【インタビュー】m-flo loves 鈴木真海子、“自分らしさ”を問いかける新曲「Judgement?」

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◾︎音楽を作ること自体がライフワーク

──「Judgement?」で描かれているような心情、イメージと実際の姿がかけ離れる感覚は、アーティスト活動をしているとよく抱く感情なのでは、と想像しました。

VERBAL:僕はこういうお仕事の場で何回もお会いする方に「VERBALくんだって気づかなかったよ。普段、サングラスをかけてるから」って言われたりします。「普段、サングラスしてないじゃん」って思うんですけど(笑)。m-floのサングラス推しの感じ、めちゃくちゃ僕のイメージとして根付いてるんだろうなと感じますね。

☆Taku Takahashi:僕は家にサングラスがいっぱいあるって思われてます。

VERBAL:かけるのは結局絞られてくるから、大体似てる感じのフレームばかりになるよね?


☆Taku Takahashi:うん。3つくらいをローテーションしてますからね。

──真海子さんに対して抱かれる先入観みたいなことは、先ほど少しおっしゃっていましたね。

真海子:はい。今はそういうのはなくなってきましたけど、chelmicoを始めたての頃は「女の子がふたりでステージに立ってる」というざっくりした印象で、アイドルだと思う人が結構いました。アイドルは好きだしリスペクトもしていますが、その時の我々の感覚ではそこがしっくりきていなかったので、わざとダボダボの服を着たりもしていたんです。あと、「歌詞を自分で書いてないんじゃないか?」「自分たちで作ってないんじゃないか?」って思われることもよくあって、それに対してもよくむかついてました

chelmicoを始めたての頃は「女の子がふたりでステージに立ってる」というざっくりした印象で、アイドルだと思う人が結構いました。アイドルは好きだしリスペクトもしていますが、その時の我々の感覚ではそこがしっくりきていなかったので」(笑)。最近はもはや「どう受け取ってもらってもいいよ」っていうスタンスではあるんですけど。どういう風に聴いてもらってもいいし、「こっちも自由に音楽を作るから、自由に聴いてください」っていう感じになってます。でも、音楽に対してノイズが入るようなジャッジをされるとむかつくというのは今でもそうですね。


──フィメールラッパーに対する何らかの先入観を持つ人は、やはり最近でも少なからずいますよね。

☆Taku Takahashi:「フィメールラッパー」っていう言葉が消えればいいと思ってます。「ラッパーでいいじゃん」って思うから。そういう人たちが前よりも世の中に出てきているからカテゴライズされてしまうのもわからなくはないし、それは進歩、発展と思うところもあるんです。でも、いずれはそういうのがなくなってほしいなと思ってます。もちろん女性だからこそ書ける歌詞とかはあるし、特徴的なものはあるべきだし、評価されるべきだと思うんですけど、もっともっと変わっていってほしいです。前よりも大分良くなってきてはいるけど、女性にとって不利なことはまだ社会の中にあるなと感じていて、そこは変わっていってほしいんですよね。

真海子:chelmicoの活動初期に「フィメールラップデュオ」って記事とかで書かれた時は、「フィメール」を消してました(笑)。「別にフィメール付けなくても良くないですか?」って思いましたから。

──活動を重ねてきた中で、少しずつ先入観を覆すことはできてきたんじゃないですか?

真海子:そうですね。前よりはそういうことが少なくなってきたのかなというのはあります。

VERBAL:最近はアーティストの数も増えて、20年前と比べても音楽を取り巻く環境が大きく変わってきていますよね。今のアーティストたちは本当に洗練されていて、技術も高いし、表現力もある。昔は“ストリートっぽいラップ”って、どこか「ストリートぶってる」ように見られることもあったけど、今はリアルにストリート出身の人たちが、自分の経験を歌詞にして発信している。そういった流れもあって、シーン自体がどんどんグローバル化しているように感じます。とはいえ、日本には日本ならではのシーンもちゃんとあって、ローカライズされた独自のカルチャーとして根付いているのも面白いところ。この前、若手のDJたちに「最近何をかけたら盛り上がるの?」って聞いたら、「日本語ラップですね」と即答されて。数年前までとはまるで違う市場の変化に、正直驚かされました。



──それは00年代初頭とかと較べると大きな変化ですね。

VERBAL:そうなんです。DJをよくしていた頃、自分の好きな日本のヒップホップ(BUDDHA BRANDなど)をフロアでかけると、人がサーッと引いちゃうような空気があったんですよね。でも今は逆で、日本語ラップをかけないとフロアが盛り上がらないっていう状況になってきていて、それってすごく良いことだなと思ってます。つまり、ローカルの人たちがローカルなものを求めているってことなんですよね。昔は「ニューヨークの人たちはニューヨークのヒップホップしか聴かない」みたいな文化があったけど、日本でもそういう地元志向のシーンが育ってきていて、すごくポジティブな変化だなって感じています。たとえばchelmicoみたいな存在って、アメリカにも韓国にも、アジア圏全体でもなかなかいない。日本独自のカルチャーがある中で、さらに独特な立ち位置にいるのがchelmicoで、そういう人たちが活動している日本って、本当に面白いと思います。

真海子:嬉しいお言葉です。

──幅広い音楽に触れやすい環境が昔よりも出来上がってきていますし、リスナー側も20年前とかよりも柔軟になってきているように思います。

☆Taku Takahashi:寛容になってきていますよね。「いろんなものが受け入れられる」って、何て言うんだっけ?

VERBAL:寛大?

☆Taku Takahashi:寛容? 風の時代?(笑)。そういう感じになってきているんだと思います。

VERBAL:チャートもミックス感がありますよね。ヒップホップをかける時に洋楽と邦楽を混ぜても、あんまりギャップを感じないのも、すごく良いことだなと思います。K-POPも前までは欧米の音楽的だったけど、今は「K-POP」っていう色を感じるようになってきているし、面白いトレンドも生まれてきていると思います。


──性別、国籍、背景とかも含めた様々な要素で決めつけるのではなくて、きちんと1つ1つの本質に向き合って理解を深める大切さを描いている「Judgement?」は、☆Taku TakahashiさんとVERBALさんが今おっしゃったような最近の音楽シーンに関するお話と繋がるものがあると思います。

VERBAL:我々が話したことの着地点だ(笑)。

真海子:この曲、ライブでもぜひ歌いたいですよね?

☆Taku Takahashi:うん。早くやりたいんですけど、なかなかスケジュールが合わないんですよね。お互いのライブの予定があったりするから。

真海子:合わせていきますよ。

☆Taku Takahashi:僕らも実現したいので。

VERBAL:ライブのことを想像すると楽しくなります。「RUN AWAYS」は、イエーイ!っていう感じで決めポーズをみんなでしたりとか、良い意味でのアホなモードになれるんですけど、「Judgement?」はチルなので、「どういう風にやると盛り上がるのかな?」とか想像すると楽しいです。

真海子:サウンドも気持ちいいので、海沿いとかのドライブの車の中で爆音で聴いていただけたりしても良いでしょうね。

VERBAL:MVもぜひ観ていただきたいです。ODDJOBさんに作っていただきました。USの昔のアニメっぽい感じなんです。

☆Taku Takahashi:ハンナ・バーベラ系のかわいい雰囲気です。

真海子:私のこともすごくかわいく描いてくださっていて嬉しかったです。リリックもちゃんと出るので、MVも観ながら自分を当てはめるじゃないけど、いろいろ考えることもできるのかなと思います。とても素敵なMVです。



──もはや20年以上の歴史があるlovesに、また素敵な曲が加わりましたね。真海子さんは学生の頃とかにm-floのいろいろな曲を聴いていたんじゃないですか?

真海子:はい。めちゃめちゃ聴いてました。m-floはどんなジャンルでも絶対にm-floになってるのがすごいです。トラックの構成が曲ごとにいろいろ変わっているのも面白いですし、VERBALさんのラップの上手さもえぐいんですよね。言葉遊びはもちろん、声もめちゃめちゃ良いですし、m-floならではのライブの盛り上がり方もありますし、まじでリスペクトです。

☆Taku Takahashi・VERBAL:ありがとうございます。

真海子:m-floは、ずっとかっこいいですからね。

──lovesシリーズは、もはやライフワークみたいな感覚もおふたりの中であるんじゃないですしょうか?

☆Taku Takahashi:音楽を作ること自体がライフワークなんですよね。「一緒に作る人とどうやって楽しめて、自分らに正直にやれるのか?」が大事なんです。lovesでいろんな方々が一緒にやってくださるのはもちろんありがたいんですけど、lovesすることがライフワークではなくて、一緒に良い音楽を作っていくのをライフワークにしていきたいと思っています。

取材・文◎田中 大
写真◎野村雄治

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