【ライブレポート】SION、藤井一彦、クハラカズユキ、中西智子からなる極上の4ピース“SION'S SQUAD”始動「かなり最高のバンドだと思います」
うれしい。本当にうれしい。SIONが新バンド、SION'S SQUADを組んだことが心の底からうれしい。そして、新バンドのお披露目として、いきなり東名阪をツアーしたことがうれしい。素晴らしいプレイヤー達が顔を揃えたTHE MOGAMI(2002年~)とThe Cat Scratch Combo(2007年~)というバンドともう長年、レコーディングやライブを共にしてきたSIONがデビューから39年目にして、新たにバンドを組んだことが兎にも角にもうれしい。
◆SION'S SQUAD 画像
なぜなら、まだまだ歌い続けていくぜ、という改めての、それもかなり力強い意思表示に思えるからだ。
SION'S SQUADの顔ぶれを見れば、SIONの本気がわかるだろう。ギターはTHE MOGAMIとThe Cat Scratch Comboにも参加しているTHE GROOVRSの藤井一彦、ドラムは元THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、現The Birthdayのクハラカズユキ、そしてベースはウルフルケイスケバンド他多くのバンドでプレイしている中西智子。藤井が命名したというSION'S SQUAD(SIONの少数精鋭部隊)というバンド名は決して伊達ではない。
1年前の日比谷野外大音楽堂公演(<SION-YAON 2023>)。最後にSIONは「何度もチャンスをピンチに変えてきた俺がこうしてここに立っていられるのもみんなのおかげです。まだもうちょっとやるからこれからもよろしく!」と言った。そこから年を跨いで、全8公演を開催した<Acoustic Tour 2022-2023>を経て、まさか新バンド結成という展開が待っていたとは。もうただただうれしいと言うしかないではないか。
1985年に4曲入りの『新宿の片隅で』でデビューしてから38年。SIONは本人曰くチャンスをピンチに変えながらもずっと、日々去来する喜怒哀楽を、人生のさまざまな景色を巧みに切り取りながら歌い続けてきた。そして、強烈な印象を残すしゃがれ声で歌うそんな曲の数々の中でも、特に起死回生の渇望を自分の尻をひっぱたき、いや、蹴り上げるように歌った曲や、そばにいる大切な人を大事にしたいと思いながら大事にすることができない不甲斐なさを吐露した曲が多くのファンの気持ちを鷲掴みにしてきた。
「Sorry Baby」をカバーした福山雅治、東日本大震災の翌年、宮城県で開催した<AIR JAM 2012>にSIONを招いたHi-STANDARDの横山健、あるインタビューで“自分を作ったアルバム”にSIONの『東京ノクターン』を挙げた10-FEETのTAKUMA、“腑抜けたラップを聴く暇があったら、俺は真っ先にSIONを聴く”(「孤憤」)とラップしたTHE BLUE HERB他、SIONを慕うミュージシャンは少なくない。
これまでリリースしてきたオリジナルアルバムは28枚。1986年にリリースした1stアルバム『SION』に参加したルースターズのメンバーをはじめ、SIONは多くのミュージシャン達とレコーディングしてきた。中にはニューヨークのフェイクジャズ・バンド、ラウンジ・リザーズやラウンジ・リザーズのメンバーのタンゴ・バンドと作ったアルバムや、ルー・リードのバンドでも活躍したニューヨークパンク・シーン出身のギタリスト、ロバート・クワインが参加したアルバムもある。
その後、デビューの頃からのつきあいの松田文(G)に加え、藤井一彦(G)、井上富雄(B)、池畑潤二(Dr)、細海魚(Key)とTHE MOGAMIを結成してからは、そのTHE MOGAMIとフットワークの軽い若いミュージシャンを招集したThe Cat Scratch Comboという全幅の信頼を寄せる2組のバンドと活動してきたが、2022年4月にリリースした『I like this, too』がSIONにとって大きな転機になったようだ。そのタイトルは、THE MOGAMIとThe Cat Scratch Comboももちろんだが、こっちも好きという意味なのだそうだが、初顔合わせとなるジャズ畑のミュージシャン達とのレコーディングは大きな刺激になったらしく、SIONはさらなる“I like this, too”を求めてみたいという気持ちになったんじゃないか。そして、それが今回の新バンド結成に繋がった、と筆者は想像している。
ともあれ、今回の東名阪ツアーのリハーサル中、SIONが新しいバンドに大きな手応えを感じていたことは「このライブ、ボーカルなしでも俺だった絶対見に行くね。」というX(旧Twitter)の投稿からも明らかだ。ならば、ライブに対する期待もおのずと高くなるではないかと出かけていったツアーファイナルとなる10月11日の東京・新代田FEVER公演。チケットはソールドアウト。
スタンディングのフロアにすし詰めになった観客がはちきれそうな期待を抱え、ステージを見守る中、SION'S SQUADの演奏は「レストレス・ナイト」で始まった。藤井がソリッドなカッティングでコードを重ねるタフなロックンロール。1stアルバムの収録曲だが、今は足をがしっと踏ん張るようなテンポが頼もしい。そこに「気力をぶっかけろ」を繋げ、ブギのリズムで観客の体を揺らすと、そこから一転、テンポをぐっと落として、ヒリヒリとした歌声にじわじわと熱を込めていった「Slide」「Snowdrop」の2曲を披露。後者ではヨコノリのビートで演奏を支えるクハラに対して、ダイナミックなグリッサンドを交えながら、フレーズに音数を詰め、前へ前へと演奏をひっぱるベースプレイで中西が存在感を印象づける。
そして、バラードの「まるで誰かの話のようだね」、リズムが跳ねるロックンロールの「11月の空に」と正反対とも言える2曲を、観客の気持ちを翻弄するように繋げてから、この日1つ目のクライマックスを迎えたのが「ノスタルジア」だった。
タイトル通り別れた恋人への忘れがたい思いを歌うバラードにもかかわらず、観客が拳を上げるのは、ともにエモーショナルなSIONの歌声とバンドの演奏もさることながら、左手を高々と上げながら“摩天楼の中 俺は170cm まぶしい光を抱いている”と渾身の歌声で歌い上げるSIONの孤高を感じるからだろう。フィードバックを操りながら、力強いベンドを交え、藤井がダイナミックに奏でる轟音のギターソロも見事の一言。SIONとバンドの熱演に観客の拍手と歓声が止まらない。
藤井が奏でるイントロに、さらに大きな声が上がる。しっとりと演奏したのはアコースティックバラードの「ありがてぇ」。「ノスタルジア」でぐっと高まった緊張をほぐすという意味では絶妙のタイミングだったかもしれない。1番を歌い終わったところで、フロアから拍手と歓声が沸き起こる。SIONが語り掛けるように歌った“まあ いろいろあるさ いろいろあるさ 生きてっからね”という言葉にこの日、何人の人が癒され、そして励まされたことだろう。
フロアの盛り上がりを眺めながら、照れ臭そうに、いや、うれしそうに「えへへ」と笑ったSIONとバンドは、そこからさらにブルージーな「夜しか泳げない」、レゲエのリズムも使った「砂の城」、アンセミックなロックンロールの「お前の空まで曇らせてたまるか」とシンガロング必至の3曲を立て続けに披露。フロアにマイクを向けるSIONに応え、シンガロングの声を上げる観客とともにフロアの温度をさらに上げていく。
「彼女少々疲れぎみ」では、“わかったようなことを唄わないで ちょっとちょっと そこのヒゲ” “どうもすいません もうしません”というパンチライン──歌の題材にされた女性の抗議とそれに対する謝罪を、中西とSIONが掛け合うという女性メンバーを迎えたからこその新たな見どころがライブに加わった。
その和やかなムードからまた一転、メンバー紹介を挟んでからの「風邪」は、中空の一点を見つめたまま声を振り絞るように歌うSIONの鬼気迫るパフォーマンスが観客を圧倒する。そんなSIONを力強いドラミングで背後から煽り立てたクハラをはじめ、白熱したバンドの演奏が終わった瞬間、それまで身じろぎもせずにステージを凝視していた観客が金縛りから解かれたように歓声を上げた。
「最高!!」
そんな観客が再び耳をそばだてたのが「元気は無くすなよ」。“ここで踏ん張ったらきっといつかそのうち おもしろい事があるような気がするから 元気はなくさんさ お前も元気はなくすなよ”と誰かに語り掛けるようなやさしい歌声は、「風邪」とはまるで別人のようだ。さらに離れたところにいる友に“調子はどうだい 勢いよく飛べそうか”と語り掛ける「調子はどうだい」のブギのリズムでもう一度、観客の体を揺らしながら、“お前と行きたいところがあるんだ”と歌う「お前がいる」を観客とシンガロングする。「お前がいる」はSION流のカントリー・ソング。クハラが軽やかに鳴らすスネアロールと中西のグルーヴィなベースが心地いい。
そこからシンバルのカウントで刹那的なロックンロール「新宿の片隅から」になだれこみ、観客のシンガロングとともにライブは一気にクライマックスへ! ギターソロからドラムソロ、そしてベースソロに繋げるという終盤のスリリングな展開に観客が快哉を叫ぶ。そして、本編の最後を締めくくったのは、もはやSIONのライブには欠かせない「マイナスを脱ぎ捨てる」。
ほぼ毎回、観客のシンガロングとともにライブのクライマックスを飾るアンセムが、SIONの渾身の絶唱も含め、ある意味悲壮感に満ちているというところがSIONらしいと言えば、SIONらしい。“俺のこの手は頭を抱えこんだり 胸を搔きむしるためにあるんじゃない マイナスを脱ぎ捨て マイナスを払い お前を抱きしめるためにあるんだ”という音源にはない歌詞がいつしか加えられたことも含め、音源のリリースから16年、ライブでやるたび、確実に曲が持つ凄みは増していっている。
もちろん、そこで終わるわけはなく、この日、アンコールはWアンコールも含め、自分にムチを入れるように演奏したSION流のパンクブルース「だからこんな俺が嫌いだ」他計5曲を演奏した。
これまたSIONのライブに欠かせないアイリッシュ調のアンセムの「Hallelujah」の“レースに戻るぜ リタイヤ?そりゃなんだ”という歌詞がいつも以上に頼もしく聴こえたのは、もちろんSION'S SQUADと演奏しているからだ。
「(<Acoustic Tour 2022-2023>の)札幌公演の打ち上げで、そろそろ新しいミュージシャンとやりたいねという話が出た時、すぐに決まったんだけど、ベースはこの人になりました。中西智子! キュウちゃんは池畑潤二祭り(2008年の<BIG BEAT CARNIVAL>)で出会ったんだけど、今回初めてリハーサルに入った時、きりよくジュウちゃんにしない?と言ったら、そこはキュウでお願いしますと言われました(笑)。クハラカズユキ! うまいんだよね、一彦は。バンド名を付けるのが。藤井一彦!(ギターを弾きながら、藤井が時折、ぴょんぴょんと飛び跳ねていたことに言及して)一彦がこんなに気持ちよさそうにギターを弾いているってことはかなり最高のバンドだと思います」
1人1人のエピソードを交えながら、改めてSION'S SQUADのメンバーを紹介するSIONも上機嫌だ。そこからメジャーデビュー・シングルだった「俺の声」、SIONとファンの新しいテーマソングなんて言ってみたい「お前の笑顔を道しるべに」、そして、「よっしゃ、もういっちょ!」ともうワンステージできるんじゃないかと思わせるくらいの勢いでSIONが言ってから、なぜステージに立つのかその理由を歌うタフなロックンロールの「一瞬」を演奏して、最後まで観客にシンガロングさせたあと、ダメ押しで観客に歓声を上げさせたのは、SIONの次の一言だった。
「また会いましょう。来年、野音あります。SION'S SQUADのみんな、メンバーに入ってます!」
新バンドのデビューツアーが最高と言えるものになっただけでも感無量なのに、そんなうれしいニュースが待っていたとは!(さらには<SION with Kazuhiko Fujii Acoustic tour 2024>の発表も! 前回の8公演からさらに増えて、今度は12公演だ!)
ライブハウスだからということもあったかもしれないが、音も含め、若返ったような印象があったのは、藤井はもちろん、リズム隊の2人もそれぞれに演奏の推進力になっていると思える瞬間がいくつもあったからだ。その意味でもSION‘S SQUADというバンド名は伊達ではないわけだ。
SION‘S SQUADについてももちろん、SIONは“I like this, too”と言うと思うが、SION'S SQUADはこれからも、どうかすると「傘張りで暮らそうか」とか言い出すSIONの気持ちに発破をかけてくれるに違いないと大いに期待している。
取材・文◎山口智男
撮影◎麻生とおる
■<SION'S SQUAD TOUR 2023>10月11日(水)@東京・新代田FEVER セットリスト
02. 気力をぶっかけろ
03. Slide
04. SnowDrop
05. まるで誰かの話のようだね
06. 11月の空に
07. ノスタルジア
08. ありがてぇ
09. 夜しか泳げない
10. 砂の城
11. お前の空まで曇らせてたまるか
12. 彼女少々疲れぎみ
13. 風邪
14. 元気は無くすなよ
15. 調子はどうだい
16. お前がいる
17. 新宿の片隅から
18. マイナスを脱ぎ捨てる
encore
01. だからこんな俺が嫌いだ
02. Hallelujah
W encore
01. 俺の声
02. お前の笑顔を道しるべに
03. 一瞬
■<SION with Kazuhiko Fujii Acoustic Tour 2024>
1月08日(月/祝) 福岡 Fukuoka INSA
1月13日(土) 松山 WStudioRed
1月14日(日) 神戸 月世界
1月20日(土) 大阪 umeda Trad
1月21日(日) 愛知 ell.size
1月27日(土) 東京 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
2月02日(金) 横浜 THUMBS UP
2月10日(土) 岩手 KLUB COUNTER ACTION宮古
2月11日(日) 仙台 retro back page
2月18日(日) 札幌 KLUB COUNTER ACTION
2月25日(日) 千葉 LIVE HOUSE ANGA
■<SION-YAON FINAL>
※詳細は後日発表
※日比谷野外大音楽堂改装にあたり、現野音最後の開催となります
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