【ライブレポート】KIX、45年のキャリアを結ぶ、素晴らしき有終の美
アメリカのKIXが45年のキャリアに幕を降ろし、ホームタウンであるメリーランドで最終公演を行うと発表したのは2023年5月の<M3フェスティバル>だった。あれから4ヶ月余り、とうとうその日は来てしまった。
彼らは1980年代のロックシーンがまだトップレベルにあった頃のツアーバンドであり、日本にも当初は何度か来てくれた。本国では未だに根強い人気を誇り、人々はこのバンドの引退はひとつの時代の終わりを意味するという。果たして日本でこれを感じてくれる人たちがどのくらい居るのかわからないが、この素晴らしい一夜をお伝えしたい。
15,000人強を収容するメリウェザー・ポスト・パビリオンは<M3フェスティバル>が毎年開催される会場である。このフェスティバルが最初に呼んだバンドがKIXであり、以降毎回出演していた事から最後に相応しいと、会場側が壮行会的に最終公演をしてくれる運びとなったようだ。当日は雨、屋外の芝生エリアの人たちは彼らの曲にある通り「Cold Shower」をすでに浴びている。
<KIX...Walkin' Away The Final Show>と題された最終公演は、いつも通りのバンドの素晴らしいパフォーマンスに、いつも以上の観客のパワーと、いつもとは違う盛大なステージ演出とサプライズが加わり、これ以上ないロックンロールパーティとなった。
スティーブ・ホワイトマン(Vo)、ブライアン・フォーサイス(G)、ジミー・チャルファント(Dr)、ロニー・ユンキンス(G)、マーク・シェンカー(B)、ブラッド・ディヴェンス(G)、ボブ・パレ(G)で構成されたファイナルショウは、出演の事前情報は匂わされてはいたが、ロニー(G)が冒頭の「Atomic Bombs」からブライアン(G)と左右のお立ち台ステージでナチュラルにプレイしているのも彼ららしかった。アルコール等の依存症で離脱していたロニーだが、メンバーはずっと彼をケアしていたようだ。
「Midnight Dynamite」からロニーに代わりボブ(G)が加わっていく。今宵のセットリストはライブの定番曲は生かしつつ、滅多に演奏されない隠れた名曲たちをインストメドレーで数回挟む工夫によって、ほぼ彼らの歴史を辿れるものになっている。メドレーについては、「あまり演りたくない曲ばかりをリクエストされたから(笑)、曲の一部を演る事を考えた」とスティーブ(Vo)は言う。
一曲終わる毎にスティーブがいつも言う「Thank you!」に対して観客が応える「You're Welcome!」も、今日は観客側が「Thank you!」を何度でも言いたい日だった。
二階建てのステージ、バックのスクリーン映像、たくさんの特効パイロ、華やかな照明のスペクタクルの中で、それはKIXが完全に再びの復活がない事を強く思わせるもので、何とも言えない切なくほろ苦い気持ちにもなった。むしろいつも通りのシンプルなステージだったら少しの期待もしたかもしれない。
「Red Lite, Green Lite, TNT」から「Girl Money」までの定番曲あたりでボブ(G)、マーク(B)、スティーブ(Vo)は時折りステージ二階へ登りつめ、フロア後方や更に奥の野外エリアまで熱を届けるシーンもあった。その表情には感慨深いものを感じたし、「The Itch」での掛け合いも観客のレスポンスはいつもより更に濃厚なものだった。
当日更にスペシャルなゲストが出演すると言われていたのは「For Shame」からブラッド・ディヴェンス(G)が登場した事だった。彼は2ndアルバム『COOL KIDS』時代のギタリストで、「Mighty Mouth 」もプレイしてくれた。ロニーとブラッドのステージが観れた事はとても貴重なスペシャルであり、そしてスティーブはセキュリティと一緒に客席フロアをぐるりと歩くスペシャルもあった。ファンが歓喜する事ばかりの連続の中、メンバーの演奏も実に丁寧で彼らの感謝の意が込められていたと思う。
「Cold Blood」から再びロニーが加わると、いつものハイライト的な曲が一層の歓声で沸き、「Walkin' Away」ではブラッドも参加してのファイナルショウに題された曲がプレイされる。ブライアンは終始ストイックであったし、ジミー(Dr)が立ち上がってやり切った感をアピールしたのも感動的だった。
終盤には客席フロアに風船や紙吹雪が舞い、ステージでは長年バンドを支えてきたスタッフたち全てを紹介し、互いを賛辞するシーンもあった。かのプロデューサーであるボー・ヒルや多くのメディアが見守る会場で、45年のキャリアは4人のギタリストで彩られ華々しく幕を下ろした。
ステージ上の全員が「Good bye」的に手を振った事や、現地の知り合いとも「またね」と挨拶をした際、次回はもうKIXがない事に一抹の寂しさも覚えたが、彼らにとっては長い長い道のりをようやく終えられたのだ。こんなにもたくさんの笑顔を残して。まさに有終の美、この歴史的な空間に居られた事を心から光栄に思うし、彼らの今後がただ健やかであって欲しいと願うばかりだ。
文・写真◎Sweeet Rock / Aki
<KIX ~Walkin' Away The Final Show~>
1.Atomic Bombs(Ronnie Younkins guitar)
2.The Kid(Ronnie Younkins guitar)
3.Midnight Dynamite
4.No Ring Around Rosie
5. ~Instrumental Medley~Red Hot (Black & Blue) / Body Talk / Ball Baby / Luv-A-Holic / Love At First Sight / Love Pollution
6. Red Lite, Green Lite, TNT
7. Scarlet Fever
8. Don't Close Your Eyes
9. Girl Money
10. ~Instrumental Medley~Book To Hypnotize / Cool Kids / Cold Chills / Bang Bang (Balls Of Fire)
11. The Itch
12. For Shame (with Brad Divens on guitar)
13. Mighty Mouth (with Brad Divens on guitar)
14. Cold Shower
15. Cold Blood (with Ronnie Younkins guitar intro and drum solo outro)
16. Blow My Fuse (with Ronnie Younkins on guitar)
17. ~Medley~Tear Down The Walls / Walkin' Away (with Ronnie Younkins and Brad Divens on guitar)
18. Yeah Yeah Yeah (with Ronnie Younkins and Brad Divens on guitar)