【インタビュー】BUCK-TICK、人生のすべてを受容・肯定し、あるがままに生きたいと願うすべての人に寄り添う22枚目のオリジナルアルバム『ABRACADABRA』2

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■生への執着はすごく強く人一倍あるのかもしれない
■その欲があるがゆえに疲れたりする


――曲作りの順番のお話に戻りますが、「MOONLIGHT ESCAPE」「堕天使」が出来て、その後前半3曲、次に「ユリイカ」が生まれたのですか?

今井:「ユリイカ」は今回の中で最後にできた曲です。

――作品全体として、“幻想の始まりだ”と歌い始める「ケセラセラ エレジー」で幕開けて、「ユリイカ」の“すべて消え失せろ”へと至る物語性に意味を感じました。人生すべてが幻であり、でも、だからこそ自由に楽しめばいい、というメッセージを受け取ったのですが、最後に「忘却」が来て、得も言われぬ無常観が漂います。「ユリイカ」で作品が終わらない、ということに驚きつつ納得もしました。自然にこの曲順になったのですか?

今井:いや、曲順に関しては、「その2曲のどちらで終わるのがいいかな?」というので、意見がいろいろあったんです。でも、今のこの形が本当に綺麗だなって思いますね。

――今井さんはどちら派だったんですか?

今井:最初は、「忘却」派だったんですけど、最後に“やっぱり……”というのが出てきて。「ユリイカ」を最後にする、という案もちょっと言ってみようかな? と思ったんです。“でも、やっぱりこっちかな?”という気持ちもあるにはあって。

――櫻井さんは曲順に関してはいかがでしたか? 

櫻井:曲順は、ディレクターの田中(淳一)さんも含めて決めることができたんですが、田中さんは全体を俯瞰でよく見てくださっていたので、1曲目は「ケセラセラ エレジー」がいいんじゃないか?というアイディアをくださり、目から鱗という感じでした。それで、最後を「ユリイカ」にするか「忘却」にするかは、今井さんが裏切ろうとして。「ユリイカ」が最後、みたいなことを言い出したんですよ(笑)。

今井:(笑)。


▲『ABRACADABRA』【初回限定盤】

――ギリギリの段階で、だったんですか?

櫻井:はい(笑)。「ユリイカ」を最後にして、最初のSEの「PEACE」に繋がっていく、という案を今井さんはマニピュレーターの横山(和俊)くんと企んでいたんです。だけど、僕とユータ(樋口豊/B)が、“こっちがいいなぁ~”と駄々をこねまして。

今井:俺としても、説得してほしかったんですよ(笑)。「こっちがいい!」って。

櫻井:あはは!

――(笑)。では、じわじわと櫻井さんとユータさんに迫られて、今の形になったと。

櫻井:ええ。“この裏切り者!”って言いながら(笑)。

今井:ユータに対しては“もっとガンガン言って来いよ!”と思ってた。でもユータ、全然言えない感じになっていて(笑)。

櫻井:そう、根拠がないので(笑)。


▲樋口豊

――本当は、推薦理由をしっかり語ってほしかったわけですね(笑)。でも、言葉は無くても熱は伝わってきて翻意した、と。

今井:そうですね。まぁ、本心はこれが良かったんですよ(笑)

櫻井:あはは!

――櫻井さんが爆笑されていますけど……(笑)。

今井:俺としてはそういう、すごく複雑な気持ちがあったんですけど(笑)、SE「PEACE」へと繋がる感じっていうのを1回言ってみたかったというか。「PEACE」という曲自体が、「ユリイカ」を解体して作った曲だったので。

――へぇ、そうだったんですね!

今井:だから綺麗に収まるかな?って。

――明るく終わって、冒頭に戻って循環する。それはそれで一つの形ですよね。でも、「忘却」のダークさ、しっとり感、余韻が素晴らしく、“これぞBUCK-TICKワールド!”という全体の流れになっているな、と。櫻井さんは「忘却」の歌詞に関しては、いつ、どのような想いで書かれたのでしょうか?

櫻井:これはたしか、緊急事態宣言が発令されるちょうど前々日ぐらいに歌入れをしていまして。やはりそういう周りの空気感、日本も含め世界が不安にじわじわと侵されていくのを自分も感じてはいたんでしょうが。でも、“こういう感じを書きたい”というのは、ずっとあったんですね。それが、周りの空気感に影響されたのか、それとも偶然なのか、そこは自分でも微妙に分からないんですけど。まぁ、どちらもあるんでしょうね。いろいろな出会いが、皆さんには、もちろん僕も含めてありますけども、いろいろな別れもあって。でも、それは喜びであり、悲しみなんだろう、でもそれは自然の流れなんだね。と、いつか思えるようだったらいいね、と。そんなことを書きたいと思っていたんです。

――少し俯瞰したと言いますか、未来の自分が今を振り返るような時間軸、視点なんでしょうか?

櫻井:うーん……そうですね。いつもの僕のテーマでもあるんですけれども、例えば土に還ったり、胎内回帰だったり。この世に生まれて、“いろんなことありましたね。疲れましたね。じゃあ帰りましょう”みたいな。そういうストーリーができればいいな、と思って。

――M5「月の砂漠」でも、“骨になるまで 灰になるまで”と書かれており、死後の自分が分解された後にまで想いを馳せるような描写もあります。そこには、生に対する執着みたいなものは無いのでしょうか?

櫻井:いや、かなり強くあります。その一方で、その欲があるがゆえに疲れたりする。やはり生への執着はすごく強く人一倍あるのかもしれないですね。

――だからこそ、生き続けていく中で“苦しい”と感じた時に、逃げるとか休むとか“疲れたね”と感じるのを受け容れ、気分が沈むことを厭わない、ということでしょうか?

櫻井:うん。自分に言ってあげている、みたいな。それを皆さんが聴いてくれて、いろんな感じ方をしてもらえるといいかなと思いますけども。

――なるほど……一言一言が染み渡ってきました。「忘却」は哀愁を帯びた美しいバラードですけれども、今井さんにとっても特別なものだったりするんですか?

今井:そうですね。作っていて“いいのができたな”という感じはしました。

――このメロディーライン、今井さんにしか書けないですよね。

今井:そんなことないですけどね(笑)。

――この曲を作られる際、今井さんの中で何か思い描かれている情景はあったんでしょうか?

今井:何だろうなぁ……特にそういうのはなくて、優しい曲というか、そういうものを作りたいなと思っていました。

――続いて、タイトルが発表された時点で「どういう曲になるんだろう?」とワクワクしていた「舞夢マイム」「ダンス天国」について伺います。このダンスシリーズは、どのように生まれてきた曲だったんですか?

今井:「舞夢マイム」は、昔からある歌謡曲のようなものを作りたい、というのがあって。できあがった時に、“あ、これはもう櫻井さんの得意な世界観”だな、と(笑)。そういうところが出てくる曲だ、という感じでしたね。

――男言葉、女言葉が交錯する一人掛け合い、みたいな。櫻井さんワールドが炸裂していますよね。

今井:いや、具体的にどういうのが出てくるかまでは分からなかったですけど(笑)。歌詞を楽しみにしていた曲でした。

――櫻井さんは「舞夢マイム」を最初に聴かれた時、どんな印象を抱き、どういう歌詞を書こうと思われたのでしょうか?

櫻井:“昭和歌謡だな”と感じて、“その形を崩さずにいこう”と第一印象で決めていました。いろいろな情景が浮かんできて、カラオケの男女のねっとりとした掛け合いだとか(笑)、新宿の空気であったり。

――たしかに、退廃した猥雑な街のムードは漂いますよね。

櫻井:新宿から出て来たような曲、そういう世界にしたかった曲です。そこには悲哀があったり、ニヒルな男のカッコ付けた背中だったり、強がっていきていく男女だったり……そういった世界を徹底してできたらいいな、と思っていました。

――こういった男女目線の歌詞を書かれる時、櫻井さんの中で人物像を具体的に思い描かれるものなんですか? これぐらいの年齢で、とかこういう属性の人で、とか。

櫻井:それはありますね。

――この歌詞に出てくる2人の人物像は……でも、お訊きしたら野暮ですよね?

櫻井:やはり、そこは想像してもらったほうが楽しめると思います。“20代後半から30代前半の…”とか明かすよりも、自分の中で作っていただいたほうが(笑)。

――“死んでみるか”とか、サラッとすごいことを言っているのにはドキッとします。

櫻井:もう、昭和の劇画タッチな感じですね(笑)。


▲星野英彦

――「ダンス天国」は星野(英彦)さんの曲。こちらに関してはいかがでしたか?

櫻井:この曲は、ヒデ(星野英彦)のやりたい“自分もアヴァンギャルドを意識してます!”みたいなところをこちらも意識して(笑)。歌詞もそれに乗っかっていければな、と。これも昭和の世界ですね。

――街は新宿ではなさそうですよね?

櫻井:これはですね、三島由紀夫の『仮面の告白』の中です。ラストシーンで、主人公の男が逞しい男の人の身体を見て陶酔していく、みたいな。

――なるほど。“女でも 男でも どっちでもいいのさ”というフレーズもあり、旧来の価値観を打破する自由な世界だとは感じていましたが、『仮面の告白』だったとは……。

櫻井:うん。これは今どきの……何て言うんですかね? いろいろなタイプの男女がいて、それを差別するのではなくて、“もうどっちでもいいじゃん。楽しんで踊ろう!”みたいな、そういうアッパーな感じになれば、と思って。

――「舞夢マイム」の男女観とは全く異なる、最新形のLGBT観ですね。

櫻井:そうですね。

――そして、「ケセラセラ エレジー」「URAHARA-JUKU」「SOPHIA DREAM」には、描き方はそれぞれ違いますが、共通するモチーフに幻覚体験があるように思います。「SOPHIA DREAM」は「Lucy in the Sky With Diamonds」(The beatles)の世界なんだろうか?とか、あれこれ想像が膨らみました。「ケセラセラ エレジー」と「SOPHIA DREAM」は今井さんが作詞を手掛けておられます。どんな想いがあったんでしょうか?

今井:「SOPHIA DREAM」は、“SOPHIA DREAM”というところだけはもう、“その言葉を乗せたい”というのが最初から譜割り的にあって。そこから始まって、何となく全体のフィクションとして、上から世界を眺めている、みたいな感じがありました。

――少女が天空から見下ろす、アルバム・ジャケットのアートワークのようなイメージですか?

今井:そう、かもしれないですね。そういう絵というか、イメージがあって。

――「ケセラセラ エレジー」はいかがですか?

今井:これは、曲を作りながら、メロディーの感じに乗って言葉が何となく同時に出てきてしまったので、“できるところまで一緒に作っちゃおう”というのがありました。それで作っていって、結局こういう形になったっていう。

――曲と詞がそのように同時にできていくのは、珍しいパターンなんですか?

今井:いや、それ自体は珍しくもないんですけども。あとはやはり、Aメロの部分が、譜割り的にラップというか、このリズムで櫻井さんに“言葉を乗っけて”と言っても、結構ハードルが高いというか。

――難しそうだな、と感じられたわけですね。

今井:ええ。どういう言葉が乗ってきても違和感が出てくるのかな?とも思ったので。だから、最初から自分で乗っけてみようかな?と。

――そういう曲の場合は、櫻井さんには完成するまでお聴かせにならないのですか?

今井:いや、そうでもないです。“歌詞どうしようかな?”となりながらも、結局“やっぱり書いて”とか“やっぱり俺が書く”とかいうのもあるし。


▲ヤガミ・トール

――そこはケースバイケースなんですね。「URAHARA-JUKU」は櫻井さん作詞ですが、どのように生まれていったのですか? 若者が危険に晒されている情景が浮かぶ歌詞ですが。

櫻井:これは、新宿から原宿に移動しまして(笑)。子どもたちにはポップで煌びやかな場所ですけども、ああいったところに盲目的に憧れるのは危なっかしいなと。ニュースで少女拉致監禁事件が報じられる中、自分としても衝動的に怒りを感じたところから出てきました。少女が、いろいろなものを……身すらも売ったりしていて、“だけど気を付けなよ”というストーリーを描こう、と。自分の身は自分で守れ、という意味もあります。

――警告している、と。

櫻井:そうですね。最後は表参道で、悪いヤツを少女が突き飛ばして。ソイツは車に撥ねられる、という。

――ちゃんと撃退しているんですね。

櫻井:だけど、“お前は家に帰って寝ろ。俺がやったことにしてやる”みたいな(笑)。そんなストーリーです。

――今回、先行で世に出ている曲のヴァージョン違いが収録されています。Cube Juiceさんがマニピュレーションを手掛ける「凍える Crystal CUBE ver.」(「凍える」は先行シングル『MOONLIGHT ESCAPE』のカップリング曲)、「獣たちの夜 YOW-ROW ver.」「堕天使 YOW-ROW ver.」の2曲は名前だけが刻まれていて、珍しいなと思いました。全てアルバムヴァージョンとして何も記さず収録しても良さそうなものですが、あえてこの表記にされたのはなぜなんですか?

今井:何ていうか……それ風な、作ったタイトルを持ってくると、“ややこしいな”というのがあって。そうすると、イメージがいろいろと出てきちゃうというか。


――「〇〇~エレクトリアver.」とか、そういう形容詞を入れるとイメージが限定されてしまう、ということですか?

今井:そう。だから、もうYOW-ROWが作ったのはYOW-ROWのアレンジというか、“そういうもの”ということを前面に出すためにも、“もう、名前でいいんじゃないのかな?”というのもあるし。あと、何々ミックスみたいなのを考えるのも正直めんどくさいし(笑)。

――(笑)。その人のアレンジが固有のもので、他に形容詞が要らないということでもありますよね。曲目リストを見た時にメンバー以外の名前が飛び込んでくるのはインパクトが強いので、ファミリー扱いなのかな?とも思ったりしたんですけど。

今井:あぁ、それはもう、ここ何年かずっといろいろ楽しんでやってもらってるので。

――お名前を載せることにもなんら抵抗もなく?

今井:はい、そうですね。

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