【インタビュー】新山詩織、10周年記念アルバムに強い意志「自分との戦いというか、吹っ切れた感もあります」

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新山詩織が7月5日、10周年記念オリジナルアルバム『何者 〜十年十色〜』をリリースする。アルバムとしては活動再開後にリリースされた『I’m Here』から1年3ヵ月ぶり。セルフプロデュース作品だった前作は新山詩織の核を露わにすべく、シンプルなアレンジが彼女本来の歌の美しさを極めていたが、今作『何者 〜十年十色〜』はバンドサウンドがメイン。心に刺さる歌詞と情感溢れる歌声をリズムが躍動させる。

◆新山詩織 画像 / 動画

デビュー満10周年を迎えて制作されたアルバムには『何者 〜十年十色〜』というタイトルが冠された。ここには、音楽シーンから一旦離れた約3年間の経験も歌詞にサウンドに昇華されている。“くだらない不満ばっかの⾃分 蹴⾶ばして 変わり者だっていいから、唄え”とはリード曲「何者」の一節だ。サブタイトルの“十年十色”の由来となる“十人十色”は、“人それぞれに好みや意見は異なり、一律ではないこと”を表す言葉だが、それを受け入れて大きく変化した新山詩織自身の10年でもあるのだろう。また、楽曲アレンジやレコーディングに参加した重鎮や気鋭ミュージシャンが、サウンド的な多様化を押し広げ、結果、収録された全9曲が個性を輝かせて際限ない。

「このアルバムが、もっとあなたらしくいられるきっかけになれたなら、とても嬉しいです」とは新山詩織の言葉だ。10年の集大成にして、新たな扉を開けた『何者 〜十年十色〜』について訊いたロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■正直な気持ちを言えば
■最初は大丈夫かな?って


──アルバム『何者〜 十年十色〜』は新山さんのシンガーソングライターとしての新たな面がうかがえる作品となりましたが、どんな作品をイメージして制作がスタートしたのでしょうか?

新山:今回はまず、リズムがしっかりした曲をいっぱい発表したいという気持ちがあって。そこに小さな心の傷だったり、ちょっとイラっとしたことだったり、そういう自分のダークな部分もストレートに出せたらなというのはテーマとしてありました。といっても、そこに何か特別なきっかけがあったわけではないんですけど、前アルバム『I’m Here』がアコースティックでシンプルなアルバムだったぶん、今回はガッツリと聴いてもらえる曲にしたいというところから始まったので。自然とそういう方向にいったのかなと思います。


──作品のキーとなる1曲目の「何者」が、ノイジーなバンドサウンドで驚かせてくれて。エッジーなギターのカッティングと新山さんの歌声も合うんだな、というのも新鮮でした。

新山:最初の自分のデモは、結構フォークロックな感じで。アコギのストロークとかカッティングで作っていたので、バンドサウンドであるけれど、ちょっと弱くはあったんです。ギターが刻んでいる感じとか、ちょっと走ってるような感じっていうのは、もともとイメージとしてあったんですけどね。それを大島こうすけさんのサウンドプロデュースで、さらにイシイトモキ (G) 君のキレッキレのギターや、森光奏太(B / dawgss) 君のいろんな楽器のサポートがあって勢いが増したかなと思います。

──中盤にある語りというかラップパートで、感情が露わになる部分が「何者」の肝でもありますが、あのパートはデモ段階からあったものですか?

新山:ラップ部分とその後の落ちサビみたいな部分は、制作のなかで大島さんとやり取りをしながら加えていったんです。これまで書けなかったわけじゃないけど、言葉としても、あえて書かなかったようなことを全部出した感じがありますね。言葉を掘り下げていって、あえてダークな部分を出すっていうのが、今振り返るとすごく濃密な作業の時間だったなって思います。

──「何者」がアルバムの1曲目となることで、作品の持つ勢いや新山さんの新たなクリエイティヴィティが伝わるんですが、この曲のように、言葉を尖ったまま露わにする、音楽に乗せていく、というのはご自身としてはどう感じていたんですか?

新山:正直な気持ちを言えば、はじめは躊躇したというか、大丈夫かな?っていう気持ちはありました。それは昔から新山詩織の音楽を聴いてくれる人に対してというところで。あとは普段はあまり口には出さないような言葉を書くということで、書いては消して、書いては消してを繰り返しながら、自分と対話しながらやっていたんですけど。自分というものを一皮むいて、新しい新山詩織をしっかりと出せるようにしたいなという気持ちで書きました。

──「何者」では曲を書いた段階から、その“変わろう”っていうテンション感はあったんでしょうか。

新山:そうですね、こんな自分は嫌だ、こんな自分じゃダメだっていうのは元々から書いていたし、根っこにはあったんです。だから今思えば、いけるんじゃない?っていうところがあったんだと思います。大島さんとの話もそうですし、自分の中のテーマとも重なるような映画をひたすら観たり、敢えて友だちの愚痴を聞いたりとか(笑)。そういうところから引っ張って書いてみたりもしました。

──ちなみにどんな映画だったんですか?

新山:ひとつは曲と同じタイトルの『何者』(2016年公開邦画)という映画だったり。人間関係がドロドロな映画を観たりもしましたね(笑)。


──そうやって心を燃やしていったんですね。この曲で始まって、果たしてどんなアルバムになるんだろうと聴き進めていったら、いろんなタイプの曲が並んでいて。まさにサブタイトルの“十年十色”なアルバムになっています。今作では、先ほどの大島さんをはじめ、たくさんのアレンジャーの方と組んだ作品でもありますが、人選はどのようにしていったんですか?

新山:大島さんは、「一緒にやってみたら、今までにないくらいパワーアップするんじゃないか」という気持ちがあってお願いさせていただくことになったんです。「Spotlight」や「Hate you」の編曲を手がけた黄勝日さんはジャズ/フュージョン好きで、前作『I’m Here』から一緒に携わってくれています。「Keep me by your side」や「約束」の編曲をしてくれた森光奏太君はライブのサポートもしてくれていたんですが、すごくファンキーなベースのイメージがあって。今回アレンジは、“この曲を奏太君がアレンジしてくれたらカッコよさそうだな”ということでお願いしました。

──「Spotlight」もすごくいいですよね。ジャジーな雰囲気もありながら、いろんな人の背中を押せるような、日々の賛歌にも聴こえてくる。着地が温かな曲になりました。

新山:「Spotlight」は電車に乗っていて、人間観察というか、いろんな人を見ていたときにふと浮かんだ言葉から始まっていて。ちょうど時間帯も夜で、みんな仕事終わりなのか、“疲れてるな”っていう感じの人や、“何か嫌なことがあったのかな”という感じの人とか、いろんな人が見えて。そのときになんとなく携帯に、“暗いなりに暗く生きてます”っていう歌詞の最初のフレーズをメモしていたんです。それは自分とも重なった部分だったと思うんですけどね。そこから、次の日くらいに歌詞をダーっと書いてできた曲です。

──そのフレーズからスタートすると、シニカルというか、ダークなものにも行きそうですけど。

新山:最初の自分のデモでは、今よりももうちょっとダークというか、淡々と進んでいく暗めな感じだったんです。だけど、この曲も制作のなかで、「もうちょっとサビを作ろう」という話があがって、サビが新たに加わったんです。デモ段階では、進んでいるようでそのまま一定方向の感じだったんですけど、黄さんと作業をするなかで、少し前へ前へ行けるような曲にできたらいいなってことになって、アレンジしていった曲ですね。

──先ほどの「何者」もそうですが、今回はサビへの意識が強く、より曲がキャッチーにもなっていますね。

新山:今までの曲にはないキャッチーさがあるかもしれないです。頭では、“みんなにも歌ってもらえるかな”っていう感じがあったので。

──自分だけでなく誰かにとっての歌にもなったら、という意識もあったからですかね。

新山:そうですね。一方的に届けるというよりは、誰かと一緒に「こんなこともあるよね?」って言いながら歌えたらいいなって、そういうイメージはありました。

──そうですね。“共感”というものを大事にされていたり、“これ日常あるあるだよね”っていうところで手をつなぐことのできる曲が多いと思いました。

新山:ありがとうございます。

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