのは、きっとこういうものなのだろう。 定刻18:30の5分前に座席につく。 会場の照明が落ち、5分押しでメンバーが登場。白シャツに黒ズボンで登場のVo.宮本浩次。B.高緑成治とG.石森敏行は上下黒。Dr.冨永義之は白の半袖シャツという、いつもの出で立ちである。 宮本のギターで始まり、石森と冨永、そして高緑が静かにからむ「good-bye-mama」で、この日のコンサートは始まった。 ブレイクでは“みなさん明けましておめでとう。何がめでたいのかわからないけど、生きててよかったぁ”と叫び、続く「明日に向かって走れ」でも2番の歌詞にひとりツッコミを入れる宮本。会場の空気も思わず和む。速い曲「Soul rescue」で会場のファンは一気にテンションを上げて、こぶしを突き上げている。それをいっそう煽るように叫ぶ宮本。 “オレたちが力をつけようぜ!” まさに、“Rock! Rock! Rock!”の瞬間である。石森の味わい深いソロが聴けた「悲しみの果て」、アルペジオが美しい「風に吹かれて」、打ち込みのストリングスと見事なハーモニーを奏でた「昔の侍」、宮本の歌にうっとりさせられる「月の夜」など、情景がまざまざと浮かんでくるような楽曲が続く。 これだけハッキリとした世界観を持ち、なおかつ歌と声に圧倒的パワーがあるバンドは、やはりエレカシ以外には考えられない、とつくづく実感。 個人的に、この日、もっとも気に入ったのが新曲「孤独な太陽」。 “明日しか見えないろくでなしこの俺は孤独な太陽それが男と思ってた” “悲しみをいつの日にか優しさに変えちまうそんな日をあなたと二人生きられりゃ” …人生の悲哀と幸福の意味、オトコの頼りなさとオンナの偉大さに今さらながら気付きつつある30オトコには、辛いほど沁みる曲だ(涙)。 “ヘイ!”の掛け声でおなじみ「珍奇男」、テンポ速めで『good morning』ヴァージョンの「so many people」までの10曲、約1時間で【第1幕】はひとまず終了。 リラックスしたMCとは対照的に、歌と演奏は非常にタイトでストイックなものだった。 19:36。 ほどなく4人が再登場すると、ここからはアンコールによる【第2幕】。 宮本はそれまでとうって変わり、アグレッシヴにステージ上を動き回る。勢い余ってパイプ椅子を蹴り上げると、腰掛け部分の裏側に“男”ステッカー(笑)。 「デーデ」「星の砂」といった昔からおなじみの楽曲だけに、いっそうそんな楽しいムードが高まっていく。そして、「赤い薔薇」。 これ、新曲の「孤独な太陽」と、ちょうど対を成している。この曲が出た時、あまりにもロマンチックなその表現にちょっと驚いたが、今、改めていい詞だなと思う。年齢相応に宮本の詞が成熟しているのが分かるし、なにより詞を作る際の素直な視点が滲み出ていると思うのだ。 『sweet memory~エレカシ青春セレクション~』なんかを聴いていて、繊細な心象風景を歌ったこうした楽曲が、いつまでも瑞々しい輝きを失わないだけでなく、当時の情景や時間を瞬時に甦らせてくれるのは、ひとえに宮本のその真っ直ぐな視線に貫かれているからなのだ。ヘンな狙いや野心の介在しない、純粋にエモーショナルな心の動きが、そこにある。 2度目のアンコールに登場した宮本、“青春の思い出は2度と帰ってこないぞ”と叫ぶ。 すぐさま、“最近、朝起きても寝たっていうスッキリした感じがしないんだよね”などと、照れ隠しのボケで笑いをとったが、なんかここ最近のエレカシ、そして新曲なんかを省みるに、すごい実感なんだろうな、と思う。 ことMCに関しては、若い世代だと“昭和のいるこいる風の独特なテンポでヘンなこというお兄さん”みたいな印象があるのかもしれないけれど…。 そんな2度と戻らない日々を、涙をこらえて走り続けるという「今宵の月のように」。2番の歌詞にステージを正視していられなくて、思わず向かいのスタンド席に目をやると、デジタル時計がちょうど「20:00」を表示していたのを強烈に憶えている。 原曲のアコースティックな雰囲気よりは、エレファントカシマシというバンドでの演奏を前面に出したアレンジのこの曲もそうだが、続く「武蔵野」のロックバラード的な繊細にして力強いニュアンス、随所に爆裂ヴォーカルを配し全体としてロックという位置取りを失っていない「sweet memory」などは、攻撃的・戦闘的なサウンドの中でも、美しい旋律は少しも色褪せないという、エレカシ魔法を見事に体現していた。 20:14。本日3度目となるアンコールに登場した宮本は、何かを暗示するように黒いシャツに着替えていた。 “日本の現状をどう思う?” そう、「ガストロンジャー」だ。 マイクのシールドがモニターに引っかかっているのもおかまいなしで、ステージ上を動き回って客席を煽る宮本。見れば、ひっくり返ったモニターの裏にも“男”ステッカー(爆)。それをむしりとる宮本。服を破かれる石森。 「コール アンド レスポンス」では、ついにギターを取り上げられ、ドラムセットの上で拍手させられている(笑)。最後には宮本も服を脱ぎ、石森に馬乗りで"よくわかりませんけど"などと言う始末だったが、非常に雰囲気はよかった。仲良さそう。 最後の2曲などは特にそうなのだが、最近のエレカシはロック的で激しい曲でも積極的に打ち込みやハードディスクを取り入れて、演奏面での進歩にはめざましいものがある。生楽器と打ち込みの融合やライヴ感の演出面など、非常に自然でこなれてきている。まぁ、ボクらファンがコンサートを楽しむという点において、そうした事実は結局、方法論でしかなく、どちらでもいいことなのだが…。 瑞々しい心象風景をうたえば右に出るものはいない宮本の詞、激しさの中でも決して色褪せることのない美しい旋律、ここぞという時のスパークするエナジー、真摯な演奏姿勢、そして類稀なる天然ぶり(笑)とユーモア。 この日のコンサートには、このリポートの中で挙げたようなエレカシの良さが非常に明快に表れていたと思う。つまりは、バンドとしてひとつの成熟した段階を経験したということなのだろう。だから、メンバー間の雰囲気も良かったのだと思う。 そして、新曲「孤独な太陽」でみせた男の哀愁から、きっとエレカシは新たな段階に進んでいくような気がしている。 ちょうど今から5年前、「悲しみの果て」が転機となって、バンドに訪れた最大の試練を乗り切っていった時のように。 |
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