【インタビュー】ヴァードゥルナ「ルーン文字に合わせて音楽を作る」

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ヴァードゥルナは、ブラック・メタル~ゴスからフォーク/トラッド~ワールド・ミュージック、ニュー・エイジまでをも採り込んだ男女2組のデュオだ。使われるのは、人の声と様々な古楽器、そして自然界にある様々な物質(石、木、氷など)。そのミステリアス&プリミティヴなサウンドは、ダーク・アンビエント、あるいはネオ・フォークと呼ばれる。ディストーション・ギターはおろか、基本的に電子楽器自体がそこでは鳴っていない。ただ中心人物のアイナル・セルヴィクは、実はブラック・メタル・バンド(GORGOROTHやSAHG)の元ドラマーだったりするから面白い。

◆ヴァードゥルナ画像

神秘の森と湖、雄大なフィヨルドが育んだ北欧ノルウェーの異能楽隊ヴァードゥルナの真実について、北米ツアーを終えたばかりのアイナルにたっぷり語ってもらった。

──北米ツアーはいかがでしたか?

アイナル・セルヴィク::大成功だったよ。全てのショウがソールドアウトになってね。しかも会場はかなり大きい。1000人から1500人が収容できるところばかりから、とても誇らしく感じたし驚くような歓迎を受けて圧倒された。最後のショウは(カナダの)トロントで行なったんだけど、アレはクールだったな。多分…知っていると思うけど、俺は(ヒストリー・チャンネルの)TVドラマ『ヴァイキング』に音楽を提供していてね。その番組の関係者が大勢、観に来てくれたんだ。ディレクターやプロデューサー、さらに(出演者の)クライヴ・スタンデンもいた。主要キャストのひとり、ロロを演じている彼は良い友人で、凄く楽しかったよ。北米には近いうちにまた行けたら嬉しいね。

──改めて、ヴァードゥルナを始めようと思ったきっかけを教えてください。

アイナル・セルヴィク:そもそもの端緒は2000年で、最初の曲を1stアルバム(2009年『RUNALJOD - GAP VAR GINNUNGA』)用にレコーディングしたのは、2002年か2003年頃だったと思う。俺は昔から自分のルーツや古い北欧の伝統に興味を持っていてね。でも、そういった古い神話や叡智を真剣に解釈しようとするヤツは、周りには全くいなかったんだ。そこで俺は、どういうサウンドになるかとにかくやってみようと考えたのさ。まず始めたのは様々な調査だ。古い楽器や、昔の伝統に関する色々なことについて研究したよ。そうやって、このプロジェクトに着手し、最初のアルバムを仕上げるまでに7年もかかってしまった。とても長い年月だよな…。俺がやっているのは、ルーン文字に合わせて音楽を作ることだ。ルーン文字とは、言わば古代のアルファベットだが、単なる文字ではなく象徴的な意味も持っていて、ある意味、生きていくことの様々な部分…例えば、人間と自然の関係や自分より大きい何かとの関係などを描写しているとも言える。俺はルーン文字が象徴するモノを音楽で表現したかったんだ。

──具体的に、どのように進めていったのですか?

アイナル・セルヴィク:できるだけ正確に、まず自分自身の領域の中で(ルーンを)解釈することから始めた。その際、それに相応しい楽器や言語…北欧地域に元々存在していた古代の言語を使おうと思ってね。レコーディングは屋外でもやったよ。ルーンの各文字に相応しい場所でレコーディングしたんだ。例えば、樺の木を表すルーン(B:Bjarkan)を表現するために、森に行って樺の木の上で演奏し、それを音楽として採り入れた。他にも、石の上や火の上で演奏したり、川の中に立った状態で歌ったりもしたよ。だから、かなり大規模なプロジェクトで、時間も凄くかかったんだ。

──ヴァードゥルナ以前のあなたは、ブラック・メタル・バンドのドラマーとして知られていました。ヴァードゥルナの音楽性は、例えばGORGOROTHやSAHGのファンを驚かせたと思いますが、今でもブラック・メタルを愛聴したり、演奏したりしますか?

アイナル・セルヴィク:俺はあらゆるタイプの音楽を聴く。そこにはブラック・メタルもその他のタイプのメタルも含まれているけど、主に聴いているのはクラシック音楽やフォーク・ミュージック、それから世界中の土着の音楽だね。地元の古謡も聴くし、世界中のその他の地域の伝統音楽も聴いているんだ。まぁ、一番楽しんでいるのはそれかな。メタル・ミュージックを演奏することはもうないけど、しかし絶対にないとは言わないでおく。先に何が待っているのかなんて、誰にも分からないからね。ただ、今はやりたいとは感じていないかな。

──ブラック・メタル時代から名乗っているあなたのステージネーム“Kvitrafn”について教えてください。

アイナル・セルヴィク:クヴィトラフンには“白いカラス”という意味がある。俺がとても親近感を覚えている生き物のことなんだ。昔から魅了されていて、色々な意味で自分を象徴する生き物だとも言える。とても魅力的に感じるからね。もちろん俺の髪が真っ白だというのもあって、“白いカラス”と名乗ることにした。俺自身はもう、あまりそう名乗ることはなくなったけど、今も他の人達からはよくそう呼ばれるんだ。つまり、このステージネームは現在も存在しているし、白いカラスに魅了されている俺の気持ちも、何ら変わっていないということだね。

──当初のパートナーとして、GORGOROTHのシンガーだったガァールと、女性シンガーのリンディ=ファイ・ヘラを誘った経緯は?


アイナル・セルヴィク:ヴァードゥルナをスタートさせた時、ガァールを巻き込むのは自然なことだった。俺が最初にこのアイディアについて話した中のひとりだったからね。彼は親しい友人というだけではなく、古い伝統への興味を俺と同じように持っていて、俺のアイディアやヴィジョンを共有することができる仲間だったし、実際に俺達はそういったことについて話し合うことができた。リンディについては、初めて彼女の音楽を聴いた時、とてもユニークな声の持ち主だと感じ、俺のプロジェクトには彼女が必要だとすぐに思ったんだ。彼女も俺達と同じ環境にいて、その時点でガァールのこともよく知っていた。そこで、彼女と一緒にコーヒーを飲みに行き、俺の音楽を少し聴いてもらい、「一緒にやってみないか?」と訊いてみたところ、すぐ参加することに興味を持ってくれてね。俺の音楽をとても気に入って、エキサイトしてもくれたんだ。

──昔からルーン文字に興味があったとのことですが、そのきっかけは?

アイナル・セルヴィク:子供の頃から、歴史のそういった部分に強く興味をそそられていて、豊富な知識を持っている家族がいたから色々と話を聞かせてもらっていたんだ。散歩の時とか何か作業をしている時に、「人間とは自然の中でどういった存在なのか」ということを話してもらったよ。「1000年前、1500年前に何が起こったのか」といった話も沢山聞いた。そういったイメージが俺には染み込んでいたんだろう…そうして10代前半になって、その方面への興味が再び強くなったんだ。

──『RUNALJOD』3部作の構想を思い付いたのはいつ頃ですか?各アルバムでルーン24文字のうち8文字ずつを採り上げるというアイディアも、初期の段階で決まっていたのでしょうか。

アイナル・セルヴィク:最初は色々なオプションを考えていた。でも、このやり方が良いスタート地点になると思った。凄く難しいことではあるし非常にチャレンジングなプロジェクトではあったけどね。ルーン文字はとても複雑で、俺達が知らないことも沢山ある。だから、最も実現可能な方法でやることにした。決めたのは、かなり早い時期だったと思う。3組に分けたのは、そもそもルーン文字が通常3つのグループに分けられているからだよ。ルーンの伝統において、3つのファミリーに分かれていることはよく知られている。よって、こういうやり方を選ぶのは理に適ってもいるのさ。ただし(アルファベットの)順番は少し変えている。俺が語りたかったストーリーに沿ったモノにするためにね。ヴァードゥルナは過去をコピーするのではなく、古いモノから新しい何かを創り出しているのさ。そうしてファースト・アルバムでは文字通りの“創造”、セカンド・アルバム(2013年『RUNALJOD - YGGDRASIL』)では“成長”、サード・アルバムの『RUNALJOD - RAGNAROK』では“神々の黄昏”という意味を、それぞれ持たせることになった。つまり、まず種を蒔き、それ育てて強い根を張らせ、『~RAGNAROK』で大いなる変質…つまり死と再生を描写している。それは自然という視点でも、神々にとっても当てはまる。むしろ自然の中では無数に目撃されているよね?だから、ある意味では1年を描いていると言えるかもしれない。冬から春、夏から秋、そしてまた冬へ…というサイクルを、自然の死と復活と捉えているんだ。生と死、それは終わりのない循環なのさ。

──“RUNALJOD”という言葉の意味についても教えてください。

アイナル・セルヴィク:“sound of the Runes”、“song of the Runes”という意味がある。“jod”が“sound”や“song”を意味し、“Rune”あるいは“Runa”は様々な意味を持っている。それは文字であり、秘密であり、知識であり、囁きでもあるから、“マジカルな曲”、“知識の曲”、もしくは“秘密の曲”という意味にもなるんだよ。いくつもの層がある単語なんだ。

──曲作りは古楽器を用いて行うのですか? それとも現代の楽器でまず書き、それを古楽器用にアレンジしていくのでしょうか。

アイナル・セルヴィク:全て伝統的な楽器、あるいは前時代の楽器だけを使う。中にはもの凄く古くて、考古学の発見に基づいた楽器もあったりする。それがいつもの出発点になる。詩から始まることもあるしルーン文字で刻まれた古い一節から生まれることもあるけど、俺の音楽の大半は歩いている時に書いている…と言えるかな。それこそがアイディアのほとんどを引き出してくれる手段であり、媒体なんだ。

──森の中を歩いている時? もしかして街中でも…?


アイナル・セルヴィク:どちらもあるよ。森から離れている時ほど、森に近い時はないとも言えるからね。自然を強く求めるから、結果的に近付かせることになる。だから両方さ。都会にいる時も、そしてもちろん自然に近い環境にある時も…だね。

──ゴート・ホルンやタング・ホルン(角笛)、ターゲルハルパ(擦弦楽器)やクラヴィクリラ(小型の竪琴)、ルール(細長い管楽器)といった古楽器はどのようにして習得したのですか?

アイナル・セルヴィク:とても長いプロセスを経て習得していった。今でこそ、そういった楽器に対する興味はそれなりに高まっているけど、当時は楽器を見付けること自体が難しかったし、いくつかは自分で作らなくてはならなかった。だから、長い時間がかかったね。ただ、最初に自分でひとつ決めていたのは、自分でそこそこ演奏することができるようになるまでは、そういった楽器で演奏された音楽を一切聴かないということだった。つまり、子供が試行錯誤を経て、その楽器本来の音を見付けるようなプロセスで習得していきたかったんだ。自分で試してみる前に、あまり推論を立てておきたくはなかった。だから、どうしても試行錯誤を何度も何度も繰り返すことになる。そのプロセスは今もまだ続いている…と感じているよ。

──2014年以降、ガァールが不在となってしまいましたが、何が起こったのでしょうか。今後彼が復帰することもありますか?

アイナル・セルヴィク:彼が辞めたことに関して、特に劇的な事情は何もなかった。俺達の関係は、“常に扉はどちらにも開いている”というものなんだ。辞めるのも戻ってくるのも彼の意志次第だね。でもどうかな…彼が戻ってくることはないだろうと俺は思っているよ。彼は自分の活動/自身の音楽に専念したいと強く感じているだと思う。それはそれで全く問題ない。俺達はそれを受け入れてきたし、そのことを後悔してもいない。俺達は今も良い友人同士だし、そういう意味では、何らドラマティックなでき事などなかった。お互いに合意の上で袂を分かっただけだからね。

──この『RUNALJOD』3部作を作り終え、次はどんなことに取り組むのでしょうか。

アイナル・セルヴィク:実は今、複数のことに取り組んでいるんだ。あまり詳しくは話せないけど、そのうちのひとつはアコースティックなことをやっている、とだけ言っておこう。俺はソロ・コンサートもたくさんやっているんだけど、そこでは『ヴァイキング』のために書いた音楽と完全にアコースティックなヴァードゥルナの音楽を演奏しているんだ。今書いているのも、そうしたアコースティックなフォーマットの作品だよ。

──それはヴァードゥルナとして?

アイナル・セルヴィク:ヴァードゥルナとしてだよ。その他に、世間によく知られているヴァードゥルナのフォーマットでの新しいアルバムも書いている。

──ヴァードゥルナの新作は2枚同時リリースになるのですか?

アイナル・セルヴィク:そういうことだね。

──今後のライヴ・ツアーについては?

アイナル・セルヴィク:もっとコンサートをやるよ。もしかしたら、ライヴ・レコーディングもするかもしれない。

──来日公演が実現することを期待しています。

アイナル・セルヴィク:俺もそう願っているよ。今回、俺達のアルバムが遂に日本でリリースされることになって、凄く嬉しく思っている。これを機に、近いうちに日本に行ってパフォーマンスができるといいんだけど。

取材・文:奥村裕司
写真:Ester Segarra
編集:BARKS編集部


ヴァードゥルナ『ルナルヨッド・ラグナロク』

2018年3月14日 発売
【CD】¥1,800+税
※日本盤限定ボーナストラック収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1.Tyr
2.UrnR
3.Isa
4.MannaR - Drivande
5.MannaR - Liv
6.Raido
7.Pertho
8.Odal
9.Wunjo
10.Runaljod
《日本盤限定ボーナストラック》
11.Snake Pit Poetry - Skaldic Mode

【メンバー】
アイナル・セルヴィク(ヴォーカル/ターゲルハルパ/クラヴィクリラ/ホルン/ルール/ドラムス)
リンディ=ファイ・ヘラ(ヴォーカル)
エイリッフ・グンダーセン(ルール/ホルン/フルート/アイス・パーカッション)
アルネ・サンヴォル(ヴォーカル)
HC ダルガード(ヴォーカル)
ヒェル・ブラーテン(ヴォーカル)

◆ヴァードゥルナ『ルナルヨッド・ラグナロク』オフィシャルページ
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