【インタビュー】浦嶋りんこ、ミュージカル『ジャニス』を語る「今の自分だからニーナを演じることがプラスになる」
8月23⽇、25⽇、26⽇の3日間、東京国際フォーラムホールAでBiSHのアイナ・ジ・エンドがジャニス・ジョプリン役を務めるブロードウェイミュージカル『ジャニス』が上演される。『ジャニス』の概要や、主演のアイナ・ジ・エンドインタビュー、各出演者のコメントは先ごろ公開したとおりだ。これに続いて今回は、アレサ・フランクリン役のUA、ニーナ・シモン役の浦嶋りんこ、オデッタ&ベッシー・スミス役の藤原さくら、エタ・ジェイムス役の⻑屋晴⼦(緑⻩⾊社会)の個別インタビューをお届けしたい。
◆ミュージカル『ジャニス』画像
久保田利伸のバックコーラスで1992年にプロ活動を開始し、DREAMS COME TRUEのコーラスや数々のミュージカル出演でキャリアを積んだ浦嶋りんこが演じるのは、ソウルフルで個性的な歌声でジャズやR&Bファンのみならずロックやポップスファンの心も掴んだニーナ・シモンだ。1960年代には公民権運動に参加。黒人女性として毅然とした姿勢を歌で示し、ジャニスにも多大な影響を与えたシンガーである。ミュージカル『ジャニス』ではニーナのみならず三役を演じる浦嶋自身、若い頃にジャニス・ジョプリンに魅了され、強く影響されたという。スキルも経験値も高い彼女ならではの視点でミュージカルに臨む姿勢、伝説のシンガーたちについて語ってもらった。
◆ ◆ ◆
■ソウルやヒップホップのシンガーとして活動してきて
■こういう形でジャニスとコラボできることが感慨深い
──キービジュアル撮影を担当したレスリー・キーさんとの撮影現場はいかがでした?
浦嶋:すごく楽しかったです。ライティングが素晴らしく、撮影した写真が1枚の絵画のように見えるんです。私はニーナ・シモンを演じるんですが、彼女は視線が鋭いシンガーなので、スチール撮影中はニーナになることが求められましたね。これまで笑顔の明るい雰囲気の写真を撮ることが多かったんですが、ニーナ・シモンとしてのドラマを写真の中に落とし込んでいく感じが新鮮でした。
──ニーナを演じる実感がより湧いてきたのでは?
浦嶋:ええ。数年前、Netfllixが制作した彼女のドキュメンタリーフィルム(『ニーナ・シモン~魂の歌』)を見る機会がありまして。私が想像していたシンガーとしてのニーナ像とはまた違う、人としての苦悩だったり、歌わざるをえなかった感情を知ることができて良かったです。その分、演じる上でのハードルは上がったんですが。
──浦嶋さんは『レ・ミゼラブル』や『メリー・ポピンズ』など、多くのミュージカルに出演されていますが、『ジャニス』の出演オファーが来た時にはどんな気持ちになりましたか?
浦嶋:キャスティングも含めて、このブロードウェイミュージカルを日本版として上演するって、なんて贅沢なんだろうと思いました。アメリカだったら、ジャニス・ジョプリンのファンは多いでしょうし、浸透している土壌があるからブロードウェイミュージカルとして公演が打てると思うんですね。劇場に足を運ぶ方々の数は日本とは違う。でも、それを日本に持ってくるって、すごいことだなって思いましたし、内容もキャスティングも素晴らしい。と同時に若い日本のアーティストの方々がジャニスを始めとするディーヴァたちを演じることで、そのキャラクターや生き様が今を生きる彼女たちとオーバーラップすると、想像を超えたことが起こるんじゃないかなと感じましたね。
──その共演者の方々の印象についてはいかがですか?
浦嶋:もちろん存じ上げてはいますが、今まで接点がなかったので、それも含めてこれから何が起こるんだろう?って楽しみです。
──先ほどドキュメンタリーフィルムの話をしていただきましたが、浦嶋さん演じるニーナ・シモンについてご説明いただけますか?
浦嶋:声と歌い方が独特な方なんですけど、彼女は黒人として政治的な活動に身を投じたシンガーでもあるんです。ドキュメンタリーを見て双極性障害を患っていたことを知ったんですが、怒りや喜びが極端に表に出てしまうんですよね。アグレッシヴな歌やパフォーマンスを観客に届けながら、内側でも戦っていたんだって。歌なんてもういいと思った時期も歌わざるを得なかった時期もあって、晩年には歌っていくことで自身を再構築していった方ですよね。
──葛藤しながら歌ってきた生き方にジャニスも影響を受けたのかもしれないですよね。
浦嶋:そうですね。黒人のアイデンティティのために活動してきたニーナの力強い歌は、自分のロックを苦しみながら追求していたジャニスに影響を与えただろうし、ニーナの歌い方、歌の捉え方、感情をぶつける様を指針にした部分があったんじゃないかと思います。
──浦嶋さんがニーナを演じるに当たって、こんな歌い方をしたいとか、こういう面を表現したいと思っていることはありますか?
浦嶋:こうしたいというのは特にないんですが、今の自分の年齢だからニーナを演じることがプラスになるんじゃないかと思っています。
──シンガーとしてキャリアを重ねたからこそ?
浦嶋:キャリアというよりも、人生のいろいろな場面を経験したことが歌に反映できたなら、彼女の歌の欠片でもいいからシンクロするところがあるんじゃないかという想いです。小手先で演じても通用しないので、ぶつかっていきたいと思っているし、『ジャニス』では同時に、ブルース・シンガーとジョプリナーズというコーラスグループの一員も演じるので、チャンネルの切り替え、バランスの取り方が課題でもあります。
▲Photographed by Leslie Kee
(L to R):⻑屋晴⼦(緑⻩⾊社会)、UA、アイナ・ジ・エンド、藤原さくら、浦嶋りんこ
──今回の主人公であるジャニス・ジョプリンについては、どんな印象をお持ちですか?
浦嶋:初めて見た音楽映画がジャニスをモデルにした映画『ローズ』(ベット・ミドラー主演)だったんです。私自身はロックを歌いたいと思っていたタイプではなかったんですが、退廃的で破天荒で生命を燃やし尽くすような歌い方や生き方をしたジャニスのようなシンガーを目指そうと思った時期もあったんです。あの当時、音楽をやっていらした方って振り切ったことをおっしゃるんですよね。「彼女みたいに強い喉になるにはどうしたらいいの?」って聞くと「毎日、お酒を飲むんだよ」って(笑)。それをまともに受け取って生きると、いろんな失敗に見舞われるんですけど(笑)。
──飲んで声を潰すとハスキーな声になれるって言われていた時代がありましたからね。
浦嶋:そうなんですよ。全然、間違ってるんですけど(笑)。そんなことがステイタスだった時代でもあったし、悲しみや苦しみを叫ぶようにして歌うのが人間らしい歌なんだと思っていた頃もあります。
──自分の中に溜まっている感情を吐き出すというか。
浦嶋:はい。ジャニスにはとても影響を受けました。ジャンル的にはソウルやヒップホップのシンガーとして活動してきて、こういう形でロックのジャニスとコラボできることが感慨深いし、何十年も歌ってきて日本版『ジャニス』のひとかけらになれるんだと思うと、とても嬉しいです。ミュージカルって通常、本数を多く打つんですけど、今回は3日間限定で、東京公演だけというのは規格外ですよね。キャストも今回限りなんじゃないかなと思っています。
──それぐらい貴重ですね。
浦嶋:そう思います。
──総合プロデューサーである亀田誠治さんとのエピソードも教えていただけたら嬉しいです。
浦嶋:直接、お会いしてお話したことはなかったんですが、『ジャニス』の出演オファーをお手紙でいただいたんです。そこに熱い想いが書かれていて、亀田さんがこんなに燃えていらっしゃるなら、一緒に燃えなければと思いました。
──そのお手紙のどんなところに熱さを感じられたのか、教えていただくことはできますか?
浦嶋:『ジャニス』という作品を日本で上演することになるまでの経緯や、私にミュージカルの中でやってほしいと思っていらっしゃること、この作品を日本でやる意味について熱く書かれていたんです。
──では、亀田さんの手紙によって迷いなく「やりましょう!」って?
浦嶋:迷いはありましたよ。“やりたい!”っていう想いと同時に、“私、大丈夫?”って(笑)。亀田さんのみならず、スタッフのみなさんもピュアで熱い気持ちを持っていらっしゃるので、“一緒になって素晴らしいものをつくりたい”と思ったんです。
──そういう熱量は作品に反映されますものね。亀田さん率いる著名バンドメンバーとステージに立つことに対してはいかがですか?
浦嶋:初めてお会いする方が多いですが、過去にDREAMS COME TRUEのバックコーラスでツアーを廻ったときに、ご一緒させていただいたメンバーもいらっしゃるので。“お久しぶり!”という気持ちもありつつ、亀田さんのバンドがどんな音を奏でるのかも楽しみですし、出演される方々がどんなふうに歌い出すのか、今からワクワクしています。
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