【鼎談】祖堅正慶、石川大樹、今村貴文が語る『FF16』サウンドメイクの秘密「ゲームコンポーザーに何が必要なのか」

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2023年6月22日に発売されたPlayStation 5向けソフト『ファイナルファンタジーXVI』。シリーズ初のアクションRPGとなった本作は、発売から1週間で全世界累計販売本数が300万本を突破(※パッケージ出荷本数とダウンロード販売数の合計)し、大きな話題を集めている。

◆撮り下ろし写真

多くのプレイヤーが熱狂している中、同作品の楽曲を収録したオリジナル・サウンドトラック『FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack』が、7月19日に発売された。BARKSでは、本作のメインコンポーザーを務めた祖堅正慶と、彼と同じくスクウェア・エニックスのサウンド部に所属している石川大樹、今村貴文の3名にインタビューを実施。

重厚な物語と大迫力のバトルシーンを彩った楽曲達は、どうやって生まれてきたのか、同サントラのDisc1、2の収録楽曲を中心に話を聞いた。笑いの絶えない賑やかな現場になっていたが、そこからは3人の日頃の信頼関係や、とにかくユーザーを楽しませたいという真摯な思いが、まっすぐに伝わってきた。


   ◆   ◆   ◆

■今の時代のゲームコンポーザーって、音楽を作るだけの人には無理

──『ファイナルファンタジーXVI』(以下、『FF16』)の楽曲を制作するにあたって、まずは祖堅さんが開発部の方々と話を進めて、という流れになるんでしょうか。

祖堅:そうですね。コンセプトとか、どこに柱となる曲が必要になるのかとか。あとは楽曲だけを作っているわけではないので、ちょっとアカデミックな話になってくるんですけど……まぁ、ざっくり言うと雑用ですね(笑)。

──だいぶざっくりしましたね(笑)。

祖堅:ははははは(笑)。まぁ、その辺りを決めて、2人(今村・石川)にタスクを渡してやってもらうという。今回は同時進行で別のタイトルもかなり多くやっていたので、2人には今まで以上にゲームの中核となる実装も任せつつ、音楽自体の制作も振って、バンバンやってもらう感じにシフトしました。


──今村さんと石川さんはほぼ同期入社だそうですね。

石川:1ヶ月違いですね。自分が2019年の4月で。

今村:僕が3月です。

──今村さんはどういう経緯で入社されたんですか?

今村:僕は、最初はどちらかというと職業作家というか、アーティストに楽曲提供がしたくて、大学を卒業してから音楽制作の事務所に入ったんです。そこでいわゆるコンペに出す曲を毎日書いていたんですけど、元々ゲームが好きで小さい頃からやっていたので、ゲーム音楽作家という道もあるんじゃないかと考えました。でも、どうすれば自分のやり甲斐のあるところで働けるのかと思ったときに、スクウェア・エニックスが頭に浮かんで、応募して、採用していただけたという状況でした。なので、BGMを作るのはこの会社に入るまでやったことなかったです。

──楽曲提供というのは、いわゆるポップスとかそういう方向ですよね?

今村:そうです。ほとんど歌モノしか作ったことなかったですね。

──石川さんもゲーム音楽が作りたかったと。

石川:僕も今村と同じで、小さい頃からゲームもゲーム音楽も好きで、学生の頃からずっとやりたいと思っていたんですが、この会社に入るまでは業界業種未経験でした。新卒で入った会社は電機メーカーで、人事をしていたので。でも、自分のやりたいことに挑戦してみたいと思ったときに、たまたま中途採用で門戸を開いていたのが、この会社でした。たしか“経験者優遇”と書いてあった気がしたんですが、そんなの関係なしにとりあえず履歴書を送って(笑)、拾ってもらった感じでした。

──祖堅さんはお2人を面接されたそうですけども、そのときのことって覚えてます?

祖堅:覚えてますよ。どっちも変な奴だなって思いました。

今村・石川:はははははははは!(笑)

祖堅:今村はなんかだらしないし、石川は未経験でしかも人事!?みたいな。約束された将来があるのになんでこっち来るの?って。だから変な奴らだなっていうのが第一印象でしたね。

──でも、光るものを感じたわけですよね。

祖堅:そうですね。この2人はマジでゲームが好きなんだなというのが伝わってきて。今の時代のゲームコンポーザーって、音楽を作るだけの人には無理なんですよ。ちょっと前ならそれでもやれた職種だけど、今はゲームへの理解と愛がない限り、この仕事は務まらない。僕なりの解釈ですけど、この2人はゲームが好きだという思いに確固たる自信があったというか。ゲーム愛があるなっていうのが、採用の一番大きな決め手でしたね。


──今回は任せる部分が多かったとのことでしたが、お二方はゲーム愛が根底にありつつ、それぞれ得意な分野や特性みたいなものもあるんですか?

祖堅:この2人はもうまったく違う、相反するところがあって。さっきも言いましたけど、かたやだらしないし、かたやキチキチしているし。

石川:ははははは(笑)。

今村:確かに性格もそうですね(笑)。

祖堅:足して2で割ったらちょうどいいのに(笑)。ジャンルとしても、オーケストラに造詣が深い石川と、歌モノに造詣が深い今村と、まったく違うんですよね。そこでお互いが刺激し合ってやっていければいいなと思っていたんですけど、思いのほか、そこがうまく作用しました。だから、2人が合わさると2倍以上の力が発揮されるところが強かったかな。これまでところどころではありましたけど、『FF16』になってからは、「この曲は君」「こっちの曲は君」っていう振り方はしてないですね。

──となると、どう任せていったんです?

祖堅:そうですね、柱となるものは一旦僕が作るので、それを料理して、各コンテンツに配置していくとなったときに、じゃあ誰がどこでどうやろうという話をして。そのときに「そのベーシックを持っているから僕がやります」とか、「じゃあ次の曲、僕がやりますね」みたいな感じで、3人で相談して決めていった感じでしたね。

──お話にあった“柱となる曲”というのは、Disc1の中でいうと例えば「Away」でしょうか。

祖堅:そうですね。これはジョシュア(・ロズフィールド)のテーマというか、(召喚獣)フェニックスのテーマなんですよ。これを元に、ジョシュアに関する各カットシーンやコンテンツにメロディを引用して、世界を膨らませていくということをしてますね。

──ちなみに、先ほど祖堅さんからお2人の印象のお話をしていただきましたが、今村さんと石川さんから見た祖堅さんは、どんな「上司」や「先輩」ですか?

石川:これはこの場で是非アピールしておきたいことがあります。ゲームプレイヤーの皆さんからしたら、祖堅は本当に多種多様な技術や知識、判断力もあって、総合力を兼ね備えたクリエイターというのはもうご存知だと思います。それに加えて僕が今回推したいのは、祖堅ってマネージャーとしての采配もかなりすごいんですよ。

祖堅:……そうか?

石川:(無視して話を続ける)祖堅は『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FF14』)のサウンドディレクターもされていて、チームメンバーには効果音を作られている方や、ボイスを編集される方など、たくさんの方々がいます。その一人ひとりに対する気配りや配慮がとてもきめ細やかだと思います。

祖堅:へぇー。

石川:これは是非知っておいていただきたいです!クリエイターってちょっと尖っている人みたいなイメージを持たれがちですけど、祖堅はそういう感じではなく。チームを率いる才能もあるという。


──技術だけじゃなくて統率力もあるという。めちゃめちゃかっこいいですね。

石川:めっちゃかっこいいですよ。

祖堅:いや、でもね、もしかしたら下から見たらそう見えるのかもしれないけど、たまたまラッキーなことに、俺のチームって優秀な奴が多いんですよ、本当に。だから心配していないし、信頼し切っているからなのかも。

──チームの皆さんを信頼しているからこそ、祖堅さんは安心して投げられるし。

祖堅:そうそう。

──なんか…………いいっすねぇ。

3人:ははははははは(笑)。

──すみません(笑)。いい関係だなぁと思って、ちょっとしみじみしてました。

祖堅:いや、僕は本当に運がいいんですよ。だって、この2人を同時期に採用できたとか、本当に運でしかないですから。ゲームコンポーザーなんてひとりを見つけることすら難しいんですよ、かなり限られたスキルなので。それが数ヶ月おきに2人見つかるなんて、宝くじに2回当たった感じですよ。

──その発言も素敵ですよ。今村さんから見た祖堅さんはどんな方ですか?

今村:石川が言ってくれたことは本当にその通りなんですけど、僕達は祖堅から「ゲームコンポーザーにとって何が必要なのか」をイチから叩き込まれたというか。どういう気持ちでゲーム音楽を作らなきゃいけないのかというところから教えてもらったので、これから僕達がコンポーザーとしてやっていく、その礎を教えていただきましたね。

──特に印象に残っている言葉はあります?

今村:やっぱり「ゲーム体験ファースト」ですね。それに尽きます。

──ユーザーのゲーム体験を最優先することがとにかく大切だと。

今村:はい。自分の音楽性とか、そういったものは正直何もいらなくて。いかにそのゲームのシチュエーションに合ったベストなものを出していくのか。今はそこだけにフォーカスしている感じですね。

祖堅:これって言ってもなかなかできないことなんですよ。ゲームが好きじゃないと本当にその気持ちになれないし、やっぱりどこかに欲が出ちゃうんですよね。最初は2人とも訳が分かっていなかったけど、「ゲーム体験ファースト」というものがどれぐらい大切なものなのかをちゃんと理解してくれたから、そこはめっけもんだなと思いましたね。なかなか言っても理解してくれる曲書きはいないので。


──なるほど。話を戻しまして、『FF16』のサウンドについて、全体的なコンセプトみたいなものを開発部の方々とやりとりされたと思うのですが、どんなものがありましたか?

祖堅:「王道」「ダークファンタジー」「できればクラシック」。

──できれば(笑)。

祖堅:はい(笑)。でも、あとは任せるっていう感じで、裁量は結構任せてもらいました。

──その3つがある中で、開発中の画面を見たり、実際にプレイしたりしながら曲を作られたんですか?

祖堅:だいぶプレイしながら作りました。今回みたいなアクションRPGって、プレイヤーそれぞれによってゲーム体験の結果が変わるので、「こうであろう」という予測で作ったものが当てはまらないんですよ。作ってみてやっぱり違ったなとなると、また作り直しになるので、そうであれば一点集中で、どういうプレイ体験が得られるのであろうかというのが見えた段階で作り始めるように今回はしました。だからスケジュールがね?

石川:すごかったですねぇ……痺れました。

今村:むちゃくちゃでした。

祖堅:はははははは(笑)。

──どれぐらいのペースで曲を作っていたんですか?

祖堅:3人で会議した5分後にはもう曲ができたりとか。

──5分後!?

今村:その会議の後、夜中に(祖堅から)1曲上がってきたりとか。

祖堅:で、2人は翌日にモックアップを出して、その翌日にはブラッシュアップを終えて。

石川:そうじゃないと間に合わなかったです。



──凄まじいですね……。今回のサントラは、通常盤は7枚組181曲、Ultimate Editionは8枚組199曲を収録というとてつもない楽曲数になっていて。これはPS5というハードの問題からなのか、ゲームにあった表現をする上でこの曲数になってしまったのか、どういう理由があったんです?

祖堅:元々の想定発注曲数は140曲だったんです。で、「それは多すぎだ!」ということになり、プロデューサーが発注書を引き取って。一旦とりあえず柱となる20曲ぐらいを発注してきて、あとは必要なものを作ってくれということになったんですよ。そこから柱の部分を作りつつ、どこに何が必要なのかを3人で精査していって。もちろんすべてがユニークである必要はまったくないんです。そこに合う既存の曲があれば、それをはめればいいんですけど、今回はなかなかそうはいかなかったので、結果的に199曲(笑)。

今村:ははははは(笑)。

──最初は140曲で多すぎという話になっていたにも関わらず、199曲になるって……。

今村:結果増えてんじゃねぇかっていう(笑)。

──そうそう、それです(笑)。

石川:これもサントラ用に199曲にしているだけであって、実際はもっと多かったです。2曲を1曲に繋げて収録しているものもあるので。

今村:プログラマーさんが言うには、データ数は300超えてたって言ってましたね。

──それをえげつないスピードで作り上げたってことですよね……?

石川:そうですね。

──「そうですね」って、ものすごくサラっとおっしゃいましたけど(苦笑)。

祖堅:でも、いつもそんな感じなので、当たり前といえば当たり前ですよ。

石川:あとはチームでやっているので、そこは助け合いの精神というか。

──チーム一丸となって突き進んでいったと。

祖堅:うん。今回は自分主導でやったというよりは、やっぱり3人で作った感がすごく強いんですよね。今までは曲作りだけすればいい状況まで自分がディレクションを進めた上で、2人に仕事を渡していたんですよ。でも、今回はその一歩手前から2人に入ってもらったので、3人で頑張った感じが結構強いかな。どうですか、お2人は。

今村:そうですね。曲作りもありましたけど、終盤になってくると、ゲーム内に実装とか音量調整とかを毎日スタジオに3人で篭ってやっていたので。

石川:たとえばカットシーンやムービーで流れるBGMを実装するときって、単純にBGMを再生するだけじゃなくて、シーンの盛り上げに応じて、楽曲自体の音量を1つひとつ編集していきます。たとえば、すごい巨大なボスが出てきたら、そこだけ音量を上げて再生を始めるとか。そういうのを全部手作業でやっていくんですけど、それがすごく大変で。

祖堅:今まで2人には曲を作ることをメインにやってきてもらったんだけど、今回で、実装がいかにめんどくさくて大変で、でもこれでいかに劇的にゲーム体験が変わるのかがわかってくれたんじゃないかと思って。



──「ゲーム体験ファースト」の要になる部分に取り組んでもらったという。

祖堅:そうです。だから、いい経験になっただろうなと思いつつ、まぁ、大変だっただろうなって(笑)。

今村・石川:ははははは(笑)。

今村:曲を作るよりも全然大変でしたね。

祖堅:それが分かってくれて僕は嬉しいです。2人には曲を作って終わりの人間になってほしくなかったので、そこから一歩先に進んで欲しかったというか。曲を作ることも大変なんだけど、ゲーム体験をよくするために、曲の先にある作業がどれだけ重要なのかを理解するのは大事なことだと思うので。

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