【インタビュー】ざきのすけ。「挫折して転んだ先に音楽という道があった」
2001年生まれのシンガーソングライター兼ラッパー「ざきのすけ。」。高校在学中から地元札幌にて本格的に音楽活動を開始し、2021年に行われたオーディションプログラム『THE FIRST TAKE STAGE』でファイナリスト4名に残った実力者である。
彼の作り出す音楽の特徴は一言で表せば“多彩”である。時にシャウト混じりに鋭くラップを繰り出し、時には伸びやかに歌い上げるグルーヴィなヴォーカル。R&B、ヒップホップ、ソウル、ロック、ジャズ、ポップスなどをミックスさせた自由でジャンルレスなサウンド。ある時は率直で、ある時は抽象性を持たせた詞世界。
そんな彼のバラエティに富んだ表現の根幹にあるのが“ダーク”と“ポップ”だ。彼はなぜこの相反する要素を共存させているのだろうか。最新作でありキャリア初のEP『Identification』の収録曲をきっかけに、彼の表現のポリシーを探っていった。
──Twitter拝見したところによりますと、ざきのすけ。さん上京なさったんですね。
ざきのすけ。:はい。音楽に専念するために、去年の11月中旬に北海道から東京に引っ越しました。
──東京と札幌の違いというとどんなところでしょう?
ざきのすけ。:東京は何をするにしてもとてもスピードが速くて、アグレッシヴで刺激的な街だと感じています。札幌はじっくり制作に力を入れているミュージシャンが多い印象があるので、もう少しのんびりしている気がして。でも札幌や北海道のアーティストは個性的な人や、“常にちょっとはみだしていたい”という精神がある人が多いんですよね。自分もその例には漏れていない気はしています。
──確かに、ざきのすけ。さんが高校在学中の2019年に発表していたMVや音源にも、その気質を感じます。この頃にはもう本格的に音楽の道へ進もうとしていたのでしょうか?
ざきのすけ。:それこそちょうど2019年に、音楽に専念したいという気持ちが芽生えたんです。大学進学をやめて、高校卒業後は音楽とバイトを両立させて生活していこうと決心を固めた時期ですね。
──それにはどんなきっかけが?
ざきのすけ。:高校がわりと進学校で、僕はそのなかであんまり成績がいいほうではなかったんです(苦笑)。周りと自分を比較すると、何においても自分が劣っていると感じてしまって。そのなかで唯一自分を容認できるのが音楽でした。
──自分自身が輝ける場所は音楽だと思われたと。
ざきのすけ。:はい、音楽しかないと思いました。中学時代に映画監督になりたかったんですけど、映像を作るには周りの人の協力が必要だし、僕はあまりコミュニケーションが得意ではないから仲間を集められなくて諦めて。音楽ならある程度ひとりで完成させられるのも、性に合っていたんですよね。
──小学生の時に父親のすすめでドラムを習い始め、中学生の時にバンドでギターヴォーカルをやりつつ、鎮座DOPENESSの音楽に出会いラップや曲作りを始めたという音楽の生い立ちがあったからこそ、踏み出せたのでしょうね。
ざきのすけ。:高校生なりに将来を考えた時に、“自分の技術的にひとりで一から作れるものが音楽しかないな”と思ったんです。でもものづくり全般が好きなのは小さい頃からずっと変わらないので、今も映像を撮ったりちょっと機材を揃えたりはしています。だから音楽だけに専念するというよりは、クリエイターという広い枠組みで活動できたらいいなという理想があります。音楽以外にも表現の手法は増やしていけると楽しくなるかなあ…という思いがずっとあるんです。
──そのメンタリティは、ざきのすけ。さんの音楽性にも表れているのではないでしょうか。和洋分け隔てなく様々なジャンル、様々な歌唱法を採り入れています。
ざきのすけ。:僕はもともとクラシックやジャズからヘビーメタルまで、シームレスに全ジャンル聴くタイプなんです。中学時代にヒップホップにのめりこんだのもあって、高校時代はヒップホップの界隈にいたんですけど、そこにはヒップホップ以外のジャンルの音楽を受け付けない人も多くて。それに違和感があったんです。
──“ほかのジャンルにもいい要素はたくさんあるのに”という。
ざきのすけ。:そうです。あとは“ヒップホップではこれをしてはいけない”みたいな、ジャンル分けするとできなくなる表現があるのもすごく嫌で。粘土みたいにいろんな音楽のいいところをくっつけて出来上がったもののほうが楽しいと思うんです。ざきのすけ。として活動を始めた頃には、そのマインドは持っていました。全部のジャンルにそれぞれの良さがあるので、僕がいいと感じるもの、そのジャンルの核にあるものを自分の音楽に採り入れていけたらいいなと思っています。
──だからこそ以前からおっしゃっているように、“和魂洋才”を大事にしたいということですね。
ざきのすけ。:はい、そうですね。
──1st EP『Identification』は、今のざきのすけ。さんのやりたい音楽性やざきのすけ。さんの特色がわかりやすく反映された作品だと思います。
ざきのすけ。:そういうEPを作りたいと思っていました。いろんなジャンルのいいとこ取りをしたいとは思いつつ、それをやりすぎちゃうと“結局どんな音楽がやりたいの?”という話にもなってきてしまう。4曲すべてが“自分のやりたい音楽はなんなんだろう?”と模索をしているなかで生まれた、自分のやりたい音楽です。それが結果的にすべてばらばらだったんですよね。
──そんな多彩な音楽性に共通するのが、“ダーク&ポップ”なのではないかと思いました。
ざきのすけ。:まさに(笑)。そのふたつを共存させたいんです。それは自分の精神性が影響していると思うんですけど、もともとそういうものが好きなのもあるし、あとはさっきお話したように、僕は音楽を目指す前に勉学の道を挫折して、挫折して転んだ先に音楽という道を見つけたから、僕は今こうしていられるんです。その時期の自分はダークとポップが共存していたように感じていて。たぶん僕以外の人も、転機の時は暗さと明るさ紙一重のところを体感しているような気がするんです。
──ああ、なるほど。確かにそうですね。
ざきのすけ。:あとはホラー好きなのも影響してるのかな(笑)。ダークに行ききりすぎても面白くないかなと思うので、ユーモアという意味でポップを欲しているのかも。
──自分の人生の大事なタイミングの空気感と好きな世界観がどちらも“ダーク”と“ポップ”の両方を内包したものだったということですね。
ざきのすけ。:はい、そうですね。
──「Bipolar」はまさにそれが実現した楽曲で。ご自身でも“リスナーとしての自分が求めているサウンドやグルーヴを試行錯誤しながら制作した”とツイートなさっていました。
ざきのすけ。:前々からこういうサウンドを作りたかったんですけど、自分の技術や知識ではなかなかそれが作れなかったんです。時を経てそれを実現できた実感がありますね。去年出した「陶酔」という曲もそれにチャレンジしたんですけど、ダークに振り切れちゃったという反省点があって…(笑)。
──あははは。「陶酔」はバンドサウンドが効いていて、新機軸ではありましたが。
ざきのすけ。:本当はもうちょっとアッパーな感じにしたかったので、「Bipolar」はそれを課題にしながら作った曲でもありますね。僕が作ったトラックを、大樋祐大さん(SANABAGUN.・Key)が“このメロディならこのコードのほうが綺麗にはまる”や、“ベースラインはこうしたほうが面白くなるよ”と音楽理論的な観点から調整してくれて、より曲が活きる仕上げをしていただきました。
──オケのムードもインパクトがありますが、メロディラインも斬新だと思いました。感情のうねりを感じるというか。
ざきのすけ。:僕は先にビートを作って、それを垂れ流しながら適当にスキャットで歌いながらメロディを探っていって、それのいいところをつまんで完成させていくんです。だからメロを作る時は全部感覚で、フリースタイルっぽいところから始まっています。
──そのメロディが歌詞のセンシティヴかつヘヴィーなテーマをより強く印象付けていると思います。
ざきのすけ。:僕は挫折して転んだ先に音楽という道があったけど、転んだ先に何もなくて不安になっている人は多いと思うんです。そういう人たちに向けて、僕が言えることというか。“ざきのすけ。が言いたいのはこういうことなのかな?”というエッセンスが、説教がましくない程度に伝わればいいなって。ダークとポップの二面性という意味で“Bipolar”という言葉を使ったんですよね。僕はどんなことにも二面性が存在すると思っていて、その境目ははっきりわかれているわけではなくグラデーションになっていると思うんです。
──そうですね。
ざきのすけ。:よく濃度の違うグレーを出して“どこからが黒か”という話があるように、僕が白だと思うものが、とある人にとっては黒だというのはよくあることだと思うんです。だから両極端のものは、遠いようでいて意外と近い場所にいるんじゃないかな…って。自分のなかの双極性だけでなく、誰かと自分の間に生まれる双極性も含まれていますね。“両極端と言いつつもつながってない?”という、ちょっと皮肉も込めての“Bipolar”です。
──ざきのすけ。さんが掲げている“逃げることの大切さを発信していきたい”というポリシーから生まれた楽曲なんだろうなと。
ざきのすけ。:そうですね。すごく苦しい状況に陥っている人でも、自分の手元にこれからを生きていくためのアイテムがあるかもしれないし、全力で逃げた先に新しい何かが待っているのかもしれない。逃げた先に、それまでの価値観とは違う面白い景色が見られる可能性はあると思うんです。“ここならなんとかやっていけそうだな”と思える場所を探してもいいと思います。
──「Launch」は「Bipolar」の渦から這い上がってきた人間の歌のようにも響いてきます。
ざきのすけ。:そういうイメージで作った曲ですね。「Bipolar」はダーク寄りのサウンドで、音にも歌詞にも精神の不安定さをそのまま投影させたんですけど、「Launch」は宇宙に飛び立つ!みたいなサウンドを目指していました。ひとりで家で酔っぱらってSF映画を観ていて(笑)、そのローンチのシーンがすごく印象的で、そこからイメージを膨らませて作っていったオケなんです。この時点では歌詞のことはまったく考えていなかったんですけど…宇宙に行くことは地球からの脱却というか。僕にとって“地球”や“重力”って、精神的な不安や重圧のイメージに重なる感覚があるんです。
──興味深い解釈ですね。
ざきのすけ。:あははは、ありがとうございます(笑)。せっかく「Bipolar」みたいな曲が入るなら、そういう重圧から脱却して新しい場所へ行こうぜ、という曲を入れてもいいのかなと思って完成させたのが「Launch」です。ロケット発射のカウントダウンも入ってるし、歌詞で書きたい世界観を繋げたらめちゃくちゃかっこよくなりそうだなって。“精神からの解放”みたいなものが表現できたかなと思っています。
──ご自身を鼓舞する曲にもなっている?
ざきのすけ。:初めてのEPだったので、ちゃんと作り上げられるのか?おまけに4曲とも曲調がばらばらなのでまとまらないかも…?という不安が大きくて。でも「Launch」のトラックができたときに“いける!”と思ったんです。そういう心情もあって、前向きな歌詞にもなったのかなと思っています。あと一歩進むだけで面白いものが見られるかもしれないのに、枠という概念があるから踏み込めないのは、すごくもったいないと思う。ワクワクしていきたいんですよね。
──こういうダークなムードがたちこめるサウンドにシャウト混じりの歌だと、困難と戦っていくイメージになることが多いですが、ざきのすけ。さんの曲にはあまりそういうニュアンスを感じないんですよね。そこが独特だと思いました。
ざきのすけ。:ああ、闘志むき出しって感じとは違うかもしれないです。不安とか絶望に立ち向かっていくというよりは、それらを心に取り込んだうえでエネルギーにしているんです。“戦う”の根本にあるのは“拒絶”だと思うんですけど、僕はどうやらその“拒絶”ができない性分で。不安や絶望を心に取り込んだうえで、それをどう自分なりに消化していくかを考えて、実行に移している。「Launch」も自分のそういう性質がそのまま反映されていると思います。
──だからざきのすけ。さんには“ダーク”が必要不可欠なんでしょうね。
ざきのすけ。:そうですね。ポップに生きるために知っておかなければいけない成分がダークって感じがしています。
──ざきのすけ。さんは過去に“歌詞の意味はそこまで重要視していない”とおっしゃっていますが、現在はいかがですか?今のお話もそうですし、4曲ともしっかり意味が込められているとも思うのですが。
ざきのすけ。:それは少し違ってリスナーさんに“この人はこういうことが言いたいんだろうな”みたいにしっかり受け取ってほしいわけではない、という意味での“重要視をしていない”なんです。
──なるほど。聴いている人に歌詞の意味がしっかり届くものを書こうとはしていないと。
ざきのすけ。:そうです、そうです。どんなことを歌いたいか、この歌詞にどんな意味を込めているかはもちろん考えているんですけど、含みを持たせた表現にはしたいんです。歌詞の意味は20~30%届けばいいかなって。その言葉たちが音楽的に楽しい、面白いものになればいいなと思っているんです。僕の完全なる願望なんですけど、“この歌詞ってどういう意味なんだろう?”と想像してもらえたら、自分なりの解釈に落とし込んでもらえたら嬉しいというか。それもあって、歌詞はふわふわしたニュアンスで書きがちなんです。
──映画好きの性分が出ていますね。
ざきのすけ。:あははは、そうかもしれない(笑)。
──「Finger Magic」はその要素が最も濃く出ているのではないでしょうか? ピアノやホーンを用いて空間を構築するサウンドメイクと、物語的な詞世界は、どこか夢見心地なムードがあります。
ざきのすけ。:もともと僕はヒップホップ出身なんですけど、ヒップホップはノンフィクションをリリックにしなければいけないので、活動を始めた頃からフィクションに寄った曲を書きたい気持ちがずっとあったんです。だから『ハーメルンの笛吹き男』をモチーフにしつつ、音楽活動をしている自分を描けたらなと思ったんですよね。『ハーメルンの笛吹き男』は怖い話として捉えられることも多いですけど、ついていっている子どもたちからすると、ただずっと魅力的なものが目の前にあって、知らない場所に連れて行ってくれるという状況だと思うんです。
──確かにそうですね。オケにはざきのすけ。さんの東京事変リスペクトが出ているようにも感じました。
ざきのすけ。:あ、本当ですか?あんまり意識してなかったんですけど、知らず知らずのうちに影響が出てるのかな。もともとのダークさを損なわずに、音楽に魅了される自分自身を投影できたらなと思いました。遊び心から始まっている曲ではあるんですよね。
──「CASSIS」は心地よい洗練されたトラックが印象的なほろ苦いラブソング。「MINT」の姉妹ソングみたいですね。どちらも食べ物ですし。
ざきのすけ。:本当だ。美味しいものが好きだから、無意識のうちにモチーフにしてるのかな…(笑)。これまでに書いたちゃんとしたラヴソングは「MINT」だけだったのと、EPとして出すにあたって4曲とも精神性を歌にしているとくどいので(笑)、生活感のあるさっぱりした曲が欲しいなと思って作り始めました。それで、うまくいっていない恋を書きたいなと思って。
──うまくいっていない恋…ダーク成分ですね(笑)。
ざきのすけ。:あははは、うまくいかない恋をしている人は多いんじゃないかなと思って。それで“うまくいっていないってどういう状態だろう?”と考えた結果、自分がいちばん燃える恋愛のシチュエーションを書くことにしました(笑)。“諦めるか、このままの関係を続けるか、諦めずに振り向かせるか、どうする!?”みたいな状況に燃えるんですよね…歌っていても気持ちが入りますね。
──その“どうする?”の答えは描かれていませんよね。
ざきのすけ。:それは聴いてくださった人それぞれで想像していただけたら(笑)。ここで僕がハッピーエンドかバッドエンドまで描いてしまうと、曲が終わっちゃう感じがして何度も聴ける曲にならないのかなとも思うし…あと面白味を感じないなって。僕が好きになる映画も、結末を描かないものが多いんですよね。
──「Finger Magic」も音楽に魅了されていく様子は描かれているけれど、その後どうなるか、どうしたいかまでは描かれていないですものね。
ざきのすけ。:あんまり意識してなかったけど、ほんと僕は曲のなかで答えを出すのを避けてますね(笑)。“どこからが黒か”という話にもつながってくると思うんですけど、結末がしっかり描かれた映画を観た時に“バッドエンドとして着地したけど、これは見方を変えるとハッピーエンドじゃない?”ともやもやしたりすることがあって。だから自分の表現でも断言を避けてるのかもしれないですね。
──白黒つけられないものがご自身の感性にフィットするんでしょうね。だから相反するものも、いろんな音楽性もひとつの楽曲に詰め込むんだろうなと。
ざきのすけ。:あははは、そうですね。
──“Identification(=身分証明)”というタイトルにぴったりの4曲が揃ったのではないでしょうか。
ざきのすけ。:作れて良かったです。それぞれの曲が4曲4様なところも僕自身を表しているし、4つの区切った窓から僕自身が見えているような感覚もあるんです。すべて景色は違うけど、どれにも自分が写っている…それが証明写真のシートみたいだなとも思ったんですよね。やりたいことがやれて、満足いくものが作れた。自信につながりました。だからこそ課題も生まれています。
──課題?
ざきのすけ。:制作がひと区切りついたので最近よくライヴをやっていて。お客さんはリズムに乗って揺れては下さるんですけど、踊るのはハードルが高そうで。僕が小さい頃ダンスをやっていたのもあって、ダークでポップな成分を保ちつつ、もうちょっと踊ってもらえる曲を作りたいなと思っているところですね。新しい課題もいろいろとできたので、年内にもう1作品くらい出したいなあ…。これからも面白い曲をいっぱい作って出していきたいです。
取材・文◎沖さやこ
「Identification」
2022年5月25日配信スタート
◆「Identification」配信リンク
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