【インタビュー】AJICO、プロデューサー鈴木正人が語るツアー<接続>放送の見どころ「すごいものをみた」

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圧倒的だった。20年の時を隔てて姿を現したAJICOは、EP『接続』のリリースと、それに伴ったライヴツアーを完遂し、活動の幕を降ろした。短期間ではあったが、作品、ライヴともに、このスーパーバンドにしか実現できない領域に達した内容だったと思う。

◆AJICO 画像 / 動画

そしてこの2021年版AJICOにおけるキーマンこそ、EPのサウンドプロデュースとキーボードという役割で参加した鈴木正人である。LITTLE CREATURESでの活動で知られる彼はプロデューサー、アレンジャーとしても有能で、UAやベンジーのファンならその才覚に触れたことがあるはずだ。基本的にはベーシストだが、今回のツアー<接続>ではサポートキーボーディストとして加わることになった。この鈴木がAJICOにもたらした音楽的な要素は、途方もなく大きい。

ここではWOWOWでオンエア予定の中野サンプラザ公演の模様を収めた番組に先駆けて、鈴木にインタビューを敢行。“まーきゅん”が明かしてくれた今回のAJICOの舞台裏は、番組を楽しむのに最高の副読本になっていると思う。そしてUAやベンジーのファンにとっては、ふたりの横顔がうかがえる話も多く、そこもきっと面白いはずだ。

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■前作はロックバンド感で作ったんだけど
■今回は「現代的な要素を入れたい」と

──この中野サンプラザは僕も見せていただいたんですが、本当に素晴らしいライヴだったと思います。

鈴木:ありがとうございます。

──鈴木さんは今回のAJICOのライヴを振り返って、どんなふうに思われてますか?

鈴木:まず自分のことを言うと、今回は鍵盤だったので……これだけフルにツアーで鍵盤だけをやるのは、ほとんどない経験だったので。それはすごく新鮮でしたね。で、全体的には……ステージ上の後ろのほうで“ああ、いいバンドだな”と思いながら、ずっとやってました。まあUAとはずっと一緒にやってるし、ベンジーさんとも何回かやらせてもらったことがあったんですけど、ふたり一緒になると、すごく……独特というか、あんまり他ではない感じになって。“すごいものを見たな”という気がしますね。


──その渦中にいらっしゃった鈴木さんですが、バンドの中の立場としては、アレンジも請け負うような形だったんですか?

鈴木:いや、自分がプロデュースした『接続』の曲に関しては、アレンジしたり、“ここはこうしたほうがいいかもね”みたいなことは言ったりしましたけど、その他の曲に関しては、ほぼベンジーさんとUAが主導権を握ってる感じだったかな。

──そうなんですね。ただ、曲によっては、キーボードの存在感はとても大きかったと思います。前回のAJICOは4人だけで、キーボードがなかったわけですから。

鈴木:ええ、あの4人のカッコ良さはあるなと思っていたので。僕、そもそも最初は全曲で入るとは思ってなくて。“4人だけでやるコーナーがあってもいいんじゃないかな”とか思ってたんだけど、それがやってくうちに「これも、これも」みたいになってきて、結局、全部やることになって(笑)。だから、その4人のいい感じは、なるべくちゃんと残るように控えめにやってたつもりなんですけど。

──ただ、中には大胆にリアレンジされてキーボードが入ってる曲もありますね。今回オンエアされる中野サンプラザ公演はツアーのわりと序盤のほうですが、8月末まで続いた中で、サウンドはどんどん変容していきました?

鈴木:どうだろう? こなれていって、固まっていったのはあると思いますね。あとね、突然、違う曲をやりたがるんですよ。“ちょっと明日、この曲やりたいけど”って……それ、リハでもほとんどやってないですけど、みたいなやつを(笑)。それがちょっと大変といえば大変でしたね。

──このサンプラザの時はどうでした?

鈴木:どうだったかな? いきなりやった曲もあったような気もしますね(笑)。


──ははは。ではライヴの話の前に、時間を翻りたいんですけど。今回、鈴木さんのところにプロデュースの話が来たのは、おそらく一昨年ぐらいだったと思うんです。というのは、UAとベンジーが制作に入ったのが2019年の後半だったみたいなんですね。

鈴木:ええと、最初にその話をもらったのは……UAが都はるみさんの曲のレコーディングをした、その日に初めてこの話を聞いたのかな?(※2020年2月発売のトリビュートアルバム『都はるみを好きになった人』で、UAは「北の宿から」をカバー)

鈴木氏のマネージャー:2019年の10月ですね、そのレコーディングが。そしてAJICOでは2020年の1月ぐらいにプリプロでスタジオに入ってたみたいです。

──そこで鈴木さんにはどんな要望がありました?

鈴木:UAが言ってたのは、前作(1stアルバム『深緑』/2001年発表)はわりとセッション的に、ロックバンド感で作ったんだけど、今回に関しては、今の音楽として世の中にアピールできるものにしたいということで。「現代的な要素を入れたい」と。「だからシンセとか打ち込みも全然あり」という感じの話をしてたかな。なので最初はUAから話が来たんです。

──なるほど。その時点で今回のEPに入ってる4曲はもうありました?

鈴木:はい。最初にもらったのが、あのEPの4曲です。

──そこで鈴木さんとしては、“こうアレンジしていけば”みたいな考えは生まれました?

鈴木:そうですね、スタジオで“せーの”で録ってるデモテープを聴いて。まあデモはもう出来上がってたし、みんなが考えてるフレーズとかドラムのパターンとかは生かしながら、そこにちょっと別の要素を加えてったり、あとはフレーズをちょっといじってみたりして。唯一、ガラッと変えたのは「地平線 Ma」ですね。


──そうなんですね。今回UAが言ってたのは、彼女なりの「“ネオポップ”というものをやりたい」ということなんです。

鈴木:ああ、そうですね。UAはすごくポップということを意識してるみたいで、それは自分のソロに関してもそうですね。彼女は「次のステップに来ている」みたいな話はずっとしていて。そこの延長線上でAJICOでもポップということを意識して作りたいと思ってたんじゃないかな。

──なるほど。で、UAは「エレクトロの感覚が入っているロックに行くほうがいい」とか「最初はディスコのイメージやBECKのようなサウンドも提案していた」と言ってたんです。

鈴木:そうですね、そう言ってました。だから「L.L.M.S.D.」という曲は、リズムをシェイクというか、今の感じにしようと。「ドラムに関しては四つ打ちにしてみたらどうですか」と提案しました。

──あれはすごくチャーミングな曲ですよね。ベンジーが書いた曲で。

鈴木:そうそう。かわいくて、ディスコっぽいのも合うんじゃないかなと思って。

──ですよね。あと、先ほどの「地平線 Ma」ですが、これがすごくカッコいい曲で。

鈴木:ああ、ありがとうございます。

──この曲について、UAはボン・イヴェールの話をしていましたか?

鈴木:ああ! ボン・イヴェールの話はよく出てましたね。ただ、特にこの曲に関しては言ってなかったと思うけど。

──そうなんですか。「地平線 Ma」の“Ma”は母親という意味だそうで、これにはボン・イヴェールの「Hey Ma」という曲の影響があるようなんです。で、ボン・イヴェールに通じるサイケデリックな感覚も今回のAJICOに入り込んできている気がしていて。

鈴木:そうですね、最初の段階で「ボン・イヴェールみたいな感じもいいね」みたいな話はしていたので。UAはそれを覚えてたんでしょうね。「地平線 Ma」はバンドのデモはもっとクラシックロックみたいなサウンドだったので、そこは変えたほうがいいなと思って、そう提案しました。

──クラヴィネットの音がすごく大胆にフィーチャーされてて、それがカッコいいです。

鈴木:ありがとうございます(笑)。僕、クラビは好きで、最近ならヴルフぺックがいっぱい使ってたりするので、ああいうファンキーな感じもカッコいいなと思って。

──これがEPの1曲目で、最初に聴いたものですから、今回のAJICOはずいぶんアグレッシヴなんだなと驚きました。

鈴木:ははは。この曲がアレンジ的には一番攻めて作ったかな。そういう意味では。

◆インタビュー【2】へ

■WOWOW番組『AJICO Tour 接続』

放送日:2021年11月7日(日)よる8:00
放送:〔WOWOWライブ〕〔WOWOWオンデマンド〕※放送終了から2週間アーカイブ配信あり
出演:AJICO (UA、浅井健一、TOKIE、椎野恭一) and 鈴木正人
楽曲:深緑、美しいこと、すてきなあたしの夢、フリーダム、L.L.M.S.D.、Black Jenny、接続、惑星のベンチ、金の泥、悲しみジョニー、地平線 Ma、情熱、ぺピン、庭 ほか
※収録日:2021年6月13日
※収録場所:東京 中野サンプラザ
番組URL:https://www.wowow.co.jp/ajico/

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