【インタビュー】My Hair is Bad、アルバム『angels』に3人ならではの音の描写力「20代で育んできた俺たちの形」

■これで20代のマイヘアは終わり
■30代もいろいろ挑戦していきたい

──今回のアルバムを聴いて改めて感じたんですけど、やはりMy Hair is Badの音楽は、すごく物語性がありますね。例えば「綾」は、出会うタイミングが違っていただけなのかもしれない2人の切なさが伝わってきます。

椎木：2020年の終わり頃に「予感」という曲を出したんですけど、その曲の続きというか、前というか。「予感」と一緒に聴いてもらえると、より伝わるものがあると思います。

──「舌」もそうですけど、幸せな結末を迎えることができないであろう2人の物語が浮かびます。

椎木：「舌」は、僕が大好きな後味が悪いやつ（笑）。趣味で書きました。こういう曲がアルバムに入っていてほしかったので。

──“このまま君の舌を噛み切ったら 嘘をつけなくなるかな？”って……歌い出しから後味が非常に悪いですねえ（笑）。

椎木：こういうの、好きなんですよ。足りない言葉がいっぱいあると思うんですけど、お客さんたちが想像で補ってくれるので、僕は好き勝手に書けるんですよね。

──余白の部分は3人の演奏でも補いつつ、豊かに彩っていると思います。

椎木：その通りですね。

──各曲の物語を的確に表現できる3人によるバンドが、My Hair is Badということではないでしょうか？

山本：ありがたいですね。

山田：ありがとうございます！


──3人の音の描写力という点だと、やはり「白春夢」。ライブで聴くのもすごく気持ちいいですし、2020年の春頃のムードが蘇る曲です。

椎木：「白春夢」はこのアルバムに入っている音の感じで完成したんですけど、作り始めた頃のデモを聴くとめちゃくちゃ暗いんですよ。マジで外に出ていない人が作っている感じ（笑）。そういう曲が日の目を見て、お客さんに愛してもらえるようになったのが、すごく嬉しいです。

山本：Aメロを繰り返す内に細かくベースのフレーズが増えるところとか、自分でも面白いことができたなと感じています。あんまりないコード進行も新鮮ですね。“暗く聞こえるけど暗くない”っていう独特の感じになりました。

──多彩な作風が発揮されたアルバムにもなりましたね。「ギャグにしようぜ」みたいな、肩の力を抜いた雰囲気のメッセージソングも生まれましたし。

椎木：この曲は、さくらももこさんが書くような歌詞を書きたかったんです。

──言葉遊びを思いっきりしているのに、不思議とメッセージが伝わるあの感じ？

椎木：そうです。“ひらがなで書いてるけど、そこに真理がある”みたいな、そういう雰囲気にしたかったので。

──「リルフィン・リルフィン」は、ミクスチャーロック的なサウンドですね。“Word support”として、ああこさんのお名前がクレジットされていますが、どういう作り方だったんですか？

椎木：ああこさんは、ファッションのお仕事をされている方なんです。僕は7〜8年前からTweetを見ていて、お会いしたことも連絡を取り合ったこともなかったんですけど、この曲を作り始めている中で、“あの人のあの言葉選びを使わせていただきたいな”と思ったんです。「Tweetの言葉を使わせていただきたんですけど」と連絡をしたら、「好きに使ってください」と。だからいっぱい使わせていただいて、1人の女の子がいろいろ言っている感じの歌詞にしました。面白い作り方ができたと思っています。


──「仕事が終わったら」も、アルバムの中で存在感を放っていますね。“飲む理由は来るんじゃなくて作るものだから”とか、お酒を飲む喜びをストレートに表現している感じが潔くて気持ちいいです。椎木さんは、テキーラを飲むようになったんでしたっけ？

椎木：はい。テキーラのショットグラスが家にあるようになりましたから。

山本：今は外に飲みに行けないので、今回のレコーディングやプリプロ終わりに、区切りをつけるために3人でテキーラのボトル1本を空けたりしていたんですよ。

椎木：「仕事が終わったら」の歌詞は、実は何度も書き直しました。結構ギリギリのタイミングで、ホテルのロビーでPCを開いて書いていたら、コンビニ帰りのやまじゅん(山田 淳)が近づいてきて、蒸気の出るホットアイマスクと栄養ドリンクをくれたんです。その時に「ありがとう」と言って、もともと書いていたのを全部消して、この歌詞にしました。

山田：この歌詞、俺のせい（笑）？

椎木：“俺、何をしたいんだろう？ 酒を飲みたいんだ！”ってなったんですよ。“やめたい やめたい もうやめたい”みたいな、かなり自暴自棄なことをもともと書いていたんですけど、前向きにお酒に収めることができて良かった（笑）。

──ははは。アルバム『angels』を振り返って、何か感じることはありますか？

山本：一生懸命作ったので、とにかく聴いていただきたいですね。

山田：それに尽きるね。

椎木：作ってから時間が経っている曲がいろいろあるぶん、自分たちで客観視して、“やっと出るんだ？”っていう感覚にもなるアルバムです。リリースされるのが楽しみですね。これで20代のMy Hair is Badは終わりましたので、30代もいろいろ挑戦していきたいです。

取材・文◎田中大





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