【滞在レポート】<SXSW 2019>、音楽の坩堝と化した町に一週間「非現実的な景色の中の非日常」
毎年3月の第2週にテキサス州オースティンで開催される音楽と映画とITの巨大複合イベント<SXSW Conference & Festivals>。そのミュージックフェスティバル(3月11日~17日)のレポートを、2018年にひきつづき、2019年もお届けしたい。
◆SXSW (サウス・バイ・サウスウエスト) 画像
今や<SXSW>の花形と言えるほどの盛り上がりを見せているIT関連のインタラクティヴや、今年2019年もケビン・コスナー、ウディ・ハレルソン、マシュー・マコノヒー、オリヴィア・ワイルドら、人気俳優がレッドカーペットを賑わせたフィルムフェスティバルに比べると、ミュージックフェスティバルは、やや地味になった印象が正直、否めない。
ひょっとしたら、すでに熱心な音楽ファン以外には<SXSW>と言えば、「IT業界の見本市でしょ」という認識が定着しつつあるのかもしれない。しかし、逆に、だからこそストロークスが湖畔の野外ステージでパニック寸前の熱狂を作り出した2011年、あるいは、ヴァンパイア・ウィークエンドがショーケースライヴの動員記録を更新した2013年を境にビッグネームがヘッドライナーを務めるフェスから本来の新人のショーケースに原点回帰した現在の<SXSW>は、流行を先取りしたい早耳の音楽ファンや本場のライヴミュージックを楽しみたいと考えている人たちに、ぜひ足を運んでみてほしいとオススメしたい。
<SXSW>のミュージックフェスティバルは、ダウンタウンにある90ほどのヴェニューで毎晩5~7組のアーティストが約40分の演奏を繰り広げるいわゆるサーキットスタイルのイベントだ。スケジュールをやり繰りしつつ、ヴェニューを行ったり来たりしながら、ライヴミュージックを楽しむことが、<SXSW>の醍醐味なのだが、この2〜3年は以前ほど入場規制がかかることもなく、再びライヴのハシゴを楽しむことができるようになってきた。
そんなミュージックフェスティバルに加え、日中にコンベンションセンターで開催される講演、ワークショップ、インタビュー、要注目アーティストが顔を揃える業界向けのショーケースライヴなど、音楽部門の全イベントに入場できるバッジ(パス)は、800ドルを超える価格が7日間のイベントに対して、高いのか安いのか、見合う値段なのかどうなのか、意見が分かれるところだが、189ドル(2019年の価格)のリストバンドならどうだろう? ヴェニューの入場は、バッジ→リストバンドの順だが、それでも十二分に楽しめると思うし、<SXSW>の期間中、オースティンのあちこちで開催される<SXSW>のオフィシャル、およびアンオフィシャルのパーティー(フリーライヴ)にも足を運べば、その年の話題、および要注目アーティストはバッジがなくてもそれなりの数、見ることはできるだろう。
▲『South By San Jose』
▲Priests@『Lost Weekend』
ダウンタウンにある唯一のレコード店、ウォータールーレコードの『Day Parties』やホテルサンホセが主催する『South By San Jose』、そして、音楽ブログのブルックリン・ヴィーガンが主催する『Lost Weekend』は、その年の目玉と言えるアーティストが顔を揃える恒例の人気パーティーとして、毎年3月、オースティンを訪れる音楽ファンの間ではすっかり定着しているが、リチャズ・カンティーナというメキシカンレストランで開催されるカントリー系の『Brooklyn Country Cantina』も年々、出演者の顔ぶれが豪華になってきた。
また、ダウンタウンからコングレス・アヴェニューを南に下ったところにあるルーシーズ・フライドチキンで開催される『Lucy’s South By South Austin Fried Chicken Revival』も、町の再開発によって失われつつある昔ながらのレイドバックしたオースティンの雰囲気を味わえるイベントとして、毎年、大勢の人たちが名物のフライドチキンを頬ばりながらバンドの演奏をのんびりと楽しんでいる。そして、オースティン在住の日本人バンド、Peelander-Zの『Peelander Fest』も安定の人気を誇っている。
人々の注目はインタラクティヴに集まりがちではあるけれど、まだまだ<SXSW>、および<SXSW>開催中のオースティンを訪れれば、日によって10度前後、気温が上がったり下がったりする日本以上に不安定な3月のオースティンの天気に翻弄されながら、体力が続くかぎり、町全体が音楽の坩堝と化したちょっと非現実的な景色の中、朝から晩まで音楽漬けの非日常を楽しむことができる──今年2019年もまた<SXSW>が開催されているオースティンの町を文字通り歩きまわって、ライヴをいくつも見ながら改めて思ったことがそれだった。
すでに『JAPAN NITE』という人気イベントを持っている日本はもちろん、韓国、中国、台湾といったアジア圏のアーティストの出演も年々増えてきた。日本のアーティストで言えば、ASTERISMら、前述の『JAPAN NITE』に出演した5組の他、CHAI、DYGL、yahyelらが、精力的にライヴを行った。
▲THE GET UP KIDS
▲YOLA
数多くの日本勢の中から、今回、筆者はリーガルリリー、奮酉、ステレオガールの3組を見ることができた。ふわふわしたキャラと爆音の演奏のギャップにびっくりさせられたリーガルリリー、ギターとドラムの2人組ならではの自由度を生かしてガレージロックもラップも自家薬籠中のものとした奮酉、10代の若者らしい向こう意気を剥き出しにしながらヒリヒリとしたロックを奏でたステレオガール──既存のスタイルに頼らないという意味でオルタナティヴな感性を、三者三様に表現したパフォーマンスは、新しい才能が集う<SXSW>に相応しいものだったと思う。
そんな日本勢の中で、最も海外のメディアから注目されたのが京都の女性4人組、おとぼけビ〜バ〜だったようだ。残念ながら、オースティン入りしたその日の深夜1時から彼女たちのライヴを見ようと思いながら、力尽きてしまい、ついに見ることができなかったが、ナッシュビルのシンガーソングライター、ニコール・アトキンスが自分のライヴの最中に、いかに彼女たちの演奏が素晴らしかったか、そして彼女たちと連絡先を交換したことがどれだけうれしかったか、興奮気味に語っているのを聞き、そんなことなら見ておくんだったとちょっと後悔。
そのニコール・アトキンスはウィットに富んだトークを交え、観客を自分のペースに巻き込みながら、たっぷりとした声量のダイナミックな歌声で観客を魅了。現在、所属しているレーベル、シングル・ロックのトップであるジョン・ポール・ホワイトとデュエットも披露した。普段なかなか見られない、そんな共演が見られるのも多くのアーティストが一堂に会する<SXSW>の醍醐味だ。個人的な2019年のベスト5の1つに挙げておきたい。ロイ・オービソンの「クライン」のカバーも素晴らしかった。その他の4つもライヴを見た順に記しておきたい。
まずダウンタウンにある教会で見たエディ・ブリケル&ニュー・ボヘミアンズ。1988年にデビューして、「What I Am」のヒットとともにたちまちジャムバンドの先駆けと言えるサウンドと紅一点シンガー、エディ・ブリケルの奔放な歌声が人気を集めたベテランだが、今回は2018年10月にリリースした12年ぶりのアルバム『Rocket』の曲を軸にセットリストを組み、再び精力的に動き出したバンドの現在進行形の姿をアピールした。エディの歌声もあいかわらずキュートそのもの。そして、終盤、ついに演奏した「What I Am」に、そこにいる全員が惜しみない拍手を送った。
▲Edie Brickell & New Bohemians
▲John Paul White
その翌日の午後、コンヴェンションセンターで見たジョン・ポール・ホワイトも素晴らしかった。ジョイ・ウィリアムズと組んでいた男女デュオ、シヴィル・ウォーズ時代、グラミー受賞経験もある彼は近年、シングル・ロックというレーベルを中心としたミュージック・コレクティヴのリーダーとして、地元であるアラバマのミュージックシーンに活気を取り戻そうと尽力してきたが、今回、そのシングル・ロックと3年ぶりにリリースするソロアルバム『The Hurting Kind』のプロモーションを兼ね、<SXSW>に参加。シングル・ロック所属のギターロックバンド、ベル・アデアーのアダム・モロウ(G)、リード・ワトソン(Dr)、元ドライヴ・バイ・トラッカーズのショーナ・タッカー(B)、そしてミーガン・パーマー(Vn)という精鋭たちを従え、4月12日にリリースするその『The Hurting Kind』からの新曲も交えながら、憂いを含んだその美しい歌声で集まった人々を魅了した。
▲Black Pumas
▲Dylan LeBlanc
そのシングル・ロックからアルバムをリリースしたこともあるシンガーソングライター、ディラン・ルブランはブラック・ピューマズ、エイミル&ザ・スニッファーズらとともにATOレコードのショーケースに出演した。シングル・ロックに所属しているアラバマのロックバンド、ポリーズをバックに6月15日にATOからリリースする新作『Renegades』からブルースやソウルミュージックを根っこに持つサザンロックとサイケデリックなサウンドを掛け合わせた新曲を披露。これまでの繊細な印象から一転、タフでワイルドな魅力を印象づけた。新作のリリースをきっかけにシーンの最前線に躍り出てきそうな予感!
そして、14日(木)、15日(金)、16日(土)の3日間、複数のアーティストを迎え、ダウンタウンの南端にあるレディー・バード・レイクの湖畔(正確には河畔)で開催された野外ライヴの最終日のトリを務めたパティ・グリフィンは、大トリに相応しい貫禄を見せつけた。
▲Patty Griffin
一見、華奢に見えるその姿からは、ちょっと想像しづらいブルージーでパワフルな歌声にノックアウト。長年のパートナーであるプロデューサー兼ギタリスト、クレイグ・ロス(レニー・クラヴィッツ他)をはじめとするバンドの手堅い演奏は派手なところなどこれっぽちもなかったが、かえってそれがパティを含むバンドのパフォーマンスの骨太さを際立たせていたように感じた。こういうアーティストを、本当の意味で実力派と言うんだろう。アンコールに応え、「みんなが知っている曲よ」と演奏したスティヴィー・ワンダーの「ハイアー・グラウンド」のカバーもはまっていた。
それで満足してしまったのか、そこからちょっと足を伸ばして、オースティンの老舗ヴェニュー、コンチネタル・クラブで俳優のイーサン・ホークとチャーリー・セクストンらが始めたレコードレーベル、セックス・ホーク・ブラックと、その配給を手掛けるデュアルトーン・ミュージックのショーケースに行き、ホークが監督した映画『Blaze』で出演を務め、脚光を浴びた遅咲きの新進シンガーソングライター、ベン・ディッキーとオーストラリアの大型新人、アンジー・マクマホンを見ることができたにもかかわらず、うっかりダウンタウンに戻ってしまうというポカをやらかしてしまったことにテキサスからの帰国便の中で気づいた。飛行機の中で地団太を踏んでももう遅い。それも含め、見逃したライヴは、例年通りいくつもある。約2,000組のアーティストが出演するんだから、しかたないと思いながらも、そのリベンジは来年ぜひ!と、もう来年のことを考えている。鬼が笑うか。いや、そんなことを言っているうちに参加申し込みがスタート。そして、出演者が発表されはじめ、あっといまにまた慌しい3月がやってくるのだ。
取材・文◎山口智男
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