抑えがたい衝動を胸に秘めた“葉族”達

ポスト
~

抑えがたい衝動を胸に秘めた“葉族”達

All PIX by Taro Mizutani

必見!>
「HAPPERS ALL STARS TOUR 2000」


溢れるような情報社会で人々が求めているのは、“音楽と言葉”“サウンドと人の声”が人間の心のひだに染み入り、しっとりと心を満たしてくれる…そんな温かさかもしれない。

Audio Activeが掲げたHAPPERSという突き抜けたイベントが我々に与えてくれたものは、実はそんな風景だったのではないだろうか。

2000年はHAPPERSの年…と言っても過言ではないくらいAudio Activeが主催したHAPPERSは各地で爆音を響かせた。

Audio Active、Dry & Heavyらは、各地でゲストを迎えながらHAPPERS ALL STARSのツアーを全国5箇所で行なった。そしてHAPPERS ALL STARSを乗せたバスは、20世紀も終わろうとしている12月22日に、最終地点Shibuya AXに到着。

なんとこの地に加わったメンバーはDJ BAKUとSHING02というヒップ・ホップをネクスト・レベルにもちあげた面々。しかし、もはやジャンル分けをして語ることはそれほど重要でもない。“HAPPERS”の名の下に集まった、音楽を純粋に愛し、抑えがたい衝動を胸に秘めた“葉族”達が見せる20世紀最後のライヴ。

もちろん場内は、高鳴る期待と興奮で殺気立っていた。

薄暗い場内に重たいビートが流れる。そして舞台中央にはうねった文字で“HAPPERS ALL STARS”と書かれた大きな旗。

DJ BAKU

まず最初にオーディエンスを迎えてくれたのはDJ BAKUだった。彼の卓越したスクラッチをさらなる高みへと推し上げたのは、やはり彼の選曲とそれに伴ったミックス、そしてスクラッチとエフェクターで構築された更なる音の厚さだろう。初めはゆっくりと重たいビートの曲で、徐々にエレクトロニカなどの曲へ。そしてスクラッチ!スクラッチ!スクラッチ! 彼独特の世界情景を見事に浮かび上がらせ、否応が無く鳥肌がたった。

そして次に現われたのがSHING02。…なのだが今回はいつもと少し様子が違う。舞台にはターンテーブルが4台、ミキサー3台が並べられ、右端にはサンプラー。なにやらライヴ・セッションを行なう模様。左端にはDJ NOZAWAが、そして今回のクルーとしてDJ BLACK JAQUESとDJ HERO81が真ん中のDJ セットを操り、右端にはSHING02。とは言え、SHING02がマイクを握ったのは、前半でメンバー紹介した時だけ。

しかしその後に この4人が繰り広げたのはターンテーブルを自在に操り、スクラッチの技を披露しながら、音を創り出す強烈なライヴ・セッション! 

SHING02が全体の指揮をとり、サンプラーや鍵盤をひきながらミキサーを使って美しい音を作る。DJ BLACK JAQUES とDJ HERO81のプレイは初めて観たものの2人とも余裕の表情でこすりまくり。DJ NOZAWA は2枚使いのプレイという相変らずのスキルを遺憾なく発揮、本来の力量を見せつけた。

メイン・トラックにはダブ・ビートなども使っていたが、中には日本の選挙のニュース・アナウンスなどSHING02らしいトラックも流す。SHING02のビートに乗せたラップの曲を期待していたのか、百戦錬磨のオーディエンスさえも、その圧倒的な展開に皆棒立ち。今回の彼らのライヴ・セッションはテレビのブラウン管からは見られない、ヒップ・ホップのもうひとつの魅力と技を、堂々と披露してくれた。

そうして後半SHING02が、ようやくマイクを握って前にでた。

SHING02

そして「
今日のために作文を書いてきました」と、作文を高々と片手に持ち、もうひとつの手をお腹にあて力を込めて「コトノハ ハッハッハ…」と作文を読みはじめた。

ヤマトウタハ ヒトノココロヲタネトシテ ヨロズノコトハトゾ ナレリケリ

日本語の原点に返った語り口調で始まり、一文字、一文字魂を込めて読みあげる。

人間が発する言葉と音、そして音楽の関係。自然の木に喩え、その力強さと現代の人々が気が付いていない社会の現状を痛烈についてくる。今、人々が失いつつある正確な言葉と心を人々にリマインドさせるMC SHING02。

オーディエンスの脳はSHING02から発せられた言葉で撹乱されたまま、ライヴ・セッションに犯され続けた。

Dry & Heavy
DJ BAKUのプレイをはさみ、次に登場したのがDry & Heavy。

いきなり1曲目の「Don't Give Up Your Fight」からものすごいテンションでオーディエンスを煽る。そしてリックル・マイ(Vo.)は、小さな身体で会場を動き回り、埋め尽くされたオーディエンスをすっかりと覆ってしまう様である。

2000年彼らは相当な数のステージをこなしただけあって、比類なきパフォーマンス力、演奏の力量を見せつける。やはりジャマイカで産まれたルーツ・レゲエ、ダブを根底においた上で、ヴォーカル2人が唄うメロは我々日本人の心にすんなりと入ってくる。そしてそのルーツや本当のレゲエの意味をこれほどまでに世に広め、興味をもたせてくれたドラヘビのサウンドは本当に魂のこもった力強いサウンドだった。

突然、「
今日、どうしても唄って欲しい人がいる。響きあえる仲間、SHING02!」とのリックル・マイの紹介からSHING02が再び登場。

彼はマイクを握り、ステージでリックル・マイと固く握手を交わし、セッションが始まる。ドラヘビの力強い演奏とそれに匹敵する、SHING02のラップ。
<一人の心が一つの国。それだけ強力なパワーを持っている。one mind one nation. one love.>…SHING02の曲であるドラヘビの演奏のもとで「誰も知らない」を披露。

誰も知らない、知られちゃいけないSHING02/Dry & Heavyが誰なのか」と言う言葉を吐き捨てるSHING02に、未知なる可能性をもつアーティスト達がふつふつと力を貯めて生きているということを感じた。

Audio Active
そして最後にAudio Active。

長時間のイベントだったがオーディエンスは全員ものすごい勢いでフロアーへ終結した。

振り返れば10年間、アーティストとセッションしてきたAudio Activeだが、“HAPPERS”はまさしくそのAudio Activeの求心力によって集結されたアーティスト達の“星雲”である。広がり続ける空間に放出されたエネルギーがカオスとなって渦巻く様こそ、“HAPPERS”エネルギー。そんなエネルギーが音に凝縮され、リスナーを容赦なく襲う。音の層はどんどんと厚くなって、オーディエンスに絡みついてくる。

今回の演奏は全体的にロック色の濃い音でオーディエンスはかなりの盛り上がりを見せた。ギターはかなりゴリゴリした音で、そこにエフェクターが加わって更なる音の壁を作り出す。それに身体の底から伝わってくるぶっといベース音。マサ(Vo.)の声も消え去るくらいのものすごい演奏だった。しかし彼の声はオーディエンスを釘付けにする圧倒的な存在感がある。この日のライヴは彼らにとって10年目の大きな節目になったのではないだろうか。

日本ではないところで産まれた音楽を吸収し、それをストレートに表現するアーティスト達…。

しっかり前を向き、とてもポジティヴな力強い音は、確実にそして着実に、社会の中に強いエネルギーを与えて浸透している。

伊藤智子

この記事をポスト

この記事の関連情報