【ライブレポート】生憎の雨。が見せた音楽に対する信念
3月24日、東京・渋谷にあるSpotify O-WESTにて、生憎の雨。ツアーファイナル<感染都市より愛を込めて>が開催された。
◆ライブ写真
混沌とした世の中を一刀両断するかのような楽曲と共に、音楽に対する信念が味わえた良いライブだった。まず、目を奪われたのは演者の登場の仕方だ。生憎の雨。はボーカルの魔喪を中心に、サポートメンバー2人で構成されている。この日もドラムの優一とYo-shiTが先にステージへ。後から魔喪が煙を吹かしつつ姿を現す。魔喪は右手に拳銃を持っており、ゆっくりと顔の横へと近付けたかと思えば、そのままこめかみを打ち抜くという衝撃的な演出から本編が始まったわけだが、ダミーの拳銃とはいえどもその場にピリリとした緊張感が走ったのが分かる。
未曾有のパンデミックはまだ終わりを告げてはいない、だからこそ、オープニングに持ってきた「TOKYO PANDEMIC.」で観る者の気持ちを引き締めたことにより、後の楽曲へとうまく繋げていったように思う。「東京の皆さん、こんばんは。生憎の雨。です。ツアーファイナル、盛大にキメちゃって下さい!」と、ラップ始まりの「草草草」を披露していく。この曲は魔喪に合わせてコーラスで参加するYo-shiTの声がとても合っており、また展開していくにつれて感情豊かに表現される優一のドラムも心地よかった。
かと思えば、イントロから脳みそをぐちゃぐちゃにされるような感覚に陥る「洗脳」。曲中で最も盛り上がるサビの部分では、魔喪は胸の前で合掌をしてみせた。それを観た観客はマインドコントロールされたかのように、彼と同じ動きを一斉に繰り広げたのも圧巻だった。
場面は変わり、オルゴールの音色がフロアに響く。血を連想させるほど真っ赤な色をした照明が一面を照らしていくと、そこに合わせてきたのは三拍子のワルツ調のリズム。不気味さが漂うステージで、魔喪は何度も右手で唇をぬぐう仕草を見せる。「自殺願望第一」とタイトルが付いたこの曲は、ライブの空気感を一気に変えていく力を持っていた。
そこから「第三次世界大戦」へと繋げていくのも、生憎の雨。なりの計算があってのことだろう。「草草草」同様、ラップ始まりの曲ではあるが表現方法が違っていて面白い。ここでは、効果的に盛り込まれたスクラッチプレイが楽曲に対して良いアクセントとなっていた。曲のラストで魔喪が「世界は終わりです」と歌った後に親指を下に向けたのも記憶に残るパフォーマンスだったといえよう。そして、ライブ初期から人気がある「眠剤」では、より艶めかしく、後半にかけて激情部分が色濃くなったように感じられた。
「1stワンマンツアー・ツアーファイナル、Spotify O-WESTへようこそ。楽しんでるかい? 楽しめてるかい? 声も出しちゃいけないし、堅苦しいライブはありますが、拍手でお応えしていただければ。まぁ、ツアーファイナルだからってそんなに緊張せずに、いつもどおりの生憎の雨。のライブでいくので肩の力を抜いて楽しんで下さい。いいですか?」とフロアを盛り上げていく。
「こちらは、いつもどおりです。今日はO-WESTに向かう途中、職務質問されました」と、魔喪ならではの通常運転エピソードを披露する。「僕ってそんなに怪しいですか?」と観客に問いかけるも、皆、否定するそぶりを見せるどころか、大きな拍手で応えていく。
「警察の方に、これからどこに行くの?って尋ねられたんですけど、僕はこう言いました。大事なデートに行ってきますと。でもお巡りさん、嘘付いてごめんなさい。今日は大事なデートなんかじゃないんです。そんなやわなもんじゃなく、今日は結婚式です。全てを捧げるということです。このライブに全てをかけるということです。ついでに、何か悪いものを持っていないかと持ち物検査をされました。……お巡りさん、持ってますよ。音楽という麻薬をねー!」その瞬間、私の頭の中にはヴィブラスラップの音色がクワァァンと響いた。それはそうと、「はい、次の曲いきまーす」とこれまでのくだりが何事もなかったように、しれっとテンションを戻すあたり、なかなかのものである。
本編中盤には、「おやすみ世界」と「インスタ映えない」といった、メロディの美しさが特徴的な2曲を持ってきた。そこから、ドラムのキックに合わせて「ロックのせいにしないで」が始まると、「踊ってもいいんやで」と自ら手拍子をしながらフロアを乗せていく。その様子からも分かるように、ライブハウスが一気にクラブの空気感へと変化していった。その後には、Yo-shiTが「全員、手を叩け。盛り上がっていこうか!」と煽っていく。「優一!」の掛け声でドラムが鋭く入ると、観客は手拍子の音を大きくしていった。メンバー紹介を盛り込んだこの曲は、「スーパーYo-shiTタイム」という仮タイトルが付けられているが、フリースタイルを取り込んでいけば更に面白くなりそうだし、この日だけでなく今後のライブで存在感を発揮しそうだ。
「ねぇ、先生?」では甘酸っぱさを感じさせるサウンドが気持ちよく、「ここはクラブWESTだ!」という魔喪も実に良い顔をしていた。「わたしの彼はバンドマン」は、「バンドマンの俺は好きですか!」と煽って曲に入るという小粋な演出もあった。本編ラストの「404 NOT FOUND」では、「そんなんでいけんのか? 名古屋、大阪、博多に負けるなよ!ファイナルだぞ!お前らの今日という大事な日を俺にくれ!」と喉が枯れるほど叫んでいく。それはサポートメンバーも同じで、今日一番ともいえるぐらい大きなコーラスを聞かせてくれた。そのおかげでフロアにも熱が入る。熱気が波動のように広がっていく感覚を受けた。これこそ、有観客ライブならではの楽しさである。
アンコールでは、「アンコールありがとう、楽しんでるかい? 端っことか後ろとか関係ねぇからな、俺は一人しかいねぇんだから。ね、みんな楽しませようと思ってめっちゃ走ってるけど、めっちゃ疲れるから、お前らが走ってこい(笑)。とりあえず、1stワンマンツアー<感染都市より愛を込めて>ツアーファイナル、O-WESTようこそ!ツアーファイアナルということで、皆さん遠くからお疲れ様です。WESTに立つのがおそらく10年ぶりなんですよ。そのときもツアーのファイナルだったかな。1回目のツアーファイナルがO-Crestでやってチケットが即完して、Crest即完したならWESTも即完するかなって調子に乗ったらお客さんが思っていたより全然入らなくて。マジでショック受けてバンドやめようかなと思ったんですけど、今日はソールドアウトです。みんなのおかげです、ありがとう」と純粋に嬉しそう。
この後はサポートメンバーとMCを繰り広げていったわけだが、とても和気あいあいとした空気感で進んでいった。ドラムの優一はこのツアーが楽しかったと振り返る。彼はリハの時点から気合いが入りすぎたようでファミチキとヘルシアを同時に食していたらしく、魔喪曰く「肉でスタミナを付けてヘルシアでカロリーを消去する姿はかっこよかった」とのこと。また、キーボード&DJを務めるYo-shiTは、今回のツアー自体が自身にとっても久しぶりのツアーだと語った上で、ファイナル公演は良いものだと。しみじみと思いをはせた。
魔喪は、生憎の雨。初CDとしてベストアルバム『TOKYO PANDEMIC』を発売したことを改めて報告し、「このツアー、ほんと楽しかったから終わりたくない。次はもっとツアーを廻りたいですね、北海道とか沖縄とか。どうですか、ぜひ来てください。終わりたくないけどアンコールいっちゃうぞ!」と本音をのぞかせる。ドラムカウントからテンポよく進んだ「不純異性交遊」、その後の「嘔吐」では、中盤で魔喪が人差し指をくるくると回す振り付けを展開していく。曲のタイトルを考慮した上で考えられた振り付けだからこそ、観る者の心を瞬時にして惹き付けるのだろう。ここではガテラルボイスを曲中に盛り込んだことで世界観を重厚なものにしているといっても過言ではない。
「今日は、生憎の雨。1stワンマンツアー・ツアーファイナル Spotify O-WESTにお越しいただき、誠にありがとうございました。このコロナ禍でエンタメは一端閉ざされ、ようやく廻れたワンマンツアーだったんですけど、個人的にはすっげぇ楽しかったし、手応えがあったし、やって良かったなと思います」そして一呼吸置くと、こう続けた。
「この長いコロナ禍で不安なこともありました。音楽でこの先生きていけるのかなって正直思うこともありました。各地で言ってきたんですけど、音楽で生きている人はみんなの想像以上にたくさんいて。PAさん、照明さん、ライブハウスの人、裏方のスタッフ、雑誌とかCDショップとか、後輩のバンドマンだってそうだし、まだまだ色々な人が音楽で生きているわけで、みんなが想像している以上に音楽で生活している人ってたくさんいて。この先見えない不安も絶対あったと思うんです。でも、みんな好きだからやっていると思うし、俺も好きだからやっている。こんな世界、好きじゃなかったらとっくにやめてる。でも、それ以上に音楽が好きだからこうやって食らい付いてやってるし、みんなもそうだと思います」
「日々、つらいことや世知辛いことはたくさんありますが、この日があったから何とか生き抜いてこの場所に来たんじゃないですか? つらい世の中、音楽が好きだからこの日のために集まったんじゃないですか? 結局、ほんとに好きだからやってるし、お前らも音楽が好きだからこの場所にいる。気持ちは同じだと思います。ライブを観に来てくれる関係者さんはたくさんいますが、ライブが良かったとか、微妙だったとか、そういうのを一番に言っていいのは間違いなくお前らだから。お前らの感想や意見を一番に受け止めて尊重しようと思ってます。どんだけ権力を持っている人の意見や感想よりも、お前らの意見を尊重したい」
「なぜなら、お前らが一番俺のことを知っているから。お前らが俺の一番のファンだから。何か、“私は誰からも愛されてない”って声もよく聞きますけど、俺は間違いなく愛してます。音楽=(イコール)お前ら。音楽のことを考えているということはお前らのことを考えているってことだから、音楽がある限りは大丈夫です。だから、もっと音楽を愛して下さい。遠いところから来てくれてありがとうございました。また必ず会いましょう!」
コロナ禍に直面して、こう感じた人も少なくないはずだ。エンタメは終わったと。その意見も一理ある。だが、終わったと思ったままでは何も始まらない。終わらせないために何が出来るのか。それを魔喪はイチ表現者としてずっと模索してきたのではないだろうか。それだけに、今日この場で、こんな状態なんてやってらんねぇよといった愚痴を吐き出す場面は一切見られなかった。
音楽が好きでこの世界に入り、どれだけ辛酸を舐めようとここにとどまり続けている。正直、バンドの世界は苦難の連続だと思う。華やかに見えるが思いどおりにいくことなんて滅多にない。けれども、魔喪という人間は苦難に直面すればするほど、弱音を吐かなくなる。吐かないというか、吐けない体質なのだろう。ため込んで、ため込んで、もう無理だといっぱいになったところを、歌詞や楽曲に変換して落とし込む。そうやって、音楽に対して真摯に向き合える真っ直ぐな人間だと知っているから、最後に披露した「音楽がなくても世界は廻る」には心を打たれた。
どれだけ世界が変わろうとも、魔喪の信念が揺らぐことはない。“僕が居なくても世界は廻るけど 抗って 戦って 死んでいきたい”“音楽がなくても世界は廻るけど ここに立って 歌歌ってる その日が来るまで 音楽がなくても世界は廻るけど 繋がって 繋がって 繋がって 繋がって 繋がっていたいんだ”と謳っているように、彼が音楽を作り続ける限りはまだ大丈夫だ。エンタメが予期せぬ形で終わらないためにも、こうした信念を持った表現者の公演に立ち会えたことを心より嬉しく思う。
なお、この後には、予定にはなかったダブルアンコールを気前よくやってくれたことも追記しておきたい。「さっき終わったやん!手叩けば出てくると思って!」と言う魔喪の表情はどこか晴れ晴れとしており、彼にとっても音楽は救いの一手なのかもしれないと感じさせてくれた。「ありがとう!」そう言いながら、自分の肩に両腕を回して抱きしめるようなポーズを見せると、「愛してるぞ」と呟き颯爽とステージを去っていった。
次回は5月1日、SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて<五月雨>と銘打ったワンマン公演が開催される。次もどのような内容のライブになるのか期待したい。
取材・文◎水谷エリ
写真◎ゆうと
BEST ALBUM『TOKYO PANDEMIC』
全16曲入り
¥3,850(TAX IN)
品番:S.D.R-369
全国流通
1.TOKYO PANDEMIC.
2.嘔吐
3.第三次世界大戦
4.洗脳
5.自殺願望第一
6.眠剤
7.おやすみ世界
8.草草草
9.ロックのせいにしないで
10.わたしの彼はバンドマン
11.不純異性交遊
12.インスタ映えない
13.終雪
14.ねぇ、先生?
15.404 NOT FOUND
16.音楽がなくても世界は廻る
ライブ・イベント情報
2022年5月1日(日)SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
<『TOKYO PANDEMIC』発売記念インストアイベント>
2022年4月1日(金)ライカエジソン東京店
2022年4月15日(金)名古屋 fiveStars
2022年4月16日(土)ライカエジソン大阪店
2022年4月17日(日)福岡SKULL ROSE
2022年5月3日(火)東京 自主盤倶楽部
◆生憎の雨。オフィシャルサイト
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