【コラム】ももクロ、表現力を増して届ける音楽の“祝典”

ももいろクローバーZ（以下、ももクロ）が、セルフタイトルを冠した前作より3年ぶりとなる6thアルバム『祝典』をリリースする。テーマは、祝いの式・儀式。結成記念日である、5月17日当日にリリースされることに加え、コロナ禍などで苦しい時を経てきた全ての人に向けた祝祭という意味もあるのだろう。

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本作では、1stアルバムから楽曲を提供してきた前山田健一や只野菜摘、NARASAKIといった旧知の作家陣はもとより、餓鬼レンジャーやAmon Hayashiなどのヒップホップシーンのクリエイターや、新鋭のMom、メンバーたちと世代の近い眉村ちあきなど、フレッシュな面々も積極的に起用している。幅広い楽曲を歌うことによって彼女たちのアーティスト性が引き出され、深化している印象を受ける意欲的な作品と言えるだろう。

そんな今のももクロを象徴するのが、カラフルな衣装に身を包んだ4人から意志の強さが伝わるアートワークだ。これは、とある奇祭から着想したものだという。


ももクロはこれまでにも、ビジュアルでクリエイティブなメッセージを発してきた。たとえば、『5TH DIMENSION』初回限定盤（2013年）では、アイドルにもかかわらずマスクで顔を覆った。『白金の夜明け』初回限定盤（2016年）はシュルレアリスムを想起させるものだし、前作『MOMOIRO CLOVER Z』通常盤は、ロックレジェンドのDAVID BOWIE『アラジンセイン』を彷彿とさせる。そうした、アーティスティックでエッジの利いた表現をしてきた彼女たちが、自由な表現を求めた“祝祭”にたどり着くのは、ごく自然の成り行きなのかもしれない。


収録曲は全17曲で、そのうち3曲はインストルメンタル。1曲目のインスト曲「Opening Ceremony -阿-」のタイトルからもわかるように、曲が進むごとにももクロ流の儀式が進行していくという構成のようだ。曲ごとに、「この曲はどんな儀式にあてはまるのか」を想像しながら聴くのも楽しいのではないだろうか。

2曲目「PLAY!」は、2020年11月に行われた配信ライブのために創られたナンバー。ももクロと遊ぶ、戯れるという意味をPLAYという言葉に託したのと同時に、シアトリカルな曲調に、PLAYが持つ「劇に出演する」「演奏する」という意味も楽曲で表現している。ファンファーレを想起させるブラスの多幸感溢れる音色は、まさに作品の始まりを飾るにふさわしい。この楽曲の作曲、編曲を手がけたKOHDをはじめ、アルバム特設サイトには、楽曲を手がけた作詞、作曲、編曲者たちのコメントが寄せられている。そちらを照らし合わせてアルバムを聴くのも興味深い体験になるだろう。



続く、「ダンシングタンク♡」は、「あんた飛ばし過ぎ!!」に引き続くGARLICBOYSのメンバーによるファストコアで、モノノフ（ファンの呼称）歓喜必至の自己紹介ソング。かと思えば、続くリード曲「MYSTERION」では、世界的な音楽トレンドを踏まえた意欲作に挑戦してみせた。オリエンタルな響きが印象的なダンスナンバーを、4人が艶やかに歌い上げるほか、多彩なコーラスも必聴だ。レコーディングを担当したディレクターすら、全体像が見えないほどに壮大でち密なinvisible mannersの楽曲の設計図を、彼女たちの歌声をたよりに創り上げた。彼女たちの歌声を、録っては少しずつ配置するを繰り返しながら、完成にこぎつけたという力作だ。



豪華絢爛な中国の宴席を意味する「満漢全席」は、チャイナ風味のサウンド感とともに、4人が楽し気に食卓を囲む画が浮かぶハッピーでコミカルなナンバー。続く、「BUTTOBI!」は、ゲーム『桃太郎電鉄』とのコラボを祝った気分があがるパーティーチューン。わいわいとゲームに興じるメンバーの姿が目に浮かぶ1曲だ。



「ショービズ」は、本作における2つ目のリード曲。シティポップ感漂うおしゃれなサウンドに意表を突かれつつも、歌われるのは等身大の彼女たちのプロフィール。「後悔　願い　迷いと期待／全部まとめて繋ぐ未来へ」と歌う彼女たちの言葉に、ぐっとくること間違いなしだろう。



メンバー自らが出演するCMでもおなじみの「HAND」は、チルなヒップホップに合わせたゆるいラップが心地よい。触れたり、面と向かうことがためらわれる昨今、隣に居てくれるような距離感が温かい。力の抜けたラップは、意外とニュアンスやメリハリの加減が難しいものだ。「なんとなく最低な日々」でも、彼女たちの絶妙なバランス感覚によって紡がれた平熱のラップが冴える。ひとり時間の孤独感だけに終わることなく、何気ない日々の大切さを伝えてくれるところにまでたどり着けたことは、白眉だ。2010年にメジャーデビューを果たし、10年以上も歌い続けてきたからこそ、表現できる繊細さや奥深さが表現されている楽曲が多いことも本作の魅力を深めている。





フレッシュなクリエイターとのコラボレーションにより、新しい彼女たちの一面を開きつつも、あたかもセルフタイトルのような「momo」では長年彼女たちを見守ってきたNARASAKIが手がけ、彼女たちらしい疾走感を魅せてくれる。疾走感溢れるロックという点では、「stay gold」も本作をパワフルに彩る1曲だ。ドラマ『チート～詐欺師の皆さん、ご注意ください～』の主題歌として、2019年に発表されたものだが「微かに残った希望　今　解き放とう」という歌詞は、いまこそ刺さる言葉にも思えてくるから不思議なものだ。



「月色Chainon ももいろクローバーZ. ver.」は、『劇場版　美少女戦士セーラームーンEternal』の主題歌。2014年にも同作品のテーマソングとして「MOON PRIDE」を担当したももクロ。今作では闘いを前面に押し出すというより、闘う宿命を背負いながらも人としての深い愛情を背伸びせずに歌う。そんな彼女たちに、月日の流れを感じないわけにはいかない。



「孤独の中で鳴るBeatっ!」は、歳月を経て、再びの邂逅を果たした感慨深い1曲。2011年に対バンライブを行ったバンド、神聖かまってちゃんのフロントマン・の子が提供したノスタルジックを感じさせるナンバーだ。大人になることで感じる寂しさや孤独を描きながらも、「大丈夫さ　大丈夫だよ」と寄り添う言葉が、じんわりと心を温めてくれるだろう。

アルバム終盤を飾る「手紙」を手がけたのは、弾き語りトラックメイカーアイドルを名乗る、眉村ちあき。過去の自分を抱きしめるような、どこか内省的な歌詞は、自らもグループアイドルでの活動経験がある眉村からの、ももクロにあてた手紙のようにも思える。アイドルとしてがむしゃらに突っ走ってきたももクロは、元気いっぱいでハッピーなキラキラを振りまく存在。それは紛れもなく、彼女たちの比類なき魅力だが、そもそもは路上ライブからはじまり女性グループとして初めて国立競技場のステージに立つなど、様々な経験を積んできた。そんなももクロだから、飾り気のない、それでいて深みのあるバラードを今、歌えるのだろう。眉村自身が「ライブでもぐっとくる」と言うように、彼女たちが生でどう伝えるのかも気になるところだ。

ラストを飾るのは、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」のカバー。オリジナルのアレンジを大切にした華やかで晴れ晴れとしたサウンドに乗せ、4人が堂々と歌い上げる。これまでに、加山雄三主宰の＜ゴー！ゴー！若大将FESTIVAL＞への出演や、ALFEE・坂崎幸之助との音楽番組『お台場フォーク村NEXT』などで、音楽シーンの大先輩方との交流を深めてきたももクロ。時代を超える名曲を彼女たちが歌いアルバムに記録することで、諸先輩方からの歌の心を託されたようにも思える……というと、少し大げさだろうか。



初回限定盤は、Blu-ray DISC 1に、2022年1月に幕張メッセで行われた＜ももいろクローバーZ 13周年記念コンサート再び、その先へ～＞を収録。Blu-ray DISC2では、2021年9月の＜The LIVE ～諦めない夏～in ABEMA＞の模様が収録されるほか、アルバムドキュメンタリーや新曲のミュージックビデオが収められる。彼女たちの音楽制作に取り組む真摯な姿勢やライブ映像からは、ももいろクローバーZの自由な表現の輝きが画面を通して伝わってくるに違いない。

すでにスタートしているアルバムの世界観を映し出したライブツアー＜6th ALBUM TOUR“祝典”＞を目にすることで、さらに彼女たちがなにを届けようとしているのか、その真意に迫れるのではないだろうか。14周年を迎え、グループとして、表現者としてますます魅力がパワーアップする彼女たちから、これからも目が離せそうにない。

文◎橘川有子