【インタビュー】藤原さくら、ミュージカル『ジャニス』を語る「ベッシーとオデッタの壮絶な人生を知った上で音楽を聴くとより染みてくる」

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8月23⽇、25⽇、26⽇の3日間、東京国際フォーラムホールAでBiSHのアイナ・ジ・エンドがジャニス・ジョプリン役を務めるブロードウェイミュージカル『ジャニス』が上演される。『ジャニス』の概要や、主演のアイナ・ジ・エンドインタビュー、各出演者のコメントは先ごろ公開したとおりだ。これに続いて今回は、アレサ・フランクリン役のUA、ニーナ・シモン役の浦嶋りんこ、オデッタ&ベッシー・スミス役の藤原さくら、エタ・ジェイムス役の⻑屋晴⼦(緑⻩⾊社会)の個別インタビューをお届けしたい。

◆ミュージカル『ジャニス』画像

藤原さくらが演じるのは、ジャニスはもちろんビリー・ホリディーやノラテンジョーンズなど多くの著名シンガーに影響を与えた“ブルースの女帝”と形容されるベッシー・スミスと、政治的なメッセージを歌った最初のアフリカ系のアメリカのシンガーでボブ・ディランやジョーン・バエズも刺激を受けていた“アメリカンフォークミュージックの女王”オデッタの二役だ。幼い頃からミュージシャンの父親の影響で1960年代の洋楽を聴いて育ち、ヒップホップからルーツミュージックまで音楽の持つ根源的な力に惹かれ、俳優としても活動している藤原だからこそ、一人二役という難役に抜擢されたのかもしれない。伝説の女性シンガーたちがなぜ歌おうと思ったのか、そこに焦点を当てて演じたい、という彼女に話を聞いた。

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■なぜ彼女たちが歌おうと思ったのか
■そこに焦点を当てて気持ちを再現できたら

──キービジュアル撮影を担当したレスリー・キーさんとの撮影現場はいかがでした?

藤原:以前からレスリーさんの写真は拝見させていただいていて、世界観がとても素敵な方だなと思っていたんです。今回ご一緒して、いろいろなポーズを指示していただいたり、「こういう気持ちでやってほしい」と言ってくださったり。すごくいい写真がたくさん撮れて嬉しかったです。

──いつもと違う藤原さんが引き出されたのでは?

藤原:はい。私は『ジャニス』で演じるベッシー・スミスの衣装で、彼女の感情を身に纏いながら臨んだのですが、風を浴びたり、レースを手にとって向こう側にお客さんがいるイメージで撮ったりと、ふだんの撮影とはまた違う演出だったので刺激的でした。


──ブロードウェイミュージカル『ジャニス』のオファーが来た時はどんな気持ちでしたか?

藤原:これまで演劇舞台には一度出演させていただいたことがあったんですが、ミュージカルは経験がなくて。“ミュージカルってどんな感じなんだろう。出てみたいな”と思っていたところに今回のお話を頂いたんです。自分自身、1960年代だったり昔の音楽を聴いて育ったので幸運な機会をいただいたなって。

──藤原さんは小学生の頃から洋楽を聴かれていたんですよね。

藤原:はい。父がベースを弾いていたりと、すごく音楽好きな家族なので、小さい頃からビートルズなどのイギリスやアメリカの音楽に触れていました。もちろんジャニス・ジョプリンも聴いていました。

──当時、ジャニスの歌を聴いてどんなふうに感じました?

藤原:子供ながらに、カリスマ性のある方だなと。昔のライブ映像を見て、衝動的であることが彼女の魅力だなと思いました。独特な声や激しいシャウトに生き様が滲み出ているなと感じます。

──ミュージカル『ジャニス』で藤原さんは二役を演じるんですよね。

藤原:はい。私はベッシー・スミスとオデッタという女性シンガーを演じるんですが、お二人ともロックミュージックが生まれる前から活躍された方で、私が聴いてきた洋楽アーティストに影響を与えた方々なんですね。当時の映像がほとんど残っていないので、調べて想像するしかないんですけど、ベッシーもオデッタも壮絶な人生を歩んだ方々で、バックボーンを知った上で音楽を聴くとより染みてくるんです。そういう部分も含めて表現できたらと思っています。マネをして演じるのではなく、なぜ彼女たちが歌おうと思ったのか、そこに焦点を当てて気持ちを再現できたらいいのかなと。

──歌に生き方が滲み出ているわけですね。それも壮絶な。

藤原:ベッシー・スミスは幼い頃に両親を亡くして、幼い頃からお兄さんのギターの伴奏で歌って生計を立てていかなければならなかったそうです。両者とも、時代的な大変さや人種差別もあったでしょうし。パーソナルな部分で傷ついたり、うまくいかないことがたくさんありながら、音楽に支えられてきた方々なんじゃないかと思うんです。自分は彼女たちと比べたら幸せな環境で生きてきましたが、すごく辛いことがあった時は音楽に支えられて“音楽ってなんて素晴らしいコミュニケーションだろう”と思って今まで過ごしてきたので、そこを共通項として気持ちに寄り添って演じたいですね。


▲Photographed by Leslie Kee
(L to R):⻑屋晴⼦(緑⻩⾊社会)、UA、アイナ・ジ・エンド、藤原さくら、浦嶋りんこ

──オデッタはアメリカンフォークの女王と形容されているシンガーですが、藤原さん自身フォークなどルーツミュージックを聴かれていたという意味で、共通点を感じられたことはありましたか?

藤原:当時のフォークはとてもシンプルな曲が多いんですが、私もギターを始めたばかりの頃は弾き語りをしたり、お父さんがウッドベースを弾いて二人で演奏したりしていたので、シンプルな編成が原点です。装飾がないだけに心の芯になるものがないと見透かされるというか。なので、カバーする時は背景や想いを理解するように務めて歌っています。

──では、ブルースの女王と呼ばれたベッシー・スミスさんについても?

藤原:とてもパワフルなシンガーなので、負けないように歌いたいです。

──一人二役ですから、ミュージカルの中では見せ方や歌い方や発声の仕方を変えて登場するということですね。

藤原:そうですね。その変化を見せられたらいいなと思っています。

──そもそも藤原さん自身はフォークミュージックのどんなところに魅力を感じていたのでしょうか? メッセージ性ですか?

藤原:メッセージ性を重視するようになったのは大人になってからだと思います。もともとメロディと楽器の音自体が好きだったので、歌詞は英語の勉強をするようになってからですね。ボブ・ディランはメッセージ性の強いアーティストですけど、洋楽に関しては“こんなに素敵なことを歌ってたんだ”って後から思うことが多いですね。

──当時は日本の音楽も同時に聴かれていたんですか?

藤原:はい。小学校5年生の時に姉がYUIさんを聴いていて、よくYUIさんの曲を弾き語りしていました。

──ということは、アコースティックギターの音の質感にご自身の歌を乗せる気持ちよさみたいなものが藤原さんの原点ですか?

藤原:そうですね。今でこそヒップホップやシンセの音もすごく好きになりましたが、生音にこだわっていた時期が長かったんです。それはフォークやジャズの影響だと思います。

──そういうルーツは藤原さんの中に息づいていると思います。スモーキーな歌声が魅力的ですが、音楽を通して伝えていきたいことは、やはり音の気持ちよさでしょうか? メッセージ性も重視しますか?

藤原:洋楽をたくさん聴いてきた中で、音楽には言葉がなくても通じ合える感覚があると思ったんです。クラシックやジャズみたいに歌がない音楽でも感情を伝えることができる。“地球の反対側にいる人たちともコミュニケーションがとれるって、なんて素敵なんだろう”って感じたんです。なので、“メッセージを通してみんなでひとつになろう”というよりも、“音楽ってこんなに楽しいんだ”っていう感情を共有したいと思って歌っています。

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