【インタビュー前編】ЯeaL、Ryokoが明かす6ヶ月連続デジタルシングルの胸の内

ポスト

今年で結成10周年を迎えるЯeaL。現役女子高生バンドとしてメジャーデビューして以降、「カゲロウ」「未来コネクション」「強がりLOSER」と大型アニメのタイアップでヒットを放ってきた彼女達は、2020年12月には所属事務所、レーベルから独立し、3人で歩み始めることに。そして結成10周年を迎える今年は、6ヶ月連続でデジタルシングルをリリース。これまでとは違う表情を見せる楽曲達を次々に発表してきた。
今回は、バンドのソングライターであるRyoko(Vo.&Gt.)に、今年発表してきたデジタルシングルについて話を聞いたのだが、それらはすべて、ここ数年のコロナ禍──いや、それ以前から、彼女が抱え続けていた苦悩から生まれてきたものであることを話してくれた。12月17日にSpotify O-WESTにて開催される『ЯeaL Яock Яevolution vol.10 10th Anniversary』も目前に迫る中、その胸の内をRyokoが明かす。

■今までは思いっきり刺すことしかできなかったけど
■優しく刺すこともできるようになったんです


──7月から6ヶ月連続でデジタルシングルを発表されていますけども、リリースとしては2021年5月に発表した「Brilliant escape」振りになりますね。

Ryoko:2021年は、曲を作って出してみるというのはどういうことなのか?と思ってやってみたんです。事務所をやめて独立してから全部自分達でやっているので、楽曲を出すときにはどういう手続きが必要で、どれだけお金がかかるのかっていうのを何も知らなかったんですよね。高校1年のときからメジャーの事務所にいたので、何も知らないところから半年ぐらいかけていろいろ準備してやってみて。で、2022年の頭に12月に(Spotify)O-WESTでワンマンすることを決めていたので、そこに向けて6ヶ月連続で新曲を出していこうと。言い始めたのは、私と、アートワークのディレクターをしてくれているショウマさん(ヤスカワショウマ)で、「作るか!」という話になったところからだったんですけど。

──メンバーのみなさんに6ヶ月連続で出そうと思うと伝えたときは、どんなリアクションでした?

Ryoko:「つらいのお前やで?」って言われました(笑)。作詞も作曲も編曲も自分でやっているんですよ。結局、生む苦しみがあるのは私だけなので、「Ryokoがやれるならいいんじゃない?」っていう。逆に「あなたやれるんですか?」みたいな(笑)。

──(苦笑)煽られてます?

Ryoko:いや(笑)、去年1年間は私がダメになっていたので。それもあって「ほんまにできるの?」「書けるの?」っていう感じでしたね。でも、やります!って。

──ダメになっていたというのは、曲が書けなかったとか?

Ryoko:曲も書けなかったし、事務所をやめる1年ぐらい前、コロナ禍になるちょっと前ぐらいから気持ち的にずっと苦しくて、自分的に限界を迎えていたんですよね。今までなりふり構わず走ってきた中で、そういう瞬間は何度もあったんですけど、それは自分で自分を抑圧してたというか。

──というと?

Ryoko:たとえば、メジャーはこういう楽曲じゃないといけない、こういう歌詞じゃないといけないというのを、オトナから言われていたわけではなく、自分で思いこんでいたんですよね。バンドとはこういうものでなくてはいけない、ライヴはこうあるべき、アーティストはお客さんにこうするべき、だからMCやセトリもこうしなければいけない、みたいな。そうやって10年間、ずっと自分でレールを敷いてメンバーを引っ張ってきたし、そういう考えが自分の中にデフォルトとしてあったから、そこからどうしても抜け出せなかったんです。だから、ステージに立つのがつらい時期もあって。2020年(3月)に渋谷CLUB QUATTROでワンマンをやる予定だったんですが、それがコロナのタイミングでなくなってしまったときに、心底ホッとしたんですよね。

──残念だったというよりはむしろ。

Ryoko:口では「悔しい」って言っていたし、やれていたらきっと楽しかったと思うんですけど、そのときはそういう気持ちでステージに立つのが怖かったんです。嘘をついているみたいな感じがあったので。でも、なくなってよかったなって思ってしまった自分にもショックで。まだそのときは前の事務所にいて、そこからアルバム(『ライトアップアンビバレンツ』。2020年9月発売)を出したりして、それはすごく楽しかったんですけど、やっぱりコロナ禍なのもあって、このままバンドを続けていけないんじゃないかっていう気持ちもあって。じゃあ一回、自分をがんじがらめにしているものを全部やめてみようと思って独立したんです。で、独立してみたら、今まで自分が結構な負担を抱えていたっていうことにようやく気づいて。

──なるほど。

Ryoko:止まってみないとわからなかったんですよね。それまで「売れたい」「いろいろな人に聴いてもらいたい」って休む暇もなく必死で走り続けていたのが、パタっと止まったときに、一気にドッときて。こんなに自分の気持ちや感情を押し殺してまでやっていたんだなっていうことに気づいたのが、独立した瞬間。そこから「Brilliant escape」を出して……半年ぐらいかな。去年の12月までは本当にキツかったですね。「Brilliant escape」までは、独立してすぐ動かなかったらお客さんを不安にさせちゃうと思って、MVも作って、楽曲も出して、ツアーも組んでとやってみたんですけど、どうしても自分が無理になってしまって。去年はほぼ記憶がないぐらい(苦笑)、結構やられてましたね。曲も1曲書けた……かな?ぐらいの感じでした。


──それだけ沈んでしまっていたところから上を向けた瞬間というと?

Ryoko:記憶にあるのは……そのときってメンバーと一番うまくいってなかったんです。去年の12月に9周年のワンマンを無観客でやったんですけど(ЯeaL Яock Яevolution vol.9~ЯeaL 9th Anniversary~。12月10日開催)、それまではメンバーとも会えなかったり、話もしたくなかったりして。今までは、自分のこととか、自分が抱えていた悩みとかを、メンバーに打ち明けたことがなかったんです。自分が立ち上げて、自分が背負っているバンドだから、自分が弱音を吐くのは間違っている。自分に期待をかけてくれて、付いてきてくれているメンバーに対して、ダメなところ、できていないところを見せるのは、センターに立つ人間としてあるまじき行為だと思っていたので、本当に頼らなかったんです。で、頼らないと、頼られないじゃないですか。

──確かに。

Ryoko:それはそれでよくなかったんやと思うんですよね。で、9周年ワンマンを迎える前ぐらいに、もう号泣しながら、メンバーとああやこうやって、ちょっとケンカっぽい感じの飲み会があって(笑)。その後の9周年ワンマンは、とても楽しかったんですよ。それまでは、コロナ禍でライヴをするということ自体も荷が重かったし、自分的にもなくなってしまったクアトロワンマン以降、ライヴをすることに対してトラウマみたいなものがあったけど、そのときのライヴは楽しくて。終わった後にメンバーとも話をしたりして、「来年は頑張ろう!」って思ったんですよね。でも、もうひとつ大きなターニングポイントがあって。母親が年末に倒れたんです。昏睡状態というか、植物状態みたいになってしまって。いまは回復して元気になったので、もう笑い話なんですけど。

──よかったです。でも、それは本当に大変でしたね。

Ryoko:「もう一生、元には戻らないです。寝たきりです」と。年末に会いに行ったら、本当に変わり果てた姿になってしまっていて。でも、今年の1月から3月にかけて、ワンマンツアー(ЯeaL ONE-MAN tour~Яe:menber~)が決まっていたんです。それは中止せずに廻ったんですけど、もう本当にボロボロだったんです。もし母親がこのまま目を覚さなかったら、自分が長女なのでしっかりしなきゃいけないと思いながら、でも自主でやっているから、自分が頑張らないとツアーのことが進まない状態で。いくらメンバーに少しずつ頼れるようになったとは言っても、やっぱり全部を任せきりにするわけにもいかなくて。そうなったときに本当に限界になって、初めてメンバーの前でバカ泣きというか、もう、叫び?(苦笑) それぐらいの泣き方をして。もうほんまに無理かもしらんって。

──極限ですね……。

Ryoko:そこまでいかないと頼らないこと自体が間違っているんですけどね(苦笑)。でも、そういう姿を見たからなのか、いろいろと気を遣ってくれるようになって、メンバーとの関係値がとても好転したというか、良くなったんです。私も私で、去年はステージに立つのが怖かったりとか、本当に何もできていない状態だったけど、12月の無観客ワンマンを母親が観てくれていたんですよ。倒れる前日とか前々日ぐらいに、環境は変わったかもしれないけど、あなたが歌っている姿が一番好きだから、才能もあると思うし頑張れみたいなことを何年か越しに言われて。そのまま倒れて、話ができなくなっちゃったんですけど。だから、自分がつらいからといってこのタイミングで辞めたら、なんか母親に呪われる気がして(笑)。だから私は、どんなことがあろうともステージに立ち続けたいし、こういう歌を歌っていくバンドのボーカリストであり続ける運命というか、これが自分で選んだ人生なんだと思って書いたのが、今月配信した「re:call」という曲なんですけど。

──なるほど! 「re:call」は6ヶ月連続配信の中では、第5弾として発表された楽曲で。

Ryoko:正直、私は音楽をやめてもよかったと思うんです。去年は本当にやめるかどうするかという瀬戸際をずっとグラグラしていて。そんなときにとどめを刺されたら、フツーはやめると思うんですよね。でも、むしろやる気になって(笑)。たぶんバカだと思うんですけど。

──いや。すごいですよ、それは。本当に。

Ryoko:それが今年の頭の話ですね。「re:call」はそのタイミングで書いたので、その後のワンマンツアーのファイナルで初披露をして、そこからずっとライヴでやっていて。それを今回の連続リリースでは、わりと後ろのほうに持ってきたという感じですね。

──なるほどなぁ……そう考えると、本当にすごい期間でしたね。

Ryoko:濃かったですねえ……。去年の記憶、ほぼないですもん(苦笑)。ずっと家にいて、ずっと布団の上で、ずっと悩んでた気がする。今までお世話になった人達に自分のそういう姿を見せるのも嫌だったから、「大丈夫?」っていう連絡が来ても無視みたいな(苦笑)。今でも一緒にお仕事している編曲者の渡辺(拓也)さんとか、テックさんからも「大丈夫?」って来たけど、「大丈夫です!」って返すだけで。こんな曲も書けなくなって腐りきっている自分と会っても幻滅しかされないから、絶対に会いたくないって思ってました(笑)。

──それまでご自身の中にあった「べき論」みたいなものが多少ラクになったことで、生きやすくなったところもあると思いますし、曲が書きやすくなったところもあったりしました?

Ryoko:うーん……まあ、でもなんか、一周回っただけというか(笑)。

──(笑)なるほど。

Ryoko:完璧主義というか、自分が絶対にこうしたいと思ったものを超えられなかったら、やっぱり自分のことを今でも許せなかったりするので。そこは自分の良いところだとも思っているんですよね。負けん気というか、プライドというか(笑)、絶対!と思ったことは絶対なので。でも、その表現方法の幅が広がったことで、ちょっと柔らかくなったのかなと思います。今までは思いっきり刺すことしかできなかったけど、優しく刺すこともできるようになったというか。

──刺すことには変わらないけど。

Ryoko:そうそう。刺さらないと意味がないんで、刺そうとは思ってるんですよ。でも、刺し方のバリエーションが増えたかなって思います。

──ここからは各楽曲についてお聞きしていこうと思っているんですが、6ヶ月連続でリリースするとなったときに、どんな楽曲にするのか事前にいろいろと考えたんですか?

Ryoko:そうですね。やっぱり6ヶ月連続で曲を出すことに意味があるんじゃなくて、良い曲を6ヶ月出すことに意味があるし、今まではシングルって、タイアップがないと出していなかったんですよね。タイアップがあるから曲を出したし、タイアップがあるから聴いてもらえていたんですけど、自主になった今は、何の後押しもない状態で、本当に曲だけが素直にYouTubeに上がっていく、配信されていくことになったんです。その中で、こういう世の中だからSNSで回るタイミングがあったとしても、本当に良いものを作らないと何回も聴いてもらえないじゃないですか。それに、タイアップとかが何もない状態でシンプルに曲を6回出すって、曲を出すたびに毎回精査されるというか。聴いた人に「あ、この曲好きじゃない」って1回でも思われたら、もう聴いてもらえないので。だからまずはダメと思われないことがひとつ。

──はい。

Ryoko:あとは、ただ出すだけでもダメだから、おもしろくないといけないと思ってました。「なんかЯeaLっぽいね」で終わってしまう楽曲だと、6ヶ月連続で挑戦する意味がないし、事務所にいた頃と同じことをしても「だったらやめなければよかったじゃん」っていう話なので。だから、10周年ワンマンに向けて出していくことを考えながら、新しい表現方法とか、音の作り方とかにも結構ストイックに向き合ってました。ただ出すだけやったらここまでしんどくなかったんですけど、一個一個自分でどんどんハードルを上げていったから、そこを超えていくのは結構大変でしたね。

──そういう発想の中で、第1弾として7月に発表したのが「カミサマ」。連続リリースの1発目、かつ久々のリリースにこの曲を持ってきたら、「えっ!?」っていう驚きはありますよね。

Ryoko:と思って出しました(笑)。ЯeaLって「未来コネクション」とか「カゲロウ」のイメージが強かったと思うんですけど、あのときの自分達を知ってくれている人が観たときにびっくりするものにしたかったので、MVを「カゲロウ」にちょっと寄せたんです。同じ人達が、同じような倉庫にいて、同じような構図で、同じようなライティングで撮っているんだけど、今の私達はこんなにも違うことができるんだぞっていうものを表現しようと思っていました。プラス、この曲でハンドマイクに挑戦したんです。今までアルバムにはハンドマイクの曲もあったんですけど、こういうかっこ良い曲でやるのは挑戦したことなかったので。あと、こういう過激な歌詞も、アルバムやカップリングでは歌ってきたんですけど、あんまりそういうイメージはなかったと思うので、やるならとことんやろうって。


▲「カミサマ」

──なにせ〈みんな消えちゃえよ〉ですからね。

Ryoko:だいぶ怒り狂ってますよね。

──どん底で叫び声をあげているというか。

Ryoko:「カミサマ」を書いたのは去年の11、12月だったから、まだ9周年ワンマン前で、あれもこれもうまくいかなくてもうやめたいっていうのがMAXな状態のときだったんですよ。でも、メンバーが「ワンマンで新曲をやりたい」って言うから、嫌々書いたんですけど(笑)。

──嫌々って(笑)。でもまあそうですよね。本当に落ちていた時期だったから。

Ryoko:そうです。いや、書かれへんて……っていう感じだったので。だから、こんな状況、誰かが救ってくれたらええのにな……神様……カミサマか、みたいな。で、まずメロディを作ったんですけど、なんかこういうテンポのやつ、どこかで作ってた気がするなと思って。実はイントロのリフって、「Bright」を書いた時期だったから、2020年か。コロナ禍になったタイミングで、ボイスメモに残していたものなんです。それが頭の中にも残っていて。全然違うキーだったんですけど、そこを揃えて、頭とサビだけ作って、これだったらいけるなって。で、9周年ワンマンのときにやりました。



──なるほど。この歌詞になった理由がすごくわかりました。

Ryoko:だいぶきてますよね(笑)。

──でも、これぐらい振り切れているほうが響くし届くものもあると思います。

Ryoko:ちょっと話が逸れるんですけど、ЯeaLっていうバンド名って、自分達の良いところも悪いところも出したいし、人間の感情すべてに寄り添えるようなバンドでありたいと思ってつけていて、そのことをずっと思っているんですよね。誰もが誰も毎日楽しいと思って生きてないじゃないですか。ムカつく人はムカつくし、嫌いな人は嫌いだし。でも、そういうネガティヴな感情って、生活していたら排除されるというか。怒ったりするのも許されないし、そういう人間に対して厳しいじゃないですか。でも、8割みんなそうだと思うんです。

──そうですね。いいことと嫌なことが半々というよりは、嫌なことのほうが多いと思います。

Ryoko:常に人に感謝して、ニコニコできることってないと思っているので。ちゃんとこういうマイナスでネガティヴな感情にもスポットライトを当てたいと思っているし、その一番ディープなところを抉ったのが「カミサマ」ですね。今までもネガティヴなことを書いた曲はあったけど、ここまでハードな突き刺し方をしたのは初めてです。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報