【ライブレポート】奥田民生、<ラビットツアー 〜MTR&Y〜>広島で堂々ファイナル
奥田民生による全国ツアー<奥田民生2023 ラビットツアー 〜MTR&Y〜>のツアーファイナルが、広島県・上野学園ホールで行われた。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。
◆奥田民生 画像
奥田民生(以下OT)の全国ツアー<奥田民生2023 ラビットツアー 〜MTR&Y〜>が、3月26日(日)、広島上野学園ホールでファイナルを迎えた。1月28日(土)千葉県・市原市市民会館からスタートした、全国13ヵ所・14公演のツアーの締めであるこの日は、OTの地元ということもあってか、当日販売の立見券売場に長い行列ができる大盛況となった。
BGMが止まり、客電が消えると、ベース小原礼が、片手に紙コップを持って出て来る。その中身を飲み干すと、振って水を切り、伏せた形で手元のテーブルに叩きつけて「♪コッ、コッ、コッ、コッ」とリズムを刻み始める。続いてOTがステージに登場、そのリズムに合わせてギターを弾き始め、「太陽が見ている」を歌い出す。AメロとBメロを一回り歌う間に、キーボード斎藤有太とドラム湊雅史が現れて、2コーラス目に入るところから演奏に加わる──このツアーは全箇所、そのように始まった。曲の最後は、小原礼のコップの音だけに戻って終わるのも、全箇所共通である。
そのコップの音が消えないうちに始まった「無限の風」では、OT、間奏でステージ中央に出て、ギターソロを聴かせる。そして、自身のボーカルから始まる「月を超えろ」へ──と、「太陽」「風」「月」がテーマの3曲を、曲間なしでプレイしていく。
今日、広島東洋カープの連敗が7で止まったことに言及し、「広島のみなさん元気ですか。改めまして、先月もここに来ました吉川晃司です」と挨拶し、今日はWOWOWの映像収録が入っていて春先に放送されることを伝え、メンバーを紹介したMCを経て、「ライオンはトラより美しい」へ。途中で小原礼もリードボーカルをとったこの曲の最後、ベース・ドラム・キーボードの音が止まっても、OTはひとりでギターリフを弾き続ける。
続いては、『29』『30』の後に出たミニアルバム『FAILBOX』(1997年)から「カヌー」。OTの楽曲ではめずらしい、性愛を歌ったこの曲が、ツアーで披露されるのは久々である。
客前ひとり多重録音ツアー「ひとりカンタビレ」の5本目でレコーディングされた曲だが(2010年4月29日・渋谷PARCO劇場)、同年のMTR&Yのツアーからすっかりこのバンドのレパートリーになっている「音のない音」を経てのMCでは、カープの新井貴浩新監督から花が届いていることを伝えるOT。「野球は大変ですよね。サッカーは週末、でも野球は毎日」という振りから、「♪毎日愛のボートで」と、「愛のボート」を歌い始める。全国各地で、何かしら「毎日」に関連したことを言ってからこの曲を歌う、というのも、このツアーのルールになっていた。アウトロでは、各メンバーがインプロを繰り広げる。
次の「マイカントリーロード」で、イントロとアウトロで吹くハーモニカが、OTにとってこのツアー最大の難関だったようで、この日は、ハーモニカホルダーを身につけながら「最後まで慣れなかったやつ」と自白した。
兎年だからつけたツアータイトル『ラビットツアー』にちなんで、ステージは月面で演奏している設定で、背景の遠くに地球が見える。斎藤有太と湊雅史が闘うようなアドリブを聴かせた「白から黒」では、その宇宙が星空になる。
OTがメンバーに「いいよ!」と合図して始まった「明日はどうだ」で、ライブは一度目のピークを迎えた。OT、この曲でもステージ中央に出て、ソロを弾きまくる。次の「KYAISUIYOKUMASTER」では、イントロから最後まで、シンプルで攻撃的なギターリフが続いた。
OTとしてはめずらしく、シングル・リリースされた時(2005年)カップリングにクラブ・ミックス・バージョンが入っていた「トリッパー」と、客席が「明日はどうだ」に匹敵するテンションになった「フリー」と、OTのボトルネック奏法が冴えまくる「まんをじして」の3曲は、曲間なしでたたみかけられる。
ヘリコプターの音のSEから始まる「イナビカリ」で上野学園ホールの温度を上げ、まさに地を這うような「手紙」で一度ドスンと下げ、ユニコーンの「チラーRhythm」と並ぶOT流ダンス・チューン「御免ライダー」でまたグッと上げてからの本編ラストは、「最強のこれから」。2021年のMTR&Yのツアーでは、1曲目に持ってきた曲である。客前ひとり多重録音ツアー「ひとりカンタビレ」の初日(2010年3月15日)に、渋谷DUO MUSIC CHANGEで作られたこの曲が、MTR&Yの強靭なバンドサウンドで生まれ変わるさまを、今年もオーディエンスに、たっぷりと食らわせてくれた。
このツアーはセットリストが2パターンあって、交互にやって来たが、今日は両方をやった、だから普段より2曲多い、ということをOT、アンコールで明かす。普段は13曲目が「フリー」か「まんをじして」のどちらかで、15曲目が「手紙」か「最強のこれから」のどちらかなのだが、今日はどちらもやった、ということだ。やってみての本人の感想は「ものすごい疲れる」とのこと。
ここで、開演前にロビーで愛想を振りまいていたスタンから、ツアーの終了を祝う花束の贈呈あり。スタンとは、広島本通のショッピングビル、サンモールのイメージキャラクターで、サンモールは2022年に50周年を迎えたのを記念して、ユニコーン・OTと、さまざまなコラボを行っている。このライブの時期には<奥田民生×三浦憲治 タイムトラベル写真展>が無料で開催されていた。また、上野学園ホールのロビーには、OT直筆の新井監督率いるカープへの応援メッセージが掲げられた。
そして、アンコールでプレイされたのは、「さすらい」と「快楽ギター」。ツアー途中から、ボーカルの一部をオーディエンスにまかせることが可能になった「さすらい」では、OTの「ひろしまー!」というコールに応えて、見事なシンガロングが起きた。ツアー初日からこの日まで、イントロを特別に長くしたスペシャルバージョンで演奏された「快楽ギター」では、オーディエンス、「それぞれ勝手に歓声を飛ばす」という、熱狂的な空気になった。
OTが、長い長いお辞儀をしてからステージを下り、客電が点いて終演のアナウンスが流れても、ダブルアンコールを求める手拍子は収まらなかった。で、2分ほどそのまま手拍子が続いた後、自然に、大拍手に変わった。
取材・文◎兵庫慎司
撮影◎三浦憲治
■セットリスト<奥田民生2023 ラビットツアー ~MTR&Y~>
1. 太陽が見ている
2. 無限の風
3. 月を超えろ
4. ライオンはトラより美しい
5. カヌー
6. 音のない音
7. 愛のボート
8. マイカントリーロード
9. 白から黒
10. 明日はどうだ
11. KYAISUIYOKUMASTER
12. トリッパー
13. フリー
14. まんをじして
15. イナビカリ
16. 手紙
17. 御免ライダー
18. 最強のこれから
EN1. さすらい
EN2. 快楽ギター
■WOWOW『奥田民生2023 ラビットツアー ~MTR&Y~@広島』
放送局:WOWOWライブ WOWOWオンデマンド
放送日:5月7日(日)午後 9:30
出演:奥田民生、ほか
収録日:2023年3月26日
収録場所:広島 上野学園ホール
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