【インタビュー】トップハムハット狂、妥協なしで生み出した『Jewelry Fish』

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インパクト抜群の名前を掲げ、ビートの上を自由自在に遊びまわるラッパー・トップハムハット狂。インターネットラップの世界でキャリアをスタートさせた彼は、トラックメイカーのDYES IWASAKIと結成したFAKE TYPE.など、様々なユニットでMCとして活動するだけでなく、AO名義でトラックメイカーとしても楽曲を提供するなど、着実に活動を続けてきた。2018年からソロ活動をスタートさせると、昨年発表した「Princess♂」が1,300万回再生を突破。漫画『ONE PIECE』作者の尾田栄一郎氏もハマっていると明かすなど、より多くのリスナーにその名を轟かせ始めている。

9月2日にリリースされる『Jewelry Fish』は、かねてより彼が発表している『四季EPシリーズ』の第3弾。BARKS初登場となる今回のインタビューでは、「Princess♂」でブレイクスルーしたその後の心境を綴った「Mister Jewel Box」など、夏をテーマにした全6曲についてはもちろん、ラップとの出会いやこれまでの活動など、バイオグラフィーも話してもらった。

  ◆  ◆  ◆

■やりたいことを優先していきたい

──トップハムハット狂というインパクトのあるお名前はどういうところから付けられたんですか? 『きかんしゃトーマス』が好きだったとか?

トップハムハット狂:『〜トーマス』は小さい頃によく観ていたんですよ。でも、別にトップハム・ハット卿(登場キャラクター/ソドー鉄道の局長)が特別好きだったわけではなくて、自分が最初に就いた職業がハムを作る仕事だったんですよね。で、『〜トーマス』も好きだし、そういう仕事してるし、トップハムハット狂っていいなと思って。

──そういう由来だったんですね。ラップを知ったのはいつ頃でした?

トップハムハット狂:中学1、2年ぐらいの頃ですね。ブレイクダンスをやっている友達にダンスを教えてもらったことがあったんですけど、そのときに流れていたのがヒップホップとかラップで。その時期ってKGDRとかRIP SLYMEとかKICK THE CAN CREWとかが、わりとメディアで特集されていたんですよ。で、かっこいいなと思い始めて、中3のときにエミネムの映画『8 Mile』が公開されて、そこからハマっていった感じですね。

──どんなところに魅力を感じました?

トップハムハット狂:当時は韻を踏むということがあまりよくわかっていなかったんですけど、一定のテンポでリズムを強調していく言葉遊びみたいなものがやっぱり新鮮だったんだと思います。どういうふうにやるんだろう、こんなことできたらかっこいいなって、どんどんのめり込んでいきました。当時の自分にはだいぶ刺さったと思います。

──特に刺さった曲やパンチラインをあげるとすると?

トップハムハット狂:なんだろうなぁ……自分がのめり込んでからちょっと時間が経ってからになっちゃうんですけど、般若さんの「やっちゃった」とかは、コミカルで、ストーリーがあって、曲もキャッチーなのもあってめちゃめちゃハマりましたね。周りのみんなも「あの曲がすごくいい」ってこぞって言ってました。

──自分もラップをやってみようと思い出したのも中学生の頃ですか?

トップハムハット狂:ですかね。こんな韻が踏めるなってメモしていた程度でしたけど、その頃からちょっと意識していたんだと思います。自分で録音してみようと思ったのは、高校3年ぐらいだったと思うんですけど、ラップ好きの知り合いがインターネットラップを見つけてきたんですよ。自分は知らなかったんですけど、素人が集まって、自分で機材なりを揃えて、曲を作って投稿するサイトがあるのを教えてもらって。俺もやってみたいなと思ったのがキッカケです。

──そこからキャリアをスタートさせたわけですが、始めた当時からいろいろ心境の変化もあったと思うんですが、振り返ってみるといかがでしょうか。

トップハムハット狂:そもそもインターネットラップで飯が食えるとは思ってなかったんですよね(笑)。さっき話したハム関係の仕事は3年ぐらいやっていたんですけど、それはとりあえず地元を出たいからお金を貯める感覚で働いてたんですよ。で、ある程度貯まって、地元の仙台から関東のほうに引っ越して、友人とルームシェアを始めたんですけど、その当時は単純に「楽しめればいいや」みたいな感覚でした。それから4、5年続けて、飽きが来たわけではないんですけど、やっぱりお金に繋がらないし、やっていてもなぁ……ちゃんと仕事しなきゃなぁ……みたいな感覚になって。そのタイミングで声をかけてくれたのが、FAKE TYPE.の相方のDYES IWASAKIなんですよ。

──なるほど。

トップハムハット狂:「このタイミングで仕事を探すのはもったいないよ。一回もちゃんとマネタイズしようと動いてないじゃん」ってDYESに言われて、確かになと。楽しさ優先でやっていたし。で、「仕事に就く前に、一回ちゃんとした動きを考えて、一緒にやってみようよ」と言われたんです。元々DYESとは仲のいい友達で、トラックも好きだったので、何かしら引っかかるかもしれないなとは思っていたんですけど、FAKE TYPE.でMVを一発あげたら、Rambling RECORDSから声をかけてもらって、お金になるような仕組みでやらせてもらえて。そのときに、もしかしたら音楽でやっていけるんじゃないかなっていう感覚になって、そのまま今に至る感じですね。

──そこからFAKE TYPE.が活動休止に入り、2018年からソロで動き出したと。

トップハムハット狂:お互いがちょっと別のことをやりたくなったんですよ。じゃあ一旦休みましょうと。それで、ひとりでやりたいことをやろうかなって。

──そういう意味では、ご自身の表現欲求に忠実に活動を続けているんですね。

トップハムハット狂:そうですね。自分のやりたいことを優先していきたい感覚は、昔からずっと変わっていないところなので。そこを大事に動いていると思います。

──昨年からは、春をテーマにした『Sakuraful Palette』、秋をテーマにした『Watery Autumoon』と、季節を題材にしたEPを連続で発表されていて。今回リリースされる『Jewelry Fish』のテーマは夏で、シリーズ第3弾になります。

トップハムハット狂:この四季EPは、FAKE TYPE.が始まる前に別の人と途中まで作っていたんですよ。その人が、なんていうか、度々インターネットから存在を消すような感じの人で(笑)。別に今もいるんですけど、結局、そのときの曲は世に出してないんですよ。ただ、俺ひとりでも四季を題材にしたものは作りたいとずっと思っていたし、タイミング的にやりかった気持ちもあって始動させた感じですね。

──1stソロアルバム『BLUE NOTE』に収録されている「Next Season」に、〈まるで春と秋 夏と冬のように隣り合わせになれない呪い〉というフレーズがありますけど、四季EPはその順にリリースされてますよね。

トップハムハット狂:本当は春、夏、秋、冬の順で出したかったんですけど、制作ペース的に無理だなって初っ端の時点で思ったんです。自分でトラックを作るのがそこまで得意なわけでもないし、マイペースにやりたいと思っているので。で、「Next Season」にまさにそのフレーズがあるんで、そこに引っ掛ける感じで作っていこうかなって、ちょっと意識をチェンジしたところはありましたね。あの曲でああ言ってるし、みんな納得してくれるかなっていう(笑)。



──あと、春と秋のEPに関してはタイトルトラックが存在していましたけど、今回は「Mister Jewel Box」と「Stress Fish」の2曲分ということでしょうか。

トップハムハット狂:その2曲が自分の中での推し曲というか、メインになりそうだなと思った曲ですね。あと、海に行って水面を見るとたまに魚がいたりして、めちゃめちゃキラキラしてるじゃないですか。なんか宝石みたいだなとか。そういう諸々を含めてこのタイトルです。

──いろいろかかってるんですね。では、まずお話に挙がった2曲からお聞きしていこうかと。「Mister Jewel Box」は、シンプルにおもしろい曲だなと思いました。前作に収録されていた「Princess♂」の後日談というか、裏話みたいな曲になっていて。

トップハムハット狂:そうですね。



──トラックの雰囲気も「Princess♂」に合わせつつ、再生数が爆発的に伸びた曲を受けた今の心境を吐露していくようなリリックになっていますが、なぜまたこういう曲を作ってみようと思ったんですか?

トップハムハット狂:単純におもしろそうだなっていうところに尽きますね。あれだけ伸びたのは初めての経験だったので、その結果、自分はどういう気持ちなんだろうと振り返ったときに、ああいった気持ちで溢れていたので。じゃあ、単純にこの気持ちを曲にして、MVもシニカルでダークな感じにしたらおもしろいんじゃないかなって。

──確かにシニカルでおもしろいんですけど、冷静に考えると、この歌詞で書かれていることって結構怖いことじゃないですか。自分が生み出したものに殺されていくというか。

トップハムハット狂:あとから言われて気付いたんですけど、自分だけじゃなくて、似たような状況に陥っている人はわりといるんじゃないか?っていう話があったんですよ。最近で言うとVTuberとかも、もしかしたら似たような感覚を持っているんじゃないか、みたいなことを言ってくれていた人がいて。確かに言われてみて納得したんですけど、それだけじゃなくて、他にももっとたくさんの人がこういうことを思っていたりするんですよね。あと、これは曲の中でも言っているんですけど、〈自分の生み出したものに殺される そんなの芸術家として本望だろう〉というのが、この曲の根底にあるテーマなんですよ。クリエイター的に、それは全然ありなんじゃないかなって思っていたりもするんで。

──ご自身としては本望であって、それが乗り越えるべき壁になるんじゃないかなと。

トップハムハット狂:そうですね。やっぱり曲を聴かれたくて作っているところがあるので。



──そもそも「Princess♂」はどういうところから作り始めたんですか?

トップハムハット狂:あの曲は、いわゆる「オタサーの姫」のことを書いてたんですけど、実は自分の実体験でそれっぽいことがあったんですよ。僕が直接悪いわけではないんですけど、自分がちょっと関係していて周りがケンカするみたいなことが、生きていて何回かあったんですね。で、振り返ってみたときに、ちょっとオタサーの姫気質だなって思ったことをキッカケに、ああいう曲を作ろうかなって。

──じゃあリアルがベースにある話なんですね。

トップハムハット狂:ルールじゃないけど、基本、自分のソロは自分のことをベースにしてやっていこうと思ってますね。「Princess♂」はそこが強いのかなと思います。

──タイトルに関係しているもう1曲の「Stress Fish」は、SASUKEさんがトラックを手がけられています。清涼感があって気持ちいいし、自然と踊りたくなる感じもありますね。



トップハムハット狂:“魚”とか“水”とか、そういう感じのイメージの楽曲が欲しかったんです。それをSASUKEくんにお願いしたらバッチリなものが返ってきて。そのタイミングで「魚もストレスを感じる」という記事を見たんですよ。それをテーマに組み込めないかなと思って。で、現代のストレス社会と、それを生き抜く魚を織り交ぜて、「Stress Fish」っていうワードを作って、そこから広げていきました。

──最後に〈ストレスフリーで踊らせて〉というフレーズがありますが、それこそストレス社会的もそうですし、コロナウイルスが広まってしまった今の世界についてメッセージしている印象も受けました。

トップハムハット狂:やっぱりコロナの自粛期間中に作っていたので、意識せずともそういう感覚を掴みに行っていたんだと思いますし、どうしてもコロナのことを言いたくなっちゃう衝動に駆られる瞬間が多々あったんです。ただ、“夏のEP”って言ってるんだから、コロナが全体を占めたら絶対にいけないなと思って、あまり出さないようにしようとはしていたんですけど、やっぱりスパイス程度には振りかけられているのかなと思いますね。

──確かにスパイス程度っていう塩梅、すごくわかります。実際に聴き終わった後の印象として大きく残るのは夏のイメージですし、お話を聞いていて作品性を大事にされる方なんだなと思いました。

トップハムハット狂:よかったです(笑)。やっぱり夏は根底にあってほしいというのは意識してましたね。

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