【インタビュー】“Jesse McFaddin”として

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11月のある日、久しぶりにJesseと話をした。RIZEのデビュー当時から彼の取材を続けてきた筆者としては、こんなにも長く彼と顔を合わせずにいたのは初めてのことだった。その理由が彼自身の側にあることは言うまでもないし、昨年の夏に起きたことについて改めてこの場で説明するまでもないだろう。

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今回はあくまで彼にとって初となるソロ・アルバム『Crescent』に関するインタビューということになるが、当然ながらこの作品の背景にはそうした出来事を含む時間の流れがあるし、それに関することを避けて通るわけにはいかない。しかも相変わらず必要以上なくらい正直なJesseには、その話題から逃げることを自分に許さないようなところがある。なかには、純粋に作品の話だけを聞きたいとう読者もいるかもしれないが、彼が何よりも伝えたがっているのは、今の彼自身がどんな状態にあり、どんなことを考えているか、だ。ちょっとだけ覚悟を決めて、今現在の彼のリアルな姿に向き合ってみて欲しい。

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■たくさんの人に心配をかけたことで気付かされたこともいっぱいある
■「もう一度歩き始めたぜ」ってことを曲で示したいと思った

──ようやく始まりましたね、新たな流れが。ここまでの経過はとても長いものでしたが。

Jesse:そうですね。確かに長かった。ただ、俺にとってこのコロナ禍での自粛は“自粛パート2”みたいなものなんで(苦笑)。もちろん、あのことを笑い話にできるようになるにはまだ10年も20年もかかると思ってるけども、いつか本当に笑い話にできるように、どこかのタイミングから始めなきゃいけないな、とも思ってて。ただ、RIZEやThe BONEZでなくこうして一個人として動き始めるというのは、俺にとって自分なりの“筋通し”なんですよね。今回、自分ひとりのミスで警察のお世話になり、いろんな人に迷惑や心配をかけてきて。「心配かけんなよ」というのは俺自身が後輩とか自分の子供たちによく言ってきた言葉なのに、そんなのとは比べものにならないほどデカい迷惑と心配をかけてしまって。ただ、そうやってたくさんの人に心配をかけたことで気付かされたことというのも、いっぱいあるんです。「心配したよ!」って声を掛けてもらえた時、その言葉に思いがけず涙が出てきたりとか……。とにかく今回は俺ひとりの足で前に進み出て、「これが今の俺です」というのを見せる義務が自分にはあるなと思った。同時にそこで、この先、RIZEやThe BONEZに持って帰れるものを作らないといけないな、とも思ったし。

──あの一件の有無や物事の流れが違っていたとしても、早かれ遅かれソロ作品を作っていたはずですよね。ただ、この局面でそれを作るとなると、音楽的にも動機の部分でも、そもそも作っていたはずのものとはだいぶ違ったものになったはずだと思うんです。

Jesse:確かに。実際これは、俺が逮捕されなかったら作らなかったアルバムだし。何事もなかったとしたら、今まで通りに制作とツアーを繰り返して、RIZEもThe BONEZも両方ずっと続けて……きっと俺、ふと気が付いたら60歳ぐらいまでずっと同じことを続けてた、みたいなことになってたと思うんですよ。だけど逆に、今ここでタイムトラベルをして1年数ヵ月後に戻って過去を変えられるチャンスが自分にあったとしても、きっと変わらないだろうな、と思えるようになってきてて。今現在はすごく大変な時期だし、ようやくアスファルトで舗装された道に辿り着いたのにコロナでふたたびオフロードに戻ったみたいな感じでもあるけど、あの出来事はそれぐらい自分にとって大きな経験になったと思ってるんで。なんか、道なきところに道を作っていくしかなかった、というか。今まで、曲を作るにあたって……なんて言ったらいいのかな。何も考えずに、「みんなが思うJesseってこういう人間なんだろうな」とか、「きっとこういう自分が期待されてるんだろうな」というところに答えを求めてた気がするんですよ。でも今回の場合は、初めて……ある意味、背伸びできなくなったことに気付かされて。

──パブリック・イメージに応えようとすることが、実は背伸びだった、と?

Jesse:そう。ところが俺は、どう頑張っても背伸びができない状態に陥ってしまった。結局、どんな人にとっても「自分らしく生きるってどういうことなんだろう?」というのは、共通する課題だと思うんですよ。だけど実際、自分のことを把握するのって難しいし、死ぬ間際とかにならないと気付けないことっていうのもきっとあるはずだし。


──ええ。そして気付けた時にはもう遅かったりもする。

Jesse:うん。でも俺は、こうして失敗をしたことによって気付けたんです。だから失敗ってホントに大事というか……。前々から、「俺、失敗って好きなんだよね」とかよく言ってたんだけど、自分がそういう考え方のできる人間で良かったな、とも思ってて。ただ、今回にしても、最初からアルバムを作るつもりだったわけじゃないんですよ。いちばん最初に作ったのが「テガミ」で、元々はこれ、「I Love My Crew」ってタイトルで、ギター1本の曲だったんですね。何故か日付まではっきり憶えてるんだけど、去年の9月14日に、いつものスタジオのエンジニアに電話をしたんです。「しばらくライヴはできないんだけど、曲を作りたいからちょっとスタジオに入っていい?」って。実際、去年は12月までライヴをブックしてあったんだけど、俺の一件ですべてキャンセルしなきゃならなくなってたし、イベンターをはじめいろんな人を裏切ってしまってただけに、筋を通すうえでもしばらくライヴをやるわけにはいかなかった。だけどそこで久しぶりに、リリースのスケジュールが決まってるから曲を作るんじゃなく、曲があるからスタジオに入るっていうのでもなく、とにかくスタジオに行きたいと思って。

──ゼロの状態から曲を作りたくなったわけですね?

Jesse:そう。そこで「テガミ」ができて、それ以降、1日何回聴いたかわからないくらい自分でもこの曲を聴きまくって、それから2〜3週間後に「もう1曲作りたいから」って、またスタジオに行って。家でリフを考えてそれを持って行くとかじゃなくて、とにかくスタジオに入って、生まれれば生まれるけど、作れなければ作れない、という感じで作業を続けていって。そうやって曲を作っていくなかで、それまでは線はおろか点すらもなくて、どっちが前か後ろか、右か左かもわからない状態だったのに、1曲できた段階で点ができて、2曲目ができるとそれが線になって。その時に「ああ、俺はこういうことを歌いたいんだな」ってことを改めて実感させられて。それこそ「I talk」なんかも「やっぱ俺、人に何か言いたいんだ、誰かに聴いて欲しいんだ」という曲だしね。そうやって曲が少しずつできていって、そのたびにKAZ ONE(所属事務所・PARADOXの代表)にも聴かせていって。PARADOXも、よく俺の首を切らなかったなと思うし(笑)、そこで無条件の愛みたいなものも感じたし、だからこそ俺は、スタッフのためにも「もう一度歩き始めたぜ」ってことを曲で示したいと思ったし。それをリリースするかどうかは別としてね。で、KAZ ONEからも「久しぶりにJesseの新曲を聴けて嬉しかった」と言ってもらえて、家に帰って曲をかけてみると「I talk」が流れるたびに2歳になるうちの息子が妙にノッたりとか(笑)。なんか今までは、自分が会ったことのない人に向けて曲を書いてたようなところがあったけども、今回、曲を書き始めた時には、まずKAZ ONE、うちの嫁、娘や息子、地元の友達や先輩とかに聴いてもらって……そうやって、聴かせたい人というのがまたゼロから1人ずつ増えていって。で、気が付いたらこれだけの曲が集まってたんで、これをまとめてリリースしたいな、と思えたんですよね。



──去年の9月14日からそういった時間の流れが始まり、そこから作り溜めてきたものがこうなった、と。たとえば曲を作ったり詞を書いたりすることが自分にとってのセラピーになるとか、その時に自分が何を考えていたかを理解するために役立った、という発言をさまざまなアーティストの口から聞くことがあります。そういう部分もあったわけですか?

Jesse:滅茶苦茶そうでした。ホントにセラピーだった。というか、これを作品としてリリースすることも、こうやって取材で人と会うことも、今の自分にとってはセラピーのひとつだし。やっぱ、怖いわけですよ。俺、人と会うのが怖くなるような日が自分に訪れることになるとは思ってもみなかったけど。たとえば「Jesseはハッパ吸ってたからああいう性格で、ああいう曲を作れてたんだ?」とか思われたとしてもしょうがないところがあるわけじゃないですか。自分では100%、いや、百億%そんなことはないって言い切れるけど(笑)、そんな疑いを持たれても仕方のないようなことをしたのは自分だからさ。でもホント、だからこそこうやって一個一個やってくしかないと思ったし、今回だってこうしてインタビューとかの機会をもらえるとは思ってなかったしね。

──たとえばそこで「信頼を取り戻すために」と口で言うことは簡単だけども、何かをすればそれを取り戻せるというものではないわけで。

Jesse:もちろん。ただ、誤解を恐れずに言うと、信頼を取り戻すために、という動機からは1ミリもやってないですね。あくまで今の俺を知ってもらうためにやってるというか。

──それで受け入れてもらえない人がいるなら、それはそれで仕方ない、と?

Jesse:うん。よく「去る者は追わず」って言いますよね? 今まではカッコつけてそう言ってたんだけど、今はホントに、去る者を追う余裕が自分にはない。しかも近付いてくる人を受け入れる余裕すらもない。だから今、自分がとにかく動ける間、何かできる間は続けていきたいと思ってて。これがこの先1年、5年、10年、20年と続いていけばいいなとは思ってるけど、その気持ちが止まったら、きっと俺は音楽作らなくなるんだろうな、とも思うし。

──なるほど。これは歌詞全体から感じることなんですけど、年齢を重ねるにしたがって、視点が変わってきつつあったと思うんですね。それこそ近年のThe BONEZの楽曲でも、自分の中の弱さみたいなものを認めるようになりつつあったと思うんです。

Jesse:ああ……。RIZEでの俺は、ポジティヴ太陽マンだったからね(笑)。

──それが、「実は自分の中にはこうした弱さもあって、だからこそこういうポジティヴなことを言いたくなるんだ」というスタンスに変わってきつつあった。今作の場合も、実際、聴いていてどんよりと暗い気分、痛い痛しい気分になる音楽ではない。ただ、たとえば「Welcome」という曲がありますけど、「誰でもウェルカムだぜ!」というのと「受け入れるのが怖いくらいなんだけど、すべてを受け入れたい」というのとでは全然違うはずで。

Jesse:間違いない。その「Welcome」という曲は、最初は「All Lives Matter」というタイトルだった。実は俺、逮捕される前に本を書いてて、ホントはそれを去年の8月に発表予定だったんです。でも7月19日に捕まったから(苦笑)。で、その本の仮タイトルが『COMPLEX』だったの。俺がこれまでに感じてきたコンプレックスについて赤裸々に話してて、「だけどコンプレックスを持ってるのって実は最高なことなんだぜ」っていう内容なんです。



──この曲の歌詞にも出てくるように“I'm different from you”ということだ、と?

Jesse:そうそう。コンプレックスを感じる唯一の理由って、人と違ってる、ということじゃないですか。「なんで俺、天パなの?」「なんで私、身長低いの?」「なんでこんなに耳たぶデカいの?」とかね。そういう違いを嫌だな、と思うところから出てくる。だけど、そんなに鮮明に他のみんなと違ってるところが自分でわかってるなら、それを受け入れるべきなんだと思う。だってそれを失くしたら隣の人と一緒になっちゃうじゃん? そこで俺はみんなに何かを教えられるような立場でもないけど、俺自身はこうやって乗り越えてきたよっていう本を書いてた。メインは人種差別の話だけど、もちろん「Charの息子」みたいなチャプターもあってね。ただ、そういう人種差別というか「ハーフなんでしょ?」という視線が俺を俺にしたところがあって。俺がどんなやつでも受け入れるのも、ライヴ後にどんだけ時間がかかろうとサインとかに対応するのも、自分がかつて受け入れてもらえなかったことからくる反動だったりする。正直、めんどくさい人もいるよ。ライヴ後、酔っぱらって喧嘩腰で近寄ってくるやつもいれば、「就職どうしようか悩んでるんですけど」とか言ってくるやつもいる。「知らねえよ」とは思いつつも「でも俺で良けりゃ聞いてやるよ」みたいな。そういう俺の軸っていうのは、差別を喰らったことがあるからこそできたものなんだな、と思ってて。プラス、同じような時期にアメリカではジョージ・フロイドの事件があって、現地の友達から「Jesse、おまえはメッセンジャーなんだから今こそ歌を歌ってくれ」って連絡が来たり。そこで当初は「All Lives Matter」って曲にしようと思ってたんだけど、その言葉は“Black Lives Matter”に対する反組織だ、ということがわかって。それはわかるんだけど、俺はブラックじゃないし、逆にブラックの人たちにはミックスなやつらの気持ちはわからないはずじゃん?

──確かにまったく同じではないのかもしれませんね。

Jesse:うん。しかも“All Lives Matter”っていうのはなんかカタいな、と気付かされて。で、それはすなわちどういうことなのかって考えた時、結局は“Welcome Everybody”ってことなんだと思って、「Welcome」というタイトルにすることにして。あと、この曲の歌詞では、すべての色、すべてのタイプ、すべてのカルチャーをウェルカムする、という言い方をしてるけど、当初は“culture”じゃなくて“religion”という言葉を使ってた。だけどもその言い方だと“Black Lives Matter”みたいなことに矢印を向け過ぎちゃう気がしたし、カルチャーならば信仰ばかりじゃなく、スケート・カルチャーとかタトゥー・カルチャーとか、そういうものも広く含むはずだと思えたから……。だからホントにあの曲については……うん、久しぶりにというか、初めて書きたい曲が書けた気がしたところがあって。


──そういった背景が引き金になっている「Welcome」も、結局は自分のことになっているし、すごく身近な人に向けてのものになっている。で、身近な人に伝わるものだからこそ広く伝わり得るものになっている、という気がします。

Jesse:うん。これは実際「俺、純日本人だし」っていう人には、完全には理解できない曲だとも思うんだ。だからみんなが同じように受け入れてくれなくてもいい。だからこそこんなに何万組もアーティストがいるわけなんだし。結局、ひとりで万人に好んでもらえる曲を作ろうとするんじゃなくて……。そこもちょっと変わってきたかな。今まではやっぱり、万人に好んでもらいたいっていう気持ちがどこかにあったし。

──フェスですべての人の共感を集めるような曲が欲しいとか、そういうのも含めて?

Jesse:そう。俺、そんな人じゃなかったのに、お利口になっちゃって(笑)。でもこの曲を書いてみたら、メッセージとかSNSとかで「僕、ブラックと日本のミックスで」とか、「フィリピンと日本のミックスで、実は英語がまったく喋れないんだけど、この曲に救われました」とか、いろいろと届くようになって。そこで「ああ、なんか、誰かのためになったんだな」と思えたんですよ。あくまで俺のために書いたにもかかわらず。

──皮肉なもので、みんなのために何かをしようとすると、結果的に誰のためにもならなかったりすることがあるわけですよね。

Jesse:そうだね。

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