【コラム】The Hideout Studiosから生まれる、ソウルの結晶を集めた音楽アート
音楽とはいうまでもなく芸術の一部である。つまり所謂「アート」に属するものである。
このアートという言葉に勝手に敷居の高さを感じる人も多いだろうが、そもそも人間表現の中でアートほど自由なものはなかなか無い。点数つけることも出来るし言語化することも出来るが、同時にその数字や言語とは関係ないところで勝手に感動や驚きや悲喜こもごもを感じられるものだからだ。
そんな奔放な存在である音楽にも関わらず、カテゴリーとかジャンルという引き出しに細かく丁寧に入れ、一度入れたらロクにその引き出しから出さずに楽しんだつもりになっている者がいるのも確か。僕らは「理屈抜きで生きていたい」と言いながら、何よりもその理屈に守られて安心してしまう臆病な生き物でもある。それはリスナーのみならずミュージシャン、アーティストの多くにも言えることだ。
ポップという観念もまた然り。例えば1960年代のように、むしろ大衆的であることがカウンターであった時代に、肩肘張らずに気取りなく様々な事象をごちゃ混ぜにしてポップミュージックを響かせることは、極めてラジカルで奔放なアイデンティティ表現だった。しかしポピュラーということに対しての過剰な意識がビジネスと組むことを何よりも優先した中、「この音楽は、このアーティストは、このジャンルの部屋にいますので、どうぞ気兼ねなくお入りください。決してあなたの期待を裏切ることはございません」と、まるで名刺のような作品や楽曲が乱立したことにより、ポップミュージックは消費されることが前提のものとなった。
Yoshというアーティストがいる。Survive Said The Prophet(以下サバプロ)というバンドのヴォーカリストだ。とても果敢なアーティストで、定位置を決めずに様々な活動を続けている。冷静に熱く、線を引かずに人と心の会話をし、そしてプロフェッショナルでありながらマスとは客観的な距離感の中で自らの世界観を追求し続け、その世界観が枝葉のように日々増殖しているYoshは生粋のアーティストだと思う。そのYoshがMade in MeのDaikiと結成したミュージックファクトリーがThe Hideout Studios(意味は隠れ家のようなスタジオ)だ。
サバプロは洋楽の影響を受けたラウドロックバンドで、Yoshは海外にも通用するネイティヴな英語で歌唱するヴォーカリスト。そんな彼らに対する位置付けは、期待でもあり束縛でもあった。そもそもYoshは音楽をやりたいし、その音楽でこの世界に様々な形で機能していきたいだけの、愚直なミュージック・ピーターパンである。だからこそサバプロというバンドのみではなく、新たな純粋表現としての音楽を生み出したいと思い、そこに共鳴したDaikiと共に、音楽を生み出す「スタジオ」──建物としてのスタジオではなく音楽発信源としてのスタジオ──を作ったのである。活動としては楽曲制作やレコーディングにとどまらず、広い意味での音楽を東京から世界に発信していく目的を持って組んだプロダクションチームだという。これまでに、FenderやSHURE、DR.DENIMなどのブランドプロモーションのための楽曲提供なども行っている。面白いじゃないか。
デビュー作品であるデジタルEP『Concrete』には、6曲もの音楽が収録されている。サバプロという先入観をもって聴けば極めて意外な楽曲ばかりだが、その色眼鏡を外すと、このThe Hideout Studiosがいかにワールドスタンダードなスピリッツで本当の意味のポップミュージック&ポップアートを創造しているかがわかる。ラップミュージック、ソウルミュージック、エレクトロミュージック、ゴスペルミュージック、クラブミュージックなどの芯を食ったトラックやリリック、そしてリズムとフィーリングが窓を全開にして僕らの心を迎えてくれるような音楽集。様々な壁やジャンルを越境した確かな想いが、音や鼓動となって(メールというよりは)手紙のように胸の奥に優しく届く。
中には2人で沖縄に旅行に行った時に、車の中で行ったセッションから生まれた「Without You」のような曲もあるし、カリフォルニアに2人で行った時に感化されて生まれた「False Alarm」のような曲もある。とても洗練された音楽であると共に、2人の呼吸や阿吽やポケットの中身だけで作られた音楽でもある。
抽象的な言い方になってしまうが、この音楽は現実でもあり夢でもある。要は頭の中と心の中にあるものだけで作られた、透明な音楽。だからこそ、今後は様々な媒介と交流し、その透明で純粋なものに色を付けながら、世界との化学反応を起こし続けていくことと思う。
自分が自分であるために必要な隠れ家でありスタジオでありソウルの結晶を集めた音楽アート、それがThe Hideout Studiosだ。
We make mistakes And then learn to play Cause rules were made to be Broken anyways
(僕たちは間違いを犯す、そして遊びを学ぶ ルールは破られ、壊されるためにある)
「False Alarm」
文◎鹿野 淳(MUSICA)
The Hideout Studios 1st.EP『Concrete』
2.Jaded
3.Dejavu
4.Without you
5.Think (b4 u speak)
6.False Alarm
◆『Concrete』配信リンク
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