【ライブレポート】DIR EN GREYのShinyaソロプロジェクト「SERAPH」が描く、新世界創生の啓示
DIR EN GREYのドラマー・Shinyaのソロプロジェクト「SERAPH」が、2月24日に東京・大手町三井ホールにて<Shinya Birthday Event - SERAPH Concert 2022「Spuren des Ruins」>を開催した。
◆ライブ写真
2020年ぶり、3回目となるSERAPHのコンサート。2年間待ち望んでいた公演とあって、会場に集まったファンたちは皆期待に満ちた表情をしている。会場として初となる大手町三井ホールはその場所柄もあり、高級感漂うエレガントな造りになっており、開演前のホールは宮廷音楽が流れ、今回のテーマカラーの“青色”のライティングに照らされていた。さながら海中とも空中とも言えぬ浮遊感のある、しかし厳かな時間が流れる様はまるで天上の晩餐会に招かれたかのようで、開演時間が近づくにつれ自然と背筋も伸びてしまう。
ホールの照明が落ち、その時がやってきた。北欧の景色を想起させる序曲と共に流れたスクリーン映像には古代の神殿、そしてただ長く続く洞窟の中を歩くShinyaの姿。そして続くMoaは一輪の花を壁に挿す。まるで忘れられていた場所に生命を与えるかのように。映し出された文字は『愚かなものは滅び、選ばれし者が新世界を創っていく − 滅亡後の世界』。神の慈悲の届かぬ深淵に恵みを授ける、まさしく熾天使の名を持つSERAPHの姿がそこにはあった。
映像に引き込まれているのも束の間、太陽の光が示す新しい世界の先に幕が降り、ステージ上に鎮座した2人をストリングスのカルテットが囲む。まさしく受肉したかのような錯覚に固唾を飲むや否や一曲目「Uisce」が演奏される。真っ赤な海、自然の持つ凶暴性を音に乗せたかのような激しいドラムプレイに圧倒される。まさに今人類が直面している危機を突きつけられているかのような感覚に陥る。激しさののちに凪を感じる瞬間、美しいフルートの音色が安堵を誘う。どれだけ激しくとも止まない雨はない、そう伝えられたかのようだ。続く「Abyss」では深海へと誘われる。「SERAPHを記憶せよ」と心に刻み込むかの様に重くバスドラムの音が1音1音響き渡る。テクニカルなドラムプレイを魅せる事が多いShinyaだが、こういったニュアンスの表現も流石としか言い様がない。
これまでのSERAPHのコンサートで全曲の映像に歌詞が映し出されていたが、今回は日本語訳も表記される。「Reisn」では人間とは何かを問いかけ、破壊的なイメージと共に演奏も激しさを増していく。 悲鳴、悲惨というキーワードは昨今の情勢もあり我々には重いテーマとしてのしかかってくる。必要なのは他者の痛みを理解、またそこに到達する人間の強さだということを提示する。そこには大いなる存在からの期待のようなものが含まれていた。
では具体的にどうすれば良いのか、罪を意味する「Lovshka」で1つの答えを示した。 雄大な空や山を想起させる壮大な旋律。 Shinyaのドラムプレイもその繊細さで生命の素晴らしさを表現している。人の持つ罪を理解し認めることでその罪を越えられる、まさに天啓を伝える天使としてのメッセージが込められている。
ストリングスカルテットが退場し、SERAPHの2人のみがステージに残る。スクリーンには神殿が映し出され、神秘的な佇まいに惹き込まれる。Shinyaの力強いシンバルストロークに続きMoaのピアノがインする。ドラムとピアノのセッションデュオだ。クラシカルながらもビート感のある音のうねりが会場を包み込む。単調さを感じさせない展開、最後の残響までも計算された、まるで数式の様に美しい数分間。これがたった2人で演奏されているというのだから驚きである。カルテットがステージに戻りShinyaの姿が消える。Moaとカルテットによるアンサンブルが奏でられる。空間が広がるかの様な奥行き、映像の光の粒が舞い上がる様子と呼応する様に更なる高みに連れて行ってくれるのだろうかと期待を隠せない。
「Destino」のイントロが演奏される中ドラムセットにShinyaが戻り激情は続く。「Lovshka」で提示された“罪を認める”ということ、その先の答えとして、人は祈りによってより強くなる。それこそが生きる事、祈りの本質だと説いてくる。こうしたメッセージ性の高い楽曲をまるで説法の様に順序立てて魅せるセットリストの組み方が見事で、楽曲の精神性の高さと相まって、他のアーティストでは感じられないSERAPHならではの魅力だとしみじみと痛感させられた。曲の終盤、4つ打ちのビートを入れることにより、着席し干渉するクラシックスタイルのコンサートでありながら熱い高揚感が込み上げる。
そうして続くのは「Génesi」、SERAPHで唯一音源化されている楽曲のため、恐らく集まったファン全員が何回も聴いている楽曲である。SERAPHはその場で初めて聴いた人にも深い感動を与える楽曲を提供しているが、やはり聴き慣れた曲というのは格別である。映像、楽曲どこをとっても我々の知るSERAPHである。前回の公演から2年という歳月が経ったとしても色褪せないものがそこにはあった。そして、これからもそうであろうと感じさせられた。
場面が急に変わるかの様に「Majesté」では激しくも華麗な舞踏会を想起させる。この新しい世界という劇場で自由に舞え、と命じられたようだ。神や自然、大きな存在である彼らは多くの場合人間に厳しい面を見せるが「Lluvias」は優しく慈愛に満ちた面を見せてくれる。“あなたが泣く時は寄り添って泣こう”、傷ついた心を癒すのは誰かの肯定なのかもしれない。この曲は勇気を持って生き抜いていくための力を後押ししてくれる。「Sauveur」ではゴールドとピンクの照明で会場が彩られまるで宮殿に招かれたかのよう。豪奢で荘厳な世界観は神の元で啓示を受けているかの様だ。華麗な3拍子のリズムパターンが心地よく、DIR EN GREYとはまた違ったShinyaのプレイスタイルを堪能できる。
そして「ウイルスの蔓延る中来てくれてありがとうございました」と感謝を伝える。最後の曲、「Kreis」は謎解きゲーム制作会社、よだかのレコード制作の手塚治虫原作『火の鳥』の謎解きゲームの主題歌だったことから、ワンコーラスのみ公開されていた。そのサビをみんなにも歌って欲しかったがご時世柄発声ができない為、心の中で歌って下さい、と伝えた。「いつか歌える日が来ることを願って、最後の曲やりたいと思います。今日は来てくれてありがとうございました」と願いと感謝を述べて「Kreis」に。ピアノの印象的で美しいメロディからスタートすると空気感が一変。人は自然の一部であり、命や生命の営みを冒涜する人々の罪の深さと願いをMoaが切なくも澄んだ声で歌い上げる。
天使であるSERAPHが伝えるもの、それは蔓延する疫病や争いの中生きる愚かな人間の罪を厳しくも律し、新たな世界を創生する為の啓示を与える愛のメッセージであった。前回の公演に続き最後のエンドロールでも演者やスタッフに続き「You」の文字が大きく映る。これが何を意味するのかの説明は要らないだろう。オープニング映像を飾った楽曲をエンドロールで再び演奏し、SERAPHの文字と会場に散りばめられたフィナーレの光と共に幕は閉じる。
第2部のトークイベントではマネージャーの藤枝氏司会の元、Shinyaが募集した質問に赤裸々に答える質問コーナーやShinya持ち込み企画の謎解きコーナーなど盛りだくさんの企画が行われた。謎解きの制作はよだかのレコード、前回に続き代表のへるお氏がSERAPHに関係する謎を出題した。もちろん忘れてはいけないのがこの日はShinyaの誕生日当日、皆が予想だにしない形でサプライズのお祝いがされた。
深いテーマ性とエンタメ性、この両面を両立させられるアーティストがどれだけいるだろうか。それらを存分に堪能できるSERAPHのコンサート、次回の開催が既に待ち遠しい。
写真◎Lestat C&M Project、Shogo Jasmine Mizuno
セットリスト
01. Uisce
02. Abyss
03. Reisn
04. Lovshka
05. Drums & Piano Duo
06. Destino
07. Génesi
08. Majesté
09. Lluvias
10. Sauveur
11. Kreis
Overture II -ending-
◆SERAPH オフィシャルサイト
この記事の関連情報
【ライブレポート】PIERROT×DIR EN GREYの“月戦争”「ピエラーも虜も関係ねえんだよ!」PIERROTワンマン公演開催も発表
【レポート】ライブフィルム『DIR EN GREY LIVE FILM 残響の血脈』、メンバー全員が揃った初舞台挨拶
ライブフィルム『DIR EN GREY LIVE FILM 残響の血脈』、メンバー全員登壇の舞台挨拶実施決定
DIR EN GREY × PIERROT、7年ぶり<ANDROGYNOS>ライブ映像をYouTubeプレミア公開
DIR EN GREY、今秋公開ヨーロッパツアーライブフィルムのタイトル&ポスタービジュアル解禁
DIR EN GREY × PIERROT、7年ぶり<ANDROGYNOS>を10月開催
DIR EN GREY、4年ぶりヨーロッパ公演のライブフィルム2024年秋に劇場公開
【俺の楽器・私の愛機】1589「初7弦」
【レポート】DIR EN GREYのShinyaソロプロジェクト・SERAPH、天から大地へ