【コラム】ぼっちぼろまるが描く、ノスタルジーの枠を超えた現代の楽曲

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地球外生命体が地球において規格外の展開を巻き起こすのは必然なのだろうか。TikTokで爆発的にヒットした「おとせサンダー」はサビではなくAメロのキャッチーさが注目を集め、そこからほどなくして4年前の楽曲の「タンタカタンタンタンタンメン」に乗せてチャイナ服でダンスをするムーブメントが発生。ダンスとの相乗効果で注目を集めるというスタンダードなバズり方でありつつも、端々が異端だ。それは彼の音楽に宿るムードともよく似ている。


彼の名はぼっちぼろまる。音楽系Vtuberとして2016年からYouTubeを中心にオリジナル曲を公開し、2018年より精力的にリリースを重ね50曲以上の楽曲を発信してきた、ぼっち星生まれのシンガーソングライターだ。最新作『ぼっちのうたI』はタイトルに“ぼっちのうた”シリーズのナンバリングの“I(アルファベット大文字のアイ)”、メジャー1作目のEPという意味での“Ⅰ(ギリシャ数字の1)”、ファンへの愛を表す“I”の3つの意味が込められている。彼にとって節目の作品とも言えるだろう。

ぼっちぼろまるのルーツは、BUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATION、RADWIMPSといったオルタナやロック、パンクを独自の解釈で表現した2000年代ギターロック。そこにVOCALOIDなどに代表される自由度の高いインターネットの文化、2010年代に生まれたガラパゴスな邦ロックの成分などを掛け合わせたアレンジに、キャッチーなワードセンスで描かれた物語性の高い歌詞を乗せている。バンドサウンドという基盤を保ちつつジャンルレスの音楽を作り続けるその手腕を発揮させた楽曲は、『ぼっちのうたI』にも揃い踏みだ。

前述の「おとせサンダー」と、リアレンジヴァージョンのメジャーデビュー曲「シン・タンタカタンタンタンタンメン」はまさにその代表格。四つ打ちビートにキャッチーかつ荒々しいギターリフが走り、聴き手の高揚を高めていく。また、どちらにも共通しているのが、歌詞が漫画的であるということだ。「おとせサンダー」なら《稲妻にうたれました》や《席替え》というワードから、好きな人との接点が生まれることを願う男子学生の姿が思い浮かぶが、その後に意中の相手と親しげな男性の存在が描かれ、さらには《よく調べりゃあの男/闇社会で有名ブローカー》というまさかの展開に。「シン・タンタカタンタンタンタンメン」も《学校も休みにならないし/いっそデスゲーム始まらないかな》など、退屈で悶々とした少年の妄想の世界へといざなわれる。


歌詞で劇が繰り広げられるのは、BUMP OF CHICKENの藤原基央が「ラフ・メイカー」や「K」などで見せてきた手法だ。ぼっちぼろまるはその影響を受けつつ、10代の心をくすぐる少し危険でブラックな要素を交えた世界観を描く。それは現代の少年漫画や若者から支持を集めるゲームの世界と近い。現に「アソボー行進曲」はプレイステーションTVCM「みんなアソボー」編の書き下ろし楽曲。若者はもちろん、大人の胸のうちにもくすぶる子ども心を刺激する無邪気なポップソングに仕上がっている。


これらの性質からひとつの仮説を立てたい。それは彼はこれまでに歩んできた自分の人生の一瞬一瞬をとても大事にしているのではないか、ということだ。「おとせサンダー」の邦ロック感然り、平成のガラケー文化を彷彿とさせる「パカパカパカリ」然り、エッジの効いたワードやラップが印象的な「ドカンバキャンボコン」然り、それぞれ角度や手法は違えども、すべて彼の感情が高まった瞬間が反映されているような気がしてならない。その当時の彼が得た経験や感情が、現在進行形で彼のパワーになっているからこそ、ノスタルジーの枠を超えた現代の楽曲になっているのだろう。


ぼっちぼろまるのユーモアが発揮された楽曲が多く揃うなか、彼の核心に触れるのがラストを飾る「天使と悪魔」だ。歪んだギターとシンプルかつドラマチックなバンドサウンドはASIAN KUNG-FU GENERATION直系で、“天使と悪魔のささやき”のようにモチーフを置いて葛藤や成長、心象風景を描いていく手法はBUMP OF CHICKENの血を感じる。彼がこれまで歩んできた軌跡、そのなかで湧き上がった心情、音楽から受けた衝撃や感動を凝縮した楽曲で今作が締めくくられるのも、このEPがひとつの節目であることを意味しているように思う。

彼は中学の卒業文集に“メジャーデビューがしたい”と書いたという。少年時代からずっと胸に抱えていた夢を、時間を掛けてじっくりと叶えたのだ。これまでの人生とこれからをつなぐ記念碑ともなる『ぼっちのうたI』。“これがぼっちぼろまるだ”という意味での“I(=わたし)”として受け取りたくなる作品が完成した。

文◎沖さやこ


ぼっちぼろまる『ぼっちのうたI』

2022年11月30日発売
CD:1,870円(税込) ‐ AICL‐4307
1.おとせサンダー
2.シン・タンタカタンタンタンタンメン
3.パカパカバカリ
4.アソボー行進曲
5.ドカンバキャンボコン
6.天使と悪魔
※初回仕様限定:アナザージャケット封入

◆ぼっちぼろまるオフィシャルサイト
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