【短期連載】<SXSW>漫遊記 第二回、「女性アーティストが活躍しはじめた」

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<SXSW>のミュージック・フェスティバルでは、2000組を超える出演アーティストを、それぞれジャンルごとにタグ付けしている。

◆SXSW (サウス・バイ・サウスウエスト) 画像

タグの数はロックの他、クラシック、ヒップホップ、ワールド・ミュージックなど、サブ・ジャンルも含め、計35。便宜上のものとは言え、その数からどれだけ幅広いジャンルのアーティストが世界中から集まってきているかが想像していただけると思うが、多彩なアーティストが顔を揃えながら、それでもミュージック・シーンの流行を含め、時代の流れみたいなものは、なんとなく感じられるもので、もちろん、35ジャンルすべてに当てはまるわけではないとは言え、ここ数年、<SXSW>に足を運ぶたび、筆者が感じるのは、以前にも増して女性アーティストが活躍しはじめたということだ。

それを感じはじめたのは、2015年だったろうか。たぶん社会の変化とも何らかの関係があると思うのだが、一昨年、昨年に続いて、2018年もまた、複数の音楽メディアや自分のアンテナを頼りに、どのアーティストのライヴを見るか決めていったところ、素晴らしい女性アーティストの鮮烈な登場や飛躍の瞬間に数多く立ち会うことができた。今回は、その中から特に印象に残ったアーティストを紹介してみたい。

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■コートニー・マリー・アンドリュースが
■満を持して<SXSW>に出演

2016年発表の『Honest Life』で注目されたアリゾナ州フェニックス出身のシンガー・ソングライター、コートニー・マリー・アンドリユースは、今年、ブレイクが期待されているアーティストの一人。人気のインディー・レーベル、ファット・ポッサムと新たに契約したことをきっかけに注目がさらに高まったタイミングで満を持しての<SXSW>出演となった。

彼女もまた、精力的に多くのショーケースに出演したが、6作目のアルバムとなる『May Your Kindness Remain』の曲を、リリースに先駆け披露しながら──カントリーとソウルが入り混じるそれらは1970年代のリンダ・ロンシュタットを思い出させるものだったが、その場をぱーっと華やかにするような魅力を印象づけたライヴは、多くの人の心を奪ったに違いない。

もちろん、筆者も心を奪われた一人。日本でも人気のジミー・イート・ワールドのアルバムに客演していたから、名前はちょっと前から知っていたが、そういう魅力の持ち主とは思っていなかった。すでに10年のキャリアを持つ27歳。なるほど、匂いたつような魅力はそういうことか。遅咲きかもしれないが、若さや幼さだけが評価の対象にならないところにアメリカのミュージック・シーンの層の厚さや成熟を感じずにいられない。



■パール・チャールズは
■ライヴ・パフォーマーとしても抜群だった

今回、フォトジェニックな(という理由は彼女のインスタグラムで、ぜひ確認されたし)ロサンゼルスのシンガー・ソングライター、パール・チャールズだけはどうしても見たい。いや、彼女さえ見られれば、もうそれでいい──ぐらいに思いながら、それだけじゃテキサスくんだりまで来た意味がない。他にもいろいろアーティストを見なければ。それを考えると、彼女が<SXSW>期間中、ステージに立つ全8公演のうち、筆者が見られるのは、わずか1公演のみ。

それだけは見逃せないと思い、オッカーヴィル・リヴァーのライヴが終わると、直ちに、その夜、彼女が演奏するホテル・ヴェガス──ダウンタウンから10分ほど離れたところにあるヴェニューに猛ダッシュしたところ、前のバンドの演奏が押して、パールのライヴは15分遅れで始まるという<SXSW>には時たまある展開に、なんだかなぁ。

しかし、そのおかげでセッティングを終え、サウンドチェックもせずに演奏を始めたにもかかわらず、観客の気持ちを、いきなりぐっと鷲掴みにした彼女とバンドの実力を目の当たりにできたのは、とてもラッキーだった。場合によっては、粗末な機材しかないヴェニューで1時間ごとに演者が入れかわる<SXSW>ではライヴ・パフォーマーとしての実力が試されるわけだが、いい機材が揃っているとは、お世辞にも言えないこのホテル・ヴェガスで、しかも前述した状況だったにもかかわらず、儚さの中に可憐な魅力が息づく歌声で観客を魅了した彼女のことを、小悪魔的な魅力にばかり囚われていた筆者はちょっとナメていたようだ──とライヴ終了後、猛省。そして、他のアーティストのライヴをあきらめてでも、なぜ、もう何回か彼女のライヴを見なかったのかと今更ながら後悔している。



■22歳とは思えない
■ルーシー・ダッカスの理知的な佇まい

何よりも驚きだったのは、その落ち着いた佇まいだった。しかし、彼女は、まだ22歳。デビューしていきなり多くのメディアから絶賛された2年前の初々しさと言うか、あどけなさを考えると、アメリカのアーティストは成長が早いと思わずにいられなかった。もっとも、筆者が見たのは、午後12時半に始まったその日一番のライヴ。遅い午後や夜に見ていたら、ひょっとしたら印象はまた違っていたかもしれない。

ワクサハッチーことケイティ・クラッチフィールドや来日公演も盛況だったジュリアン・ベイカーとともにポスト・オルタナ世代のシンガー・ソングライターの台頭を代表するルーシー・ダッカス。しかし、美しいメロディーを、憂いを含んだ歌声で紡ぎだす彼女のライヴは、どんな時間に見てもこんなふうに落ち着いた感じだったんじゃないかと思う。そこがいい。感情を込めながら、それを剥き出しにせず、しっかりとコントロールする。歪ませたギターを、轟音で鳴らしながら、あくまでも理知的というところに何よりも僕は魅了された。



■一流のブラック・ユーモアで
■観客を魅了したキャロライン・ローズ

2月23日にリリースしたアルバム『Loner』のジャケットで20本の煙草をいっぺんにくわえてみせ、キャロライン・ローズは世界中(たぶん)を驚かせ、笑わせた。その『Loner』は元々、ルーツ・ミュージックのシーンからキャリアをスタートさせた彼女が大胆にエレクトロニックなサウンドやR&Bに取り組んだ意欲作だった。

ジャケットの衝撃度も含め、注目を集めはじめた彼女はそんな期待に応えるため、2018年、<SXSW>で多くのショーケースに出演した。『Loner』のジャケットと同じ衣装──赤いジャージと短パン姿でオースティンの町を忙しそうに行ったり来たりしている彼女を何度か目撃したが、彼女のライヴはジャケットに負けないぐらい、彼女が元々持っているエキセントリックな魅力を印象づけるものだった。

青い衣装で揃えたバック・バンドとともに『Loner』のサウンドを巧みに再現しながら、セックスを連想させる下品なアクションも交え、道化を演じてみせるパフォーマンスは、そこに滲み出る皮肉っぽい調子や毒気を考えると、ブラック・ユーモアという言葉がぴったりだった。

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