【インタビュー】HELL FREEZES OVER、1stアルバム『HELLRAISER』に詰まった“こだわり”の正体とは?

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新世代による世界基準のヘヴィ・メタル・バンドとして各方面から注目と期待を集めているHELL FREEZES OVERが、2018年発表のデビューEP『SPEED METAL ASSAULT』から2年以上を経て、満を持しての1stフル・アルバムをリリースした。

◆HELL FREEZES OVER 画像 / 動画

『HELLRAISER』と題されたこのアルバムは、デジタルな宅録が当たり前の現在にあってはめずらしいアナログ・レコーディングで制作されており、しかも象徴的なアートワークは手描きによるもので、今作の発売を前に公開された「Overwhelm」の映像はフィルムで撮影されている。しかし誤解して欲しくないのだが、彼らが目指しているのは時流に逆行することではなく、自分たちに相応しいやり方で前に進んでいくことに他ならない。今回はバンドを牽引するギタリストのRYOTO、フロントマンを務めるTREBLE “GAINER” AIDYSHOに話を聞いた。彼らのこだわりが、先入観やジャンルに対する固定観念を超えて広く伝わることになれば幸いだ。

   ◆   ◆   ◆

■結果的にアナログでやった甲斐は
■充分すぎるほどあった

──レコーディング完了から実際のアルバム発売まで、しばらく時間が空くことになりましたが、どんな気持ちで待ち続けていましたか?

GAINER:実際の録りが終わってからすでに7ヵ月ぐらい経ってるんで、“やっと出るんだな!”という感じですね。当初の予定からすれば、もうツアーもしてるはずだったし、海外でやる話もあったんで“(向こうでのライヴでは)MCどうしよう?”とか心配してたんですけど(笑)、その不安が消えた代わりにいろいろと別の問題が出てきたというか。でも、実際こうしてリリースされるとなればやるべきことはいろいろとあるし、アルバムが世に出てからが本番だと思うんで、ここで気持ちを引き締めていければいいな、と思ってます。

RYOTO:正直なところ“まだ出てなかったんだ?”という感じですね。実際、前作のEP発売から結構時間が空いちゃってたので、かれこれ1年以上はライヴをやるたびにファンの人たちからも「アルバムはまだ?」と言われ続けてたし。で、それがようやく出るのは嬉しいんだけど、このコロナ禍でライヴも満足にできない状況じゃないですか。当初組んであったツアー自体、半分以上の日程がキャンセルになって、残ったライヴについてもお客さんの側から予約のキャンセルがあったり。会社の都合とかまわりの人たちの目とか、いろいろあるわけですよね。そんな状況だけに、ホントなら元気溌剌で行きたいところですけど、なんかずっともどかしさを抱えてるというか。ただ、不安を抱えてはいつつも、もちろんすごく楽しみではあるんです、これからのことが。

──この状況下、すべてが停滞してしまったもどかしさはあるけども、最善を尽くすしかないわけですしね。

RYOTO:そうですね。やれることをやるしかないというか。最近はストリーミング・ライヴもやるようになったんですけど、正直、最初は乗り気ではなかったところがあって。“やっぱライヴは生だろ?”という気持ちがありましたからね。だけど、そんなこと言ってたら今は何もできないわけで。

▲RYOTO (G)、TREBLE“GAINER”AIDYSHO (Vo)

──まさにそこは聞きたいところでもあったんです。今回のアルバムはいまどきめずらしい全編アナログ・レコーディング。しかもビデオ・クリップもフィルムで撮影されていて、アートワークも手描きによるもの。ここまでアナログな感触にこだわっているバンドが配信ライヴなんてやるのは辻褄が合わないんじゃないか、と突っ込まれそうなところもありますよね?

RYOTO:いやー、仰る通りだと思います(笑)。だけどホントに手段がないじゃないですか。俺としては、とにかく行動せずにいることが大嫌いなんです。今回のことに限らず、言い訳をしながら行動しないケースって多いと思うんですよ。そうじゃなくて俺は、失敗を覚悟しながらも行動したいんです。リスクを冒さずにおくことで信念を貫くこともできるかもしれないけど、そこで止まっていては結局のところ徐々に忘れ去られてしまうことになる。目立ってないとプロモーションにもならないし、やっぱ何より、人に観てもらいたいというのが自分たちにもすごくあるわけなので。だから、たとえばストリーミング・ライヴを観てくれた誰かがそれで元気になってくれるんだったら、それはそれで全然いいことだと思うし、そこはちょっと柔軟に考えるべきだな、と。

GAINER:ただ、実際にストリーミング・ライヴをやった時はなんか奇妙な感じではありましたけどね、演者側としては。特に、“ここで煽っていいのか?”みたいなところでは。

RYOTO:居ないからね、目の前にお客さんが(笑)。

GAINER:そう。歌ってる間は問題ないんですよ。その間は自分の世界に入れるところがあるんで。だけどMCの時は、お客さんが不在だと無音のしーんとした状態になってしまって、演奏も止まってるから自分の声しかない。“なんだこれ?”みたいな(笑)。ちょっと調子が狂いますよね。だけどたとえば最近は、配信の番組みたいなものにゲストとして呼んでもらったり、そういうことにも対応するようになってきて。今、世の中がどんどんデジタルな方向に向かってるというか、たった2~3年前と比べてみてもYouTubeとかの影響力が全然違ってきてるじゃないですか。そういう有効なメディアは絶対使ったほうがいいし、自分たちのYouTubeチャンネルもあるにはあるけど、そんなに頻繁に動画をアップできるわけでもないし。だけど最近はそうやって配信とかで露出できるメディアも増えてきていて、やっぱり動画ありきの時代なんだなと思わされるし、そこはちゃんと利用していかないとな、と思ったんです。僕らがどんなにアナログな感じのバンドであろうと(笑)。だからストリーミング・ライヴをやるようになったことは、このバンドにとって結構大きな一歩だったんじゃないかな、と思いますね。

──デジタルな手法やいまどきのスタイルというのを頑なに拒んでいるわけじゃないんですね。でも、だったらアルバムのレコーディングもデジタルのほうが手っ取り早かったんじゃないかな、と思えるわけですが。

RYOTO:そうですよね(笑)。でも第一に、俺たちが影響を受けてきたアーティストのほとんどがアナログ・レコーディングでアルバムを作ってたという事実があって。最近のアーティストの音源って、音はクリアで高品質ではあっても、なんか自分たちが求めてるものとは違うな、というのが俺にはあったし、そこは他のメンバーたちも同意見で。そこで“アナログとデジタルの音の違いって何だろう?”って改めて考えた時、アナログのほうが……言葉で説明するのが難しいんですけど、いい意味で音が混ざるというか。デジタルの場合、個々の音の分離が良くて、そのぶん全体もクリアになるんですけど、アナログのほうが、その場の空気みたいなものが録れるというか。その空気をずっと録りたかったんです。実際、前回のEPを録った時に欲しかったのもそういう音だったんですけど、やっぱりデジタルではそういう音にならなくて。それが今回、アナログ録音に挑戦したいと思った理由で。もちろんデジタルでやるほうがメリットは多いし、アナログで録るとなるとお金も時間も余計にかかる。しかも自分たちにとっては未知の世界だから、不安もあるわけです。だけど“いつかアナログで録りたい”と思いながらこの先もデジタルで録り続けていくってうのは、ちょっと違うんじゃないかなと思って。

──“いつかやりたい”と思いつつも先延ばしにしてしまうばかりで、結局やれずに終わってしまうということのほうが多いわけですよね、人生には。

RYOTO:そうなんですよね。今回は、勉強のためというか経験のためというか。もちろん失敗したくはないけども(笑)、そこで覚悟を決めて何がなんでもアナログ・レコーディングをやりたいと思ったんです。


──GAINERさんは、そういった意見には完全同意できましたか?

GAINER:ええ。やっぱりアナログで録られたものをアナログの機材で聴いた時に、マジで違うなと思わされたし。しかもアナログで録られたものをデジタルで聴いても、やっぱりデジタルで録られたものとは明らかに違いがあって。そこで思ったのは、僕らが欲しい音の成分というか、抽出したい部分というのは、アナログ・レコーディングじゃないと録れないんじゃないかってことで。食べものとかでもそうじゃないですか。同じ食材を使っていても製法とか料理法が違うだけで味が違ってくるわけで。

──そうですね。それこそ今、僕はこうしてアイスコーヒーを飲んでますけど、ドリップ式と水出し式とで違いがあるのと同じように。

GAINER:まさに。そこで録音方法の選択を誤って、自分たちが求めてるエッセンスが録れなかったりしたら、せっかくアルバムを作っても全然意味がないというか。

──それはわかります。ただ、作業的なリスクも大きいはずですよね? デジタルと違って、ちょこっとした直しをすることが難しかったりするわけで。

GAINER:そうなんですよね。ちょこっとした直しというのがホントにできなくて、やるとすればそのブロックごとやり直すしかない。確かにそういう意味では、コンディションというかクオリティを維持し続けることがちょっと大変ではありました。

RYOTO:作業を繰り返しながら、相当機嫌が悪くなるようなこともありましたね。「えっ、まだやるの?」みたいな感じで(笑)。だけど結果的には、アナログでやった甲斐は充分すぎるほどあったと思ってます。今回もデジタルでやってたら、また「ホントはこうしたかったんだけど状況的に……」とか、また言い訳をしてた気がするんですよ。わだかまりを抱えたままプロモーションに臨まなきゃならなくなってたというか。今回にしても、もちろん100%の満足なんてのはないわけですけど、自分たちが想定してたラインは全然超えてるし、やっぱ最高だって思えてるんで。今、そういう気持ちであれてるっていうだけでも、今回はアナログでやって良かったなと思えます。

GAINER:しかも、自由にできたのが結局はいちばんデカかったと思うんです。いわゆるセルフ・プロデュースみたいな形で。エンジニアさんはもちろんついてるんですけど、あくまで自分たちのフィーリングですべて判断していって。

RYOTO:うん。アナログでやろうと決めてからは、スタジオ探しから何からいろいろと大変でしたけど、なんか今はすべて報われた気がしてます。

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