【インタビュー】GOING UNDER GROUND、同じ場所に留まることなく今なお転がり続ける最新アルバム『FILMS』
前作『真夏の目撃者』(2017.10.25)から1年弱という短いスパンで、ニュー・アルバム『FILMS』を完成させたGOING UNDER GROUND。現在の彼らの真骨頂ともいえる抒情的かつメロディアスなナンバーを軸としながら新機軸も含めた多彩さを見せ、さらにすべての楽曲が独自のテイストに仕上げられた本作は、ジャンルや世代を超えて幅広い層のリスナーに響く好盤といえる。今年20周年を迎えながら同じ場所に留まることなく、今なお転がり続ける彼らの最新の声をお届けしよう。
■今回はプリプロも結構ガッツリやって歌詞もガッツリ書いて
■あとは演奏するだけという状態に持っていったんです
――『FILMS』の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?
松本素生(以下、松本):僕らの場合、こういうアルバムにしようと決めて制作に入ると、そういうアルバムにしかならないというのがあって。歌に重点を置いて…みたいにテーマを決めてやると、なんだかんだ出来てしまう。それは、自分たちの中で、あまりいいこととは思えないんですよ。そうじゃなくて、自分たちもなぜこれを作ったんだろうとか、なんでこういうアレンジになったんだろうと思うようなもので構成されたアルバムにしたかった。だから、今回はアルバム用に作った曲というよりは、元々自分がストックしていたもの……たとえばiPhoneの中に入っていた曲とかをみんなでいじって、いいねとか、ダメだなと判断するということをしていきました。『FILMS』は、その結果できあがったのを集めたものです。
――自然体で取り組んで、多彩な楽曲を形にする辺りはさすがです。そういう作り方をしつつアルバムのキーになった曲などはありましたか?
松本:メンバーそれぞれ違うと思いますけど、僕は2曲目の「うたかた」です。この曲は僕のiPhoneの中に結構前から入っていたけど、前作の『真夏の目撃者』のときは、これは違うと思って自分の中でボツにしたんですよ。でも、ずっと気に入っていたんですよね。で、今回は自分の中でのトライアルというか、“俺は、なぜこれをボツにしたんだろう?”というようなものも全部ピックアップして、いいか、悪いかを判断しようと思ったんです。「うたかた」は、すごくシンプルな音像をイメージしていたり、今までの曲よりもちょっとキーが低めだったりとかいろいろあったけど、それを中澤とプリプロしたら、いいなと思えるものになって。その時点で、歌詞もすでにあったんです。それで、このテンションだったら自分はアルバムを楽しんで作って、しかも今までと肌触りの違ういいアルバムになるかもしれないと思ったんです。そういう意味で、僕の中では大きな1曲になりました。
――「うたかた」は抒情的な楽曲でいながら都会的な洗練感が漂っていることや、キャリアを重ねてきたバンドならではの深みなどが印象的です。
松本:自分たちが若かったら、音像とかも含めて、これは何かが足りないんじゃないかと不安になると思うんですよ。やっていることも全然難しくないし。でも、今の自分たちは、バッキングはアコギだけにすることや凝ったことをしないアプローチを、ちょうどいいと感じられる。そういうところを活かせたというのはありますね。
――等身大であるということが、いい方向に出ましたね。「うたかた」は。すれ違いがちのうまくいかない恋模様を綴っているようで、人間関係全般を描いているように取れる歌詞も秀逸です。
松本:僕はゲイの友達がいるんですけど、「これ、私達のことでしょう?」と言われました(笑)。
一同:ハハハッ! マジか?
松本:うん(笑)。そういうつもりはないんだけど、そう取ってもらえたなら、あり難いなと思った。だから「うたかた」は、広い意味でのラブソングですよね。自分が大事に思う人みんなに向けたラブソングです。
中澤寛規(以下、中澤):僕の中でキーになった曲は、いくつかあって。いま話がでた「うたかた」もそうだし、あとは「HOBO」「プラットホーム・ノイズ」。その辺りは制作の最初の頃にできた曲で、今回は制作の入り方が前作までと大きく違っていたんです。今回は(松本)素生が、歌詞がほぼできている状態で曲を持ってきたんですよ。制作に入る段階で、素生にそうしてほしいと言ったんです。今まではメロディーとコードだけで持ってきて、先に土台を作ったり、アレンジをして、歌録りのギリギリに素生が歌詞を書くという感じだったけど、今回は詩がある程度書けた状態になるまで曲を聴かせてくれるなと言っていて。素生がそれを受け入れてくれて、歌詞ができあがっていないにしても、この曲はこういうことを歌いたいんだとか、こういう匂いのする歌なんだということがわかる状態で曲を持ってきてくれたのはすごくデカかったですね。
松本:そういう制作の進め方をするのは、僕も賛成でした。レコーディング中に疲れたり、煮詰まったりすると、曲にその怨念がこもるんですよ。
一同:怨念って(笑)。
松本:いや、本当に。それで闇に葬られた曲とかもあって、そういうことになりたくないという気持ちがあった。だから今回はプリプロも結構ガッツリやって、歌詞もガッツリ書いて、あとは演奏するだけという状態に持っていったんです。そうすると楽しい思い出しかないから、ずっと演奏できるんですよね。これからはそうしていきたいなという気持ちがあって、それはいい傾向だと思います。
▲松本素生
――『FILMS』を聴いて、今まで以上に映像的だったり、絵画的な印象があるなと思ったんですね。それは、先に歌詞があったことも要因の一つになっている気がします。
中澤:それは、あると思いますね。それに、今回そういうやり方をして、すごく健全だなと思いました。「うたかた」にしてもほぼ歌詞がある状態で聴かせてもらったからこそ、シンプルな構成や音像でまとめられたし、僕が弾くエレキギターも裏メロをなぞるようなアルペジオという具体的なイメージが素生の中にあったんです。そういうリクエストにしても、詩があることで、どんな雰囲気の裏メロを弾けばいいのかがすぐに見えたんですよね。制作の入り口ではそういう曲が多くて、「LOVE WARS」もそうだった。「LOVE WARS」は素生とプリプロをしながらどんどん歌詞を書いていって、サビの最初に出てくる言葉が“LOVE WARS”と決まったときに、だったらファズだと思ったんです、直感的に。今回は、そういうふうに歌詞にインスパイアされて出てきたものが多かったんですよ。それが映像的な仕上がりにつながっているとしたら、すごく嬉しいです。
石原聡(以下、石原):僕の中でデカかったのは「HOBO」です。今回は素生と中澤が二人でそれぞれの曲をある程度作ってくれて、それをスタッフも含めた皆に聴かせるという流れになっていたんですね。それで、初めて「HOBO」を聴かせてもらったときに、アルバムができたなと思った。勝手に、ですけど(笑)。それくらい、「HOBO」を聴いたときはインパクトがありました。
中澤:でも、素生は「HOBO」は出さないつもりだったらしいんです。
松本:そう。これもずっとiPhoneの中にあって、ちょっとフォーク過ぎるというか、いなた過ぎる気がしていたんです。でも、さっきも話したように、そういうことは考えずに、これも一度やってみようと思って。それで、中澤と二人で、まずはクリックに合わせて歌とギターを録って。で、ここで、こういうドラムが入ってさ…みたいな感じで作っていった。そうやって、スタジオでプリプロをしていたときに、コーラスを重ねたりとか、思いついたことをどんどんやっていったんですよ。そうしたら、そんなにいなたくないかもと思って、もうちょっと進めてみようという気持ちになったんです。
――「HOBO」はフォーキーな素材を、シューゲイザーに通じるようなテイストの曲に仕上げていることに衝撃を受けました。
松本:それは、後ろでドローンみたいに重低音のシンセが鳴り続けているからですよね。僕が「HOBO」について思っていたのは、アコギの弾き語りで始まるということがいなたさを増しているんじゃないかということだったんです。ドローンみたいなものが最初からいると、印象が変わるんじゃないかなと思ったんです。それで、とにかく“ブーッ”といわせようという(笑)。
▲中澤寛規
――柔軟なスタンスを採ったことで、新しい扉が開きましたね。皆さんがあげてくださった曲以外にも注目曲は多くて、たとえば「ペパーミントムーン」は、オールディーズに通じるテイストを活かした洒落たナンバーです。
松本:「ペパーミントムーン」は、歌っていて最高に気持ちがいいんです。この曲を作ったのは、いま東京都美術館で開催されている『BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン』がきっかけになりました。そのイベントをプロデュースしている小倉ヒラクさんという発酵デザイナーの方に、テーマソングを作ってくれませんかというお話をいただいて、そのときに作った曲がドゥワップだったんですよ。リズムは足で床を蹴っていて、あとは一人でコーラスを多重録音していって…という曲。元々僕は50年代とか60年代のドゥワップやティーンエイジ・ポップみたいな甘い音楽が好きなので、これなら楽しく遊べるかもと思って作って、すごく出来も良かったんですよね。それで気持ちが高揚していたのか、ミックスを待っている間にスタジオでギターを弾いていたら「ペパーミントムーン」ができちゃったんです。その場でiPhoneに録ったんですけど、最後に「これ絶対いいよね、ナカザ(中澤)!」という声が入っていました(笑)。
中澤:入ってた(笑)。「ペパーミントムーン」は演奏はすごくシンプルに作ろうと思って、アレンジも“パッ”と湧いたものをそのまま活かした感じでした。オーセンティックな部分はピアノに任せることにして、ドラムの音などは実はそんなに昔っぽい音ではないんですよ。鍵になっているのは、この曲はコーラスがいっぱい入っているんですよね。それは、素生がお弁当の曲を作ったときに楽しくなっちゃったことを、この曲でもやりたくなったんだと思います(笑)。
松本:それは、ある(笑)。『BENTO おべんとう展』のテーマソングでやったことを、バンドというファーマットでやってみたいというのがあったから。あと、この曲を作るにあたってGateballersというバンドでベースを弾いている本村(拓磨)君に手伝ってもらったんですけど、彼がビンテージのテープエコーを持っていて、それを使わせてもらったんです。『BENTO おべんとう展』のテーマソングもそうだったけど、要は1個1個のトラック全部に一度テープエコーを掛けていくんですよ。キックとかベースにも掛かっていて、そのリバーブ感が相当いいなと思っています。「ペパーミントムーン」は、楽しく遊んでいるという感じでしたね。
石原:「ペパーミントムーン」はベースも楽しく弾けました。この曲に限らず全体を通してそうだけど、今回はベースの細かいニュアンスにこだわったんです。ちょっとしたスライドや入り口のタイム感、抜け方とか。「ペパーミントムーン」も、それが効いているんじゃないかなと思います。
――ノスタルジック感を醸し出しているベースやギターなどはさすがです。「ペパーミントムーン」は、“今の東京感”を入れ込んだ歌詞もいいですね。
松本:“なぜならここは東京だから”という歌詞にしたのは良かったと自分でも思っています。この曲はオールディーズっぽい素材を、オールディーズのフォーマットでやっています。僕は近田春夫さんがロカビリーみたいなことを敢えてやって、歌詞は今っぽい東京のことを歌っていたりする感じが好きだったんですよ。それが、ずっと自分の中に残っていたんでしょうね。そういう手法を活かすことで、「ペパーミントムーン」はオールディーズでもあるし、J-POPでもあるという曲になったと思います。
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