【インタビュー】伊波杏樹、「私が私でいられるアーティストに」
▪️カラフルな私を見せていけたらいいな
──歌い方も相当工夫されたのでは?
伊波:歌い方に関しては曲に委ねて歌ったので、あまり気にしていないかもしれません(笑)。思い描いた2色の女性を自由な感覚で歌いましたね。
──そうなんですね。今回の収録曲3曲それぞれ歌い方が全く違うので、緻密に計算して歌い分けたのかと思っていました。
伊波:普段から歌い分けをしているという意識はあまりないんですよ。というより、見えている景色や人が変わっているという方が正しいかも。例えば、2曲目の「愛したい毎日」は、1人ぼっちのイメージなんです。だからレコーディングブースもすごく狭く感じていました。河川敷をポケーッと夕焼けを見ながら歩いたり、四つ葉のクローバーを探したり、夕日に過ぎていく電車の音を聞いていたり、1人ぼっちで夕暮れの河川敷を散歩している風景が浮かんでいました。そこから“解けたら 何度でもまた”のあたりで、フワーッとファンの方々が現れたり。
──事前にその風景を決めるのではなく、浮かんでくるんですか?
伊波:「愛したい毎日」の場合は、曲をいただいたときにすぐその風景が浮かびました。私、音を色で認識しているみたいなんです。例えば、カンカンカンっていう踏切が下りる音を聞くと、赤い光が連想されるじゃないですか。それがどんな曲を聴いても起こるんです。生きている中で、音と視覚、色彩を結びつけることが多いのかもしれません。
──だから少しセンチメンタルな「愛したい毎日」は夕暮れという景色になったんですね。一転して、3曲目の「Discover」はレゲエ調のハッピーな曲。作詞・作曲どちらも伊波さんが担当されています。
伊波:これ、普段なら絶対に書かない言葉を使っているんですよ。このお仕事をしていると、ありがたいことに憧れとか尊敬の念を抱いて応援してくれる人もいたり、時にはヒーローのように捉えてくださる方がいるんです。そんな中、「神頼み」とか「バカやっても」とかあんま言わないよな、みたいな。もっと人を鼓舞するようなメッセージ性のある言葉を選ばなくてはだと思いつつ、出だしからあえて「神頼み」という言葉を使いました。というのも、世の中に対して「節度は守ろうよ」というメッセージを打ち出したくなって。家で1人で曲を作っている時、テレビからあまり良くないニュースが聞こえてきたんです。そのほとんどがSNSの発展から生まれた事柄で、それを見ているときに「それはちょっと度が過ぎるな」とか「現代って、こんな人が現れるの!?」と思って。それで「バカをやるにしても節度は守んなさいよ」と言いたくなってしまったんです。それをロックな楽曲に乗せると強すぎるので、明るく軽快な音楽に乗せることで聴いてもらえるのかな、と。伊波杏樹としては、だいぶチャレンジングな歌詞になりました。
──作詞も作曲もされる伊波さんにとって、自分で作った曲と提供曲を歌う上での違いはあるのでしょうか?
伊波:あまり違いはないかもしれませんね。いただいた曲の景色に寄り添っていくことが好きなんですよね。役者の仕事もそうだと思っていて。「あなたにはこういう役をお願いします」とか「こういう風に歌ってください」とか、明確なディレクションがある中でやってきたので、オーダーに応えることは苦ではないですし、いただいたものに対して考えを巡らせる作業が好きなんです。むしろ自分で作った曲に対しては、もっとディレクションしてほしいと思ってしまうタイプかもしれません。音楽的な軌道修正をしてほしいというか。「この音程はこっちにしてみたら?」とか「そこまで気だるさを出さなくてもいいんじゃない?」というエッセンスを足してもらえる方が、なるほどと思えますし、教えてもらいながら作品を作っていくのがとても好きです。
──楽曲を作れてしまう方なので、もっとご自身の感性を全面に出すことがお好きなのかと思っていました。
伊波:あはは(笑)。人に寄り添う方が好きですね。それは舞台をやっている癖なのかもしれないです。演出家の方からダメ出しをもらって1日考えて、次の日の稽古でやってみても昨日のダメ出しとは内容が変わる、なんて日常茶飯事です。でもそれは当たり前のことで“昨日の芝居の昨日のダメ出し”でもあるし、“今日の芝居が新しい発見につながるダメ出し”であるわけなので。それがあって作品が出来上がってゆく。私は怒られることよりも、考えや想いに応えられないことの方が苦痛なタイプです。
──お芝居の経験がアーティスト活動にも繋がっているんですね。いろんな色・武器を持っている伊波さんだからこそ、3曲全くテイストの違う楽曲が収録されています。これだけ多様性のある楽曲を収録されたことに狙いがあったりも?
伊波:それがないんです(笑)! 「レゲエ曲できた」ってスタッフさんに投げたら、すぐに「いいじゃん!」と採用されましたし、周りがクリエイティブに対して自由なんですよ。「伊波杏樹はこうあるべきだ」というより「こうあってもいいじゃない?」という方が多いので、結果3曲とも全く違うテイストになった感じです。リスナーの方にも七変化する部分を楽しんでもらいたいです。
──YouTubeで公開されているトレーラーのコメントを拝見したんですけど、ファンの方々が「これぞ伊波杏樹!」というようなことを書いてらっしゃって。「これぞってどれ!?」と思っていたのですが、一つはそのいろんな色が出せることなんですね。
伊波:そうかもしれないです。役者を始めて今10年目なのですが、ひとつにとらわれず、いろんな世界で様々な役として生きている姿をファンの方々に見せたいという目標をずっと持っていまして。私自身、舞台上の役者さんや、声で何者にもなれる声優さんに助けられてきた人生でしたから。「こう思っていいんだ」「怒っていいんだ」「泣いていいんだ」と教えてもらうことで、心に活力を注いでもらったんですね。やっぱり、一生、心は豊かでいたいじゃないですか。コロナ禍以降、閉塞感を感じたり、苦い経験をしたりした人も多いと思うんです。そんな時こそ、エンターテインメントの世界に連れて行くのが私の役目。役者としてもアーティストとしても、私が助けられたように、私も誰かを支えられる存在でありたいと思っています。そのためにも、「カラフルな私を見せていけたらいいな」を目標に!!
──様々な経験と努力があった今、伊波さんは意識的にインプットしていることはありますか?
伊波:1〜2年前くらいから絵本を読むようになりました。私、こういう性格なので心がいっぱいいっぱいになることが多いんです。本当は小説とかを読んで物語に没頭したりの方がいいのかなと思っていたのですが、まとまった時間も作れないし……。絵本ならすぐ読めると思って、読んでみたらボロボロ泣いてしまったんですよ。特に『あなたのすてきなところはね』っていう絵本。あなたはこの世界にちゃんと必要だし、必ず見てくれている人がいるよというメッセージの絵本なんですけど、読んだ瞬間、心の容量が空いたんですよね。それから落ち着きたい時や安心したい時、インプットの一種として絵本を読んでいます。
──絵本からも「音を風景で捉える」というスキルが磨かれているのかもしれないですね。
伊波:言われてみたら、そうかもしれないですね! あとは舞台を観に行きますね。『ESORA』という作品が特に印象に残っています。ここ最近だと『僕のヒーローアカデミア」 The “Ultra” Stage 最高のヒーロー』。「エンターテインメントとはずっとこうあって欲しい」と強く心揺さぶられ、感動しました。
──どういうところでそう感じたのでしょう?
伊波:ひとつは、全てのキャスト、スタッフさんの熱い心に。もうひとつ鮮明に感じたのが、私が座った席が照明卓の隣だったんですね。なので照明さんのお仕事がより分かりやすかったわけですが、彼らがスイッチをポンと押すと、キャストにサスがパンッと当たるわけです。そっと押したかと思えば、ジワーと照明が入る。そういった様子を感じて観劇してたらわくわくして。なんて尊いお仕事なんだろう、と。普段、私たちは舞台に上がっている側なので細かく知りえなかったですが、光を操ることで舞台上に本当にヒーローが現れたように演出してくれてると改めて実感しました。と同時に、照明さんだけでなく、舞台に関わる全員がこうやってひとりひとり何かの演出家なんだなと思ったんです。
──そういった捉え方ができることが素敵です。
伊波:最近、私のファンの方も「あそこの照明が良かった」とか「あの光が良かった」とかの言葉をいただくことがあって。こういう舞台ならではの魅力もあるよってもっと広まってほしいといつも思っています。この間の東名阪ツアーでも「あそこのミラーボールがキレイだった」「あの時、映っていた伊波さんの影がキレイだった」と言ってくださる方がたくさんいました。「私のファン方々にも、ステージを楽しむ視点が芽生え増えている!」と嬉しかったですね(笑)。
──ファンはアーティストや役者に似るって言いますもんね。
伊波:長年、時間を共有していると感性が似てくるのかもしれません。「みんなもとうとう照明や演出に目をつけるようになったか」と思いました(笑)。
──では最後に、この先どんなアーティスト像を作り上げていきたいか教えてください。
伊波:私が私でいられるアーティストでありたいです。それは楽しむことはもちろん含まれているのですが、伊波杏樹が伊波杏樹でいられる場所を自分に作ってあげたいです。例えば、声優でも役者でも自分役で出演することはほぼないわけですから、そんな活動をしている私がアーティストデビューをするのであれば、ありのままの自分でいられる場所であってほしいと思います。今まではファンクラブがその1つで、ファンの方との絆があったからこそ安心して自分を見せていましたし、歌ってみたい曲を自由に歌ってステージを作ることができていました。そして、東名阪ツアーを経て、「これが自己表現というものか」と初めて気付いたんですね。これまで何かを表現することが幸せで、何者でもない自分でいることが一番楽しいと思っていたのですが、「伊波杏樹」そのものを知ってもらうことって贅沢だし、大切なことなんだなって。なので、ここから先は「私が私でいられる場所があるから何者にでもなれる」のだと感謝を忘れず、進んでいきます。それを心構えとして進んでいきたいです。
取材・文◎高橋梓
リリース記念生配信
生配信URL:https://www.youtube.com/watch?v=Maz0O_Ey1SA
ぽしゅら:Youtube Live 配信終了後、20:00~20:10開始予定
※Inamin Town会員限定生配信
シングル「Killer Bee」
¥2,000(税込)
収録曲:
1. Killer Bee(作詞:伊波杏樹 作曲・編曲:馬渕直純)
2. 愛したい毎日(作詞:川崎里実 / 渡邊亜希子 作曲:川崎里実 編曲:YUKI KANESAKA)
3. Discover(作詞・作曲:伊波杏樹 編曲:Hayato Yamamoto)
各バージョン特典(特別メッセージ入り(複製)アナザージャケット)取り扱いECショップ(Amazon除く):https://www.sma.co.jp/s/sma/music/KillerBee#/
伊波杏樹 配信リンク:https://bio.to/anjuinami
▲ニューシングル「Killer Bee」ジャケット
▲特別メッセージ入り(複製)アナザージャケット
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