【インタビュー】Linked Horizonの物語音楽と『進撃の巨人』──ストーリーベストアルバム『進撃の記憶』に寄せて
◼︎物語音楽と『進撃』の親和性
──Revoさんが、最初に「紅蓮の弓矢」を作られた時には、作品の歴史的なというか、壮大な流れは、もう結構見えていたと思われますか。
Revo:いや、どうかな。分かってなかったと思う。どこまで続くか知らずに作ってましたからね。面白いから続いてほしいなとは思ってましたけど、作品がいつ終わるかなんて分かんないじゃないですか。こんなに壮大な話になるとは思ってなかったっていうのが、やっぱり正直なところですね。
──では改めて、完結した今の時点で、Revoさんにとって『進撃』はどんな作品として見えていますか?
Revo:日本だけじゃなくて世界で受け入れられてるということは、広く人の心に火をつけるような、そういう作品なんだと思うんです。そして、いろんな解釈があるにせよ、やっぱり「戦え!戦え!」と言ってる作品ではあるなと思ってます。そして、その「戦え!」ということを、みんなが応援というかエールのように受け止めることができたらいいなと思う。エレンみたいな苛烈な生き方は凡人にはできないよって思っちゃうかもしれないけど、人が命を懸けて何かをしてるところを見せられて、「お前はじゃあどうするんだ」みたいなことを問われているような気がするんだよね。この物語を見て「じゃあどう戦うか」って考えたときに、「よし、じゃあ他の民族を皆殺しにしよう!」とはならないんじゃないかな。そんな短絡的な物語じゃないから。
──うっかり、そういう風に考える人もいるでしょうか?
Revo:そういう風に読もうと思ったら読めるし、「心臓を捧げよ」っていう言葉自体も受け止め方次第ですけどね。諌山さん自身も作品の中でアンチテーゼとして出してたりとかもするから、なかなか難しい要素ではある。でも自分はどっちかというと、「戦争っていうものはなくならないにしても、戦争している側と戦うんじゃなくて、戦争をどうやったら止められるか、どうやったらなくせるかを考えるべき」「どうせ命を懸けるんだったら、そっちと戦うべきなんじゃないの」みたいなメッセージが浮き彫りになるように感じましたね。争い合う両サイド、読者はそのどちらのキャラにも思い入れが湧くよう仕向けられているわけじゃないですか。
──もちろん戦う話だし、バトルもめちゃくちゃあるけれども、それを最終的にはやめるための話。
Revo:アンハッピーエンドのような気もするけど、アンハッピーエンドでいい気もするしね。もしハッピーエンドで終わっちゃったらさ、めでたしめでたしでよかったですねって、もうそれでいいじゃんていうことで終わってしまうし。それに、「この結末だと、なんかしっくりこないな。もっといい結末あったんじゃないか」ってもし思う人がいるなら「君ならどうする?」ってことになってくるのかなとも思いますね。君が作品を問うなら、君も作品から問われるはずです。この重いテーマを果たして考え続けられるのかな、人類は。
──Sound Horizonの作品でも、アンハッピーエンドとは言わないけど、しかしハッピーとも言い切れない、という物語がいくつもありますね。
Revo:たしかに僕の作品も、そこそこに、アンハッピーエンド感はあるね(笑)。ハッピーエンドも好きなんですけどね。
──そもそも、ハッピーかハッピーじゃないか、で考えていないということですか。
Revo:まあ、バッドエンドも好きなんだけどね(笑)。もちろん、人には「気持ちよく終わりたい、モヤモヤしたくない」っていう気持ちが絶対ある。だけど、それだけじゃ絶対に生まれないものや、奥行き感っていうものもある。究極のところ、ハッピーかアンハッピーかっていう軸は、誰が決めてんの?っていう話なんですよ。本人がそれでいいって言ってんだったら、それは他人がどうこういう話じゃないような気もするし。でも、それは違うと言うのも間違ってるわけじゃない。結局お互いのエゴを優先するなら争いは絶えないと言う結果になるから、もうこのループはいいんじゃない? って感じだけど。難しいよね。
──「紅蓮の弓矢」の新規ナレーションで、アルミンが「夢見た自由に罪がないとしても、僕たちはその行いによって地獄に堕ちるだろう」と言うじゃないですか。それもまた、主人公サイドにも断罪されるべき部分があるんだということを重く受け止めていますね。
Revo:それは完全にありますよね。実際ものすごい数の人を殺してるから。途中からは覚悟を決めてやっちゃってたけど、直接手を下していなくても、自分が止められたかもしれないものを止められなかったっていうのは、意識としては自分が殺してるみたいなとこだし。それはアルミンとエレンの関係性から言っても、エレンが勝手にやったから俺は知りません、じゃ終われないもんね。
──一般的には良くないと思われるようなこともやってしまうとしても、だからこそ人間というか、それもひっくるめてエレンと共にいるわけですよね。僕たちファンもそうですが。
Revo:例えば、身近に殺人鬼の友達がいたとして。出会ったタイミングで殺人鬼だったら殺人鬼としか思えないんだろうけど、子どもの頃からいろんな面を知っていて。楽しかった思い出も共有していて。大人になって殺人鬼になってしまったのだとして。果たしてそいつの全てを嫌いになれるんでしょうかね? 『進撃』はエレンサイドから物語を描いていますから。主人公っていうのはもう、感情移入するようにできてるんですよ。知れば知るほど嫌いになることもあるかもしれないけど、それでも何も知らない状態よりは感情移入する部分が出てくる。
──確かにそうですね。
Revo:Sound Horizonの作品でも、それは絶対そうだろうなと思って作ってます。それが主人公というものであるし。物語でもあるし。物語音楽っていうのにもそういう側面がある。つまり“誰かを主人公にする”ということを、僕は音楽を使ってやっている。
──物語を描くってことは、誰かを主人公にして、そいつのことを深く語っていくことだということですか。
Revo:正確に言うなら主役になるのは人間だけ、動物、いや生命体という概念だけではないと思いますが。エレンだったりアルミンだったり、英雄的な行動をしてる人たちを普通は物語の主軸にするんだけど、僕がウォール教の主題歌を作ったように、英雄以外のモブみたいなおじさんだって主人公にしようと思えばできるんです。
──そういう意味では、曲が1個1個分かれてそれぞれのシーンなりそれぞれの人物にフォーカスできることが、Revoさんが作ってらっしゃる物語音楽という形式のメリットなのかもしれないですね。群像劇にできるというか。
Revo:別に物語音楽だけの特権ではないけど、「誰だって物語なんだ」「誰だって主人公なんだ」っていうことを証明してるような気はします。誰しも、いい部分も悪い部分もある。皆さんだって、もしかしたら、隣の家に住んでる人よりもエレンやアルミンのことの方が分かってるかもしれないし。架空の人物なんだけどね。そんな感覚で現実の隣人のことを知っていけば、少しは無駄な争いも減るかもしれない。
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