不正なるメタルに鉄槌を!
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Iron Maidenに対する期待は、今まさに高まりつつある。 昨年、名声を誇るかつてのシンガーBruce Dickinson と、同じく人気の高いギタリストAdrian Smithが、長年続いた溝を乗り越えてバンドに復帰を果たしたというニュースは、メタルの世界に大きな衝撃をもたらした。 さらに、時を同じくして発表された、彼らの過去の作品を3000万ドル相当の債権として売り出すというニュースに対して、皮肉な反応も見られたことは当然であろう。 しかし、昔風のメタルの熱心なファン達は、この最高のラインナップの復活が、アメリカで衰えつつある伝統的なメタルのシーンに渇を入れ、ヨーロッパを席巻しているクラシックなメタルの波に、さらなるエネルギーを与えることになるだろうと感じていた。 ニューアルバム『Brave New World』のレコーディングのため、スタジオ入りするのに先駆けて、バンドは昨年の夏、ヨーロッパとアメリカで限られた数の再結成コンサートを行なった。 どの会場も大入り満員で、離ればなれになっていた時期など関係なく、彼らはそのケミストリーを取り戻していることを証明することとなった。 Bruce Dickinsonはこう振り返る。 「バンドには余計な雑音もなかったし、スタートの切り方も正しかった。俺達は新たな出直しを誓って、みんなの前に出て行ったんだ。本当に素晴らしかったよ。俺達が心配しなければならなかったのは、みんなの波長が合っているかどうかだけだった。凄かったよ。これまで行なったIron Maidenのツアーの中で、去年の夏のツアーが一番楽しめた、というか、俺が今まで関わったどのツアーよりも楽しかったんだ。自分達のプレイもこれまでで最高だったと確信してるしね。今回、あのツアーに続いてやるというのはかなり大変だけど、俺は挑戦することが好きだから」 アメリカの大衆音楽の馬鹿馬鹿しいまでの状況を嘆く古いメタルファン達は、最初からこの『Brave New World』のリリースを非常に重要なイベントとして考えていた。何しろ、複雑な叙事詩のような曲や、燃え上がるがごときギターソロや、ドラマティックなヴォーカルメロディなど、全く知らない世代が大勢を占めている時代である。しかも、Iron Maidenの音楽はそうした要素が前面に押し出されているのだ。 「俺達が潜在的な欲求を呼び覚ますというようなことはあるかもしれない」とBruceは分析する。 「このアルバムは絶対にそういうことになるだろうと俺は確信しているんだ。Iron Maidenに対して好奇心を抱いている子供達は大勢いるからね。このアルバムを手に入れた彼らは、友達みんなにこう言うかもしれない。『9分もある曲なんだぜ! こんなの今まで聴いたこともなかったよ!』って。彼らにとってはこの曲が、俺達にとっての「Kashmir」みたいな存在になるかもしれないんだ。Led Zeppelinがあの「Kashmir」を生み出した時のことを俺は覚えてるけど、みんな大騒ぎだったもんね。それまであんなことをやってるのは聴いたことがなかったんだから」 Kevin Shirley(Dream Theaterなど)がプロデュースを担当した『Brave New World』は、モダンなロックにとってやっかいな存在だ。 まず最初に、10曲入りのアルバムの長さはなんと67分。しかも、5分以下の曲は3曲しかない。「The Fallen Angel」と「The Mercenary」と、最初のシングルとしてビデオにもなった「The Wicker Man」だけである。「The Nomad」や「The Thin Line Between Love And Hate」といった曲の圧倒的なアレンジは、聴き手に集中して耳を傾けることを要求する。気楽に聴き流すわけにはいかない。特にアルバム中に散りばめられた静かなブリッジは集中を求めてくる。 アルバムのレコーディングそのものは一発録りで行なわれているが、今や3人のギタリストを擁するという事実は、音の分厚さとなって表れている。しかも、ほとんどのバンドがスタジオで何度も何度も音を重ねてやっと創り出す分厚さなのだ。さらに、何よりも素晴らしいのは、彼らが『Brave New World』の中でStatic-XやStaind、Slipknotといった新しいメタルバンドのような音を出そうとしていないこと。これはまさに伝統的なブリティッシュ・ヘヴィメタルである。純粋にしてシンプル。Bruceが昨年の夏に述べたように、彼らは「メタル的に異質」なのである。 さて、様々な事態が起こった後で、こうしてまた古い友達と一緒にスタジオに入り、新しい作品を作るというのはどんな感じのものだったのだろうか? 「期待していた以上に楽しかった」とBruceは認める。 「いいものになるだろうな、とは思っていたけど、こんなに凄いものになる、あるいは、こんなに他とは異なるものになるとは思ってもいなかったね。Steve(Harris:ベーシスト)からプログレッシヴロックみたいなサウンドが出てきたのには驚いたよ。昔受けた影響が今回は前より表に出ているんだ。Jethro Tullとか、あの辺りのね。最初は、「The Nomad」みたいな曲は必ずしもうまくいかないんじゃないかって思ってたんだけど、これがすっごくうまくいっちゃって。俺は喜んで自分の過ちを認めたよ」 サンプリングのストリングスやホーンを使い、中近東風の色彩を加えて大きく広がる「The Nomad」は、バンドの新しい表情をよく伝えている。同様に、「The Thin Line Between Love And Hate」も最後の3分間で抑制の利いた演奏を聴かせ、激しい曲調とはがらっと異なる、味わい深いエンディングとなっている。 しかし、Iron Maidenのサウンドは、この2000年という新しい時代へと到達出来るのだろうか? その鍵は、まず彼らの音楽を聴いてもらうことにある。そして、現時点で「The Wicker Man」に対する反応は上々と言える。 Bruceは言う。 「もし、みんなが「The Wicker Man」を気に入ってくれれば、あとはうまくいくと思うよ。俺自身は、今回のアルバムは『Piece Of Mind』(Iron Maiden成功のきっかけとなった'83年のアルバム)と同じくらい大成功を収めるんじゃないかと思ってるんだ」。 彼らの味方となっている大物業界人の1人がDean Karrだ。Marilyn MansonやGodsmackなどのビデオを制作している売れっ子ビデオ監督の彼は、Iron Maidenの大ファンと伝えられており、今回、バンドの不気味なマスコットEddieに扮した身長2メートル18センチの俳優を使って、「The Wicker Man」のビデオクリップの監督も務めている。あとは、このビデオがアメリカでどのくらい放映されるかだろう。 1つ、良き前兆としてとらえられるのが、すさまじい勢いで伸びる『Brave New World』の発売前予約数だ。新しいアルバムに対するファンの渇望はすさまじく、『Majesty Of Gaia』という名の嘘のアルバムの曲目リストまでが、インターネットで神の言葉扱いされているほどだ。 さらに、それを煽るように、バンドとSanctuary Managementはアルバムを謎で包んでいる。アルバムの音の見本をどこにも送ろうとしないのだ。ヨーロッパでは、それぞれの国で発売を担当するレーベルに4曲入りサンプルのコピーが1つだけ送られてきただけだし、ニューヨークでBruceにインタヴューすることになったアメリカとカナダのジャーナリスト達も、その場でアルバム全曲を聴くことは出来てもコピーを持ち帰ることは出来ない。何しろ、彼らのアメリカでの新レーベルPortraitですら、コピーは1つしか持っていないのだから。 Iron Maidenとマネージメントは、海賊盤制作行為に対して非常に警戒している。特にインターネットが普及してからは警戒心は倍増した。 「チャンスさえあれば音を盗むと認めたジャーナリスト達もいるんでね」とBruceは漏らす。 Sanctuaryのアーティストで、同じようにニューアルバムが大切な扱いを受けているのは、元Judas Priest、Fight、TwoのシンガーだったRob Halfordだ。彼はこの夏行なわれるIron Maidenの北米ツアーのサポートも務めることになっている。 RobもまたBruceとつながりのある1人だ。今回Robのアルバムのプロデュースを務めて曲も共作したRoy Zは、Bruceのここ2枚のソロアルバムでプレイし、曲を共作しているのだから。この2人の伝説的シンガーは、先頃Royと共にスタジオに入り、「I'm The One You Love To Hate」という曲でデュエットを録音した。この曲は発売の待たれているRobのニューアルバム『Resurrection』に収録されている。Ozzy OsbourneとLita Fordの時のような、軽いデュエットを予想した向きは安心してほしい。Bruceはこの曲が非常にヘヴィで、2人ともに自分達に名声をもたらしたバンドを'90年代初頭に離れたことに絡んだものだ、と説明してくれた。 「そうだよ。歌詞はちょっとそのことに触れている。ふざけた感じになってるけどね。みんないろんなことについて愚痴をこぼすものだろ。だから、俺達についても愚痴をこぼすんじゃないかと思ってね」とはBruceの説明だ。 …とはいっても、Iron Maidenのファンがぶつぶつ愚痴をこぼすのは当分先だろう。新しいアルバムが出て、ビデオも流れ、8月にはアメリカでアリーナツアーも行なわれる。物事が変われば変わるほど、Iron Maidenは変わらない、と言う人もいるかもしれない。実際、バンドは新しい世代に合わせて自分達のサウンドやスタイルを作り替えようとはしていない。自分達の個性を守ることで、彼らは若いファンには新しいものを提供し、同時に昔からの熱心なファンを喜ばせることが出来るのだ。 既に始まっているワールドツアーについて、Bruceはこう約束してくれた。 「Wicker Manも登場するし、でかいEddieも出てくるし、爆発もあるよ」 ヘヴィメタルの歴史上最も影響力の強いバンドに、この3つを期待しないなんてことがあるはずないだろ? by Bryan Reesman |
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