【インタビュー】栗本斉、入門書『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』

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2022年2月22日(火)発売され、すぐに重版が決定した話題の入門書『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』 。本著はライターとして『アルゼンチン音楽手帖』『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』といった著作でも知られ、 選曲家としても活躍する栗本斉による、シティポップの基本が分かる珠玉の一冊だ。星海社の担当編集・築地教介同席の元、長年ライターとして、そしていちファンとして“シティポップ”に寄り添ってきた栗本が、どんな思いで100枚をチョイスしたのか、早速聞いてみた。

◆『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』 関連画像

■シティポップはジャンルじゃない
■“都会的な日本のポップス”

──『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』 の執筆の経緯は?

栗本 ここ10年くらい、シティポップ絡みの原稿を書くことが増えてきました。ウェブサイト「Real Sound」で、日本の再発物の記事を書いていたんですが、拡大解釈されているシティポップの基本的な事柄について連載しませんか、という流れになったんです。その連載が2021年の夏前から始まると、「シティポップで本を一冊作りませんか」とすぐに築地さんから連絡をいただいて。僕もその連載をゆくゆく本にできればいいとぼんやり思っていたけど、それを築地さんがすぐに形にしてくれたわけなんです。

──築地さんは栗本さんの連載を読んで、すぐにシティポップ本はイケると思ったんでしょうか?

築地 僕は昨年からシティポップのディスクレビュー本を出したいと思っていたんです。入門も深掘りもできる書き手をズーッと探してて……。ちょうどそんなときに栗本さんの連載を拝見して、あーこの人だ、と(笑)。原稿も読みやすくて、書籍化してもイケるんじゃないかと。栗本さんの名前は知ってはいたんですが、シティポップの連載を始めたということで、このタイミングしかないと思って声をかけさせてもらいました。

──前書きにも書かれていますが、改めて今のシティポップの定義とは?

栗本 文字通り“都会的な日本のポップス”だと思っています。シティポップはジャンルじゃない、ということを改めて思っていて……細かく言うと海外のAOR、ソウル・ミュージック、フュージョン、ボサノヴァなんかを取り入れた日本のポップスではあるんですけど、それではあまりにもジャンルの幅が広いし、何か統一感あるものというとずばり“都会的なポップス”。フォーク・ギターで田舎の風景を歌うのはシティポップじゃないと思うし、洗練されたアレンジのサウンドに乗せて歌うポップス、そういう感覚があります。それがたまたま70年代の半ばくらいに始まって、80年代に音楽シーンの主流になった。90年代以降もそれが引き継がれてDNAは脈々と流れている。

──それは今も途切れずに流れている?

栗本 そうですね、途切れてない。流行り廃りはあるけれど、好きな人はどの時代にも確実に存在すると思っています。

──栗本さんはライター活動初期から「JAPANESE RARE GROOVE」に注目されていました。栗本さんが考えていた「JAPANESE RARE GROOVE」と、今のシティポップはリンクすると思いますが、そこに何らか差異、乖離はありますか?

栗本 あるといえばありますが、ないといえばない。ジャンルではなく、シティポップって自由に解釈していい言葉なんです。ヘヴィメタルなら、これはヘヴィメタルじゃないでしょ、というのが確実にあると思うんですけど、レゲエ やボサノヴァ……そういう括りがあると思うんです。シティポップはそうじゃない。極端に例えると“癒し系”とか“青春系”、そんな括りと同じなのかなと。もう少し音楽寄りに言うと、例えばフリーソウル。ビートの感じとか感覚的なものが強い。その時代時代にいろいろな呼び方がありますが、今はそういう都会的な洗練されたサウンドに関しては、全部シティポップでいい。そこにはR&Bは入ってくるし、ヒップホップも入ってくるし、サーフミュージックも入ってきてもいい。そこは人によって解釈すればいい。ただ僕個人としてはこの本に書いてある、シュガーベイブを起点にしたものが中核だと思っていて、自分はそこはブレないようにしたい。

──「JAPANESE RARE GROOVE」は……。

栗本 あのときもジャンルは関係なく、“DJで使えるか”がテーマでした。ビートが効いていて、かつファンクだ、ブラジルだ、で選盤してました。あれも感覚的なものですね。


■「これがシティポップの王道だ」
■と自分が思えるものを選んだ

──今回、選盤で苦労した点はありますか?

栗本 苦労しましたねー(笑)。

──100枚に凝縮するのが大変だったと思いますが。

栗本 本当にいろいろ考えたんです。要は70年代のリアルタイム世代の人──当時はシティポップと呼ばれていませんでしたが──が感じるシティポップと、僕らみたいに少し後追いのレアグルーブ世代が感じるシティポップ、あとは今の若い世代が感じるシティポップ、それに海外で竹内まりや、大貫妙子って言ってる人が感じるシティポップ……いろいろ考えたんですけど、答えがでなくて、それだったら変な忖度はなしで、自分が「これがシティポップの王道だ」と思えるものを選ぼうと。それで100枚に絞った。本著の中でネオ・シティポップのコラムも書いてますが、実はあれ、言い訳がましいんです(笑)。言い訳がましいけど、こういうのも候補に入れて選びませんでした、というをキチンと伝えたかった。ネオ・シティポップが騒がれたときに、cero、SUCHMOSたちがネオ・シティポップの牽引者だと一部で言われてましたが、よくよく彼らの音を聴くと、僕的にシティポップじゃない。70〜80年代の王道の音に沿った音楽をやっている、それに近い音楽、そこから如実に影響を受けたアーティスト、そういう観点から選びました。かつ、なるべく新しい感性の人は入れようと思いましたが、王道の枠からはみ出ないように気を使いました。

──ちなみに何枚くらいリストップしてからの100枚なんでしょう?

栗本 候補は3〜4倍あると思います。ワーっと盤を集め始めたわけではなく、100枚の中に何を入れられるか、そこからリストを作ったんです。最初のリストを築地さんに送ったのが2021年9月。

築地 そうですね。一番最初に打ち合わせをしてから翌日にリストが送られてきて(笑)。これは予定より早く出せるなとワクワクしましたから。

栗本 その最初の打ち合わせの時点で閃いたんです。その閃きを元にガーッとリスト化したわけ。そのリストでいいかなと思ったくらい。ただよくよく聴いてみるとアルバムとしてはシティポップの括りではないなとか、一般的にシティポップと言われているけどロックだなとか、そんなに都会的なサウンドでもないなとか、いろいろ出てきて。さらにその時点では2012年までの作品しか入れてなかったんですが、築地さんのリクエストで、ここ10年の作品も選んでほしいと。お、難題が来た、と(笑)。それらを入れたリストがヴァージョン8くらいまで更新されて、執筆しながらもリストが入れ替わっていく感じでしたね。

──編集の方からこのアルバムは違いません?みたいなやり取りはあったんですか?

築地 僕はどちらかと言うと、これはどう思いますか?というのを聞きながら、吟味してもらった立場ですね。リストアップのお手伝いというか。例えばジャニーズ系はどうなのかなって思いつつ、栗本さんには伝えなかったし……ザ・ウィークエンドが亜蘭知子の「Midnight Pretenders」をサンプリングした話とかしましたよね。あの一曲だけがシティポップ感あるけど、アルバムとしては統一感がなく、今回は違うんじゃないかとか。

栗本 途中のヴァージョンでは亜蘭知子が入ってたんですよね。それも聞き直してちょっと違うなと。

──1曲だけシティポップだと話題になったヤツは……。

栗本 そういうのは、ほぼほぼ外してます。僕はもともとDJ的な聴き方をしてたので、一曲あればオッケーではあったんですけど。以前金澤寿和さんと作った『Light Mellow和モノSpecial』は曲単位で選んだ。最初それに近い選び方をしていましたが、アルバムを通して聴いて楽しめるものにしたいと思って。アルバムのクオリティも加味して選んでいます。

──シティポップは世界的なムーブメントと言えると思いますが、この後、どうなっていくと思いますか?

栗本 いろいろな人といろいろな話をするんですが、難しい質問ですね。シティポップって意外に10年くらいブームなんです。10年ブームになっている音楽って実はあまりないんですよね。この10年くらい、ブームというかちょっと時代を先に行っている感じがある。先日YouTuberの“みのミュージック”さんとこのことについて話す機会があったんですが、彼が面白いことを言っていて、「アメリカでも細かいムーブメントはあるけれども、それらは大体数年でなくなっている。でも例えばR&Bという大枠のジャンルはズーッとメインで残っている。シティポップもそうなる可能性はある」と。僕も漠然とそれは思っていて、シティポップという言葉自体は古くなるかもしれないけれど、洗練されたポップスという“枠”はなくならないと思うし、(山下)達郎さんもズーッと聴き注がれていて、「今どき達郎聴いてんの?」とは言われないし、シティポップ的なジャンルは残っていくんじゃないかと感じます。

──PREPとかレイニッチとか世界的に広がっていますし、まだまだ面白い人が出てきそうですね。

栗本 海外からドカンと出てくると面白い。ザ・ウィークエンドがサンプリングしましたけど、サンプリングはつまみ食い文化だと僕は思っていて──もちろんそれで話題になるのは大いに結構なんですが──サンプリングしてかっこいい曲ができるのは素晴らしい。ただザ・ウィークエンドがシティポップの人にはならないわけで(笑)。

──サンプリングした先にシティポップはないですよね。される側はありますが。

栗本 ただあれを聴いて、このサウンドかっこいいなと思って、シティポップのサウンドを作り出すミュージシャンは出てくると思うんです。そういうのが欧米から出てきてブレイクしたら──PREPはまだまだインディーですが──AOR/シティポップ系の人がビルボード1位になった、となったら面白いですよね。

『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』

2022年2月22日(火) *お住まいの地域により発売日は異なります
著者:栗本斉
ページ数:256ページ
定価:1000円(税別)
販売サイト:https://www.seikaisha.co.jp/information/2022/02/01-post-211.html

(本書構成)
■著者自らディスク100枚を選盤し、一枚一枚精緻に綴ったディスクレビュー
PART.1「黎明期」燦然と輝く名盤20枚
PART.2「最盛期」進化と深化の過程で誕生した必聴盤50枚
PART.3「再興期」受け継いだ遺伝子からさらなる変容を遂げる次世代盤30枚
■「シティポップとはなにか」を様々な視点から提示するコラム
コラム.1 編曲家とスタジオ・ミュージシャン
コラム.2 シティポップサウンドのルーツ
コラム.3 国内外のネオ・シティポップ

・本書掲載アーティスト(一部抜粋)
SUGAR BABE、荒井由実、鈴木茂、大貫妙子、加藤和彦、南佳孝、松原みき、大滝詠一、寺尾聰、山下達郎、伊藤銀次、佐藤博、吉田美奈子、杏里、稲垣潤一、杉真理、角松敏生、松田聖子、杉山清貴&オメガトライブ、竹内まりや、ティン・パン・アレー、Char、尾崎亜美、小坂忠、ラジ、笠井紀美子、やまがたすみこ、細野晴臣&イエロー・マジック・バンド、高橋ユキヒロ、サディスティックス、小林泉美&Flying Mimi Band、中原理恵、サーカス、郷ひろみ、広谷順子、五十嵐浩晃、岩崎宏美、EPO、伊勢正三、井上鑑、佐野元春、東北新幹線、濱田金吾、中原めいこ、AB'S、須藤薫、山本達彦、村田和人、国分友里恵、来生たかお、菊池桃子、1986オメガトライブ、飯島真理、鈴木雅之、今井美樹、Original Love、小沢健二、GREAT3、具島直子、古内東子、キリンジ、比屋定篤子、NONA REEVES、冨田ラボ、畠山美由紀、流線形、Lamp、土岐麻子、一十三十一、シンリズム、LUCKY TAPES、星野みちる、SPiCYSOL、never young beach、Yogee New Wavesなど

・本書掲載ディスクを集めたプレイリストが3つの音楽サブスクリプションサービスで聴ける! 読みながら聴ける! 聴きながら読める!
Spotify、Amazon Music、Apple Musicのプレイリストに飛べるQRコードを巻末掲載!

◆星海社 オフィシャルサイト
◆栗本斉 Twitter
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