【インタビュー】THE ANDS、10周年の転機と偶発的覚醒「曲を作って演奏してればいいという時代じゃない」
2011年結成の3ピースバンドTHE ANDSが4月21日、4作目のアルバムとなる『herein』をリリースした。ポストロック、グランジ、シューゲイザーをベースに多彩な要素が入り混じる言葉本来の意味でのオルタナティブなロックを追求する彼らにとって、その『herein』は自らの感性をとことん研ぎ澄ましながら作り上げたことを思わせる気迫の1枚に。プライベートレーベルvorfahrを立ち上げたり、全8曲、日本語の歌詞のみで構成したり、レコーディングにゲストを迎えたりと結成10周年という節目を、自ら転機に変えようとしていることを考えると、『herein』がこれまで以上にリスナーに訴えかける力を持った美しい作品になったことも頷ける。全曲の作詞・作曲を手掛ける磯谷直史(Vo, G)も「THE ANDSというバンドがいたという証明になる作品」と大きな手応えを感じているようだ。
◆THE ANDS 動画 / 画像
その磯谷にこれまでの活動を振り返ってもらいつつ、新作について訊いてみたところ、なんと結成10周年と新作のリリース、そしてそれが印象づけたバンドのさらなる覚醒が重なったのは偶然だったことがわかってちょっとびっくり。実は結成10周年に込めた意気込みを聞かせてもらえるんじゃないかと彼に会いに出かけていったのだが、淡々と語る磯谷の言葉から感じられたのは、今この時だけを見据えつつ、さまざまな出会いや自分たちがおもしろと思えるチャンスをしっかりと掴みながら、粛々と活動してきたインディバンドの矜持と覚悟だった。『herein』の気迫に加え、頼もしい言葉を聞けたのだから、こちらの見立てが外れたことなどこれっぽっちも気にならない。THE ANDSのこれからががぜん楽しみになってきた。
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■自分たちの足で立ちたいと思った
■届けるまでを作品づくりとしようと
──結成10周年というタイミングなので、今回はこれまでのことを振り返りつつ、新しいアルバムについて聞かせてください。早速ですが、結成10周年を迎え、THE ANDSはまた転機を迎えようとしています。自然の流れもありつつ、自ら、このタイミングを転機にしていこうと考えているようにも思えるのですが、そんなことも含め、結成10周年を迎えた現在の心境から聞かせてください。
磯谷:毎年毎年、一生懸命に音楽を作っていたらいつの間にか10年経っていた──それが正直なところではあるんですけど、数字にしてみると、なかなか重みがありますね(笑)。とは言え、特にアニバーサリーな企画を考えているわけではないんです。我々としては、毎回、デビュー・アルバムを作るような感覚で作ってきたので、言われてみれば10年なんですけど、今が一番いい、健康な状態という気持ちなんです。
▲磯谷直史(Vo, G) |
磯谷:実はですね。去年の今ぐらいにリリースするつもりで制作を進めていたんです。でも、新型コロナウイルスの影響もあって、スタジオに入る時間が減ってしまい、制作が大幅に遅れてしまったんですよ。そのせいで結果的に10年目にリリースすることになったっていう(笑)。僕ら、ライブをやっていない時間はずっと制作しているので、まとまったものができたら、リリースしていこうっていうスタンスでバンドをやっているんです。それが今回、たまたま10周年だったっていうだけなんです(笑)。
──アルバムが完成したのはいつだったんですか?
磯谷:完パケは今年の1月でした。
──それからリリース日を決めることも含め、スケジュールを組んでいったんですか?
磯谷:そうです。流通のウルトラヴァイブのスタッフと相談させてもらって、最短で組んでもらいました。アルバムが完パケした1月の時点で、「いつだったら出せますか⁉」みたいな感じで(笑)。僕としては時間をかけて作った作品なので、新鮮なうちに出しておきたかったと言うか、出して、みんなのものにして、僕らは次のフェイズに行きたいという気持ちがあったんです。
──最短でリリースするにはバンドも大変だったんじゃないですか?
磯谷:でも、制作期間が長かった分、アートワークやアー写のイメージはもう膨らんでいたんですよ。だから、写真を選んだり、撮影したりするだけでよかったので、集中して一気に作り上げました。
▲4thアルバム『herein』 |
磯谷:いえ、違うんですよ。青森の尻屋崎にある牧場の馬なんですけど、松田恩美さんというフォトグラファーが撮った写真なんです。松田さんの写真が僕、大好きで、懇意にさせてもらってるんですけど、去年の今ぐらいだったかな。ちょうどレコーディングしている時に写真をいくつか見せてもらったら、この写真とその時、制作していた曲のイメージがシンクロして。厳しい寒さにも耐えられる寒立馬って馬なんですけど、その佇まいが、僕らがこれから独立していくってところにもシンクロして、これだ!ってなったんです。それ以降の曲はこの写真を見ながらレコーディングしたんですよ。あれはなかなかない出会いでした。
──アルバムの世界観や、このアルバムをリリースするTHE ANDSのイメージにぴったりだったので、てっきり撮り下ろしなのかなと思っていました。
磯谷:ああ、なるほど。撮り下ろしてもらっても、この写真を超えられないと思ったんですよ。それで、この写真を使わせてもらいました。
──ところで、プライベートレーベルvorfahrをこのタイミングで立ち上げた理由はどんなことだったんですか?
磯谷:元々、Nomadic Recordsという福島の富岡という町にあるレーベルからリリースしていたんですけど、Nomadic Recordsからリリースすることになったそもそものきっかけからお話しますと、2011年3月の東北大震災以降、Nomadic Recordsのオーナーとは情報交換で連絡を取り合っていたんです。その中で、「THE ANDSという新しいバンドを組みました」と報告したら、「よかったらうちから出してみないか」と言っていただいて、僕自身も福島出身なので、何かの縁だなと思って、1stアルバム『FAB NOISE』(2012年)をNomadic Recordsからリリースしたんです。それから9年とか10年とかお世話になってきて、僕らとしては自らを律する時なのかなと思ったんです。甘えたら、応えてはくれるけど、もう甘えてちゃダメだろうと言うか、うーん、自らを律するとしか言えないんですけど、自分たちの足で立ちたいと思ったんですよ。作品を作って、レーベルに投げておしまいではなくて、届けるまでを作品づくりとしようという意識になったのが大きいですね。
──それについてメンバーは?
磯谷:最初から大賛成でした。毎回、僕ら話し合って、いろいろなことを決めるんですけど、迷わずに賛同してくれました。
──今まさに自分たちが作ったアルバムを、自分たちで届けているところなのですが、いかがですか?
磯谷:昔、アマチュア時代に「ライブをやるから見に来てよ」ってクラスの友だちにチケットを手売りしていたことを思い出しました(笑)。もちろん、CDを手売りするわけではないですけど、SNSを使って、自分たちで発信することも含め、その感覚に近いです。アーティストは曲を作って、演奏してればいいという理想像が演者、聴き手両方にあるのかもしれないけど、もうそういう時代じゃない。僕自身、そういうアーティスト像に憧れてはいたけれど、作品は嘘をつかないんだから、それ以外は自分たちでどんどん表に出ていこうっていう。変な話、僕らの音楽が評価されるんだったら、音楽以外のことだってやります。それぐらいのモチベーションで今、行動しているんです。
──YouTubeで毎日、更新している「磯谷の語り」も、その1つなんですね。
磯谷:いやぁ、あれはですね。けっこういろいろなところで聴かれていて恥ずかしいんですけど(笑)、ブログ的な感覚でやっているんですよ。だったらテキストで発信すればいいだろうって話なんですけど、文章を書くのは苦手だし、朝起きてボイスメモに喋ったものをそのまま届けるのが一番体重を乗せられると思ったんです。YouTubeは単純に間口が広いって理由ですけど、音声にしているのは、みなさん忙しいから、10分、15分の映像なんて見る時間ないだろうし、それに僕らが動いている姿はライブで見て欲しいから、内容はブログなんですけど、音で届けるってことをやらせてもらってます。いわゆるYouTuberの方たちがやっている再生数を追うみたいなことはまったくなくて、音楽表現からはみ出した部分で、何か補足できることがあるなら言葉で伝えようみたいな気持ちでやらせてもらってます……けど、どうなんでしょうね(笑)?
──いくつか聴かせてもらいましたけど、淡々とした語りが心地いいですよ。
磯谷:ほんとですか? 福島弁がきつくてですね(笑)。
──いえ。「朝から訛ってます」と書いていましたけど、そんなに訛っているようには聞こえませんでしたよ。
磯谷:そうですか。がんばってるんですよ、たぶん(笑)。
──訛っていたって、全然、いいんじゃないですか。
磯谷:そうですね。テキストだと訛りは伝わらないですもんね。
──喋ることはあらかじめ考えて?
磯谷:そうです。今日はこれについて話そうって。あと、頭とお尻はぐらいは同じことを言おうとは決めてますけど、それ以外はぶっつけ本番です。
──あ、そうなんですか。理路整然としているから、話すことを文章に起こしてから録音しているんだと思っていました。
磯谷:いえ、一切文章にはしていないです。さっき文章を書くのは苦手と言いましたけど、音声にした理由はもう1つあって、このコロナ禍の中、日々、リモートで生活していると、人と会わないからなかなか口を開かないんですよ。お陰でインプットとアウトップットのバランスが崩れそうで、正直、そこに危機感があって、何か考えながら話すということをやらないと、何か失う感じがしたんです。あと、アウトプットを増やすと、インプットも必然的に増やすしかないじゃないですか。だから、新陳代謝を日々よくするために話そうっていう。
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