【連載】CIVILIAN コヤマヒデカズの“深夜の読書感想文” 第六回/桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
こんにちはこんばんわ初めましていつもありがとうございます。コヤマです。
CIVILIANというバンドで歌を歌ったりギターを弾いたり曲を作ったりしています。
ごめんなさい。8月2日にCIVILIANが新譜『顔』をリリースしたのですが、7月の下旬から8月いっぱいまで、人生初といってもいいくらいの忙しさで、この連載を更新できていないことは分かっていたのですが僕のキャパが追いつきませんでした。表立ってイベントをしたり歌ったりということ以外にも、さっきまで北海道にいた筈なのに夜にはもう自宅にいて朝までに作業をして、そのままどこかの地へまた出発して、みたいな。今までにも、曲を作る〆切に追われて生きた心地がしなかったことやもう死のうかなと思ったことは何度も何度もありましたが、この1ヶ月はそれとは別種の忙しさでなんだか新鮮でした。基本的に楽しいですしとても良い経験になっていますし死のうとは思いませんが、僕は元々同時にいくつものことを並行してやるのが苦手なので、自分の身体がひとつしかないことを歯がゆく思うこの頃です。手が4本あれば、頭がふたつあれば、口がいくつもあれば、その他あれがあればこれがあればと、無い物ねだりの毎日です。
全然関係ないんですが、僕が前にやっていたバンドのブログが未だに消されずにネットに残っていることに気が付いて、なんとか削除できないか問い合わせているんですが、登録した際のメールアドレスが分からないと対応出来ませんと言われてしまって、なんかもうどうでも良くなって放置しています。恐る恐る目を通してみたら案の定文章も言葉の選び方も考え方も価値観も幼いし青いしクサいし寒いし目を背けたくなるんだけど、何となくあの時の気持ちやらが垣間見えて、この後自分の身に起きたあの事もあの事もあの事もまだ知らない僕がこの中にはいて、ずっと自分の気持ちを抑えて周りの為に音楽を作っていて、その反動が爆発したのがLyu:Lyuの音楽で、その「反動」だけで音楽を作り続けるのでは最早足りなくなった自分がいて、それが今の僕とCIVILIANであって、こんな自分にもそれなりに歴史があったのだなぁと思いました。何か一つの姿を気取ろうとしても、もう色んな部分を見せてしまっているからいまいち格好が付かないのが、長くやっていることの弊害ですね。仕方ないな。
それじゃあ、六冊目の本の話をします。
(この感想文は内容のネタバレを多分に含みます。肝心な部分への具体的な言及は避けますが、ご了承の上読んで頂ければ幸いです)
◆ ◆ ◆
【第六回 桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』】
■生まれ育った場所でその身に受けた愛情だけがその人間の「愛」の定義になる
第六回はこの方。桜庭一樹さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』です。
桜庭さんは、もともとはライトノベル作家として認知され、この『砂糖菓子〜』によってライトノベルから一般文芸へフィールドを移したと言われるお方。僕はオタクだったので当時から何とも思っていませんでしたが、この『砂糖菓子〜』が刊行された時には少女漫画のような萌え絵の女の子が表紙になっており、ライトノベルらしく挿絵も入っていたそうですが、萌え絵の表紙が「買いづらい」と言われることもあったそうな。その後表紙が変わり挿絵も無くなり一般文芸仕様で再び発売され、僕が今回読んだのはそちらのほうでした。
(ライトノベルというのは(僕が言うのもあれですが)特殊なジャンルで、定義もかなり曖昧なのですが、例えば乙一さんなども初めはライトノベルとして刊行したものを後に一般書の形式で発売し直していて、「ライトノベルというだけで手にとってもらえない客層がいる」と、文芸の中でのライトノベルへの差別や偏見について言及されています。僕にとってはそれはボカロ曲であったり、音楽全体から見たバンド界隈であったり、作っているものは違えど何となくわかる話ではあります。ただ、一般文芸にだって読むに値しない、つまらない作品は沢山ありますし、結局最後にものを言うのは中身の良し悪しでしかなく、どこの界隈かなんて本当は関係ないはずなのですけどね)
『砂糖菓子〜』の舞台は鳥取県。転校してきたヒロインの藻屑がずっとミネラルウォーターをがぶがぶ飲んでいることが、読んでいくうちに不思議と都会的な行為のように思えて、舞台である鳥取の田舎感が強調されます(鳥取の皆さんごめんなさい)。あいつ、なんでわざわざ水なんか買って飲んでんだ? という。水道水を直接飲まなくなったのはいつだろうな。子供の頃は飲んでいたんだけど。余談ですが大人になって酒も飲むようになって、とりあえず一通りの飲み物を経験した結果、飲み物の好みに関して僕が辿り着いた答えは「水が一番美味い」ということでした。どうでもいいかそんなこと。
物語が始まるのは、主人公のひとり、山田なぎさの「現在」の地点から。山の中腹で少女のバラバラ遺体が発見されたというニュースが冒頭で語られます。その「現在」の地点から時間を遡ること約1ヶ月前(いま書いてて思いましたがこれ、最初から最後まで小説内時間でたった1ヶ月間の出来事なんだなと今更驚きました)、なぎさのクラスに転校生がやってきます。
転校生の名前は海野藻屑(うみのもくず)、もうひとりの主人公です。父親はかつて一世を風靡したミュージシャンで、藻屑はその娘。両親は離婚しており、父親の元で暮らしています。田舎の学校のクラスの中で(学校だけでなくこの田舎の街そのものにとって)藻屑はひたすら異質なものとして描かれます。芸能人の両親譲りの大きな瞳、垢抜けた綺麗な顔、一人称が「ぼく」で、おかしな言動を繰り返しコミュニケーションが取れず、いつもミネラルウォーターをがぶがぶ飲んで、足を引きずっておかしな歩き方で歩く。極め付けは転校初日の自己紹介で、
"ぼくはですね、人魚なんです"
"それでぼくがここに来たのは、人間界が知りたいからです"
"どんなにか人間が愚かか、生きる価値がないか、みんな死んじゃえばいいか、教えて下さい"
と言って皆に挨拶します。
で、席に着こうと歩いていたらさっそくクラスの人間にちょっかいを出され、足を引っ掛けられて転んでしまうのですが、その時なぎさは、藻屑のスカートの中を偶然見てしまいます。スカートの中の身体に、のたうつような鮮やかな、殴打によってついた無数の痣があるのを。
ゆっくり立ち上がった藻屑は、自分の痣を見たであろうなぎさに向かって開口一番、
"死んじゃえ"
と低い声で呟きます。
その日から、なぎさと藻屑の関係が始まるのでした。
なぎさは父親に先立たれた為に貧乏な家庭で育ち、現在は母親の稼ぎと生活保護のお金とで暮らしています。優しい兄がいますがニートで引きこもり、部屋をひとつ占拠してA◯azon?でよく分からないものを買いまくっています。しかも家族の金で。なぎさは自分の部屋も与えられず台所に布団を敷いて母と寝る毎日。出口の見えないこの生活を脱する為、生活に打ち込める本物の力「実弾」をいつも探しています。それはなぎさが自分の力で世界と渡り合うための攻撃手段。手に職をつけ、自分で金を稼ぎ、自分の意思で自分の人生を生きる為の武器。それを一刻も早く手に入れたい。なぎさはそのことだけを考えて、自分にとって「実弾」になり得ないものには一切興味を示しません。だから、藻屑がぶっ飛んだ自己紹介をしてクラスの人間達が度肝を抜かれる中、なぎさはひとり冷めた目で藻屑を見ていました。
「人間の価値がどうたら」とか「人は愚かでどうだこうだ」とか、そういう生きることに直接関係のないことで悩むのは、大昔は貴族階級だけの特権であり、そんなものは生活に余裕のある人間の考えることであって、「実弾」しか求めないなぎさにとっては
"周りに関心を持ってるし、構ってもらいたがってるし、子供みたいに駄々をこねているように見えた"
と、藻屑の自己紹介を見てそう感じたのでした。
(再び余談ですがSyrup16gの曲の中で『実弾』というタイトルの曲がありまして、「退屈な毎日に殺されていく やられる前にやれ 実弾にぎりしめて」という歌詞なんですが、なぎさの思考と少し似てるなと思いました。どうでもいいですね)
藻屑は藻屑で、なぎさの反応を見て「なぜ自分に興味を持たないのか」と詰め寄ります。なぎさにとっては、初対面でいきなり「死んじゃえ」とか言われた人間です。その藻屑が今度は「友達になって」となぎさに尋ねます。あんたあたしに「死ね」とか言ってたじゃん、となぎさが言い返すと、あれは愛情表現だ、と藻屑。そこでなぎさは
"ちがうでしょ。あれは、憎しみでしょ"
と藻屑を諭したのですが、藻屑は
"びっくりしたように目を見開いた。それから、急に、とても傷ついたようにうつむいた"
のです。
(これ、後から考えればとても重要なことなのですが、それに関しては後述します)
それから、なぎさと藻屑は何かと行動を共にすることになります。
最初に書いた通り、この小説はまず1ヶ月後の現在地点から始まり、過去と現在を行き来しながら徐々に徐々に時間軸が冒頭に近づいていき、どのような経緯を経て最初の現在地点にたどり着くのかが明かされていく書き方をされています。藻屑の家庭環境、なぎさの家庭事情、兄との関係、貧困と虐待、クラス内の事情、その中で徐々に心を通わせていくなぎさと藻屑。あくまで自分は人魚だと言い張り嘘ばかりを並べる藻屑は、まるで何一つ撃ち抜けない「砂糖菓子の弾丸」を撃ち続けているかのよう。いくら弾丸を放とうとも、13歳の子供には到底打ち崩すことのできない「現実」や「生活」や「大人」という分厚い壁。
藻屑は「人魚は泡になってブクブクと消えたりできる」と言い、なぎさは「ならここでやってみろ」と言い、どちらも引けずに大喧嘩になってしまいます。押し問答の末、藻屑はそれでも「できる」と言い張り、なぎさと、クラスメイトの花名島を自分の家に連れて行きます。そこで藻屑は二人の前から「本当に消えてみせる」のですが…この出来事を境に、元からどこか不穏だった藻屑となぎさ達の毎日は目に見えておかしな方向へと進み始めます。そして時間軸は戻り、なぎさは、山を登るのです。そこにあるはずの、あってほしくない「あるもの」に出逢うために。というお話。
藻屑にとって、父親の虐待は幼い頃から続いていたものでした。藻屑が足を引きずる原因を作ったのも、身体中の痣の原因も全て父。藻屑は、親子の交わりというものを、そういうものでしか知りません。そして藻屑は、それこそが父親の自分への「愛情表現」なのだと思うようになってしまいました。だって、もしそうじゃないのならあまりに過酷すぎるじゃありませんか。具体的に作品内に記述はありませんが、きっと暴力や暴言を愛だと思うしかなかったのだと思います。子は親から愛されることを望むのですから。
そう考えると、訳のわからない、ただの厨二とも取れる藻屑の言動に一本筋が通る気がするのです。なぎさに「死んじゃえ」と言ったこと。それは「愛情表現」だとのちに言ったこと。なぎさから「死んじゃえ=憎しみ」だよと言われたことに対して、驚いて傷付いたこと。きっと藻屑は父親から繰り返し言われていた筈です、「死ね」に類する言葉の数々を。どんなに歪んでいようと、藻屑はそれを愛だと思っていたから、だからなぎさにそれを否定されて傷付いたのです。
そしてこの父親=海野雅愛(うみのまさちか)。もちろん彼は最低の酷い奴で、間違いなく断罪されるべきで、忌み嫌われて然るべきだと思います。しかし、雅愛自身、決して憎しみで藻屑に暴力を振るっていたわけではない気がするのがまたやるせないですね。本編には雅愛の両親などの記述はありませんが、もしかしたら雅愛自身も幼い頃から捻じ曲がった家庭環境だったのでは、と想像してしまいます。
花名島がブチ切れて藻屑を殴りまくったことも、想像してみると何となく理解できます。なぎさも藻屑もクラスメイトもまだ中学生。その彼等にとって、誰に好意を抱いていてどんな行動を取ったか、全てを白日の下に晒され暴露されてしまうことは、きっとセックスを覗かれるのと同レベルくらいのことだったはず(特に男はそう)。だからといって、理解できるというだけで決して許されることではないけれど。そして後に藻屑によって新しい扉(性癖)を開拓されそうになってしまう花名島。彼は将来SMとかが趣味になりそうな気配がします。
子供が世界と戦うには、あまりにも足りないものが多過ぎます。
僕は音楽という武器を見つけて、それをひたすら握り締めてここまで歩いて来ましたが、小説の最後に担任教師の言った言葉たちに胸を締め付けられました。ああ、最悪な毎日の中でも、最悪じゃないことだってちゃんとあったのに、あとはそのことに気付きさえすれば変わったかも知れないのに。
藻屑がなぎさに言った「10年に一度の大嵐の日までに、本当の友達を見つけないと、海の藻屑になっちゃう、急がなきゃいけないんだ」という言葉をずっと思い浮かべています。なぎさも藻屑も、なけなしの力で世界と戦っていて、なぎさは生き残って、藻屑は…。
「好きって絶望だよね」
好きが絶望じゃなくなる日が、いつか来るんでしょうか。僕にもまだ分かりません。
いつも通り、個人の主観で書かれたただの感想です。細かいことはご愛嬌ということで。
ぜひ読んでみて下さいね。それではまた。
CIVILIAN リリース情報
4thシングル「赫色 -akairo-」2017年11月8日発売
[通常盤]CD/SRCL-9539/\1,100(税込)
[アニメ盤]CD+DVD/SRCL-9540~41/\1,700(税込)
※アニメ盤:『将国のアルタイル』描き下ろしジャケット仕様
3rdシングル「顔」
2017年8月2日(水)発売
1.顔
2.デッドマンズメランコリア
3.ハロ/ハワユ
初回生産限定盤:SRCL‐9445/6 1,800円(税込)特典DVD付
通常盤:SRCL‐9447 1,200円(税込)
<CIVILIAN ONE MAN Tour”Hello , civilians~全国編~”>
2017年11月22日(水) 新潟 / 新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2017年11月24日(金) 宮城 / 仙台enn 2nd
2017年12月09日(土) 広島 / 広島BACK BEAT
2017年12月10日(日) 福岡 / 福岡graf
2017年12月16日(土) 愛知 / 名古屋CLUB QUATTRO
2017年12月17日(日) 大阪 / 梅田CLUB QUATTRO
2017年12月21日(木) 東京 / 恵比寿LIQUIDROOM
全公演チケット前売り¥3,500 当日¥4,000 (ドリンク代別)
CIVILIAN ライブ情報
2017.08.31(木)栃木 HEAVEN’S ROCK Utsunomiya VJ-2
<音・感・色vol.15 ~3markets[ ]シングル『バンドマンと彼女』リリース[バンドマンなんて大体クズ]~supported by MID-FM~>
2017.09.10 (日) 愛知 CLUB ROCK’N’ROLL
出演 : 3markets[ ]、THURSDAY’S YOUTH、CIVILIAN
<TOKYO CALLING 2017>
2017.09.18 (月) 東京都
会場 : O-EAST / O-WEST / O-Crest / O-nest / duo MUSIC EXCHANGE / CLUB QUATTRO / TAKE OFF7/ Milkyway / CHELSEA HOTEL / Star Lounge / and more…
※CIVILIANは14:10〜O-CRESTに出演します。
<Lenny code fiction LIVE TOUR 2017 -AWAKENING->
2017.09.29 (金) 渋谷WWW X
出演 : Lenny code fiction / Hello Sleepwalkers / QoN(O.A) / CIVILIAN
<Date fm 35th Anniversary MEGA★ROCKS 2017>
2017.10.01 (日) 宮城 仙台市内10会場サーキット
<FM802 MINAMI WHEEL 2017>
2017.10.07(土)〜09(月) 大阪・ミナミエリア ライブハウス20ヶ所以上
※CIVILIANは10/8(日)の出演となります。
<『汎神論』リリース対バンツアー「艶ト宴」>
2017.10.22 (日) 水戸 mito LIGHT HOUSE
出演 : 鳴ル銅鑼 / バンドごっこ / vivid undress / CIVILIAN
<Lenny code fiction LIVE TOUR 2017 -AWAKENING->
2017.11.11(土) KYOTO MUSE
出演 : Lenny code fiction / CIVILIAN and more…
詳しくはコチラ: http://civi-l-ian.com/live/
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