【インタビュー】BAD SiX BABiES奇跡の復活、「ロック・バンドをやるってこういうことかな」

■「ロック・バンドをやるってこういうことかな」とすごく思う
──かつてBAD SiX BABiESは、THE SLUT BANKSがいったん終了せざるを得なくなったところから始まっています。THE SLUT BANKSの場合はゾンビ的なコンセプトも伴っていたわけですけど、BAD SiX BABiESにはそういった“縛り”が何もないという違いもあるように思います。
戸城憲夫:まあね。とはいえTHE SLUT BANKSでも特に制約があるわけじゃないんだけど、THE SLUT BANKSに石井ちゃんが加わった頃からBAD SiX BABiESにかけての頃の俺って結構いい曲書いてたな、冴えてたなって思えたことがあって。まあ、自分で勝手にそう思ってるだけかもしれないけどね(笑)。
──いや、それが単なる思い込みじゃないことは今回のアルバム自体が証明しているように思います。石井さんはこのアルバムの完成形を踏まえてどんなことを感じていますか?
石井ヒトシ:そうだなあ…。これはアルバムの出来栄え自体に直結することではないんですけど、やっぱり自分としては新美さんという存在を思い出してしまうんです。新美さんとは10歳ぐらい年齢差があって、かつて一緒にやってた時は自分が30代、新美さんが40代だった。ただ、今の自分はその当時の新美さんより15歳ぐらい上になってることに気付かされて「わっ!」と思ったんです。40代の頃の新美さんはすごかったけど、それに対して今の自分はどうなんだろう、みたいなことを感じてしまって。担当楽器は違うけど、あの頃の新美さんのスキルに、なんとか少しでも近付きたいっていう想いが自分にはあるんです。具体的にどういうことかというと、新美さんはレコーディングの時、1回か2回しか叩かないんですよ。どんな曲の場合でもほとんど一発だった。だから俺も全部一発でやれるぐらいでありたいと思ったんです。時間がなかったからというのもありますけど(笑)、そういう気持ちで臨めたのは、新美さんに対する想いがあったからでもあると思う。
──そうした意識を持ちながら臨んだことで、見えない力が働いたというか。
石井ヒトシ:それをちょっと感じましたね。同時にカネタクも素晴らしいドラマーだし、みんなのプレイがホントにすごくて、それを聴いて気持ちが上がる中でギターを録れたというのも大きかった。だからレコーディングしててすごく楽しかったし、作り終えた時もみんな盛り上がってたし。長年やってきましたけど、録り終わった時にあんなに盛り上がったことは過去にはなかった気がしますね。それこそ20年前とかは、まだ自分も若かったし、自分のやりたいことに自信がなかったり、エゴがあったりもしたし。THE SLUT BANKSからBAD SiX BABiESへと移行していく中でちょっと方向性が変わったりもしたし、そこで自分を出し切れてなかった部分、変化に適合できてなかった部分もあったように思うんですよ。それは単純に、自分の力量的なことも含めて。ただ、こうして長い年月を経てきてみんな成熟してきてるからなのか、いろんなことにアジャストできるようになってる。そういう意味では、やっぱり長くやり続けること、年を取ることも大事だなあ、と思わされたりするんです。
──カネタクさんは以前からBAD SiX BABiESの曲が気に入っていたとはいえ、やはり今回のアルバム制作にあたって往年の作品に改めて向き合ったりしてきたんでしょうか?
金川卓矢:昔の音源、めっちゃ聴きました。それに石井さんと同様、新美さんに対するリスペクトは俺もすごくあるんで、BAD SiX BABiESばかりじゃなく、THE SLUT BANKSの昔の音源も、それ以前に新美さんがいたバンドの音源とかもかなり聴き込んで、新美さんモードになろうとしてましたね。で、やっぱり「1テイクとか2テイクで終わらせてやるぞ」って思いながら気合を入れて臨みました。
──さきほど“新美さんの壁”という言葉も出ていましたが、どんな時にそれを感じていましたか?
金川卓矢:さっきフトシさんも言ってましたけど、BAD SiX BABiESの曲ってホントに戸城さんのオリジナリティと才能に溢れてて、個人的にも特に好きな“戸城曲”というのがこのバンドには結構あるんですね。そういう思い入れのある曲を再録するからには、やっぱり昔のヴァージョンよりもカッコ良くしたいじゃないですか。だけど俺の場合、そこで当然のように新美さんの演奏と比べられることになる。だからこそマジで気合入れて叩いたんですけど、それでもやっぱ新美さんのドラムのほうがカッコいいなと思えてしまう。もちろん自分としても頑張ってる自負はあるんだけど、新美さんと同じように叩いてみても俺のほうが遅い感じに聴こえたり、迫力不足みたいに思えたり。だから「同じことをやってみても全然違うものなんだな」というのをすごく感じたし、そういう意味で壁の高さを感じたんです。ただ、それでもこのアルバムには今の空気が完全にパッケージされてると思うし、なんかドラムを録ってて自分でも楽しかったですね。
──アルバムとしての全体像についてはどんなふうに感じているんでしょうか?
金川卓矢:戸城さんとフトシさんが組むことで、戸城さんのいちばんラフでロックンロールなところが出てるというか。THE SLUT BANKSともThe DUST’N’BONEZとも違う。戸城さんのロックンロールの中でも、いわゆるLAメタル的な面ではなく、グランジ的な部分が出てるじゃないですか。フトシさんと組むことでそういうことになるんだろうな、というのもあるんですけど、そういう色がこのアルバムには出てると思うんです。制作過程についても、いい意味であんまり丁寧じゃなく勢い重視でやれたんで、そういうパンクな勢いの詰まったものになってると思うし。
──もしかすると戸城さん自身が意識していないところで、戸城さんの本質みたいなものがストレートに出ているということなのかもしれません。
戸城憲夫:まあ確かに「俺はこういう人です」というアルバムになってるとは自分でも思う。あと、音楽性自体は変わってないんだけど、昔はこういう音楽は髪の長いやつらのためのものだったじゃん? 実際、俺がやりたかったのはそれだった。なのに何故か当時から石井ちゃんが弾いてたわけだけど(笑)。ただ、こうして時代が何周か回ってきた今は石井ちゃんもいっそう説得力のあるギターを弾けるようになってるし、それはそれでカッコいいことなんじゃないかと思えたり。
高木フトシ:石井さんのギターは当時から充分、説得力ありましたけどね。
石井ヒトシ:いや、でも俺自身、子供の頃は「ハゲたらロックできねえな」と思ってたくらいだから(笑)。ところが今、こうしてやってるわけだからね。しかもすごいやつを。
戸城憲夫:実際、「長髪の人が弾いてるんじゃね?」って錯覚させるようなギターを弾いてるからな(笑)。
金川卓矢:でもなんか、スキンヘッドの人が居るバンドってバランス的にも良くないですか?
戸城憲夫:それはね、今の時代だから言えるんだよ。
──見た目的な意味でも時代感を問わない感じになっているような感じではありますよね。そして、今後の話です。こうしてアルバムが世に出たとなると、次はどんなことを期待していたらいいんでしょうか?
戸城憲夫:ライヴをちょいちょいやるつもりだよ。フトシの体調のこととかもあるからツアーとかは難しいんだけど、いろいろと考え中ではある。
高木フトシ:正直、先々のことまで計画しながら活動する感じではないかな。もうみんなある程度のことはわかってるしね、何をすればどうなるかってことも。だから次のことは、何かが起きてから考えればいいんじゃないかな。
戸城憲夫:確かに。
石井ヒトシ:でもまあ、このアルバムを出したことがゴールじゃないですからね。むしろ作ったことで何を始められるか、みたいな。もちろんどんな状況であれ続けていきたいと思ってますよ。自分とかは年齢的にあとどれぐらいできるかっていうのもあるけど、そこは焦らずにやっていきたいですね。
金川卓矢:ライヴをたくさんやればいいってものでもないと思うし、各々の活動もあるわけだから、節目のタイミングとかに集まってライヴをやっていければいいのかな、とも思いますね。むしろ特別なことは何も期待してないというか。
戸城憲夫:とか言いつつ、個人的評価が上がることを密かに願ってるんじゃねえの?(笑)
金川卓矢:いや、そういうのはもうないですよ。
戸城憲夫:いや、それはあってもいいと思うよ。カネタク、今回も意外といいドラム叩いてるからね。「ここのドラマーすごくね?」って評判が立っても不思議じゃないと思うよ、俺は。まあ、この先どうなるかは自分でもよくわかんねえけど、こういうアルバムができちゃうと、やる気はどんどん出てきちゃうよね。「ロック・バンドをやるってこういうことかな」って、すごく思うし。
──おっ、名言が出ましたね。
戸城憲夫:だからこの記事もいいこと書いてね。褒めて欲しいな。
高木フトシ:逆にめっちゃディスってもらうのも面白いかも。「こいつら25年もかかって作ったのがこんなもんなのか!」みたいな(一同爆笑)。
──そんな心にもないこと書けませんよ。そういえば今回、当時のフライヤーとかを引っ張り出してみたら「コレをやらせりゃ世界一!」というキャッチコピーが躍っていました。実際、それは当時のインタビュー中の戸城さんの発言ではあったんですが。
戸城憲夫:最高の宣伝文句だな! でも確かに世界一だと思うよ、こういうバンドの中では。というか、こういうバンドが他にいないっていうのもあるんだけど(一同爆笑)。

2020年11月当時のフライヤーより
取材/文 増田勇一
撮影:Hiroshi Tsuchida
<BAD SiX BABiES /The DUST’N’BONEZ>
4/26(土)神奈川・横浜BAYSIS
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