【コラム】だから、aikoはやめられない
きた、これ。やっぱaikoはこれだから辞めらんない。
一聴しての率直な感想。9月29日にリリースされるューシングル「食べた愛/あたしたち」を最初に受け止めたときの衝撃だ。
◆ミュージックビデオ
毎回“してやられる”この感じ。毎度ブレることのない“aiko節”にまんまとやられるこの感じ。期待通りに毎回突いてくるこの感じ。誰もが皆、この感覚に浸りたくてaikoを求めてしまうのだろう。
しかし、本人は至って自然。計算なんてのは毛頭ない。狙ってなんかいやしない。ただただ自然と素直に感じたことを歌詞という言葉に置き換え、最高に心が躍るリズムと、気持ちを上げてくれる独特のメロディに載せて歌っているだけのことなのだ。その彼女の自然体は、毎回驚くほどの表現力で、聴き手である私たちを決して裏切ることはない。
“なるほど。このモヤモヤは、この言葉を導き出せなかったからなのか!”と思った瞬間に落ち込んでいた心が和らぎを取り戻し、“もう恋なんてしない”が“恋って愛しいな”に変化していく。そして、また恋がしたくなる。そうなったらもう、まんまとaikoの虜である。
今作「食べた愛」も歌い出しからいきなり結論だ。そこが斬新。相手を大切に想うからこそ、言えない言葉がもどかしい。言えそうで言えない言葉を抱えながら全力で恋をする主人公がとにかく愛おしい。
いつもaikoの恋は全力。そして、全身で恋をする。だから多幸感にあふれていて、幸せが伝わってくる。でも、だからこそ切なくて、だからこそ残酷。
相手のことを全部知りたくなって、1日中ずっと考えてしまうのが恋という病。aiko自身もちゃんとその症状を知っているのだけど、慣れることはないもの。恋をする度その想いに振り回されてしまう。
「食べた愛」の中に生きる主人公の、嫌われるのが怖くて好きが言えずに躊躇する溢れる愛しさがとてもいじらしい。恋愛に限らず、普段から周りの人間を大切に思い、常に相手のことを想って行動する愛情深いaiko故、恋愛という形になっても、100%相手想いの時の流れになるのだろう。そこがまたとてもあたたかい。
aikoの歌が “女子のみの恋愛バイブル”になっていないのは、そんなaikoの全力での“好き”が、aikoの言葉を借りて言うならば(※aikoはライヴで客席とのコールアンドレスポンスをする際、「男子〜! 女子〜! そうでない人〜! メガネ〜! 裸眼〜!コンタクト〜!」などと煽るのが特徴)、男子にもそうでない人にも最高に愛おしく感じられるからなのだと思う。女子からは“そうそう! 本当にそう!”という同感。男子・そうでない人からは“こんな風に愛されたい!”という同感なのだろう。
▲初回限定仕様盤 ジャケット
また、aikoを支持し、強い憧れを抱く有名人も多く、aikoに影響を受けたアーティストも数多い。最近では、King Gnuの井口理、Saucy Dogの石原慎也らがaikoへのリスペクトを公言していることも有名な話。歌詞という形で言葉を用いるアーティストからも男女問わず支持が高いのは、やはりaikoならではの言葉のチョイスにあるのだろう。
“そんな風にこの感情を書き表しますか!”という驚きが常にあるのだと言うのは納得だ。片想いの曲の切なさを表現する言葉のチョイスはもちろんのこと、aikoの両想いの中には片想いの様な切なさや行き違いが潜んでいる。そんな“刹那的な感情”がたまらなく魅力的なのである。
また、aikoが一人称で自身を表現するときに使う“あたし”。そこにもaikoの言葉チョイスのこだわりがある。随分と昔の話になるが、ラジオで「自分はまだ“私”ではなく“あたし”の方が合っている気がする」と語っていたのを覚えている。aikoの書く歌詞がいつになっても色褪せることなく初々しく響くのは、少し未熟さを感じさせる“あたし”のせいなのかもしれない。
静かに語りかけるように始まる、優しい印象の「あたしたち」は、これまた一つの“aiko節”。この曲でもお馴染みの“あたし”を用いているのだが、ここでは一人称ながらも“あたしたち”という“1人だけの想いを綴ったものではないところ”に、いつもとは少し違う、俯瞰した視点と心の成長を読み取ることが出来る。
恋に振り回される感情を歌う歌詞が多い中で、好きになったり嫌いになったりしながらも、お互いに向き合い、一緒に過ごす時間を大切に、ゆっくりと愛を育みながら歩む2人を感じさせるこの暖かさは、恋する2人への応援歌や、共に人生を歩くことを決めた新郎新婦の誓いの歌にもなりそうだ。
一方、3曲目に置かれる「列車」は、80年代ポップを彷彿させるaikoらしい軽やかなステップが似合うリズムと、メロディアスな展開が魅力的な1曲。が、しかし、まさかの“さよならの歌”である。
“暗闇は手を繋いで 寂しさは抱きしめあった 頭に埋めた記憶も全部無駄になって欲しい”、“頭に埋めた記憶も全部無駄になって欲しい”という心情描写の素晴らしさは感動的。楽しく愛しかった忘れたくない想い出を、無駄になって欲しいと願うほど苦しく感じている今。主人公の苦しみの深さを見事に表現しているフレーズだ。しかし、その後に描かれていく、
“後ろを向いて遡る時間だけ地に足がつく 日々の彩り 癖や期待 舌の味も消えて”という描写では、無駄になって欲しいと願う日々が、どれほど愛しく大切なものだったかということを、“遡る時間だけ地に足がつく”という言葉と“日々の彩り 癖や期待 舌の味も消えて”という言葉との対比で綴っているのだ。
そして何よりも、最初に書かれた“どうしても忘れたくないけど”というフレーズが、この恋を後悔していないことを物語っているところだ。主人公の心の葛藤が見える歌詞の最後に書かれた“どうか忘れて”が意味する“さよなら”が、相手を想う優しさに見えてくる流れが実に素晴らしい。
また、この曲は一人称が“僕”であることから、一人称を“あたし”とする歌詞とはまた異なる捉え方をすることも出来る。聴き手が女子ならば、“僕”を“彼”からの言葉としてこの曲を受け止めると、何故か、ちゃんとさよならと向き合える気がしてくる。
aikoの歌詞は無理やり背中を押したりはしない。でも、彼女が描く心情を表す言葉は、不思議と心を楽にしてくれる作用がある。aikoの曲はあたたかい。
▲通常盤 ジャケット
aikoの楽曲が、SpotifyやApple Musicなどのサブスクリプション音楽サービスで解禁になったのは、2020年の2月26日のこと。デビュー曲からカップリング曲やアルバム曲も含めて全楽曲が聴き放題になったことから、誰もが知る「花火」「カブトムシ」などを“イコールaiko”だと思っている、いわゆるライト層は、改めてaikoの魅力、aikoの深さに気付かされたはず。
aikoはごくごく普通の日常や出来事が、恋をすると少しずつ変わって見えるところや、感じ方をとてもリアルに深く掘り下げる。恋した相手と恋した自分に真っ直ぐに大切に向き合って。
恋愛を歌う曲が多いことや、ポップなリズムとキャッチーなメロディが多いことから、キラキラした恋物語を想像しがちだが、aikoの歌詞はとても哲学的。aikoの曲はとても複雑な奥深さがあるのである。
好きが溢れるが故に辛くなる「食べた愛」。空気のような存在になった2人がゆっくり進んで行く愛しさの形「あたしたち」。振り返ればそれもまた愛しい日々に変わる。まだ忘れることが出来ない愛しかった日々への別離「列車」。
異なる愛しさを見事に表している3曲。どれも違った肌触りではあるが、肌寒くなってきた9月に、どうしても今年最後に着たかった半袖の上から、そっとブランケットをかけてもらったような温もりを感じる共通点を感じずにはいられない。
人は、人を愛すること、痛みや別れを経験することで成長する。そんな中で繰り返す“どうしたって伝えられない”想いを、aikoは見事に歌ってくれる。
aikoの曲はあたたかい。
だから、aikoを辞められない。
文◎武市尚子
「食べた愛」「あたしたち」配信情報
41st Single「食べた愛/あたしたち」
予約:aiko.lnk.to/41stSingle
PCCA.15005
1,320円 (税込)
1.食べた愛
2.あたしたち
3.列車
4.食べた愛(Instrumental)
5.あたしたち(Instrumental)
※初回限定仕様盤:カラートレイ & 8Pブックレット
<aiko Live Tour「Love Like Pop vol.22」>
9月27日(月) 東京:東京ガーデンシアター
9月28日(火) 東京:東京ガーデンシアター
10月5日(火) 愛媛:松山市民会館
10月7日(木) 香川:レクザムホール
10月12日(火) 大阪:フェスティバルホール
10月13日(水) 大阪:フェスティバルホール
11月12日(金) 群馬:高崎芸術劇場 大劇場 ※8月19日(木)から延期
11月21日(日) 大阪:フェスティバルホール ※5月20日(木)から延期
11月22日(月) 大阪:フェスティバルホール ※5月21日(金)から延期
11月26日(金) 東京:J:COMホール八王子(オリンパスホール八王子)※5月14日(金)から延期
12月13日(月) 東京:東京ガーデンシアター ※ 8月31日(火)から延期
12月14日(火) 東京:東京ガーデンシアター ※ 9月1日(水)から延期
■チケット料金:6,800円(税込)
■総合問い合わせ
Baby Peenats
03-5452-0232(平日12:00~15:00,17:00~19:00)
メールでのお問い合わせはこちら
https://babypeenats.jp/babypeenats/inquiry/
詳細:https://www.aiko.com/live/
<aiko Live Tour「Love Like Rock vol.9」>振替公演
2020年3月7日(土) 東京:Zepp Tokyo
2020年3月8日(日) 東京:Zepp Tokyo
■振替日
2021年12月1日(水) 東京:Zepp Tokyo
2021年12月2日(木) 東京:Zepp Tokyo
2021年12月6日(月) 東京:Zepp Tokyo
2021年12月7日(火) 東京:Zepp Tokyo
詳細:https://www.aiko.com/live/llr9.php
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