【短期連載】<SXSW>漫遊記 第四回、「デイ・パーティーの楽しみ方と醍醐味」
<SXSW>のミュージックフェスティバルが開催される3月の第3週、オースティンの町はライヴミュージックの坩堝と化す。それは毎晩、大体8時に始まるミュージックフェスティバルに加え、パーティーという名のライヴが文字通り、朝から晩まで、町のあちこちで行われるからだ。
◆SXSW (サウス・バイ・サウスウエスト) 画像
夜のミュージックフェスティバルだけでは物足りない音楽ファンは、デイ・パーティーをハシゴして、一つでも多くのライヴを見ようと町中を駆けずり回る。もちろん、中には一つのパーティーに腰を落ち着けて、ビールを飲みながらのんびり過ごしているファンもいるだろう。しかし、日本からわざわざ参加している筆者は、高い旅費をかけてきているんだから、のんびりなんかしていられない。無数にあるデイ・パーティーのスケジュールを網羅している『Showlist Asutin』というありがたいウェブサイトをチェックして、スケジュールをやりくりしながら体力の許すかぎり、あちこちのパーティーに足を運ぼうと考えている……のだけれど、ここ数年は、悲しいかな、その体力が…なんて話はさておき、デイ・パーティーも<SXSW>のオフィシャルのもの、アンオフィシャルのもの、レーベル主催のもの、メディア主催のもの、バンド主催のもの、レストラン主催のものといろいろあるのだが、そのほとんどがフリーライヴというところがうれしい。
前述したように、そういうさまざまなパーティーが朝から晩まで開催されるわけだが、その中で一番早い時間に始まるのが、オースティンのラジオ局KGSRが毎年、4日間に渡ってダウンタウンにあるブティックホテル、Wホテルから公開生放送している『Live Morning Broadcast during <SXSW>』だろう。2018年も午前6時から毎日7~9組のアーティストが出演したが、アルバムリリース前にもかかわらず、<サマーソニック>に抜擢されたUK期待の新人ペイル・ウェーヴス、全米規模のブレイクの真っ只中、<フジロック・フェスティバル>出演が決まったナサニエル・レイトリフ&ザ・ナイトスウェッツをはじめ、熱心な音楽ファンなら気になる顔ぶれが揃っていた。
が、人気という意味で、豪華なアーティストを毎年ブッキングしているのが、ダウタウンにあるレコードショップ、ウォータールーレコードが店の駐車場で4日間開催している『Waterloo Records Day Parties』とサウス・コングレス地区にあるバンガロースタイルのホテル、ホテル・サン・ホセの駐車場でやはり4日間開催される『South X San Jose』だ。もし、今後、<SXSW>に参加しようという音楽ファンがいるなら、その2つはマストとしてオススメしたい。
▲『Waterloo Records』
元々、インストアイベントだったが、店に入れないほど客が集まるため、2010年から駐車場でやるようになった『Waterloo Records Day Parties』には2018年、スーパーチャンク、アンドリューW.K.他23組、後者にはオッカーヴィル・リヴァー、アルバート・ハモンドJr.他30組が出演した。2018年、筆者は『South X San Jose』には参加できなかったが、ウォータールーレコードでキャロライン・ローズとクリス・キャラバ(Vo&G)率いるダッシュボード・コンフェッショナルの演奏を見ることができた。
そのダッシュボード・コンフェッショナルは2018年2月、9年ぶりにリリースした7作目のアルバム『Crooked Shadows』の曲を中心に演奏したが、一番盛り上がったのは、やはり2000年代のエモブームをリードしていた彼らが2003年に放ったヒットナンバー「Hands Down」。観客が大声で歌うサビのシンガロングを聴きながら、エモに夢中になっていた当時を思い出して、思わず胸が熱くなった。
その他、筆者がルーシー・ダッカスを見たフラッド・マガジン(音楽を中心にしたカルチャー雑誌)主催の『Flood Fest』や音楽ブログのブルックリン・ヴィーガン主催の『Lost Weekend』もインディー・ロック好きなら外せない毎年恒例の人気パーティーだ。
『Lost Weekend』では、サッカー・マミー他を見ることができたが、一番印象に残っているのは、来日経験もあるスペインのガールズ・ガレージバンド、ハインズだ。
2017年、<SXSW>で計17公演を行い、関係者を驚かせた彼女たちは<SXSW>参加3度目となる2018年も6日間で計14公演を敢行。どんだけライヴが好きなんだ?!と思わずにいられないが、筆者が見たライヴでは本番前のマイクチェックでいきなりメンバー全員で歌い出してしまい、観客が拍手喝采するという前代未聞のオープニングから「Let’s have a fun!」という掛け声とともに演奏になだれこむと、とことん演奏を楽しむ天真爛漫さで観客を魅了していった。
この1年、世界各地を回りながら音楽業界の荒波にもまれてきた彼女たちが、相も変わらずバンドを心底楽しんでいる姿を見ながら、演奏する楽しさを失っていったバンドを<SXSW>で何度か見たことがある僕はなんだか心が洗われるような、救われるような気持ちになったのだった。
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