【インタビュー】ASH DA HERO、プロデューサーと語る新曲4作とBLITZワンマン「ASHとは何者なのか?」
■「STAY FREE」はファン全員にもれなく聴いてほしい曲
■同時CDリリースの3曲にはつながるストーリーがある
──そのプロデュースワークの具体的な話の前に、まずASHには、ライブ会場で新曲1曲を無料配布しつつ、新曲3曲を同時リリースすることになった意図を伺いたいのですが。
ASH:次のアルバムへ向けた作業も進めていたし、もちろん4曲入りのEPという方法も考えたんです。だけど、世界の動きってあるじゃないですか。1980年代や1990年代から続いているコンテンツは、2019年以降なくなるだろうという。事実かどうかは別として、Apple社が2019年3月をもってダウンロード販売を終了させるという一部報道があったり。いよいよ、サブスクリプションがステーションとして当たり前の時代となることも予想できるわけで。そう思ったときに、僕らアーティストはどうあるべきかと。
▲2018年2月某日@都内某レコーディングスタジオ |
ASH:アーティストサイドとしては、“アルバムサイズを作りたい”という欲求は当たり前なんですね。もっと言えば僕は、ひとつの映画を作るように音楽作品をつくりたい。毎回僕はサウンドトラックを作っているような意識で制作に臨んでいるようなタイプだから、そこにはストーリーがあるし。だから、その世界の動きに対しては“困ったなー”ですよ(笑)。
──極論を言えば、1曲という単体に世界観を集約して聴かせることに主眼を置くような制作を要求されるわけで。
ASH:そう。アルバムがリリースしづらい時代に突入していくかもしれない。でもね、そこで下を向く必要もないんですよ。反旗を翻しながら、この時代とどう向き合って、どう届けるかをしっかり考えればいいだけだから。そう考えたときに、一度原点に帰ってみようと。
──というのは?
ASH:うちのおばあちゃんは宝塚のファンなんですね。宝塚のCDってCDショップに流通してないけど、宝塚ファンはみんな持ってる。なんとかサーカスのサウンドトラックも流通してないけど、ファンはみんな持ってる。映画のパンフレットを得るためには映画館へ行くでしょ。映画を観る前のドキドキ感とか観た後の余韻にパンフレットを入手する。エンターテイメントの原点や本質って、そこにあると思うんですよ。簡単にダウンロード販売ができるこの時代だけど、それをさせない。その会場で、そこにしかない感動を得るっていうことが原点だとすれば、一度そこへ帰ろうと。で、今回は来てくれた人にお土産を渡そうっていう。
▲2018年2月某日@都内某レコーディングスタジオ |
ASH:そうそう。一番伝えたい曲「STAY FREE」を無料配布CDとしてお土産にしたのは、僕のファン全員にもれなく聴いてほしいから。“もしかしたら今は響かなかったとしても、いつか必ずこの曲が君の支えになる”って僕は信じている。それ以外の3曲については、さっき話したように1曲単位というチャレンジも含めて、今、みんなに聴いて欲しい曲だからこその同時リリースなんです。
──さらに、それぞれの楽曲をASH本人がイメージして、デザインを手がけたオリジナルTシャツがセットとなって販売されるんですよね?
ASH:これは、“ASHのグッズを喜んで着てくれてるファンも多いから、嬉しいはず”ってスタッフからの発案で。これまでも僕はグッズのデザインに携わってきたんですけど、“一からASHがデザインしたものを作ろう”っていう意見をもらって、本当に鉛筆で書き起こすところから始めたデザインTシャツなんです。僕が作った曲を洋服として着てもらいたい、曲を聴きながら音楽を着てもらいたいという発想で。
──「次のアルバムへ向けた作業も進めていた」という話でしたが、「HERO」「ALIVE」「YELLOW FEVER DANCE」という3曲をセレクトしたのは? 「STAY FREE」を含めた4曲はリズムからしてタイプの異なるバラエティに富んだものですが。
ASH:今、30〜40曲くらいのデモがあるのかな。さっき話したように、僕はアルバム単位で制作を進めているから、楽曲ジャンルがバラエティに富んでいるのはある種必然なんです。でね、それぞれ1曲単位でのリリースですけど、「STAY FREE」「HERO」「ALIVE」にはつながるストーリーがあって、だから選んだのがこの3曲。「YELLOW FEVER DANCE」は1年ぐらい前からライブでプレイしてて、本当に謎の盛り上がり方をする曲なので、これはファンのみんなも音源として欲しいだろうなと(笑)。
▲L to R:渡辺敏広、ASH DA HERO、宮田“レフティ”リョウ |
レフティ:今回、渡辺敏広っていうエンジニアを初起用しているんです。彼は日本に数人しかいないであろう、ほぼアナログミックスしかしない人で。その人と録るとなると、NEVEかSSLの卓が絶対に必要なんですけど、今どき、リズムを録るにしてもミックスするにしてもPro toolsで事足りるから、そういう卓が良い状態でセットされているスタジオって結構少ないんです。エンジニアのトシさんと相談しながらスタジオを吟味しつつ、プレイヤーをセレクトして、スケジュールを作っていった感じですね。
──そのエンジニアを起用したのは、今回作りたかったサウンドと密接な関係性があるんですか?
レフティ:トシさんとASHがレコーディングしたらケミストリーが生まれるんじゃないかっていう確信めいたものはありましたね。ただ、それってツールではなくて、人と人をつなげたいということなんですよ。
ASH:レフティが狙った通り、トシさんとは本当にいいヴァイブスで、歌録りのときに“このスピード感が欲しかった!”と思いましたからね。それは要するに、音響的な意味での空間把握能力だったり、楽曲理解度の高さのことなんですけど。僕の歌声って情報量が多いんですよ。倍音がすごく多いことに加えて、凄い倍音のハモリを入れたりするので、どの音なのか正解がわからないエンジニアさんも少なくない。だから僕自身、レコーディングではトラック数を把握したうえで、デッサンを作って臨むようにしているくらいで。ところが、トシさんとはあうんの呼吸でできるくらい早かった。実作業するうえでの相性の良さも感じたし、共通の趣味も多かった(笑)。
──ランニングですね(笑)。
ASH:そうそう(笑)。僕が好きで聴いてたアルバムのエンジニアを務めたのがトシさんだったっていうことも発覚して、“なるほど、トシさんの音はもともと好きだったんだ”と。
▲2018年2月某日@都内某レコーディングスタジオ |
ASH:その3つの観点が、3本の矢のように強固で。
──それって、モンスターが3匹集まっちゃったみたいな部分もあるわけでしょ(笑)。
ASH:ははは! そうそう(笑)。みんな譲らないところは譲らないからね。でも、そのボクシングすら楽しくてしょうがないという。だって、それぞれが的確で発見が多いんだから。
レフティ:プロデュースという意味で、今回のレコーディングでの一番大きな変化はエンジニアですね。あとは、楽曲に合わせたミュージシャンの選定もあって。通常はICCHAN.がライブでもレコーディングでもドラムを叩いているじゃないですか。彼はもちろん素晴らしいドラマーなんですけど、ある楽曲に関してはWANIさんっていうドラマーに叩いてもらったり。
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