【ライブレポート】人間椅子、ツアー<色即是空>ファイナルに圧倒的な人間力「全国還暦ツアーをやろうかと」
人間椅子が11月6日、東京・Zepp Hanedaにて<色即是空 ~リリース記念ワンマンツアー~>のファイナル公演を開催した。2年振りの新譜リリース記念全国ツアーは各地SOLD OUTが続出。幅広い世代が熱狂したZepp Haneda公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。
◆人間椅子 画像
人間椅子が前作『苦楽』以来、約2年ぶりに23thアルバム『色即是空』(※アルバムのアートワークは、みうらじゅんが担当)を9月6日にリリース。それに伴い、<人間椅子 2023年『色即是空』〜リリース記念ワンマンツアー〜>が10月9日の栃木・HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2公演を皮切りに全11公演を開催。そして、ツアーファイナルにあたる東京・Zepp Haneda公演が遂にやって来た。この日は満員御礼となり、コロナ禍を潜り抜け、やっとライヴに足を運べる!と意気込む幅広い世代のファンが集結した。
開演時刻19時ジャストにSE「此岸御詠歌」が流れると、和嶋慎治(G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)のメンバー3人が登場。まずは、新作の冒頭を飾る8分超えの長尺曲「さらば世界」で幕を開けた。イントロから和嶋の重厚リフ、ナカジマの銅鑼の音色に耳を奪われる一方、鈴木はドカッとイスに腰掛けてプレイに励んでいた。どうやら持病の脊柱管狭窄症が悪化し、ツアー初日の栃木公演では夜に眠ることもできなかったものの、今は歩けるまでに回復したそうだ。イレギュラーな形式だが、演奏に影響は感じられず、ツアーで練り上げられたバンド感を豪快に叩きつけていく。途中から鈴木は立ち上がってプレイし、原曲以上に生命力溢れる力強いサウンドで観客を魅了。
引き続き、新作から3曲畳み掛けていく。鈴木の高笑いから始まる「悪魔一族」では腰を揺さぶるグルーヴィな疾走感に加え、アウトロの「エロイムエッサイム」のフレーズも楽曲の禍々しさを増幅させていた。この曲を終えると、「こんな風にイスに座って、情けない姿で本当に申し訳ありません。でも安心してください。随分と良くなりました」と鈴木は発言。すると「今日も1曲目から立ってて、調子いいじゃない。座ってプレイ、大御所感ある!」と和嶋はフォローを入れる。
「狂気人間」に入ると、トリプルヴォーカルを存分に活かし、腹の底から沸き上がるような男臭いコーラスを解き放つ。また、「なぜなら私は 人間」と潔く言い切る和嶋の切れ味鋭い歌声にもエネルギーを注入される思いだった。そして、「ガタンゴトン」の擬音を効果的に用いた「地獄大鉄道」に移行。鈴木の抑揚を付けた歌い回しは素晴らしく、さらにベースがブンブンうねる中、和嶋は妖しげなギターフレーズを重ね、楽曲の奇妙さをより一層高めていく。演奏後、「中間部のギター、不気味だね?」と鈴木が言うと、「どこかの鉄道会社が取り上げてくれないかな」と和嶋は返し、会場には笑いが起きていた。
鈴木が今年も「弘前ねぷたまつり」を満喫したというエピソードを挟むと、「屋根裏のねぷた祭り」を披露。長めのイントロを経て、おどろおどろしい世界観を現出させる。それから「新調きゅらきゅきゅ節」に繋げ、躍動感満載のサウンドに観客も沸騰。ヘドバンや、その場でジャンプする人も増え、会場の温度は上がっていく。
「今年バンド生活34年、1stアルバム(『人間失格』)から変わらない感じでやってます。あと、3年で還暦。そのときは全国還暦ツアーをやろうかと。全員赤いちゃんちゃんこ着て…」という和嶋のMCを聞きながら、人間椅子の年輪の重ね方は多くのバンドマンにとってロールモデルになりうる希望の存在だと感じた。
「お父さん、お母さん聴いてください!」と和嶋が叫ぶと、次は前作『苦楽』収録の「杜子春」をプレイ。ここではじっくりと腰を据えて、歌声と演奏を丁寧に届けていく。何とも、温かい気持ちにならざるを得なかった。再びまた新作から2曲をここで投下。ブラック・サバス譲りの重厚感でジリジリと迫る「蛞蝓体操」をやり終えた後、「今日は調子いいんで、立ってやってみます!」と鈴木は宣言。完全にイスを取っ払い、従来の演奏スタイルへ戻ることにした。「「蛞蝓体操」でほぐれたんじゃない?」と和嶋は言い、「死に行くときの心構えの歌」と前置きして7分超えの「死出の旅路の物語」へ。明快なリフはもちろん、中盤すぎの和嶋の語り風ヴォーカル、そこに被さる「パラッパラー」という明快なコーラスも大きな魅せ場となっていた。何より楽曲からポジティヴな光が横溢し、根底から力が沸き上がってくるような楽曲であった。
後半戦を迎え、「死神の響宴」「今昔聖」と過去曲を織り交ぜた後、「やあ、Zepp Hanedaのみんな楽しんじゃってるかい? 俺のことをアニキって呼んでくれ?」とナカジマはお客さんとコール&レスポンスを楽しみ、新作の中で唯一ヴォーカルを務めた「未来からの脱出」を披露。アニキのパワフルな歌声とドライブするビートに、観客も激しく体を揺らしている。和嶋と鈴木の2人は楽器を頭の後ろで揃って演奏し、1本のマイクを分け合ってコーラスする場面もあった。その流れで新作から「宇宙電撃隊」を見舞うと、場内の熱気は急上昇。METALLICAに通じるスラッシーなリフを入り口に、「ファンファンファファン」のコーラスもキャッチー極まりない。テルミンを含め、スペーシーなギターソロを聴き応え十分だった。今後は、海外でも大バズリした「無情のスキャット」と肩を並べるほど魅惑のポップナンバーに成長しそう。コロナ禍が落ち着き、こうして一緒に歌える曲を用意してくれたのも嬉しい限り。笑顔で歌う観客の光景がやけに眩しかった。
本編ラストはBUDGIEの日本語詞カバー「針の山」でZepp Hanedaを興奮のるつぼ化させ、アンコールにも応えてくれた人間椅子。和嶋はアコギを持つと、次曲への思いを赤裸々に語り始める。
「今年3月に僕の学生時代の友達が、地元・青森県弘前市で孤独死で亡くなったんですけど。彼とはフォークグループを組んでいて、曲の作り方をいろいろ教わって感謝している。Dm6(Dマイナーシックス)を最初に教えてもらい、“メロウでいいですねぇ”って。彼が亡くなって悲しかったんですけど、曲を作ろうと。何かしらの慰めになれば」
とMCを挟み、アンコール一発目は新作から「星空の輝き」を披露。和嶋の柔らかな声色とアコギの音色に心が洗われ、それに寄り添う鈴木のメロディアスなベースライン、ナカジマはボンゴとタンバリンで味付けし、亡き友を偲ぶトリビュート曲に場内は静かな感動に包まれていった。演奏後、「泣きそうになってしまった」と和嶋は心の声が漏れるほど。それからJimi Hendrixの「Purple Haze」、少し長めにブラック・サバスの「Into The Void」を披露すると、若い女性がノリノリでヘドバンする様が目に飛び込んできた。こうした遊び心溢れるセッションも観ていて実に楽しい。
ショウのトドメは「洗礼」「無情のスキャット」で締め括り、特に後者は“無情感”が増したギターの旋律に酔いしれ、お約束の「シャバダバディア」の歌詞フレーズを多くの人が大合唱。日本人に混ざって、海外のお客さんも楽しげに歌っており、日本が誇る鉄壁のハードロックバンド、人間椅子のグローバルな神通力を再認識した。全17曲、2時間20分におよぶ熱演が繰り広げて、ライヴは終了。今日は新作から全13曲中9曲をプレイし、個人的には「生きる」(別公演では披露)も聴きたかったけれど、人間椅子の場合はそれを言い出したらキリがない。聴きたい曲があまりにも多すぎるからだ。
改めて、声を大にして言いたい。人間椅子の凄さは常に新作のレコ発ツアーで、新曲をメインディッシュに据えてショウをやり続けていることだ。それこそ海外の大御所クラスのバンドなんて、新作を出しても、そこから1曲聴けたらいいほうだ。作り立ての新曲こそがライヴで最高に盛り上がる、人間椅子の”人間力”に圧倒されたツアーファイナルであった。おそらく還暦になろうとも、いい意味で何も変わらないだろう。いや、今よりもさらにパワーアップしている姿が容易に目に浮かぶ。今年バンド生活34年、新曲がもっともライヴで渇望されているバンドが人間椅子なのだ。そのバリバリの現役感を、このツアーファイナルでも見事に証明してくれた。もう、本当に、奇跡のハードロックトリオとしか言いようがない。
取材・文◎荒金良介
撮影◎西槇太一
■23rdオリジナルアルバム『色即是空』
【初回限定盤】TKCA-75172 3,700円
【通常盤】TKCA-75173 3,000円
▼CD収録曲
01. さらば世界
02. 神々の決戦
03. 生きる
04. 悪魔一族
05. 狂気人間
06. 人間の証明
07. 宇宙電撃隊
08. 宇宙の人ワンダラー
09. 未来からの脱出
10. 地獄大鉄道
11. 星空の導き
12. 蛞蝓体操
13. 死出の旅路の物語
▼DVD収録内容 ※初回限定盤のみ
<人間椅子2022秋のワンマンツアー~闇に蠢く~>2022年9月19日(祝/月)@東京・EX THEATER ROPPONGI
01. 侵略者
02. 表徴の帝国
03. 宇宙海賊
04. 無情のスキャット
05. 蜘蛛の糸
06. 地獄の料理人
07. 宇宙からの色
■ライブ/イベント情報
12月14日(木) 神奈川・川崎CLUB CITTA’
open18:00 / start19:00
出演:SEX MACHINGUNS / 人間椅子
【チケット】
前売り¥6,500 / 当日¥7,000
発売日:10月14日(土)~
▼<HEAVY METAL SOUNDHOUSE 2023>
12月17日(日) 神奈川・川崎CLUB CITTA’
open16:00 / start17:00
出演:伊藤政則
GUEST DJ:和田 誠、二井原 実、鈴木研一
Special Guest:THE MAN
【チケット】
前売り¥4,500(税込) / 当日¥5,500(税込)
発売日:10月15日(日)10:00~
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