【短期連載】<SXSW>漫遊記 第五回、「賞賛に値する“名物”な日本人バンド」
アメリカを活動の拠点としているため、日本では一部の人にしか知られていないものの、もはや<SXSW>の名物と言ってもいい存在の日本人バンドがいる。それがPeelander-Zだ。
◆SXSW (サウス・バイ・サウスウエスト) 画像
1998年、ニューヨークでPeelander Yellow (Vo, G)を中心に戦隊ヒーロー風のカラフルなコスチュームに身を包んだ“Japanese Action Comic Punk Band”として活動をスタートさせた。その後、2002年に観客として<SXSW>に参加した際、オースティンの町中に音楽があふれている<SXSW>の熱気に刺激され、「それなら自分たちだって!」と翌2003年、<SXSW>に初出演した。
▲画家としても活躍しているPeelander Yellowによるフェスのポスター
以来、全米各地はもちろん、日本、ヨーロッパもツアーしながら、毎年3月、オースティンで熱狂を巻き起こすPeelander-Zの存在は、いつしか<SXSW>には欠かせないものになっていた。そんな彼らのライヴを、彼らが2010年から毎年主催している<Peelander-Fest>で久しぶりに見ることができた。
「見たいバンドを、あちこち見て回るのは億劫だから、自分たちで集めてしまえ」と、友人宅の裏庭で始めたパーティーが現在では、アンオフィシャルながら<SXSW>の人気イベントのひとつに数えられ、大勢の観客が足を運んでいる。
<SXSW>のミュージックフェスティバルが一番盛り上がる金曜日(3月16日)の正午に始まった<Peelander-Fest>に、いくつかライヴをハシゴしてから訪れると、ミズーリ州コロンビアのアメリカンブルース/ロックンロールの3人組、フーテン・ハラーズ(The Hooten Hallers)が中庭のステージで熱演中だった。イベントの会場はダウンタウンから市バスで10分ほど、グアダルーペ・ストリートを北に行ったところにあるカフェ“スパイダーハウス”。メキシコ料理やピザも食べられるレトロな雰囲気のナイスな店だ。
出演バンドは計13組。なかなかマニアックな顔ぶれが揃っているが、そこに集まった誰もが2つのステージで交互に行われる演奏を見たり、食事をしたり、ビールを飲んだりしながら、ダウンタウンの喧騒から離れたオアシスのような場所で思い思いにイベントをのんびりと楽しんでいる。それもデイパティーの楽しみ方のひとつ。もちろん、入場料はフリーだ。
▲レコードショップ“アントンズ”
ワシントンDCのパワーポップ/パンクバンド、バッド・ムーヴス(Bad Moves)、オースティンのパンクトリオ、アメリカン・シャークス(American Sharks)、そしてグラスゴーのDIYポップトリオ、ブレイクファスト・マフ(Breakfast MUFF)のライヴを立て続けに見たあと、ひと息入れようといったん会場を離れ、裏にある老舗のレコードショップ“アントンズ”でエサ箱(※陳列棚)を物色。1980年代に活躍したオースティンのロックンロールバンド、リロイ・ブラザーズ(The LeRoi Brothers)の1stアルバムのリイシューCDをゲットして、フェスのトリを務めるPeelander-Zの出演時間の直前に会場に戻ると、すでに中庭は彼らの登場を待ちわびるファンでいっぱいになっていた。
不在のドラマーの代わりに打ち込みのビートを使っていることをこれっぽっちも感じさせないPeelander-Zのエネルギッシュなパフォーマンスに、ステージのメンバーを見つめるキラキラした目があまりにもいたいけなチビッコからモヒカンのパンクスまで、老若男女の幅広いファンが拍手喝采を贈った。
Peelander-Zのライヴと言えば、被り物、着ぐるみ、歌詞を手書きした看板など、さまざまな小道具や演奏中に繰り広げるレスリングや大縄跳びがお馴染みだが、この日もクライマックスでヒューマンボウリングが飛び出して、観客を大いに沸かせた。
自ら手を挙げた観客と日本から駆けつけたサポートメンバー、Peelander Black(G)に演奏を任せると、観客が配られた鳴り物を鳴らす中、Peelander YellowとPeelander Purple(B, Cho)がステージに並べたボウリングピンに突進。そして見事、ストライク! そのままPeelander Yellowがクラウドサーフィンをキメたあと、シンディ・ローパーの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」のカラオケに合わせ、Peelander Pink(Vo, B)をはじめ、そこにいる全員が笑顔でダンスするという支離滅裂だけど、楽しいからノープロブレムというエンディングを迎え、<Peelander-Fest>はおしまい……と思いきや、その後はファンとメンバーの撮影タイムが始まった。
▲Peelander Yellow
Peelander-Zの人気の理由は、いろいろあると思うが、その一番がライヴであることは間違いない。“目立ったもん勝ち”というモットーを貫き、理屈抜きに楽しめるライヴを、観客を巻き込みながら全力、そして体当たりで繰り広げる彼らの姿を、愉快、痛快と思う気持ちは、まさに万国共通。彼らが同じ日本人であることを少しく誇りに思いながら、衰えることを知らないPeelander-Zの人気を、改めて実感することができた。結成以来、彼らが続けてきた活動が一貫して、DIYに根ざしたものであることを、ここで今一度、声を大にして言っておきたい。それは賞賛に値するものだ。
拠点をニューヨークからオースティンに移した彼らは2018年4月、地元のレーベル、チキンランチ(Chicken Ranch)から新作『GO PZ GO!』をリリースしたばかりだ。
撮影・文◎山口智男
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