サザンオールスターズ、静かに力強く深く広く浸透する「Relay～杜の詩」

9月18日にリリースされたばかりのサザンオールスターズの新曲「Relay～杜の詩」が、静かに力強く、深く広く浸透しつつある。「静かに」は、桑田メロディの粋を極めたスローバラードの曲調。「力強く」は、振り絞るようなハイトーンを含む胸を打つ歌声。「深く」は、長年のファンの期待にどんぴしゃで応える懐の深さ。そして「広く」は、社会的メッセージを込めた楽曲として、従来のファンを超えた層まで届いていること。デビュー45周年の華々しいお祭りイヤーに、こんな曲が出てくるとは思わなかった。おそらく本人も事前に想像していなかっただろう、2023年に生まれるべくして生まれた歌。

曲の背景については、すでに明らかにされている通り。「サザン2023 新曲三部作」と銘打った、「盆ギリ恋歌」「歌えニッポンの空」に続く連続リリース三作目。共通キーワードは「ふるさと」で、妖しく猥雑な新時代の盆踊りソング「盆ギリ恋歌」では、現（うつつ）もあの世もゴチャマゼの快楽を歌い、「歌えニッポンの空」はどこまでも明るく爽やかに、茅ヶ崎の風景を散りばめながら追憶と平和の尊さを歌う。そして「Relay～杜の詩」は、バンドにとって音楽のふるさとである青山ビクタースタジオを舞台に、社会問題となっている神宮外苑再開発について真っ向から踏み込む。しかも音楽家らしく、詩人らしく、あくまで個人の思いとして心情を吐露する。


実に、なんて優しい歌だろう。深いディレイをかけたピアノイントロ。どこか「真夏の果実」を彷彿とさせる印象的なフレーズ。たおやか、と表現したい繊細なリズム。まったく装飾のない、しゃべり言葉のような歌のトーン。サビのメロディを支える荘厳なゴスペルクワイヤ。畳みかけるように音程を上げ、エモーションを増してゆくボーカル。二番から登場するカノン風のストリングス。次第に厚くなるリズム。四つ打ちのキックがリードする展開部、そしてリフレインからフィナーレへ。すべてが水の流れのようにスムーズで、作為のかけらも感じられない。美しい曲だ。

歌詞の成り立ちについては、3月に亡くなった坂本龍一氏が最期の時まで心を砕いていた、神宮外苑再開発についての疑問がきっかけになっているという趣旨の、桑田佳祐によるコメントがすでに公開されているので、ここでは繰り返さない。青山ビクタースタジオで育ったバンドにとって、それは単なる政治ニュースではなく、「地元民」としての実感だったことは想像に難くない。これがきっかけに議論が深まればいいという意図もあるだろう。しかしこの曲にはプロテストの影は薄い。あるのは「なぜこうなったの？」という素朴な問いかけと、「どなたか教えてくれませんか？」という、つぶやきにも似た祈り。答えは風に舞っている。Blowin'in the wind。

個人的に最も心を揺さぶられたのは、サザンオールスターズほどのバンドが、「音楽に何かを変える力があるのか？」という、あえて言うなら青臭いテーマと今も向き合っていること。それを発言や行動よりも、あくまで歌の中で昇華しようとしていること。「身近な場所で何が起こってるんだ？」と声を上げるのも、「馬鹿でごめんよ」という照れ隠しも、穏やかに共に歩きたい、というつぶやきも、その揺れ動き方のすべてがあまりに人間的でいとおしい。疑問と願いだけを投げかけて、答えを出さないからこその、誠実な曲。

9月末からはいよいよ、45周年のクライマックスである＜茅ヶ崎ライブ2023＞が始まる。ノスタルジーではなく2023年を生きているバンドとしての、サザンオールスターズの雄姿を確かめるのが楽しみで仕方ない。

文：宮本英夫