【インタビュー】舐達麻が音楽で叶えたい夢「現時点でもう夢の中にいる」

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音楽デジタルディストリビューション・サービス“TuneCore Japan”10周年を記念したアワード<Independent Artist Awards by TuneCore Japan>が2023年6月9日に開催、インディペンデント・アーティストの活躍がさまざまな観点から表彰された。TuneCore Japanが保有する世界185ヶ国、55以上の音楽ストアのデータをもとに11部門にわたりアーティストと作品が選出されたこの授賞式において、フィナーレとしてグランプリが発表された部門が「Hero of the Decade」。全ての音楽配信ストアでこの10年間最も再生されたアーティストを表彰する部門であり、Tani Yuukiがグランプリに輝いた(リンク:https://www.tunecore.co.jp/news/432)。

今回BARKSは、この「Hero of the Decade」にノミネートされたアーティストの1組である舐達麻に会場で話を聞くことができた。まさに彼らは、圧倒的な存在感を放つジャパニーズ・ヒップホップシーンのヒーローと言える。このご時世にもかかわらず、自分達の人生と音楽に対して真摯であるがゆえに忖度などないリアルなリリックは、どこまでも自由。神がかったソウルフルなビートと相まった彼らの楽曲は、ビル・エヴァンスの「美と真実だけを追求し、他は忘れろ」という名言が似合うようにとても芸術的だ。インディペンデント、つまり自立したマインドで音楽を自由かつストイックに発信し続ける彼らに価値観や夢を尋ねた。

  ◆  ◆  ◆

──「Hero of the Decade」にノミネートされた感想から聞かせてください。

賽 a.k.a. BADSAIKUSH:グランプリじゃねぇんだ。

──私も思いました。実際、日本のヒップホップシーンの圧倒的ヒーローですから。

BADSAIKUSH:よーく書いておいてください。



── TuneCoreの10周年を記念して今回のアワードが開催されたわけですが、舐達麻の10年を振り返ってみるとどうでした?

DELTA9KID:10年前は逮捕されてたっすね。

BADSAIKUSH:今とあんまり変わらないですよ、いまだに警察に捕まったりするし。歳だけ重ねたっていう感じです。

──ファンの声がたくさん届くようになったと思うんですけど、モチベーションになっていますか?

BADSAIKUSH:あいつら誰にでも言うんで(笑)、なんとも思わないです。本当に俺にしか言ったことないんだったらネックレス1本あげるけど。

──(笑)。私が舐達麻をなぜヒーロー視しているかというと、音楽にあったはずの自由というものを取り戻してくれた存在、だと捉えているからです。

BADSAIKUSH:それは絶対にそうですよ。

──ライフスタイルが全然違うはずなのにこんなに惹かれる理由は、言いたいことを言うという姿勢にもあって。音楽の中だと言いたい事が言えるという感覚ですか?

G-PLANTS:いや、日常生活から言いたいこと言ってますね。

BADSAIKUSH:俺たちの自由度に関しては、音楽よりも日常のほうがひどいですね。音楽は、1くらい(笑)。

G-PLANTS:でも、そういう日常だからこそ、ライブのときに自分が言いたいことが韻を踏んでカッコいいフロウになっていくと思うんですよ。常に言いたいこと言ってないやつが音楽で言いたいこと言えるかっていう話にも繋がると思います。

──そうですね。



BADSAIKUSH:音楽の自由を取り戻す的な話をするのであれば、この国もうヤバいじゃないですか? マジで規制ヤバいんで、俺らはそこはぶち壊そうとしてるつもりです。言論の自由だったりが北朝鮮的な流れになってると思う。例えば俺はマリファナはいい音楽には欠かせないと思ってて、もちろんやってない人もいますけど、特にこういう分野っていろんなことが隠されてるんですよ。そういうのマジで気持ち悪い。だからぶっ壊してやろうとは思ってるけど、そのために特別に何かを発言しようとかはしないです。そういう風潮には乗らずに、自分達がやりたいようにやるっていう姿勢を貫けばぶっ壊していくことになると思ってるんで。マジで気持ち悪いそういう風潮に気づいている奴もいるけど、気づいてない奴も出てきちゃってて、これが普通だと思ってる層もいるじゃないですか。そんな世の中見てたら悪態しか出ないですよね(笑)。

──じゃあ、ご自分達としては舐達麻の音楽は真っ当な表現だと捉えてるんですか?

BADSAIKUSH:そうです。過激なこと言ってるとか言われるけど、普通のことしか言ってないです。

DELTA9KID:日常の中にある言葉だよね。

──なるほど。あと舐達麻の音楽に惹かれる理由は芸術性です。最新曲の「ALLDAY」だって、あんなにループ感のあるビートなのに5分以上ずっと聴かせてくる。フラッシュアイデアのつぎはぎのような曲も出回ってる世の中ですけど、パッと浮かんだアイデアの先にあるもの、作り手の人生や、その人が限界と向き合った時に出てくるものが聴きたいし、それが音楽だと思っているんですけど、舐達麻の音楽はそういう感覚を取り戻せるんですよ。


BADSAIKUSH:それは嬉しいですね。その体験をしてもらうのが生き甲斐です。自分でも、書き終わった時に自分のリリックに対してそういう気持ちになるし。

DELTA9KID:俺も留置所とかで、自分でやべぇリリック書いてるなって思いました。雄太(BADSAIKUSH)のも本ちゃん(G-PLANTS)のも限界超えてきてるなって感じますね。俺も、音楽で限界の先が見たいと思ってます。

BADSAIKUSH:自分もそういう感覚味わいたくて、曲作りに中毒になってるっていうか。

──だから音楽がやめられない、作り続けると。

BADSAIKUSH:はい、まぁでもちょっとそこはまた理由が違って、俺は音楽をやるために生まれてきたとすら思ってるので。音楽やり始めた時からそう思ってるから、売れても売れなくても当然やり続ける。なんなら俺ら、ずっと売れないと思ってたんで。俺らからしたら、このタイミングで売れるの早いな、って思いましたからね。

──どのタイミングで売れたと実感したんですか?

BADSAIKUSH:本当はもう一人いて4人で活動してたんですけど、そいつが刑務所に行っちゃって、俺もこいつ(DELTA9KID)も刑務所行っちゃったんで、1年くらい本ちゃん一人だけになったんですよ。その時に本ちゃんが作ったビデオがそこそこ回って。何万とかだったんですけど、俺たちがそれまで出した曲の中では圧倒的に回ってたから全国に認知されてる感じがした。曲もカッコいいと思ったし。別にその時に「売れた」とかは全く思わなかったんですけど、俺が出てきた後にすぐこいつ(DELTA9KID)も出てきて3人で作った「LifeStash」が、いきなり何十万回いったんですよ(2018年10月にMV公開)。その時だよね?

G-PLANTS:うん。他とは伸びが違ったんですよね。


BADSAIKUSH:その何ヶ月か後に出した「FLOATIN'」が、「LifeStash」よりさらにすごい伸びた。それこそ、その2ヶ月後くらいのTuneCoreの入金が今までと全然違って。でもこんなの絶対まぐれだ、奇跡だって思ってたら、金額がどんどん増えていった。途中まではその金に手を付けなかったんですよ。一時のものだと思ってたし、他で別に生活できてたし。けどそれがずっと続いて、半年くらい経った時に「あ、もうこれで食っていけるのかもしれない」って、ちょっと状況変わったなって思ったっすね。


──あの時の勢いすごいよく覚えています。最近の制作状況はどうですか? 新しいアルバムがそろそろ出る頃かなって思ってるんですけど。

BADSAIKUSH:多分、今年アルバム出せると思いますよ。曲もがっつりありますし、もちろん制作もしてますし。絶対一番いいアルバムにはなります。

──みなさんの作品は常に最新作が更新してきて、新曲の「ALLDAY」も「BLUE IN BEATS」も、また超えてきた、また新しいなって感動しました。

G-PLANTS:それは嬉しいっすね。

BADSAIKUSH:もっと頑張ります。


──曲作りにおいて最近刺激を受けてることはありますか?

BADSAIKUSH:それはやっぱり二人のリリックですね。曲は常に作ってるので、できあがったばっかりの曲を聴いて「こいつなかなかいいこと言うじゃないか」ってカマされると、こっちもいいもの作りたくなる。あとはビートメーカー達が送ってくれるビートだったり、普段の作ってる姿勢ですね。近くにいる奴らも結構おかしくて、本当にずっと作ってるし作り上げていく作品もすごい多いんで、見習わなきゃって思います。

──ちなみに、「ALLDAY」の最初の何十小節もあるバダサイさんのバースは一気に書き上げたんですか?

BADSAIKUSH:いや、一気じゃないですよ。だいたい一回で書き上がることはないです。あれは半年くらいで、「BLUE IN BEATS」は2年かかってますから。他の曲と並行してっていう感じですけど、できあがってない曲のことは常に考えてますね。



──アルバム楽しみにしています。では最後に、音楽で叶えたい夢をそれぞれ教えてほしいです。

DELTA9KID:自分達の曲によって警察に目つけられたりしてるんで、音楽で政府関係者に認められたいですね。「こいつは素晴らしい行いをした」って国民栄誉賞とか紫綬褒章とか、一個欲しいっすね。

BADSAIKUSH:せまい。それだったらアメリカとか、日本より上の国に評価されたほうがいいけど、じゃあどこの国が、誰が一番上なのかっていう話になる。誰かが決めたことで自分が優越感に浸るのは俺は嫌だね。

DELTA9KID:間違いない。追われ過ぎてきたわ(笑)。

G-PLANTS:俺は、これっていう夢はないですけど、マリファナの歌を歌う人じゃん!って全国民が知ってくれたらやってきた甲斐があったなって思いますね。

BADSAIKUSH:いや、そうなってもなんもならないよ。だってどのラインまで行けば人からのプロップスに満足する? 国民全員に認知されたら? 8割ならいい? もし実現しても絶対に嬉しくないでしょ。むしろ「うるせぇ」ってなる。まぁ、誰もが知ってる存在になることは嬉しいけど、本当はそんなものいらなくない?

G-PLANTS:確かに。

BADSAIKUSH:俺は普通に、家族が平和に暮らせてる、みたいなことが夢だと思いますけど、音楽で叶えたい夢は何ですかって聞かれたら、もう今が夢の中なんですよ。音楽の原動力とかよく聞かれるけど、逆にみんなはいつも何してるの?って思う。俺たちは時間さえあればリリック書くんです。俺たちのリリックのレベルが今いくつかわからないですけど、一生ずっとレベル上げていくような感覚。俺たちはラップだけど、例えばこうしてインタビューをしてくださって編集することが超好きだとして、何個も編集しなきゃいけない原稿のストック抱えてるとしたら、いつでもその作業ができて自分のレベルも上げていけるわけじゃないですか。そうやって育てられるものがある時点でめっちゃ幸せというか。俺たちは音楽だけど、それは絵でも小説でも映画でも料理でも、どんな分野でも言えることだと思うんですよ。しかもそれが人に評価されて金稼げて生活できるって、もっと夢のよう。だから、現時点でもう夢の中にいるんですよ。

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取材・文:堺 涼子

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