KEN LLOYD、1stワンマン<Prelude To Twilight>で「Thank you very much! See you soon!」

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寸分の歪みも混じり気もない、100%の純度で放たれた意志。オーディエンスの目の前に現れた瞬間から颯爽とその場を後にするまでの約1時間半に幾度、目をみはらされたことだろう。OBLIVION DUSTでもFAKE?でもATOM ON SPHEREでもなく、まんまKEN LLOYDとして自身の内に鳴る音楽をまっすぐに体現するその姿に、もしかしたら今、初めて彼というヴォーカリストの、ミュージシャンの、アーティストの本質に触れたのではないかとさえ思う。

◆KEN LLOYD 画像 / 動画

今年1月、キャリア25年目にしていよいよ自身の名義でソロ活動をスタートさせたKEN LLOYDが5月14日、神奈川県川崎市のライヴハウス・CLUB CITTA'にて開催した初のソロワンマンライヴ<Prelude To Twilight>。直訳すれば“黄昏への序曲”となるこのライヴタイトルは、今回のソロ活動を自分の音楽人生の集大成であり最終章だと位置付けるKEN本人の想いがそのまま反映されたものだろうが、実際にステージを目撃して感じたのは黄昏どころか、むしろ新たな青春の幕開けとも呼びたいくらいの瑞々しさと未だ果てしないポテンシャルだ。もし、これを最終章とするならば、この章だけで途轍もないボリュームの物語が編まれることになるのではないか。そんな予感にも胸が躍る、圧巻の夜だった。


開演時刻を回って場内が暗転すると同時にステージを覆っていた幕が静かに開き、マイクスタンドの前に立つKENをブルーのライトが背後から照らす。逆光に佇むシルエットからも今日に懸ける気魄が伝わってくるかのようで、そうしてそれは次の刹那、歌声となって空間に迸った。記念すべき1stワンマンの1曲目を飾ったのは「Under My Wing」、これが初披露となる新曲だ。イギリス人と日本人のハーフである彼のテーマカラーとしてソロのアーティスト写真にも象徴的に用いられているピンクと青の照明が、ライヴにおいてもステージを二分して交互に瞬き、そのクールなコントラストが否応なしに昂揚を誘う。

なお、事前のインタビューを通じてあらかじめ本人の口からも明かされているが、今回セットリストの大半は初披露の新曲で占められている。なにせ現段階でKEN LLOYD名義で世に出ているのは1月に配信リリースされた「Sweetness」1曲のみ。それでワンマンライヴ開催に踏み切る心意気やよし、ある意味、無謀とも言えなくはないが、その初期衝動的な無謀さはKENの本気の裏付けでもあろう。そうしたただならぬ本気が歌声に変換され、凛とした強さとなってオーディエンスを貫くのだ。じっくりと聴かせるモードから一転、2曲目「Misfit」に突入するやKENはスタンドからマイクをもぎ取り「Come on! CLUB CITTA'!」とシャウト。太くうねるアンサンブルの先陣を切ってステージを右に左にとアグレッシヴに動き回りながら客席を煽りにかかる。新型コロナウイルス感染症予防のためフロアは全席指定の椅子席ながら、瞬く間に総立ち。それぞれの席を守りながらも心地よさそうにサウンドに身を委ね、可能な範囲で大きく体を揺らしてはKENに応える。オーディエンスは発声も禁じられていたが、演奏が終わるたびに沸き起こる盛大な拍手とステージに注がれる視線の熱量だけでも興奮の針がマックスに振り切れていることははっきりとわかった。

「まだ1曲しかリリースしてないのにライヴに来てくれるなんて、みなさんもお好きですね。なかなかアドベンチャーになるかと思いますけど、新しい曲を味わったり、一緒にノったり、好きなように楽しんでください」

親愛を込めたジョークを交えつつ、KENはオーディエンスにそう呼びかけると、早くも唯一のリリース曲「Sweetness」を披露。美しいバラードに乗せ、コロナ禍をはじめ世界中が混沌とした悲しみに塞がれている現状を抉り出すかのように綴られた歌詞、痛みから目を逸らさず、だからと言って声高に誰かや何かを弾劾するでも、ただただ悲嘆に暮れるでもなく、希望を持って前に進むために“All we need is sweetness (必要なのはSweetnessだ)”と真摯に歌い上げ、“Spread it out/Sweetness (Sweetnessを広げよう)”と繰り返し訴えかけるKENの歌声には慈しみが宿って、聴く者の心を柔らかに包み込む。オフィシャルサイトに掲載された日本語訳には“Sweetness(優しさ)”とも記されているが、彼の声の響きには“優しさ”をも一要素として包括してしまうくらいにいっそう深く大きな愛情を感じてやまない。この曲から彼のソロが始まったこと、その意味をつくづくと噛み締めた。


スペイシーなトラックとタフなビート感が不敵な印象を残す「Mal D'amour」、骨太なサウンドにスケール感を孕んだヴォーカリゼーションが'80年代の初期オルタナティヴロックを彷彿とさせる「Cuckoo」。過去を振り返ったとき、鮮明に蘇ってくるのは案外どうでもいいような何気ないワンシーンだったりすると明かし、そうした勝手に記憶に残ってくれる瞬間は自分の意志では選べないこと、何気ないことも鮮明に思い出せるのであればこの先はどんな一瞬一瞬も大事にして生きていきたい、それをみんなでやれたらいい世の中になるかもしれないとオーディエンスに語りかけたあと、「そんな何気ない瞬間を曲にしました」と告げて演奏された「Teenage Game」はどこか懐かしく、けれど現在進行形のときめきをも含んで躍動的な色気をこれでもかとばかりに振りまく。

ポップネス全開の「Aloe」では客席いっぱいにクラップが鳴り響いたかと思えば、「Kick」のロックなグルーヴにはオーディエンスも跳ね踊り、拳がガンガンと突き上がる。1曲1曲、驚くほどバリエーションに富んだソロのオリジナル曲たちに加え、彼が携わっている3つのバンド(あるいはユニット)の楽曲もそれぞれにセルフカヴァー、彼の中に息づく音楽性の幅広さには改めて舌を巻かずにいられない。このライヴで演奏されたすべての楽曲に“KEN LLOYDの曲”という新たな命を彼とともに吹き込んだサポートメンバーの剛腕にも、だ。NYFのギタリストであり、OBLOVION DUSTのツアーにも参加経験のあるRYOを筆頭に、同じくNYFのベーシストにして「Sweetness」のMVにも出演したZEPELI、Pay money To my Pain およびThe BONEZのドラマーとして活躍するZAX、さらにはOBLIVION DUSTのマニピュレーターも務める堀守人がパーカッション&マニピュレートとして参加したこれ以上ないほどに強力な布陣。KENのMCによればリハーサルはわずか2日間ほどだったそうだが、俄には信じ難いほど盤石かつ闊達なアンサンブルにはひたすら魅了されるばかりだった。もとよりフロントマンとしての無二性と華を兼ね備えている彼だが、信頼するメンバーに支えられ、ありとあらゆる縛りから解かれて、自身が心から奏でたい音楽を、思うまま思う形で表現し聴き手に手渡さんとするKENの姿はおそらくこれまでにも増して輝いていたはずだ。

KEN LLOYDという新たなキャリアの第一歩となった夜を締め括ったのは'70年代に活躍したアメリカのロックバンド、Dr.Hookのカヴァー「Sharing The Night Together」だった。披露するにあたりKENは「たぶんみんな聴いたことがないんじゃないかと思いますけど、僕も全然知らなくて。ある日映画を観ていたら、すごくいい曲が流れてきて、調べたらDr.Hookの曲だったんです」と一目惚れならぬ一聴き惚れしたことを告白。いわく「本当にいい曲で、気分が落ちているときにこの曲を聴くとすごく明るく楽になれる。魔法の曲だと思うので、みんなとシェアしたいなって」と言葉を続けると「今日は来てくれて本当にありがとう」と改めて感謝を口にした。そうして溢れ出す温かなバンドサウンド。KENのヴォーカルが朗々と場内を渡り、オーディエンス一人ひとりにやさしく降り注いでいく。KENにとっての音楽とは何か、その答えがここにある気がした。

「Thank you very much! See you soon!」

KENは最後にそう言うとキスを投げ、アウトロを奏でるメンバーを残してステージを去った。ハッピーな余韻と次への期待がいつまでも消えない。ここで演奏されたオリジナル曲たちはおそらく、そう遠くない未来に私たちのもとに届くことだろう。終演後の彼のツイートにも“絶賛音源制作進行中”とあった。ならば今は素直にそのときを待ち侘びているとしよう。KEN LLOYDの本領発揮はこれからだ。

取材・文◎本間夕子
撮影◎石川浩章

■<KEN LLOYD “Prelude To Twilight” Live>2022.05.14 @川崎CLUB CITTA’ セットリスト

01. Under My Wing
02. Misfit
03. Sweetness
04. Mal D’amour
05. Addicted (FAKE? Cover)
06. Cuckoo
07. Teenage Game
08. Aloe
09. Goodbye (OBLIVION DUST Cover)
10. Kick
11. Imagination
12. Telephone Eyes (ATOM ON SPHERE Cover)
13. Make Chaos
14. Sharing The Night Together (Dr. Hook Cover)

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